戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「じゃあ、行って来るね!」
「行ってらっしゃい。それと、帥父や叔帥にもよろしく言っておいて欲しい」
出発の日、ラスティに留守番やミールワームの世話を頼んだ面々は宇宙港へと向かった。
旅行会社によるツアーで様々な惑星へと向かうプランはあるが、ルビコンへと向かう便は少ない。
「スウィンバーン。念の為に聞いておくけれど、旅客機が襲われるとか。そう言うのは無いよね?」
旅行なんて初めてなツィイーが尋ねた。ルビコン解放戦線として資源の奪取任務等も遂行したことがある為、自分達もやられるのではないかと恐れていた。
「無い。星間旅行で使われるルートは決まっているし、海賊行為を行ったとしても後が無い。あっと言う間に提携している民間軍事会社が拠点を突き止めて、清掃して終わりだ」
企業の影響力は銀河系にまで広がっている。例え、広大に広がる宇宙で狼藉を働こうが、商売の障害と見なされれば排除される。
「それに旅客機を襲った所で見返りが少なすぎる。企業の輸送船団を襲うなら、リターンもあるだろうが」
「兎に角、リスクとリターンが見合わんと言うことだ」
六文銭が付け加えた。商売をするにも犯罪をするにしても効率が求められるのだから、態々木っ端を狙う必要はないと言うことか。
「うめっ。うめっ」
ロビーで暢気にソフトクリームを舐めているレイヴンには、心配の二文字は無縁そうだった。
「ツィイー。肩肘を張り過ぎだ。俺達は旅行に行くだけだ。もっと気を楽にしろ」
ウォルターにも言われたので、ツィイーも張り詰めていた気を解いて、レイヴンも堪能しているソフトクリームを買うことにした。
ルビコンにおいては甘味なんて究極の贅沢品であったが、この宇宙港では当たり前の様に購入されては消費されている。やはり、自分はまだこの社会に慣れることが出来なさそうだった。
「お待たせしました」
店員から商品を受け取り、レイヴンの隣に座って慣れない甘味を楽しんでいる姿は、まるで姉妹の様でもあった。
『……今度、義体に味覚機能でもつけて貰いましょうか』
「?」
五体を手に入れても、五感までは手に入れていないことをもどかしく思うばかりだった。やがて、出発時刻も近付いて来たので機内へと乗り込んで行く。
指定された席へと座っていると、少ないながらも自分達以外の乗客もいた。スーツ姿であったり、くたびれた服を着たスキンヘッドの男だったりと。一般的な旅行客とは思い難い人物ばかりだった。
「レイヴン。あまり、ジロジロと人を見ない様に」
スウィンバーンに注意され直ぐに目を伏せた。とは言え、することが無くて暇だったので見ない代わりに、勝手に彼らの思考に耳を傾けていた。
「(あの上司イカレているよ。ミールワームぬいぐるみを作る為に観察して来いって。なんで、普通のじゃダメなんだよ。ジャンボサイズをちゃんと見て来いってマジで意味が分からない……)」
彼の言っていることはよく分からないが、どうやら行くのが嫌だという雰囲気はしみじみと伝わって来た。他にはサングラスを掛けた怪しいおっさんを中心とした一段の姿もあった。
「(クククク。イルブリードⅡは最高の映画だった! 僕のイルブリーダーの心に火が付いた! 俺達がイルブリードⅢを撮影して売り込むんだ!!)」
「(顔を売る為だけに出る映画だし、テキトーにやりますか……)」
聞き覚えのある単語が出て来たので、さっきのよりは分かる気がした。
ギスギスしていたルビコンと違い、平生の人が考えていることは案外面白いと言うことが分かったのか、次にスキンヘッドの男の思考を覗いていた。
「(やっぱり。俺ァ、ツイている。ここの仕事は楽なモンばっかりだ。こっちが正しい世界で、今までの日々の方が間違っていたんだ)」
具体性は何も無いが、やたらと上機嫌だった。とにかく楽しそうにしていたので、慌てて乗り込んで来た客の思考を覗こうとして。
「おい、ペイター! なんで、寝坊なんかしているんだ!?」
「いやぁ、飛行機内で何の映画を見ようか迷っていたら……って」
お互いに『あ』と口を開けてポカンとしていた。そこにはスーツ姿のペイターと1317が居た。ウォルター達も戸惑っていると、後方に座っていたサングラスを掛けたおっさんが立ち上がった。
「ペイター? まさか、貴方がイルブリードⅡを撮影したという!?」
「はい! そうです!」
「会えて嬉しいです! 僕は貴方の作品に感銘を受けました!!
