戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
1周年記念:『彼女の夏休み』 1
「ウォルター。ルビコン行きたい」
レイヴンがそんなことを言い出したのは、夏季の長期休暇中のことであった。
企業やらテクノロジーの恩恵で熱中症等とは無縁の都市に住まう彼女達であったが、彼女が通う学園にも慣習的に長期休暇は残っていた。
「理由は?」
「はい」
彼女が操作するタブレットには『自由研究』と書かれたアイコンが表示されていた。どうやら、お題は決めているらしく『ミールワーム』と書かれていた。
「確かに。あの惑星程、観察するのに適した場所はないが……」
スウィンバーンの脳内に蘇るのは彼女達との出会いである。ファーストコンタクトで顔面にミールワームをライドさせられた思い出も今となっては懐かしい。
もしも、向かうのであれば結構な日数が掛かるし、何が起きるか分からない。折角、平穏な日常へと馴染むことが出来たのだから、普通のことをして欲しいと思うのがウォルターの考えであったが。
「いいね。私も久々に帥父やアーシル達に会いたいし」
真っ先に彼女の意見に賛成したのは、リトル・ツィイーだ。解放戦線の面々を始めとして、あの惑星に残して来た者達は多い。ちょっとした里帰りの気分でもあるのだろう。
「同志ツィイーが向かうのであれば、私も同行するつもりだが。ラスティは?」
この一家の雑事全般を取り仕切る六文銭が尋ねたが、彼は首を横に振るばかりだった。
「残念ながら、私は学園の方での仕事が大量に残っている。部活動の顧問も請け負っていて、予定が空いていない」
AC乗りとしての腕前や本人の器量もあって、学園内におけるラスティはあっちこっちで引っ張りダコである。
彼が来られないことを知ってションボリしていると、レイヴンはウォルターとスウィンバーンの2人にチラチラと視線を向けていた。だが、当の本人達は難色を示していた。
「ペイターの映画撮影の件で半年前に向かったばかりだからな……」
「レイヴン。自由研究のキットは商業区画でも色々と手に入るし、態々向かう必要はあるまいよ」
色々と理由は付けてあるが、ウォルターは結構な御年であるし、スウィンバーンも若いというには少し苦しい年齢だ。ルビコンに向かうのが体的にしんどいという切実な理由があった。
「駄目?」
今までのレイヴンなら諦めていた所だろうが、この日常を通して彼女は普通に、ワガママな面も生まれていた。
散々、自分達の都合で振り回して来た手前、彼女からお願いされることには非常に弱かったし、何よりも自分の意思を見せてくれるのは喜ばしいことだった。
「滞在期間は1週間ほどにしておくぞ。ウォルター、Radの連中に連絡を頼む」
「分かった」
あっさりと2人は折れた。若い娘のエネルギーに付き合うには、ちょっと体力が足りない部分もあるが、今自分達に向けられている笑顔の前には安い物の様に思えた。
約束を取り付けたレイヴンは上機嫌で部屋に戻り、例の偽装家族のアニメを見ていた。趣味は変わったが部屋の改装は進んでいないらしく、イルブリードのポスターばかりが掲示されている様相は異様でもあったが。
『良かったですね。レイヴン』
「うん」
エアと一緒に上機嫌にアニメを見ているとCMが挟まった。レイヴンの誕生日に買ったのは、あくまで視聴権でしかないので企業の思惑が押し出されたCMは結構な頻度で挿入される。勿論、飛ばせない。
『化粧デビューに早すぎることはない! 肌に優しい自然由来の商品! 偽りは一切ない!』
翻訳機が不調なまま原稿が提出されたとしか思えない奇妙な宣伝文句だった。視聴者層に合わせた他業種のCMがバンバン打ち出されることには辟易する所であるが、おかげで廉価で見られるので文句も言えない。
当のレイヴンは化粧なんてまるで興味が無いが、CMの提供会社に見覚えがあるのか指をさしていた。
「スネイルの会社だ」
確かによ~く見れば、彼の会社名が入っている。毛髪再生局で培ったノウハウから、医療や美容方面で頭角を現しているとは聞いていたが、こんな所で見ることになるとは思わなかった。
