戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
テロリスト達をブランチへと引き渡した後、何故かジークムントことフロイトも同行することになった。襲われたばかりなので、護衛は有難いが……。
「レイヴン。そっちはどんな風に過ごしている? 学生をしていると聞いたが、世を忍ぶ姿だろう? 今は、どんな任務を受けている」
「毎日、学校行っている」
「訓練校で教官をしているのか? ウォルター。そこはどうなんだ?」
「いい加減にしろ。もう、621は普通の娘だ。いつまでもお前の好奇心を満たしてくれる相手だと思うな」
久しぶりの再会でテンションが上がっているジークムントを、ウォルターが咎めた。今の彼女はルビコンを舞ったレイヴンではないのだぞ、と。
そもそも、こんな少女が操縦桿を握り殺し合いに身を投じていたことの方がおかしいのだ。エアを始めとして、彼女を戦いの場に引き戻さない様に庇い立てているのを見て、ジークムントは笑っていた。
「まぁ、いざという時に皆を守るのはお前の役目だ。その時は肩を並べられることを楽しみにしているよ」
彼は感じ取っていたのだろう。再び、ルビコンで何かが巻き起ころうとしているのを。ミールワーム達の観察に来ただけなのに、どうしてこうなってしまうのか。
船は行く。数か月前まで、企業や様々な団体の思惑が錯綜したルビコンへと帰って来た。
~~
「ようこそ! 歓迎するよ! ビジター!!」
ルビコンに降り立ったウォルター達が真っ先に向かったのは、グリッド086だった。頭領であるカーラを始めとして、顔馴染みの連中からも歓迎を受けていた。
「久しぶりだな! ビジター! どうだ、1本コーラルキメるか?」
栄養状態が良くなった為か、あるいは企業然として規則正しい生活をするようになった為か、ラミーのガタイは一回り大きくなっていた。その手には、赤い煙を吐き出すミールワームが握られていた。
「吸うー」
「駄目です」
差し出されたミールワームはエアに没収された。成長期の少女にヤクを吸わせることは好ましくない為だ。
「アーシル! 皆!」
「ツィイー! 元気にしていたか!」
ツィイーもまた、元・解放戦線のメンバーと再会していた。アーシルのみならず、子供達も集まって来たので、空港で購入していたお土産などを配っていた。
「六文銭。息災だったか?」
「ウム。叔帥もダナムも変わりない様で」
「あぁ。やはり、俺はパイロットよりもこちらの方が向いているらしい」
六文銭もフラットウェルやダナムとの会話に花を咲かせていた。一方、特に関係者でもない人間も盛り上がっている。
「おぉ! 貴方が、イルブリードⅡのクレジットにあったイグアスさんですね! 僕はあの映画に感銘を受けました! 濡れ場のシーンも素晴らしかった!」
「当たり前よ。あの衣装を作る為に、俺がどれだけ賭場を回ってバニーガールとかを見て来たと思ってやがんだ……!」
いざこざがあった為、コダカ達もRaDまで付いて来ていたのだが、早速イグアスとの会話が盛り上がっていた。一方、遠い世界に行ってしまった友人を生暖かい視線で見守るヴォルタが居た。
「昔は誰にでも噛みつく野郎だったのに。どうして、こうなっちまったんだ」
「平時に適応したと思えば、まぁ……」
五花海もなんと声を掛ければ良いのか分からないので、極めて曖昧な慰めしか出来なかった。何があれば、狂犬がクソ映画製作者になるのだろうか?
