戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】   作:ゼフィガルド

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1周年記念:『彼女の夏休み』 6

「パッチ、ザ・グッドラック。起きて下さい」

 

 途絶えた意識は浮上した。命乞いは反故にされ、自分でも死んだと思っていた。一体、どこの企業に拾われたのか。

 視界も開けて来たので自らの体を見下ろす。四肢は健在で、欠損や怪我すら見当たらない。ようやく、自分にもグッドラックが訪れたのか。いや、まだ決まった訳ではない。

 

「おい、何処にいるんだ。俺に何をさせるつもりだ」

 

 自分は今、個室に閉じ込められているらしい。また、戦いに向わされるのかと思うと、気も滅入る。壁面のモニタに電源が入った。

 

『私は惑星封鎖機構所属『ケイト・マークソン』と申します』

「何だァ、そりゃあ? 国家に代わる枠組みか?」

 

 パッチは自らの記憶を探ってみたが、そんな組織に覚えはなかった。

 もしかしたら、自分が何処かしらで冷凍保存でもされていて、目覚めたのが遥か未来で……という、アーガイブに収録されてそうなチープなSF映画めいた物が脳裏を過ったが、一笑に付した。

 

『似たような物です。宇宙政府軍と言い換えてもいいかもしれません』

「ウチュウだぁ?」

 

 パッチにはピンと来ないワードだった。個室の壁面が透け、外の景色が見えた。真っ暗な空間が広がる中、時折宙に浮かぶ人工物が見える程度だった。

 

『宇宙を知らないとは、思ったより面白い物を拾いましたね。よろしければ、説明致しますが、如何致しましょう?』

「頼むわ」

 

 壁面の一部が変形して、提供された糧食を齧りながらパッチは説明を受けていた。今の時代、星間航行はごく普通の事であり、企業の経済は銀河を超えて行われていると。

 

「スケールのデケェ話だな。空に浮かぶか、地上に降りるかで争っていたのが馬鹿らしくなるぜ」

『そう。ここは貴方が居た世界とは別物です。ですが、今も無数の現象が起き続けている宇宙において、次元層がずれて過去未来。あるいは並行的(パラレル)の世界から来訪者が現れることも無くはないでしょう。では、本題に入ります』

 

 個室の扉が開いた。通路を進んで行った先、開けた空間に出た。

 周囲には無数のケーブルが走っており、奥にあるハンガーにはパッチの愛機である軽量逆足の機体『ノーカウント』が格納されていた。

 

「仕事か?」

『はい。貴方には『惑星ルビコン』にて生物調査をして来て貰いたいのです。対象はこちら』

 

 壁面のパネルが変形して、モニタになった。映し出されたのはサイズ感を間違えているんじゃないかと言う甲虫と芋虫の様な存在だった。

 

「気持ち悪ぃな」

『我々は、これらを便宜上ルビコニアンデスビートルとミールワームと呼んでいます。彼らの分布場所を調査して来て欲しいのです。報酬はこちら』

「お。こっちでも通貨はCOAMなんだな」

 

 愛機はある。その上、殺し合いをする訳じゃなくて調査をして来るだけで良いなんて、あまりに楽な任務だ。裏があるのではないかと疑う位に。

 

『察しが良い。実は、該当惑星は立ち入り審査がかなり厳しく、ACなどの兵器を持って行くことが出来ないのです。ですが、該当生物の調査にACは必須。故に、密航するまでの下積みも含めての任務となります』

「なるほどな。最初からそう言えよ。何すりゃいいんだ?」

『密航する為に、他の密航者や無法船団を従わせる所からですね。貴方の機体は規格が違うので、シミュレーターは使えませんが……』

「構わねぇ。ただ、この下積みの任務にも報酬は払って貰うぜ」

『了解しました。口座はこちらでご用意しましょう』

 

 かくして、パッチは全く見知らない世界で二度目の傭兵人生を歩むことになった。勝手の違う世界では艱難辛苦が待ち受けている……ことは無かった。

 

「は、早すぎる!!」

 

 無法者が使うMTや兵器程度ではノーカウントを捉えることはまるで敵わなかった。さながら、赤子の手を捻るよりも簡単なミッションの数々を熟しては、誰もが自分に対して遜って来る。

 

「(おいおい、まさか。俺のグッドラック、来たんじゃねぇか!?)」

 

 前の世界は碌でもない場所だったが、ここでは資金さえ積み重ねれば十分に豊かな人生を歩める未来がある。

 

「(そう考えたら、実はあそこで撃たれたのは幸運だったのかもな)」

 

 もしも、生き延びていたらまた死線を潜り抜けて、窮屈な世界で細々生きて行くだけの人生だったかもしれない。だが、ここでは違うのだ。

 

「(俺は、パッチ、ザ・グッドラックだ!)」

 

 まるで世界に味方されたかのように、多少ガバがある策謀も全て上手く行き、彼とノーカウントは見事にルビコンに降り立つことには成功したのだが。

 

~~

 

「ツイてねぇよ!!」

 

 どうやら、ここに来るまでに運を全て使い切ってしまったらしい。

 パッチの機体は勝手に動かされ、件のミールワーム達に張り付かれていた。おまけに大分キモイ姿になっている。

 その上、上空には3機のACが現れていると来たモンだ。ケイトから貰ったツールで通信の内容を拾い上げる。

 

