戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】   作:ゼフィガルド

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ノーザークで辿るミッシングリンク 6

 惑星ルビコンの各所で目にする巨大建造物(メガストラクチャー)。

 これらは『グリッド』の名を冠し、物資の運搬を行う為に建造された経緯がある。今となっては、放棄されるかならず者達が住処として使うばかりだ。

 その内の一つ、グリッド086は昼間っからコーラルをキメるロクデナシのオーバードーズ野郎共の集まりであった。これら与太者達を束ねている女傑『シンダー・カーラ』は、ハンドラー・ウォルターと通信を行っていた。

 

「企業の奴らを氷原に誘致するか。コーラル集積を見つける為に連中の力を使わない手はないからね」

『現状、資源獲得競争で後れを取っているベイラムは少しでも先んじたいはずだ。独立傭兵達を使ってでも』

 

 アーキバスも独立傭兵を雇うことはあるが、基本的には信用をしていない。

 コーラル集積等と言う重要な任務は自分達で行いたいはずだ。根無し草の独立傭兵に任せれば、何処に情報を売り飛ばすか分かった物ではない。

 

「ひょっとして、先日のエテ公のことが気になっているのかい? 先に買われたからって、女々しいじゃないか」

『正直、誰も買わないと思っていた。と言うのは、俺の怠慢だな。アレの飼い主は大企業からの依頼となれば目が無いことだろう。アーレア海を渡る為に、お前達のカーゴランチャーを取りに来るかもしれん』

「なら、丁度良い。ノーザークの野郎。ウチでの支払いが滞っている部分があるからね。アイツか飼い猿が来たら、ウチらの流儀で歓迎してやるさ」

『気に入るかもしれんな』

 

 さぞ、手洗い歓迎になることは予想できた。だが、ウォルターは諫める様な真似はせずに、ジョーク交じりに答えていた。

 

~~

 

「621。何か困ったことや不便なことは無いか?」

「無い」

 

 先日のウォッチポイント襲撃依頼、ノーザークは621の機嫌取りに走ることが多くなっていた。レーションもちょっと高めの物に変えて、住居環境も改善されたりしていた。

 この様に接し慣れてなさ全開で話しかけては、何かを渡したりして去っていく。当の本人は特に喜んだりもしていなかったが、バナナはこれらを堪能していた。

 

『やるじゃん!!』

『貴方の為に施された訳ではないと思うのですが』

 

 ベッドで寝転がるバナナを傍目に、エアはパイプから赤い煙をプカプカ浮かせて、ぼんやりしている621のことを気にしていた。

 

「なんか不思議な感じ」

『どの様な感じなのでしょうか?』

「今まで、誰かのことを考えたりすることって無かったのに。ラスティやウォルターのことが気になる」

『ふむ。ノーザークには感じていないのですか?』

「あんまり」

 

 無いという訳ではないらしい。エアは今までの通話ログを探った所、名前を挙げられた2人の接し方は、多数あるログの中でも異質であった。

 

『この2人の会話は用件を伝えるだけの物ではなく、コミュニケーションを円滑にする為の工夫が見て取れますね』

 

 例えば、相手の能力に称賛を送ったり、相手が何を求めているかを事前に察したりと。人間的な感覚で言う所の『気遣い』と呼ばれる物ではあったが、まだ人の機微に疎いエアはその様に表現するしかなかった。

 

「ノーザークは違うの?」

『はい。彼の行動には理解がありません。貴方のことを考えて何かをしている訳ではないでしょうから』

 

 色々と物は貰ったが、621の感情が揺さぶられる程では無かった。果たして、自分が何をして欲しいのかと言うことがイマイチ分からずにいた。

 

~~

 

「ノーザークさん。ベイラムから依頼が届いて……って、おや?」

 

 いつもであれば、大企業からの依頼と聞けば喜んで話を聞きに来るはずのノーザークは頭を抱えていた。しかし、工場長の姿を見るや目を見開いた。

 

「おぉ! 依頼ですか!?」

「はい。コーラル集積の先行調査の為に氷原へ向かって欲しいということですが。何やら調子が悪そうですね。……先日の一件ですか?」

「そんな所だ」

 

