戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「サポート用、強化生物。ですか」
『テメェ、コラ! ドアホで間抜けで馬鹿なラミーは死ねこら!!』
スマートクリーナーを撃破した後、ノーザークは621から渡された資料を読んでいた。記載されていたのはバナナの詳細についてだ。
『やれる物ならやってみやがれ! 可愛いワンちゃんの集まりのコヨーテスがよぉ! こっちは最強のお猿が居るんだぜ!!』
『キャーハハハハハ!!』
強化人間と同じ施術を動物にも施すことにより、愛玩用に偽装したパイロット。または生体補助ユニットとして運用するつもりのプランだったらしい。
被検体となったのは一定の知能を持ち、ある程度の運動に耐えられる動物ということで『犬』と『猿』がメインで行われた結果……。
「犬が採用された。……ということは、バナナさんはコンペから落ちたという訳ですね」
「うぉ。工場長」
データを読み込んでいると、背後から工場長がヌッと近付いて来た。彼もまた興味深そうに資料に目を通していた。
「結局、犬が運用されているのも見たことがありませんがね」
「キチンと商品化されたのは、こんな辺鄙な所に来たりはしないのでしょう。……それに、シビアなことを言いますと。そんなことをして作った物より、人間を使った方が安いですしね」
あくまで嗜好品や余興の一つでしかない。人間は幾らでも拾える。加えて、使い勝手もいい。そもそも、企画からして色々と頓挫している。
「コーラルが発見されたころは、どんな可能性でも試してみろ。と言った所だったのでしょうね。既存の分野の合理化より、そういった試みで開拓された市場は幾つもありますから」
「それ以上に開拓されなかった試みの方も多いですけどね」
詐欺師として、市場についての理解は程々にあるノーザークとしても理解できることだった。
『ウキャーァ! ホァーァ! アッアッ!!』
『可愛いワンちゃん! 尻尾がお腹に張り付いているぜ!!』
『お尻ぺんぺん!!』
資料を展開しているモニタと別の画面では、グリッド086にちょっかいを仕掛けて来た別ドーザーの集団『ジャンカー・コヨーテス』が、621とインビンシブル・ラミーの2人に追い返されている所だった。
ルビコンにおいては日常系ロボバトルとして染み付いている光景なので、ノーザーク達としては今更、反応することも無かったらしい。
『バカとクソ猿共! 覚えてやがれ!!』
ジャンカー・コヨーテスの連中が捨て台詞を吐いて逃げ帰って行く様は、もはや格式すら感じさせる物だった。
ノーザーク達にとっては何も感じさせない光景であったが、グリッド086のスピーカーからは呵々大笑が聞こえた。
『いつもは鬱陶しい連中だけれど、アンタらが相手にしてくれるなら笑い物位にはなるね。お掃除も済んだ。約束通り、上層に案内してやるよ』
大破したMTの残骸から出て来たジャンカー・コヨーテスの連中が捕縛され、連行されて行く様子を傍目に、621はグリッド086の上層部へと案内されていた。
~~
『先に言っておくけれど、上層は私らでも把握できている訳じゃない。未だに惑星封鎖機構の監視が生きている』
グリッド086の屋上には、MTの残骸の他にも惑星封鎖機構が撒いたと思しき無人兵器の存在も確認できた。
【それに加えて。上空から反応がありますね】
『無人兵器だけなら未だしも、厄介なことに上空から衛星砲が狙いを付けてやがる。ビジターのACじゃ、一発貰うだけでも致命傷になりかねないよ』
惑星封鎖機構が持つ、ルビコンの防衛網の要とも言える兵器。密航しようとする者達を容赦なく消し炭にする威力と精度を持っている。
『そんな物を持っている割には、最近のルビコンは密航者が多い気もしますが』
『どこぞのイカれた連中が、惑星封鎖機構の衛星拠点に攻撃をしてね。色々と機能が弱体化しているとは聞くよ。ノーザーク、アンタなら知っているんじゃないか?』
カーラの指摘にノーザークは暫し考えた。惑星封鎖機構に喧嘩を売る程にイカれた連中。……直ぐに心当たりを思い出して、顔を青褪めさせた。
『いやいや、まさか。そんな』
『過去ってのは付いて回るもんだ。善きにせよ、悪きにせよね。着いたよ』
搬入用のエレベーターで屋上へと出た。ルビコンの赤い空が出迎える中、エアからの交信が入る。
【カーラの言う通り。ここは狙撃圏内の様ですね。機体を晒す必要はありません。下を通って行きましょう】
屋外に面する足場の下にも空間が広がっていた。態々、狙撃範囲に身を出すことも無く潜って行く様子を見て、カーラは感嘆していた。
『意外だね。ちゃんと見ている。そこを通って行けば、暫くの間は連中の狙撃に身を晒さずに済む』
『そこは教えてくださいよ!?』
『ビジターとアンタがどうするかを見たかったんだよ。飼い猿の方がしっかりしているじゃないか』
ノーザークの抗議を笑い飛ばしつつ、進んで行くと。惑星封鎖機構が残して行った無人兵器が襲い掛かって来たが、特筆することもない位に容易く撃破していた。
