戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「おいおい、コイツは一体何なんだ?」
持ち帰った猫ミールワームを検査に掛けた所、体内の組成分はルビコンにおけるどの生物と比べても異質な物になっていた。
「コーラルに匹敵するエネルギーを抱えている。今まで、惑星の何処でも見られなかった性質の物だ」
カーラが出したデータを見たウォルターも眉間に皺を寄せていた。自然に出来た物でないとすれば、件の機体が撒いて行った物が関係しているのだろう。
これらの性質を具体的に確かめる為の実験も行われている中、現地で採集をしていたセリアとオールマインドもまたデータを閲覧していた。
「あの粒子は生だと有害なのだ。コーラルみたいに散布しても大丈夫な物じゃないから、取り扱いは慎重にするように頼むのだ」
『ですが、ACに新たな力を与えるという点では興味の尽きない物です』
危険な物質ではあるが、新たな可能性を開くポテンシャルも秘めている。
取り扱いに対する危険性と使用用途がかち合い、やや後者が勝り気味だった。と言うのも……。
「よしよし」
検査が終わって寛いでいる猫ミールワームの隣でレイヴンが観察日記を付ける傍ら、頭を撫でたりしていた。
しかし、如何に見た目が猫めいた物になっていても中身はミールワームである為、口内にはビッシリと歯が生え揃っていた。……その隙間を縫って出て来た舌で彼女のことをベロベロと舐めていた。
「気が気でありませんね……」
エアも彼女の隣で見守っていたが、被爆する可能性も含めて気が気でない。本来なら、こんな危険なことをさせるべきでは無いのだが……。
「ミャ”-ッ!」
エアが訝し気にしていることに気付いたのか、猫ミールワームが威嚇する様に鳴き声を上げていた。
「どぅどぅ」
だが、不思議なことにレイヴンには懐いていた。普段からミールワームを世話しているからか、あるいはコーラルの残り香にでも惹かれているのか。
理由は定かでないにせよ、彼女がいると大人しくなるので色々と検査をする上では便利だった。今もよく分からない機器で採取されたり、スキャンを掛けられたりしている。
「(本当に彼らは一体何者なのか)」
何故、生まれたのか。従来のミールワームと同じ様に変態するのか。
未知のAC『ノーカウント』の存在もあり、この惑星が再び危機に晒されている中、RaDの面々は大慌てしているかと思いきや。
「ミールワームの新種に未知の兵器!! これはもう、僕の脚本を置き去りにして、余程面白い何かが起きると思うんですよね!! ジュンコちゃん! 今の内に、アクションシーン以外の撮影をしよう!!」
「うぉおおおおお! RaDも全面協力するぞ!! なぁ、ヴォルタ!!」
「仕事増やすんじゃねぇ。殺すぞ」
コダカの大興奮に釣られ、イグアスもノリノリで協力しようとした所でヴォルタからは拒否られていた。この後に及んで危機感を持たない辺り、彼も十分RaD色に染まったと言うことだろうか。
「だが、今後。ノーカウントがルビコンに及ぼす影響は無視できない物がある。ミールワームが吸収した分は良いが、回収されていない分は毒素として散布されるのだろう?」
アホみたいに騒いでいる連中は置いといて、ミドル・フラットウェルはこの事態を重く受け止めていた。奇跡とも言える積み重ねで勝ち取った故郷が、侵されようとしているのだ。看過することは出来ない。
「ジークムント。例の機体、AIで動かしている訳じゃなさそうだったかい?」
「アレは人間の癖が良く出ている動きだ。中にパイロットはいる」
確証はないが、歴戦のパイロットである彼が言うなら間違いはないとカーラは踏んだ。相手が人間であるなら幾らでも対処のしようはあると考えていた。
「まず、ソイツを見つける所からだね。新種のミールワームが及ぼす環境への影響も同時進行で考えて行こう」
「観察日記を付けに来ただけで、とんだトラブルに巻き込まれた物だ……」
ウォルター達としても久々に顔出しをする位のつもりだったが、こんな事態を放って帰る訳にはいかなかった。大人達にとってもとっておきの宿題が用意されてしまった。
~~
「という訳なんですよ。スネイル。もう、新種のミールワームには毛がフッサフッサに生えているんですよ。びっしりと全身を覆う位に」
トラブルに巻き込まれたペイターは社長であるスネイルに連絡を入れていた。アーキバスの毛髪再生局を前身としている会社である以上、今回の報告は必須と言えた。
『毛のことは置いときまして。新種のエネルギー源と未知の機体は興味深いですね。既存の企業とのデータ照合は?』
「済ませております。どの企業にも該当データはありません」
相変わらず段取りが良かった。本人の人格はアレでも重用されるのも納得がいく能力ではあった。
『惑星封鎖機構の可能性も捨てきれませんが、敢えて介入する意味合いも薄い。だとしたら、何の為に?』
「分かりません。例の機体のパイロットに聞くしかないでしょう。それで、スネイル? 一旦、商談は中止にして帰還するべきですか? それとも、事態の解決まで同伴するべきですか?」
社員の安全を考えれば帰還命令を出すべき所ではある。だが、帰って来た返事はNOだった。
『事解決の為に動きなさい。協力してRaDに恩を売れば以後の商談も円滑に進みます。そもそも、今回の事態で先方に被害があれば取引が台無しになりますからね』
「分かりました。では、1317と共に業務に当たります」