 ハンドラー・ウォルターと言う傑物は、ノーザーク達にとって刺激の強すぎる人物であったらしい。ルビコン快進撃を続けていた凸凹コンビをこうまで悩ませているのだから。

 先日のカス発言もあって、更に評価を下げようとしていた工場長であったが、こうも悩む姿を見て微笑んでいた。

 

「これを機に。ビジネス的な関係だけではなく、もっと彼女と交流を取っては如何でしょうか? あの子は素直な子です。歩み寄ろうとすれば、きっと向こうも歩み寄ってくれますよ」

 

 坊主頭に袈裟を着ていることもあって、聖職者の様な風格さえ感じさせた。

 工場長は反応を待った。こういった状況においてもトンチキな回答をして来るようであれば、それでもいい。誠実で埋め尽くされた関係が息苦しくなることも知っているからだ。

 

「いや。任務中に余計なことを考えさせる必要ありません。まず、ベイラムの依頼を遂行させてから考えましょう」

「……分かりました」

 

 仕事に逃げた。だが、我のことを顧みることも無かった借金王としては大きな一歩だった。任務の為、あるいは自身の回答を遅らせる為とは言え、誰かの負担になることを避ける。と言う選択肢を選んだのだから。

 

~~

 

「621。我々はアーレア海を渡る手段を持っていません。RaDの方達に交渉をしたのですが、断られました」

 

 ベイラムからの依頼を遂行する為に621達はグリッド086に向っていた。

 遥か高度に位置する場所に向おうにも、ACの推力では到底足りない。故にカタパルトが必要となるのだが、交渉は決裂に終わっている為。余所者である自分達が使用することは出来ない。

 

『モンキー。システム解析や改竄には心得があります』

 

 故に、強硬手段を取ることにした。エアのハックによって、カタパルトのロックが解除され、621のACにスチームシリンダーが接続されて行く。

 

「ちょ。何時の間にそんな技術を!?

『射出します』

 

 垂直カタパルトが上昇していき、そのスピードに合わせて撃ちだされるようにして、621のACが飛翔した。そして、高度に位置するメガストラクチャの足場に着陸した。

 

『ウッヒョー! もう1回!』

『何をバカなことを言っているんですか。モンキー、仕事を始めましょう』

「了解!」

 

 物資運搬用のレールが広がる場所を進んで行くと、間もなくしてドーザー製MTに乗った住民達が姿を現した。

 

「ウチにカチこんで来るたァ、いい度胸してんじゃねぇか!!」

「テメェの死体ミールワームに喰わせてやるぜ!!」

『品性を疑います』

 

 およそ、知性が皆目見当たらない暴言の洪水にエアがゲンナリしている中、621とバナナは目を輝かせていた。

 

『ボケーッ! テメェらが死ねー!!』

「ヒャーッ!! パチパチする!!」

『様子のおかしい人達です』

 

 ドーザーが使用していたコーラルに感応でもしたのか、621もハイになっていた。ミサイルを始めとした実弾が飛び交う中、彼女もまた『SG-027 ZIMMERMAN』の散弾を撒き散らしていた。

 酔いどれ共の狂騒曲。暴力が渦巻いているのに、このグリッド086を満たしていたのは憎悪や恐怖では無く、底抜けする位に明るい笑い声だった。

 

「畜生! 俺の全財産が吹っ飛んだ!」

「アイツも相当にキメてやがる! 無事に姐さんに認めて貰えたら、俺達と一杯やろうぜ!!」

「おっけー!!」

 

 返って来た声があどけない少女の物だったこともあって、撃破されたドーザー達は、尚更大きな笑い声をあげていた。

 この浮かれた雰囲気を感じて我慢が出来なくなったのか、奥へと進んで行く彼女の前に1機のACが姿を現した。

 

「見ねぇ顔だな。でも、分かるぜ。お前もキメているんだろ? 俺にもくれよ…」

『一発くれてやるよオラ!!』

『アリーナランク最下位のAC乗り。インビンシブル・ラミーですね』

 