暫くの間は、構造物に阻まれて狙撃されることも無かったが、先に進んで行くと。空と自分を遮る構造物は途中でぷっつりと途切れていた。
『ここからは隠れる場所は無い』
【強行突破しかありませんね】
まるで、生存本能を代弁するかのように。機体内ではアラートが喧しく響いていた。
【来ます!!】
空を裂き、大気を貫いて一条の光が奔る。ギリギリでQBを吹かして避けたが、先程まで彼女が居た足場はポッカリと空洞が出来ていた。
【よっしゃ! 行け!】
「うん!」
バナナに呼応するようにして、621はアサルトブーストを噴かした。軽量機体故に、機体はどんどん前方へと進んでいくが、衛生砲の狙いは高速で移動する彼女の機体をも捉えていた。
【突っ切れ!!】
再び、空から衛星砲の一撃が降り注ぐ。アサルトブーストの慣性を使ったまま、QBを吹かして避けたが、内部に掛かるGは凄まじく、621が顔を歪めた。
【モンキー!】
「いける」
『侵入者が衛星狙撃地点を突破。脅威レベルを引き上げます』
システム音が無機質に告げた。侵入者の心理的油断を誘発する類の物であるかどうか。エアやカーラの反応を待った。
【モンキー、間違いありません。狙撃地点を抜けました】
『一発も被弾しないで潜り抜けるなんて。やるじゃないか、ビジター』
「緊張した」
その先に配備されていた防衛は大した物ではなく、これらも容易く撃破した。
程なくして、レールの上に乗ったコンテナを見つけた。後はコレに乗り込んで射出されるだけ。グリッド086の侵入に始まった任務の数々が、ようやくひと段落しようとした所で、アラートが響いた。
【敵性反応です】
その場から飛び退くと同時に、降りて来た何かがコンテナを圧し潰していた。
6本の脚を持つ節足動物。造詣は虫を彷彿とさせる物であり、頭頂部に取り付けられた主砲が621に狙いを定めていた。
『か、カーラさん!? これは一体!?』
『シースパイダー。技研が遺した兵器だ』
各所に取り付けられた武装に加えて、質量さえも凶器に変えて621の機体に襲い掛かる。
バルテウス程の機動は無いにしても、絶え間なく放たれるミサイルや副砲が機体の装甲を削り取って行く。実弾でもEN兵器でもない攻撃だった。
【モンキー。この武装には、コーラルが使われています】
『技研とは何ですか!?』
『お前、そんなことも知らずにルビコンに来ていたのか……。後でまとめて説明してやる。ビジター! そいつに使われているジェネレーターはコーラル製の物だ! 実弾防御もEN防御も関係なく貫いて来るよ!』
カーラがノーザークへの説明を諦めた所で、現実的に使える注意点だけを端的に告げた。これに反応したのはエアの方だった。
【コーラルを動力源に?】
「勿体ない!」
エアからすれば同胞が使い潰されていることに困惑を。621は吸えば楽しい物が浪費されていることへの怒りをあらわにしていた。
これまで、ルビコンで惑星封鎖機構の重戦闘ヘリコプターを始めとして、ルビコン解放戦線のジャガーノート。ウォッチポイント・アルファの守護兵器であるバルテウス。そして、RaDのスマートクリーナーを撃破して来た彼女は重兵器の相手には慣れていた。
『621! やりなさい! 今まで見たいにスクラップにしてやるんですよ! そしたら、RaDの皆さん。買い取って下さいね!』
『本当にアンタ程度の男が、こんなに良い奴を拾えるだなんて』
シースパイダーは6本の各脚部に搭載されたコーラル発振器(オシレーター)から、まるで爪の様に赤い刃が現れ、621を抉ろうとしたが、予備動作も大きい為、容易く避けられていた。
相手の動きをけん制するように垂直ミサイルも放たれていたが、バルテウスの程の弾幕では無かった為、これもまた避けられていた。
『ビジターに取っちゃイカれた連中の兵器も、単なる遊び相手だね』
そして、ジャガーノートの様に堅牢な前面装甲を持っている訳でもなく、スマートクリーナー程。装甲も分厚くない為、『SG-027 ZIMMERMAN』のショットシェルが装甲を食い破り、機体に衝撃値を貯めて行く。
まとわりつく彼女を追い払わんと脚部を振り回し、副砲のコーラルガンを乱射するが、まるで当たらない。だというのに、621の攻撃だけは当てられ続けていた。堪らず、シースパイダーは6本の脚を羽のように広げて飛翔した。
『おいおい、飛んだよ。ビジター』
カーラが驚き、ノーザークも言葉を失っている中。シースパイダーは地上に向けて大量のコーラルミサイルとコーラルガンを放っていた。
まるで、爆撃の様に降り注ぐが、高速機動を取りながら……ということも出来ない為、空中を漂っている様な状態だった。
同じ様に621の機体も飛び上がり、軽快な機動で近付いた後。『SG-027 ZIMMERMAN』を連射していた。ご丁寧にコーラルガンの射角が向かない所に潜り込みながら。