業務連絡を入れた後、ペイターは小躍りしていた。そんな彼を見て不気味に思ったのか、1317が恐る恐る尋ねた。
「何がそんなに嬉しいんだ?」
「いやぁ。だって、ですよ? 通常通りに行ったら、このまま商談して手続きしてUターンで次の仕事じゃないですか。でも、私達は事態解決の為に協力しないといけないので、留まる訳です。しかし、偶然にもウォルター、レイヴン、フロイトも居る訳です。――私達の必要なくないですか?」
戦力的には、前ルビコン騒動の際のTOP3に加えてブレインまで揃っているのだ。戦力として万全という外ない。
「つまり、俺達はサボれると?」
「はい! 丁度、映画監督なんて面白い物も来ていますし、他の乗客にホビー会社の営業マンも居たんですよね。色々と出来そうじゃないですか?」
コイツ、すっかり遊ぶ気でいる。あまりにも気楽過ぎはしないか? 下手をしたら、ルビコンの危機かもしれないというのに。
「俺達にとってみればルビコンは立ち寄った惑星に過ぎないが、RaDにいる者達にとっては故郷なのだから、もう少し真摯に向き合うべきでは?」
すると、ペイターは無言で指をさした。その方向を見れば、コダカ監督と映画スタッフ達に混じって、イグアスとヴォルタも出演していた。
「ここはな。おめぇみたいな女が来る所じゃねぇんだ。さっさと、お家に帰ってママにパイでも焼いて貰ってな」
「この惑星に眠るお宝は俺達のモンだからな!」
2人共人相の悪さに加えて、元がチンピラと言うこともあって演技とは思えない位に迫力があった。一方、やる気のなかった主演女優のジュンコも彼らに焚きつけられたのか、気怠そうにしていた顔は別人の様に豹変していた。
「あら、ママのお腹の中に脳みそ置き忘れて来た? 持ち物チェックは遠足の基本だから、よく覚えておいてね」
「んだ、テメェ!?」
「調子に乗りやがって!」
3作目の主人公はドSクール系に決まったらしい。コレが、チンピラ相手に言うんだから本当によく似合っていた。イグアスとヴォルタの三下感がゲストとは思えない位に役にハマっていた。
「アイツら何やってんだ……」
「うっうっ。私も社員の立場じゃなかったら、好きに出来たのに……」
残念ながら、ペイターは会社員なので撮影のスケジュールなどの関係上で役者として出ることは出来ないのだ。いや、そもそも惑星の危機に何をやっているんだという話でもあるのだが。
「いや、こんな事態だからこそ。日常に興じるのだ」
背後から気配もなく歩み寄って来たドルマヤンに1317は驚いていた。しかし、ペイターは手をヒラヒラとさせていた。
「帥父さん、お帰りになられていたんですか? 珍しいですね」
「こんな事態だからな。こちらで集められる情報をカーラに持って来たのだ。客人、散々ルビコンは弄ばれて来たのだ。この程度の小事で動じる必要はない」
ルビコン解放戦線を率いるに相応しい威厳ある佇まいだった。彼はこの事態が解決すると信じて疑わないようだった。
「あまり事態を重く見ていないようですね」
「当然だ。たかが、1人に何が出来る? 1機が撒く汚染程度で枯れる程、ルビコンは矮小な存在ではない」
自分達がいない間にルビコンを練り歩き続けた男の所感である故、不思議と信頼できる物だった。後方では、リング・フレディが理解者面をして頷いていた。
「だが、用心に越したことはない。件の変異ミールワームも新たな脅威になるかもしれない。今、レイヴンが監視をしているらしいから、一緒に見に行かないか?」
ドルマヤンが静かに頷いた。ペイターも名残惜しそうにしていたが、レイヴンのことも気になる為か共に観察スペースへと向かった。
すると、どうだろうか? エアがオタオタとしていた。答えは直ぐに分かった。隣にいるレイヴンに変化が起きていたからだ。
「あ、ペイター! おじいちゃん!」
彼女が装着しているウィッグの一部が変形していた。猫ミールワームの体毛の一部が乗り移った様に白い毛が生えており……、何故か猫耳の様な形になっていたのだ。
勿論、あくまで形的にそうなっているだけでレイヴンの耳は普通のままだ。ペイターとしては可愛らしい位にしか思っていなかったが、隣にいたドルマヤンは違っていた。
「レイヴンよ。久しいな。ミールワームの観察の為に体も冷えるだろう。この毛皮のコートを羽織ると良い」
本当に何処から出したんだという位にふわふわの毛皮のコートを取り出していた。なんの疑いも無く受け取った、レイヴンは笑顔を浮かべていた。
「おじいちゃん、ありがとう~」
彼女の感情に呼応する様にピコピコと耳が動いていた。ドルマヤンはただ微笑んでいた。道端に咲く花を眺めるかのような優しい笑顔だった。
「何、気軽に頼ってくれていい。共にコーラルを酌み交わした者同士。我が子の様に思っている」
「ヒェ……」
これにはペイターも戦慄せざるを得なかった。エアも目を細めて、1317も戸惑う中、リング・フレディだけがスッとドルマヤンを抑えていた。
「帥父。お戯れを……」
「そうであるな。暫くは、グリッド086にいる。老人の話し相手にでもなってくれれば、幸いだ」
「うん。また行くねー」
レイヴンもヒラヒラと手を振っていた。ドルマヤン達が去ったのを見届けた後、1317はそっと言った。
「エア。この観察、なんか不味くないか?」
「私もそんな気がします」
その内、ウィッグだけじゃなくて全身から毛が生えてきたりするんじゃないだろうかと言う疑惑が浮かび、一旦観察を中止するべきかと考え始めていた。