その時、一同は初めてペイターの作り笑いでない心からの笑顔を見た。同時に1317とおっさんの隣に座っていた女性がドン引きしていた。
「何、企業は物質的な利益だけではなく心も豊かにするのが務めですからね。あの映画を撮影したのは当然のことです」
テンションが上がり過ぎて上司の口調が移っていた。余程、嬉しかったらしい。あまりに楽しそうに会話をするので全員が関わらない様にしていたが、頼んでもいないのにペイターの方から関わって来た。
「おや、エアさんに皆もいるじゃあないですか!」
「いいえ、人違いです」
エアには五感の全てが揃っている訳ではないが、第六感こと直感が囁いていた。コイツらに関わったら碌な目に遭わねーと。
が、特注の義体品が誤魔化せる訳もなく、例のサングラスのおっさんも気付いたのか、テンションが上がっていた。
「貴方が主演女優のエアさんですね! いやぁ、キレッキレの演技が凄かったです! 何よりも、後半の……」
「そうですね」
それ以上、先を言ったら指定の場所に来て貰うぞ。と言わんばかりの凄みに満ちた笑顔を浮かべていた。凄まれた彼は口を閉ざす他なかった。
「いやぁ、映画を見るよりもよっぽど楽しい話が出来そうだ。良ければ、貴方の名前を聞かせて貰えませんか?」
「はい。僕はコダカと申します。あっちの子は……」
「私の名前を言ったらパワハラとセクハラで訴えますよ? どうせ、クレジットで名前が分かってしまうんでしょうけれどね。本当に絶望的な出会いです……」
そんなに嫌か。と言わんばかりに、コダカはションボリしていたがエアは頷いていた。嫌に決まっているだろうと。
しかも、いかなる奇跡か。ペイター達とコダカ達の席は非常に近かった。加えて、レイヴン達の席も近かった。
「(さぁ、レイヴン。生イルブリードⅡの話と情熱を聞けるんですよ。こっちに来ても良いんですよ。どうですか?)」
心の声が聞こえていることを織り込み済みでペイターが誘いかけたが、当の本人はと言えば、タブレットを立ち上げてフェイバリットな偽装家族アニメの視聴へとのめり込んでいた。
「どうして」
「残念でもなく当然」
ペイターの悲嘆を六文銭が切り捨てていた。騒がしいのは他の乗客の迷惑になるので極力声量を落とした上で互いの情熱やコンセプトの語り合いをBGMにして、惑星ルビコン行きの船は発進した。
宇宙の旅行と言うのは退屈な物である。何と言っても景色が変わらない。故に、機内のエンターテイメントやタブレットなどで時間を潰すのが主となる。……他に潰し方があるとすれば。
「Zzzzz……」
寝る。アニメの視聴を続けて、眠気に襲われた彼女はいびきを搔いて寝ていた。機内は適切な温度が保たれているが、そっとブランケットを掛けた。
ウォルターやスウィンバーンも寝ている中、六文銭だけは寝ずに番を続けていた。律儀な男である。
「ツィイー。貴方も眠れませんか?」
「うん。こうして、正規の手順でルビコンに訪れることになるとは思わなくて。なんだか、色々と考えるんだ」
彼女の両親はルビコンに密入国したが、墜落事故により亡くなっている。以降、ルビコン解放戦線で彼女は戦士として育って来た。
企業の搾取に対抗するべく戦い続け、真っ当で平穏な日々を手に入れた。この過程がどれだけ奇跡的な物であったか。
「私もです。ルビコンの外に出て、人間に近しい体を手に入れて。同胞達とは少し距離を開けてしまいましたが、こうして自分の意思で生きられる日が来るとは思いもしませんでした」
ありとあらゆる思惑で搾取されていたコーラルの潮流から生まれた意思。
誰にも知られないまま消えるか、レイヴン達と敵対する覚悟もしていたが、今はこうして、皆と日常を共に歩んでいける。
2人の視線の先には、ルビコンを翻弄した鴉(レイヴン)を名乗るにはあまりに幼い少女の寝顔があった。
「この日々がずっと――」
「すまぬ。それは中断せざるを得ない」
六文銭が面を上げていた。他にもペイター、1317、スウィンバーンを始めとした者達が反応していた。いずれも戦場に身を置いた経験がある者達であり、即ち……。
『皆さま。私達はしがない独立傭兵です。依頼はただ一つ、貴方達を人質に取らせて頂きたい。ご安心ください、金品の要求などは致しません。私達はルビコンに降りたいだけなのです』
周りの空気を察したのか、レイヴンも目を覚ましていた。周囲には困惑や、臨戦態勢、あるいはこの事態をネタにしようとする者もいる中。1人、異質な考えを漏らしている者もいた。
『上手くやれよ。お前ら』
全員の声が錯綜するので、誰かを特定することは難しかったが、レイヴンは直ぐにウォルターに耳打ちをした。
「内通者がいると言うことか。分かった」
この旅客機にはACや兵器などは積んでいない。……積んではいないが、ACを始めとした兵器群を操る調教師(ハンドラー)がいる。
~~
「通達。ルビコンへ向かう旅客機が襲われています。通信相手はハンドラー・ウォルターです」
近くの宙域を紹介していたブランチの母艦に通信が入った。真っ先に反応したのは、ジークムントだった。
「そうか! レイヴンが居るのか! 直ぐに行こう!!」
「本当に小鴉に夢中だね」
彼のテンションの上がりぶりを見てシャルトルーズが引いていた。一方で、キングとブランチ・レイヴンは直ぐにでも仕事に取り掛かるつもりだった。
「内通者がいるなら、好都合だ。向こうのレイヴンに尋問を手伝って貰って、黒幕を叩きだすとするか」
かくして、アリーナの上位ランカー達が救出に向かうことになるのだが、この光景を見ていたノーザークは猿の毛繕いをしながら思うのだった。
「あーあ、お気の毒」
こんな、ケチなテロでここまでの大御所が出て来るだなんて。と、他人事の様に思っているが、彼が出した自伝等も大いに関係していることは思いつきもしなかった。