戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「なぁ、ケイトさんよ。これは何を調べているんだ?」
ミールワームの調査を命じられたパッチは、ルビコンに点在する彼らの巣を訪れて観測を行っていた。ノーカウントが訪れた巣では、必ずと言っていい程に変異した種が出現していた。
今、ノーカウントのスキャン機能を用いて変異した種のデータを送ったが、ケイトは無機質な返事をするばかりだった。
『貴方が気にすることではありません。我々が観測した、ルビコンにおけるワーム達の巣を全て観察すれば、依頼は達成です。それ以上の情報は必要ありません』
ノーカウントとしても生物学者の様な真似をするつもりはないにしても、傭兵特有の勘の様な物が働いていた。本当に、このまま従い続けてもいいのかと。
別にルビコンやこの惑星に住まう人間がどうなろうと興味はないが、被害が自分にも及ぶというのなら、話は別だ。……だが、今は反抗的な態度を見せるべきではない。
「ま、俺は報酬さえ貰えれば別に構わないけれどよ」
ドライな態度を見せつつつ、パッチは内心に湧きつつある不信感と保身について考え始めていた。
~~
「うみゅ……」
「大丈夫ですか?」
以前までは、どんな環境でも寝られていたレイヴンであったが、普通の生活に馴染み過ぎた為か、RaDの居住環境での快眠は出来なくなっていた。ウィッグに生えた猫耳らしき箇所が、不満げにピョコピョコしていた。
一人で歩き回らせるのは危ない為かエアが付き添っている。流石にドーザーでも、夜は寝るらしい。
「畜生ォオオオオオオ! ヴォルタァアアアアアアアアア!」
「最後の最期で良い所を見せてくれましたが……見直すのが遅すぎました」
薬物中毒者達でも寝るというのに、こんな時間までテンションがぶっちぎりな連中はコーラル以上の何かをキメているとしか思えなかった。特にイグアスの演技は鬼気迫る物があった。
「G5は何をやっているんでしょうか……」
「知らない」
すっかり、心がイルブリードから離れてしまったレイヴンとしては気にすることでも無かった。グリッド086から落下しない様にエアが見守る中、彼女の足取りは、例の変異ミールワームの観察区画へと向かっていた。
深夜にも関わらず明かりは付いており、ノックをすると扉前のカメラが作動し、マイクからはウォルターの声が聞こえて来た。
『レイヴン。寝れないのか?』
「うん」
『丁度良い。ビジターもエアも上がると良い』
カーラも同席していたらしく、2人は部屋に上がった。室内のモニタには様々なデータが映されているが、レイヴンが理解できる物は何一つとしてなかった。
「カーラ。これは?」
「ビジターが観察してくれているミールワームのデータだよ。コイツらの体内ではコーラルと何かが混じり合っているみたいなんだ。エア、アンタの方からも何かは感じ取れるか?」
「と、言われましても」
レイヴンと一緒に観察しながらも、特に何かを感じ取れることは無かったので、性質としてはコーラルからも離れた何かになっているのだろう。
「新造されるエネルギーに適応する形でミールワームに変化が起きたのかもしれない。だが、このエネルギーの性質が全く分からない。コーラル以上に画期的かもしれないが、それ以上に危険な可能性もある」
ウォルターの眉間に深い皺が刻まれた。コーラルと言う新資源一つで、惑星を巻き込む事件が起きたのだ。再び、新たなエネルギー源が見つかれば何が起きるかは想像に容易い。
「もしも、危険だった場合は?」
「……厳重な管理体制の上、保護観察処分と言う形になる。あの個体だけならば、大した脅威にはならないだろうからな。
一瞬、レイヴンの方を見てウォルターは言葉を選んだ上で発していた。直ぐに処分される訳でないと知って、彼女は胸を撫でおろしていた。
「アイツから取れるエネルギーにも興味はあるけれど、生物的な側面にも興味はあるね。これ以上変態するのか、寿命はどうなのか。ビジターの観察日記には打って付けだろ?」
「うん。出来たら、持って帰りたいなーって」
「それは無理だ。諦めろ」
幾ら、レイヴンに甘いウォルターでも駄目な物は駄目だった。
彼女が飼っている小型のミールワームと違って、ルビコン産の物は4m以上の巨体になるからだ。
「私が知る限りでは、普通に生育したミールワームはあんな巨体にならないんですけれどね……」
「私達が派手にアイツらの止り木(ブランチ)をぶった切ってやったからね。良い具合に、ルビコン中に栄養が散らばったのさ」
バスキュラープラントによって吸い上げられたコーラルが、ルビコニアンデスビートル達を介して散らばったので、惑星中に行き渡ったのだろう。
搾取さえされなければ、増殖するのがコーラルの特性である。増えたコーラルのお陰で、ミールワーム達はデップリと肥え太った。
「このルビコンにおけるミールワーム達は惑星の自然を豊かにしてくれる住民だ。おいそれと手を出してよい物ではない」
「そっか……」
詳しいことは分からないにしても、例の猫ミールワームの故郷はルビコンである。と言うニュアンスだけは分かった。
この疲弊しきった惑星はようやく休息に着き、身を休めることが出来るのだ。これ以上、誰かが好き勝手をして良い訳がない。
「だから、例の機体がどうしてこんなことをしているかって言うのは気になる。新資源の生産実験の為に送られた機体なのか、あるいは何も知らないのか。いや、そもそも件の機体に使われているエネルギー源も未知数の物だ。……どうにも、アレは惑星封鎖機構の機体とは思い難い」