何度目になるか分からない制御不能(スタッガー)を食らったシースパイダーはなおも追撃を受け、パルスブレードで切り刻まれ続く。やがて、内部のジェネレーターにまで破損が及んだのか、シースパイダーに赤色の光が奔る。
【敵機、システムダウン。ジェネレーターが爆破します!】
空中で爆破を起こしたシースパイダーは墜落し、機能を停止させていた。
周囲には、ジェネレーターに使われていたコーラルが霧散していた。これらを感じ取ったのか、621とバナナは心地よさそうな顔をしていた。
「バルテウスの方が強かった」
『大した奴だよ。ほら、早くコンテナに乗り込みな。操作はこちらの方でやるよ』
機体を動かして、無事なコンテナへと乗り込む。内部で機体が固定され、周囲に衝撃を緩和する為の装置も動いているが。
【モンキー。ふと、思ったのですが。これはパイロット込みでの運用を考えられた物でしょうか?】
「しらなーい」
【あ。ちょま】
エアの疑問も置き去りにカーゴランチャーは起動した。コンテナが凄まじい速度で射出され、アーレア海を渡って行く。
そして、意外なことではあるが。コンテナ内の緩衝機構は十分に働いており、内部に掛かるGはさしたる物でも無かった。
「エア! バナナ! 海! 海渡っている!」
【モンキー。喋ると、噛みますよ】
【すげー!】
輸送機で渡れば、どれだけの時間が掛かるか。この様子ならば数時間後には氷原に到達することだろう。暫くの間、621達は空中の旅を楽しんでいた。
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「さて。ノーザークさん、我々も行きましょうか」
「え? 何処へ?」
カーゴランチャーで撃ちだされるまでの一部始終を見ていた工場長に誘われ、ノーザークが付いて行った先には、今までBAWSに借りていたオンボロな輸送機とは打って変わって、規模も何もかもが違う物だった。
「本格的なコーラル競争は向こうで行われます。ガッツリ、稼ぎたいでしょう? それに。貴方も最近は、彼女のことを気にし始めて来たじゃないですか」
指示を飛ばすだけならべリウス地方に身を置いたままでも出来なくはない。
だが、不思議とノーザークはそんな気分になれなかった。可能ならば、彼女の近くに居たいと思う様になったのは、保身の為か。あるいは別の理由があるのか。本人ですら把握しかねる所だった。
「そうですね。私も向かうとしましょうか。所で、工場長。貴方の目的は一体?」
「企業ですから稼ぐことに決まっているじゃないですか。それと、古い友人との約束を果たしにね」
その約束が何を指しているかは興味もわかないことであったが、ノーザークはビタープロミスも積み込んで、工場長と共に輸送機に乗り込んだ。目指すは氷原。コーラルを巡る争いは加熱する。
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「最悪だよな。惑星封鎖機構の連中が大々的に介入して来るなんてよ」
べリウス地方。かつて、壁と呼ばれていた場所は現在アーキバスによって管理されている。夜間哨戒に当たっていた兵士達は愚痴を吐いていた。
「噂によれば、例の猿がキレさせたんだとか」
「モンキーか? 本当にアイツらは場を荒らす事ばかり考えてやがってよ」
先日の一件で惑星封鎖機構は重い腰を上げ、ルビコンに侵入して来た勢力の排除に乗り出した。この壁は、企業側に残った数少ない拠点である。
パイロット達が愚痴を吐いていると、これらの通信が漏れていたのか。拠点の防衛を任されている隊長から通信が入って来た。
『貴様ら、愚痴を吐いている暇があるなら真面目に働け! 閣下も我々の働きを見ているのだぞ!』
「す、すみません。スウィンバーン殿!」
『分かればよろしい。聞いていたのが私で良かったな』
もしも、別の誰かに聞かれていたら教育センター送りと言う可能性もあったかもしれない。自らの態度を改め哨戒に務めていると、僚機が突然倒れた。何が起きたか分からないまま、自らの機体にも凄まじい衝撃に襲われた。
「何が……」
朦朧とする意識の中、奇跡的に損傷を免れたカメラに映っていたのは、V.Ⅳと同じアセンブルのACが両手に構えた『SG-027 ZIMMERMAN』の引き金を引いて行く姿だった。
そして、間もなくして。隊長である『スウィンバーン』は彼女に拉致され、捕まった先で凄絶な拷問を受ける……と言うのは、既に綴られた話である。
これは、とあるレイヴンと呼ばれていた少女とよく似た奇跡を辿った、モンキーと呼ばれた少女の話である。彼女の未来もまたレイヴンと似たような物を辿って行くのかもしれない。
細かい差異はありますが、概ね本編のレイヴンちゃんが1話開始前に辿った話はこんな感じになっています。3章に入るまでに何体重機の相手をさせられるんだよと思いました。
これに関して、スティールヘイズアセンブルで重機撃破を挑みましたが、スマートクリーナーが一番きつかったですね……。本当に固かった。では、また。