戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「それに、あんた達はまだ生きてる! ノーカウントだ、ノーカウント」
誤解無きように言うと、戦場において降伏が出来るというのは一種の能力である。大抵の者達は自分に何が起きたか分からないまま死亡するのも珍しくはない。戦いが激化する前に手を引くというのは判断力があると言えなくもない。
「……」
彼らは戦いを生業としているが、人殺しを趣味としている訳ではない。戦うにしても弾薬も修理費も掛かる。故に、悪い物ではなかった。
命乞いをしている男は、自らの誠意と気持ちを表す様にして機体の脚部をクネクネと動かしていたが、挑発している様にしか見えなかった。
「な、分かるだろ? 同じリンクスじゃないか」
果たして、この懇願に意味があるかどうかと言えば……あまり無かった。
何故なら、目の前の機体は助命を聞き終えた後、アッサリと引き金を引いたからだ。降伏姿勢に入っていた彼は直撃を受けることになり。
「糞が、最悪だぜ。ついてねえ!! ついてねえよ!」
そこで、意識が途絶えた。
~~
「帥父。RaDからの依頼、受けなくても良かったのですか?」
「構わん。私の使命は、このルビコンを見守ることだ。戦火が及ばぬ限り、態々動く必要もあるまい」
リング・フレディは帥父の威厳に心酔していた。そう、この厳かな佇まいこそが彼の敬愛するサム・ドルマヤンだ。決して、ケモにうつつを抜かすスケベ爺などではないのだ。
「その通りですね。ルビコンも前よりは自然が蘇っている気もします」
この数か月、惑星ルビコンには変化が起きていた。破壊され尽くしていた自然が徐々に戻って来ている。
これは企業や技研が手を引いたことも大きいが、ルビコニアンデスビートルやワーム達の活動によりエネルギーの再分配が上手く行われている為だ。
「この命が尽きるまでに、ルビコンの未来に希望を持てる日が来るとは思いもしなかった。彼女達には感謝してもしきれんな」
企業に吸い上げられるか、あるいはコーラルの破綻を迎えるか。
どちらでもない第3の選択によって切り開かれた未来を謳歌していると、彼らの通信機に連絡が入って来た。相手はオールマインド達だ。
嫌な予感がした。フレディとしては無視したい衝動に駆られていたが、自分の勝手で帥父にまで迷惑を掛ける訳には行かないと、恐る恐る電話を取った。
『ドルマヤン、リング・フレディ。聞きたいことがあります。ミールワームについてです。……彼らに毛は生えますか?』
「は?」
意味が分からなかった。すると、彼女は状況を説明する様にしてLIVE映像を送って来た。
――時を少し前後して――
「ギャー!! キモイのだ!」
セリアが悲鳴を上げていた。RaDの依頼により、未知の機体『ノーカウント』を調査しに来ていたスッラ達であったが、オールマインドが機体を試しに動かしたことを皮切りに地中からミールワームが這い出して来たのだ。
それなら、未だいい。如何に肥大化しているとはいえ、数か月前に対峙したルビコニアンデスビートル達と比べたら可愛い物だからだ。……だが、どういう訳か彼らはノーカウントに取り付き、まるでヒルの様に吸い付いていた。
『スッラ。対処をお願いします』
「と言っても、機体を傷つける訳にはいかんからな……」
ミールワーム達を追い払う為に武器を使うことが出来ないとなれば、マニピュレーターで剥がすしかないのだが、いかんせん数が多い。
エンタングルの馬力で引き剥がせるかどうかと言うこともあったが、スッラも人の子である。生理的に無理な物は、機体越しとは言え触りたくなかった。
『ッチ、使えないですね。仕方ありません』
再び、ノーカウントを起動させた。実に単純な方法だが、動き回って引っ剥がすことにしたらしい。未知の機体にも関わらず動かせるのは、オールマインドだからこそなせることではあるが、機体の周囲には緑色の粒子が舞っていた。
そして、まるでミールワーム達はコレを待っていたと言わんばかりに、宙に向けて口をパクパクと動かしていた。……すると、彼らのブヨブヨした皮膚から茶色い何かが生えて来た。毛だ。
「キモイのだ!!!」
さっきから、セリアは全力で叫んでいた。大量の虫に変態の瞬間を見せられたら悲鳴の一つも上げたくなるのは道理だった。一方で、スッラは冷静だった。