 コックピット内はバナナの猿叫で満たされていた。

 向かって来る相手はアリーナランク最下位のマッドスタンプ。フレームから武装に至るまで、パイロットの経済事情が見える貧相な機体であり、今まで戦って来た強敵達と比べるべくもなかった。

 

「一発くれてやるよ!」

『やれーっ!! コーラル漬けの娘ーッ!!』

『もしかして、今おかしいのは私の方なのでしょうか?』

 

 正常なのはエアだけなのだが、周りが様子のおかしい人間ばかりだったので自身の正気を疑う羽目になっていた。

 

「俺のマッドスタンプが!」

『ウホキャー! ウケッ、ウヒッ。ウクーッ!』

「あんまり強くないね!!」

 

 マッドスタンプとの戦いはと言えば、特筆することもない位に順当に叩きのめしていた。それでも、表に居たMT乗り達よりは強かったが。

 大破した機体から脱出したラミーはゴロリと横になった。巨漢……と言うよりかは、肥満と言った体型の持ち主だった。戦闘による負担から立ち上がれずにいたのかと思ったが。

 

「こ、コーラル切れた……」

 

 倒された拍子でコンバット・ハイとの合わせ技が切れてしまったのかグッタリしていた。別に致命傷を負っている訳でもないので、放っておいても死んだりはしないのだが。621は機体を彼の近くに移動させた。

 

『モンキー!?』

 

 降下用のスロープを使って、着地すると。倒れているラミーに駆け寄って、コーラル入りのパイプを渡していた。

 

「吸う?」

「マジかよ。酔い覚ましに一服」

 

 パイプに入れたコーラルを吸い込むと、肺と脳が喜んでいる気がした。体力が戻った訳ではないのだが、胡坐をかく程度の気力は沸いた。少し遅れて、バナナも駆け寄って来た。

 

『何しているんですか!? 敵ですよ!?』

『デブ!!』

「まだ酔っているみたいだ。ガキとサルだけしかいないのに、3人分の声が聞こえやがる。もう少し吸うか」

 

 何故、酔っているのに吸うのか。彼なりの酔い覚ましの哲学があるのかもしれない。ポゥと、ラミーの口から輪っか状の赤い煙が5つほど連続で吐き出された。

 AC戦では微塵も楽しんだ様子は無かったが、これに対しては621も対抗心を見せたのか。ラミーが吸っていたパイプを取り戻して、再び吸い込んだ後。唇に手を当てて、連続で吐き出した。すると小さな輪っかが幾つも宙を漂った。

 

『すげー!!』

「やるじゃねぇか!」

『なにやっているんですか』

 

 バナナとラミーが同レベルの喜び方をしている中、エアはさっさと進みたいのか塩対応になっていた。今度は自分の番だと言わんばかりにラミーがポケットから自前のコーラルを取り出そうとした所で、スピーカーから音声が流れて来た。

 

『勤務時間中に随分と楽しそうだねぇ。ラミー?』

「そうなんすよ。このビジター、面白ぇですぜ!」

 

 自らの職務怠慢を棚に上げて、上司に堂々と宣伝するスタンスは無敵(インビンシブル)と言われるだけはあった。

 

『面白いのは分かったさ。ビジター、出来たら私にも会いに来て欲しいね。盛大に歓迎してやるよ』

「いまいくぅ~」

 

 しょうもない勝負をしていた為か、作戦中にも関わらずコーラルを堪能した621の呂律は回っていなかった。

 しかし、これが不思議な物で。再びACに乗り込むと、彼女の動きは鈍る所かキレを増しているのだから、分からぬものだった。

 

「………モンキー?」

「らにぃ?」

 

 あまりに行動がぶっ飛んでいた為、今まで反応できずにいたノーザークがようやく声を上げた。ただ、マトモな返答は期待できそうになかった。

 

「仕事中は。コーラルスパスパ、厳禁です」

「ごめんなちゃい」

『ちょっとだけ見直しました』

 

 数少ない常識人の意見が出て来たので、エアの中でノーザークの評価が少しだけ上がった。グリッド086の騒がしい日は始まったばかりだった。

 

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