『自然由来の商品ですか。今更、セールスポイントになる文言とは思えませんが……』
エアの脳内にチラチラと浮かぶのは例のバカである。部屋の隅には彼が無理矢理送って来るクソ映画の数々が積み上げられていたが、正常な趣味に戻ってしまったレイヴンには放置され、悲しきインテリアと化していた。それでも、自分の為に撮ってくれたイルブリードⅡだけは大切に保管されているが。
『光り輝く肌へ!!』
化粧水を塗っていた少女を照らす様に赤い光が迸り、周囲に向って射出されていた。なんか、ルビコン辺りでよく見た光だった。
「受ける―」
『彼は何をやっているんでしょうか……』
エアには分かった。このCMの演出、確実にアレが関わっていると。だとしても、大分抑えてはいるが。
アニメを見て満足したのか、彼女は飼っているミールワームに餌を上げ、布団に入った。特にコーラルを上げている訳でもないのに、何故かうすぼんやりと光っていた。
~~
「自然由来の商品開発を謳ったことは良いでしょう。健康志望や自然主義者の層に訴える物はあります。原材料にミールワームを用いたのもまぁいいでしょう。食用として競合することは気になりますが、新たな使用用途は発展に繋がります。だが、貴様はあのトンチキなCMを流した!!」
スネイルが拳を握り固めているのを見て、1317がシワシワになっている中、ペイターはだけは得意げに指を振っていた。
「スネイル。あのCMはですね。女児向けアニメなどの低年齢層に流す物に入れる様に頼んでいるのです。化粧品が高価で大人向けの物……という印象は、既存路線の物と変わらない。大人の嗜みすぎるんですよ。だからね、私はターゲット層である子供に向けてのアプローチとして、あの映像を企画したのです。そう、お化粧は楽しい物としてね」
馬鹿はやるがロジックはガチガチに固める男。イルブリードの撮影を通して、映像関係の技能を幾らか習得したのか、そんな弁明を立てて来た。
「だったら、相談しろ! 企業の風評にも関わって来るだろうが!」
ロジックうんぬんより報連相がしっかりできていないことの方が彼の怒りを刺激していた。これに対して、ペイターは目を見開いて反論した。
「何が風評ですかぁあああああああ! イルブリードⅡなんて物を作っている製薬会社にそんな物はありませよんぉおおおおおお!」
「会社の資金と風評を食いつぶす男」
ポツリと1317が呟いた。だが、スネイルの隣に立っていたホーキンスはカラカラと笑っていた。
「でも、ペイター君が作った映画や独創的な方針がキッチリと売り上げに貢献しているのは事実だよ。自由な発想で仕事が出来るって、応募も多いしね」
「ぐ……」
これを言われたらスネイルも弱い所だった。イルブリードを始めとしたバカはしているが、様々な挑戦が出来る会社として有力な人材が入って来ていることは否めない。
「あの映画が売り上げに貢献……?」
1317としては一番信じ難いことだった。一体、あの映画を見て何がプロモートされたというのだろうか。
色々と言いたいことはあるが、今まで企業に貢献して来た分も考えたら口頭注意位で済まして良いと判断したのか、スネイルは咳払いをした。
「CMについては、次回から相談する様に。それと、2人には業務提携の為にRaDに向って貰う訳ですが、1つ注意しておきたいことが」
「未だに不法入植者が居るって話でしょう?」
スネイルが頷いた。現在もルビコンは惑星封鎖機構に管理はされているが、緩い物に留まっている。先の大戦を経て、あんな化け物の面倒を見るのは御免だと判断した為だろう。だが、今もあの惑星にはコーラルが眠っている。
ペイターは懐から取り出した端末を操作して、テキスト販売サイトを開いた。『借金王と呼ばれた男がリリースされた日』という、胡散臭い物が今も売り上げを伸ばしていた。
「バカが出した本ですし、自伝に見せかけた低俗な娯楽小説ですが、今もこれを信じる者が後を絶ちません」
現在、ブランチで強制労働に就かされている男が出版した本の内容は全てにおいて多分な偏見が入った物であったが、カバーストーリーとしては絶妙だった為、何故か見過ごされている。