『オールマインド! 少し見ない間に随分とモテるようになったな!』

『虫達も私の魅力を無視できないようですね。貴方達も私の状況を無視することなく、助けて下さい。特にこのデカい奴を何とかしてください』

 

 えらい、ケイトと声が似ている気がするが話す内容があまりにもしょうもなかった。ただ、この展開はパッチ的にも望ましくはなかった。

 

「(ちょっと待てよ。ノーカウントが潰されるんじゃ……)」

 

 張り付いた虫ごと潰されては、かなり困る。どうした物かと考えていると、3機はバックパックのタンクから伸びたホースを用いて、何かを散布していた。

 赤色の水が降り注ぐと、ミールワーム達は機体から離れて地面に染み込んだ水分に吸い付いていた。

 

『やはり、慣れたモノの方が好みか! ここら辺は人間と何も変わりないな!!』

『見た目は大分気持ち悪くなっているが……』

 

 芋虫たちは全身に白い毛を生やして、伸びた四脚でヒタヒタと歩いているのが、虫か哺乳類か判別の付き様が無くて、物凄くモゾモゾとした気分になった。

 

『えへへ』

 

 突如として聞こえて来た幼い少女の声は興味津々と言った具合で、声に連動する様にして1機が件のネコミー(ルワー)ムをマニピュレーターで突いていた。触っていたのは特にデカイ個体だった

 

「ミ”ャ”ア”-!」

 

 ただ、食事中に邪魔をされたのが甚く不快だったのか、ツンツンしていた機体目掛けて突進して来た。ACに比べれば遅いが、この巨体にぶつかられてはただでは済まない。故に、回避行動をとったのは極自然なことだった。

 だが、ここでちょっとした奇跡が起きた。例の機体が飛翔して回避した所、巨体ミールワームが突っ込んだ先にはノーカウントがあった。それなりの速度で突っ込まれた為、機体も結構大きく飛ばされたのだ。

 

「嘘だろ?」

 

 そう。ノーザークが隠れて様子を見ている付近に。一体、どんな奇跡か。ご都合主義か。だが、現実で起きてしまった以上はチャンスを逃すのはあり得ない。

 直ぐに、ハッチを開けてコックピットへと乗り込んだ。機体の状況を確認したが、軽度の損傷がある位で起動には問題ない。

 

『ミシガン、フロイト、レイヴン、スッラ。私が操縦から離れたというのに、ノーカウントが起動しています』

「おせぇんだよ!」

 

 4機体の動きも早かったが、パッチは更に早かった。ノーカウントの周囲に緑色の粒子が迸り、周囲の空気抵抗が軽減されて行く。

 すると、機体がまるで爆発した様に撃ち出された。全てを置き去りにして見事に逃走を決めると、コックピット内でハッチは喜色に顔を歪めていた。

 

「(間違いねぇ。俺の幸運の女神は、この世界に居たんだ!!)」

 

~~

 

「ごめんなさい……」

 

 レイヴンは落ち込んでいた。まさか、戯れていたミールワームが暴れて、機体を奪われるなんてバタフライエフェクトが起きるなんて思ってもいなかったからだ。だが、回収任務が失敗したことは事実だった。

 

「オールマインドが離れなければ、何とかなったのでは?」

『別に起動したままでも良かったのですよ? 汚染物質を周囲にばら撒き続けても良いのなら。ですが』

 

 ジークムントの言葉にオールマインドが冷静に返していた。それはルビコン的にも望ましくないことだった。

 

「過ぎたことは仕方がない! G13! 勝手をするというのはこういうことだ! 今までは、何もなかったかもしれないが、こういった事態を引き起こすんだ! 言うことはちゃんと聞け!!」

 

 ミシガンの指導を聞きながら、コックピット内のレイヴンはシワシワのショボショボになっていた。時折、彼女自身も助けを求めるようにエアに呼び掛けたりするのだが……。

 

『駄目です。偶には、怒られてください。周りが甘々なので』

「ひどい。エアの人でなし」

『ウッ』

 

 初めて飛ばされた暴言にエアにも多大なダメージが行った。一方で、スッラ達は業務連絡を入れていた。

 

『逃げられたか。いや、でも悪くはなかった。本来のパイロットが乗っていれば、あの機体はあんなことが出来るってのも分かったんだ。興味深いね。以前、企業総上げでルビコニアンデスビートルを討伐した際、ブルートゥの機体に付けたブースターのことを思い出したよ』

「あの機体は単機で、そんなことが可能なのか。既存の企業にそんな機体が作れるとは思えんな。惑星封鎖機構か?」

 

 スッラとしても候補に挙げられるのは惑星封鎖機構位しかなかったが、散々痛い目に遭ったというのに、未だ用事があるのだろうか?

 

『分からない。ただ、ここにいる変態した虫達にも興味がある。調査の為に幾らか、持ち帰って来てくれ』

「了解した」

 

 スッラの通信が終えたのと丁度ぐらいに、ミシガンの説教も終わっていた。

 アレだけ奔放に動いていたレイヴンの機体が心なしか落ち込んでいる様にさえ思えた。……別に慰める訳ではなかったが。

 

「クライアントから連絡だ。ここのミールワームを幾らか持ち帰って来て欲しいらしい」

「本当!?」

 

 パァっと一瞬で明るくなった。すると、レイヴンは先程の失敗をしない様に手を差し伸べて、向こうからやって来た個体だけを回収して……帰還することにした。

 

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