「ふむ。どうやら、この虫けら達は機体から出る有害物質を食いたくて、無理矢理吐き出させた訳か。うちのAIより頭が回るじゃないか」
果たして、ワーム達がそこまで考えていたかは不明だが、結果として彼らは緑色の粒子を取り入れることに成功した。その影響として毛が生えたのだろうか。
生理的嫌悪感よりも興味の方が勝ったのか。スッラは1匹のミールワームを拾い上げて、機体のスキャンを通した。
「生物学的なデータは分からんが。セリア、何か変化は?」
「……中身は色々と変わっているのだ。でも、有害物質は出さなくなっている。無毒化? いや、でもエネルギーはかなりあるのだ」
彼女が観察している最中でも変化は置き続けていた。最初は茶色い毛に覆われていたが、やがて白色へと変わった。
もぞもぞと動かしていた複脚は一部が伸びて、まるで哺乳類の四足の様になっていた。造形的には猫を彷彿とさせるが、つぶらな瞳も無ければ可愛らしさも無いので不気味と言う外無かった。あまりの不気味さにオールマインドは連絡を入れていた。
『ドルマヤン、リング・フレディ。聞きたいことがあります。ミールワームについてです。……彼らに毛は生えますか?』
――
『と言うことがあった』
ドルマヤン達を介して、現地の映像が送られていた。あまりの惨状に全員の開いた口がふさがらないでいる中、レイヴンは目を輝かしていた。
「可愛い……。アレ、欲しい!」
「レイヴン。ウチにはもうミールワームはいるでしょう」
辛うじてエアが注意したが、問題はそこじゃないだろうと概ねの人間が思っていた。彼女以外にも反応した人間が居た。
「1317。見ましたか? あの緑色の粒子にはきっと、毛生えを促進する何かがあるのです。これはもう毛髪再生局一員として見過ごせない新資源ですよ」
「いや、絶対にそういった物じゃないだろ……」
ミールワームにあそこまで変化を起こす物質がまともな物であるはずがない。何かとんでもないことが起きようとしているのではないか。
オールマインド達が今も事態に巻き込まれているというのなら静観している訳にはいかない。カーラが立ち上がった。
「このまま機体に何かあったら困るからね。アイツらの救助に行くよ。ミシガン、指揮は任せる」
「構わんぞ! 夏休みも残り少なくなって来たな! 自由研究がまだな奴は付いて来い!! 今から、楽しい昆虫観察だ!」
「行くー!!」
「止めんかバカモン!」
レイヴンがバタバタと手を振った所で、スウィンバーンを始めとした周囲の大人達が全力で止めに入った。だが、ペイターが割って入って来た。
「とは言いますけれどね。あの怪生物や例の機体になにかがあった時に対応できる人間って、多くは無いと思うんですよね」
「同感だな。俺とミシガン、それに。レイヴンが該当者と言った所か」
ジークムントも同意していた。アリーナのトップ3が出るとなれば、この上なく心強いのは確かだ。
「ビジターの機体はウチで保管してある。『LORDER4』も『HAL 826』もあるよ。『A.NUL』は無いけれどね」
「俺の機体と交戦して大破したからな」
ルビコンにおける技研の粋とパイロットの粋を集めたかの様な戦いを思い出していたのか、ジークムントが誇らしげにしていた。
思い出を噛み締めている彼を一切無視して、レイヴンはどちらにしようかと迷った結果。『HAL 826』を選んでいた。
「ウォルター。私はレイヴンのサポートに付きます。義体の管理をお願いします」
「分かった」
エアが使っていた義体の機能が停止し、静かに横たわった。LIVE映像は途中から途切れており、彼女達の身が案じられる所だった。
「では、行くぞ!」
ミシガンに先導されジークムントとレイヴンが格納庫へと向かった。ドーザー達が意気揚々と見送る中、ツィイーを始めとした者達は渋い顔をしていた。
「ツィイー。やはり、彼女が戦場に行くのは嫌か」
「うん。だって、今の私が知っているレイヴンはルビコンを救う英雄じゃなくて、可愛い妹分なんだよ。アーシル達も、こんな気持ちだったのかな」
かつて、解放戦線に居た頃は勇ましい戦士として戦っていて、自分の安否のことを考えたことは無かった。
だが、同じ様に思う立場になってから、皆にどれだけの不安と心配を与えていたかが良く分かった。
「……君がそう思えるようになったのなら、レイヴン達に付いて行った意味もあると思う」
誰かを大切に思う余裕がある世界に慣れてくれたことをアーシルは嬉しく思い、六文銭も静かに頷いていた。