姦しい様子を繰り広げる面々を見て、ウォルターが笑みを浮かべた時、彼の友人と参謀もまた姿を現した。
「ウォルター! どうだ、あの娘は例のアニメを気に入っているか!」
「すっかり夢中だ。イルブリードのことを忘れる位には」
「大戦果だな」
ミシガンの勧めによって件のアニメを視聴し始めたので、趣味の矯正という点では大金星とも言える成果だった。
レイヴンやイグアスが見ていたこともあったので、律儀なことにナイルもイルブリードは視聴したが、あんなものを趣味にして良い筈がない。
「スウィンバーン。何故、イルブリードを趣味にしてはいけないんだ?」
彼らの話を遠くから聞いていたチャティが素朴な疑問を投げかけた。比較的倫理観や常識のある彼なら応えてくれると考えてのことだろう。しかし、スウィンバーンの中の常識と倫理観が喧嘩をしていた。
「(待て。趣味に貴賤は無い筈だ。誰かを害したりする物でも無ければ、良いではないか。だが、年頃の娘が見る物としては相応しいのか? いや、これは自分勝手なルールの押し付けではないか?)」
「ご友人の趣味を尊重したいが故に答えに迷う……素敵だ……」
「素敵か?」
珍妙な質疑応答に惹かれて現れたのは、ブルートゥとガタイの良い義体を動かしているカエサルだった。美少女系じゃないと作る気力が湧かないのか、デザインは滅茶苦茶テキトーだった。
これだけの喧々囂々ぶりを見れば、来た甲斐もあったと言う物だろう。ジークムントだけは、皆から一歩引いた場所でカーラに尋ねていた。
「こちらに連絡は入っているか?」
「ブランチの方からだろ? ポットに関しては、オールマインド達に任せてある。それと、誰かさんが見落としたコンテナの方もな」
ジークムントは肩を竦めていた。その二つが何を意味しているのか、どういった物か。この時点では誰も知る由もなかった。
~~
『ほぅ、これは……』
オールマインドは興奮を隠せずにいた。突如、投下されたコンテナを解錠してみれば、中には見たこともないフレームや武装を持ったACが格納されていたからだ。
「こんなのは見たことがないのだ」
セリアの口から間の抜けた電子音声が飛び出た。彼女が使っている義体は未だに刷新される兆しはない。電子に詳しい2人が知らないと言われる機体をスッラが知っている訳もない。
「生体反応もない。先にコンテナだけを投下した形か」
何が仕掛けられているか分からない以上、半生身の自分が調査をするのは具合が悪い。……となれば、我慢できずにオールマインドが動いた。
「駆動系統把握。OS確認。……ほぅ」
機体が動き出す。全容を見れば、逆関節の機体であることは分かった。だが、組み方は全く異なっていた。
『メインブースター以外に、サイドブースター、バックブースター。ジェネレーターの方は……』
とにかく、機体を動かすことに関してはすさまじく有能なAIである彼女は、僅かな時間で未確認機体の動かし方を把握したらしい。
『機体名『ノーカウント』。ネクストAC……。どうやら、世界は私が思うより、はるかに広い様です』
機体の周囲に緑色の粒子が迸る。スッラが猛スピードで引いたのは、何の確証も無い老兵の直感による物だったが、直ぐに正しいと分かった。
「止めるのだ! オールマインド! その機体がばら撒いている粒子、人体にとって有害物塗れなのだ! スッラが被爆しちゃうのだ!!」
『これは失礼。私としても、同志を失うのは痛い』
同志と言うことは、自分も同類だと思われているのだろうか。だとしたら、心外だが、今の彼女は訳の分からない玩具を手にしている。変な気を起こされてはたまらない。
どういう訳か、このAIは新品や見たことが無いおもちゃを手にすることに関しては、凄まじいまでの剛運を所有している。この『ノーカウント』と呼ばれるACも一貫だろうか。
「RaDの方に要請するか。残り少ない寿命を更に浪費させるつもりはないからな」
スッラが通信を入れている最中、再び待機状態に戻ったノーカウントだったが、一旦噴出した粒子は霧散した訳ではなく、地中に染み込んだり風に流れて拡散したりする。……となれば、ルビコンの住民と会合する機会はある訳で。
「ミ”?」
本当に偶然だが、地中深くに居たミールワームの元に届いていた。コーラルも食うし、何でも食う虫達が新たに降って来た物に興味が湧かない訳もない。
どんなものでも大体栄養に換える優れた消化器官を持つ彼らが、染み込んだ何かを体内に取り入れ始めた。間もなく彼らの体にも変化が起きようとしていた。