更に追い風とも言えるのが、積み上げて来た彼の信頼の無さがあらゆる方面で清算できたことにより、ルビコンには莫大な財産が眠っていると信じられてしまっていることだ。
「行った所で、RaDやミールワームにケツを叩かれて帰りたい。になるのが定番だと思いますがね」
だが、現実はそう上手く行く訳がない。ゴールドラッシュで一番儲けたのがスコップを売った連中と言う理屈と同じで、実際にルビコンに行った所で這う這うの体で帰るのが定番だし、場合によってはRaDに飼われたりする。
「それがそうでもない」
いつの間にか、入り口には書類を持ったオキーフが居た。スネイルに渡すと、彼は斜め読みした後、ペイター達にも渡した。
「肥大化ミールワームの分泌液に含まれる成分と効能……」
「ライバル企業でしょうね。産業スパイの入る隙間は作っていませんが、新素材による商品開発は他社にも興味があるようで。特にルビコンのミールワームは固有種とも言える位ですからね」
あそこまで肥大化したミールワーム。ないしは、成長したルビコニアンデスビートルは他のどの惑星でも見られないし、養殖できる物ではない。
ペイターとしてはちょっとした記念品として作ったつもりだったが、思った以上に関係各所を巻き込む事態になっていた。
「そんな、微妙な事件が起きそうな所に私を向かわせると?」
「この件について、プロジェクトを進めて来たのは貴方ですからね」
自分が向かうのは道理ではあるが、果たして無事でいられるか。ただの商談のハズなのに、ちょっとした暗雲が立ち込めている様に思えた。
~~
「ウキョー! ホァホァホッホ!!」
「いたたた!!」
惑星ルビコン付近を行くブランチ母艦。未だに解放されないノーザークは、お猿に髪の毛を毟られていた。
「最近、特に惑星ルビコンに侵入しようとする方達が多いですね。散々、警告を出しているハズなのに」
オペレーターがモニタ越しに指示を飛ばしていた。アンバーオックス、アスタークラウン、ナイトフォールの3機が無法者達を無力化して行く中、更に1機。新しく加わった新入りが敵母艦を行動不能へと追い込んでいた。
「『ジークムント』。そのまま事情聴取に移ります」
『実に退屈だ』
現在『ジークムント』と名乗っている男が駆る機体は、外装こそ変わっているが中身はベイラム社とアーキバス社のパーツで組まれていた。
捕らわれた一同はあまりに離れた実力差を前に、命が助かるならとベラベラと話をしていた。
『ルビコンにいるミールワームを捕まえて来れば、報酬を出すって。バカでけぇのが居るって言うのは聞いていたけれど、所詮は虫だろ? だから、易い仕事と思っていたのに!』
「惑星固有種の物を外へと持ち出すのは星間法で禁じられています。依頼者は?」
『パッチ。そう名乗っていた。他には所属も何も分からねぇ』
あまりにありがちな名前なので何の手掛かりにもならない。だが、何故今更になってミールワームに関心が集まったのだろうか?
「アレ? オペレーターさん。知らないんですか? 最近、私の知り合いがやっている会社で売れ出している製品がですね。ミールワーム由来の物なんですよ。あ、勿論そっちは正規の手順やRaDとの提携ありきで出来ていますけれど」
企業は儲けに対して非常に敏感である。少しでも富を占有したいと思った時の行動力の凄まじさは、先の惑星ルビコンでもよく表れていただろう。
本当に欲しいと思ったら、RaDに申し込めばいいのに……と考えて、首を振った。あの企業が簡単に手を結んでくれるとは思い難かった。
「あそこの本業は作業用機体のパーツなどですからね。ミールワーム関係なんて趣味レベルのことでしょうし」
「時に趣味が儲けに繋がることもありますからね。そして、市場と言うのは私達が想像する以上に広大です」
「ホッホッホ」
お猿がノーザークの鼻の穴に指を突っ込んでいた。企業ではなく個人が何かしらをする程度には十分な額が動いているのかもしれない。ブランチのオペレーターが引き続き尋問を行っている中、ジークムントは見た。
「……ほぅ」
コッソリとルビコンに向けて何かが投下されたのを。オペレーター達も気付かない位に静かに行われていたが、彼は敢えて黙っていることにした。