「根拠はあるのですか?」
エアが尋ねた。惑星封鎖機構と言えば、企業ですら追い付かない技術力を所有している面もあるだけに、温存していた兵器を取り出したのかと思っていたが、カーラの考えは違うらしい。
「根拠はないけれど、あったなら前の時に使わない理由が無かった。バカでかい艦に小惑星兵器まで使って来た連中が、出し惜しみをするとは思えない。……だとしたら、アレは本当に最近手に入れたんじゃないのかって」
納得できる所ではあった。それに、コーラルの性質変化の実験をするにしても、企業や解放戦線などが争っていた時の方が、付け入る隙も多かったハズだ。
「一番いいのは、例の機体を捕獲して話を聞き出すことだが、どうにも俺達が知っている機体とは訳が違い過ぎる」
「オールマインドから渡されたデータを見ても、材質、規格、武装の何から何まで既存の企業の物は無かった。まるで、別の世界から来たみたいだよ」
星間時代であるからこそ、銀河系のどの企業の情報も手に入れることが出来る。というより、企業は情報を公にしなければ顧客も手に入らない。
その常識を覆す様にして、ノーカウントと呼ばれる機体に使われているパーツの製造元のデータが出て来ない。
「惑星封鎖機構が一から作り上げ……。いや、あの組織がそんな手間と労力だけが掛かるような真似はしませんし」
組織として動く彼らがワンオフ機体なんて、趣味の様な物を作るとは思えないし、やはり例の機体は自分達が知る物とは思い辛かった。
「宇宙にはどういった法則が働いているか、俺達の常識すら超えた現象が起きている可能性もある。それこそ、SF映画の様な出来事さえありうるかもしれない」
「ウォルター。貴方、イルブリードの映画以外も見るんですね」
「俺を何だと思っている」
エアが素で尋ねた質問に、ウォルターが心外だ。と言わんばかりの論調で反応したのを見て、カーラは腹を抱えて笑っていた。
「いや。律儀に映画を見てくれて嬉しいよ。イグアスの坊やなんてはまり込んで、3作目の映画撮影に協力している位だしね」
「さっき、見て来ましたよ」
「アイツ。案外、パイロットや監督よりも。役者とかが向いているかもね。その話は、その話で気になるけれど。そう言ったフィクションめいた存在って言うんなら――笑えるね」
こんな非常識な考えにも関わらず、一概に否定しきらないのはカーラと言う技術者が持つ柔軟な思考能力故だった。
「だから、中身まで見てやろうかね」
そして、柔軟な思考を現実へと落しこむ、シビアで暴力的とも言える程の実行力を持つのがRaDの頭目。シンダー・カーラであった。
~~
『パッチ。接近して来る機体を確認しました』
「マジか」
ノーカウントのレーダーに数機分の反応が確認できた。上空を揺蕩う凧の様な機体を引き連れているのは、赤と黒のカラーリングが施された重量逆関節の機体。
「若いの。クライアントの依頼だから警告してやる。機体を降りて、投降するなら命は取らない」
『コールドコール。粛清代行を生業とする、殺し屋です。周囲に漂っているのは無人機の『IA-24:KITE』にステルス機の『GHOST』も随伴させています』
どうやら、以前に脱出した一件を顧みて、本格的に投入戦力を増やして来たらしい。前回の様に虚を突いての脱出、と言うのも難しい。
「やってやるよ……!」
ここで逃げても良いが、これだけの備えをして来た連中である。まだ、背後に何かを忍ばせている可能性が無いこともない。
そもそも、KITEと言う機体に制空権が取られている以上、逃走するという選択が無かった。ルビコンの地にて、ネクストが舞った。
「ほぅ、同じ逆関節同士か」
コールドコールの愛機『デッドスレッド』の右肩にマウントされた『BML-G3/P04ACT-01』からミサイルが発射された。
低速ではあるが、非常に高い追尾性能を誇っており、相手のブースト管理を狂わせつつプレッシャーを与えるという、老獪な彼も愛用する武装だった。加えて『IA-24:KITE』を操り、空中で絡めとるつもりでいたが。
「遅ェよ」
「ほぅ……!」
ノーカウントは空中でも凄まじい機動性を誇っていた。なおかつ、激しい機動の中で、パッチは『047ANSR』スナイパーライフルと『ER-O200』レーザーライフルを用いて『IA-24:KITE』を撃墜しながら回避運動を取っていた。返す一撃と言わんばかりに肩部兵装『BM03-MEDUSA』からASミサイルを放っていた。
デッドスレッドは直ぐに回避運動を取ったが、動きを封じる目的で連れて来た『IA-24:KITE』は、ほぼ全てが撃墜されていた。
「なるほどな。こちらの機体とは造りが違う訳か。だがな」
機体の性能が違えば、パイロットの腕の差も違う。コールドコールは『WUERGER/66E』をチャージして、一気に肉薄していた。
『パッチ。折角の機動力です。もっと翻弄してください』
「うるせェ! EN管理が大変なんだよ!」
正に、一番来て欲しくないタイミングでデッドスレッドはアサルトブーストを噴かして来た。この世界のACに比べて機動力が優れていると言っても、間隙を突かれては捉えられる。組み付かれた。
「死ぬなよ」
「うぉおおおお!?」
チャージされたレーザーランスの刺突が、ノーカウントの周囲に展開されていたPA(プライマルアーマー)を削った。直ぐに、離れようとして跳び上がるが、同じ逆関節同士故に、跳躍による逃走は不可能だった。
『パッチ。対処を』
「クソ!!」
ノーカウントはアセンブルの関係からENの余裕があまり無い。故に、組み付かれるのは非常に苦手とすることだった。
「(どうする。降参するか?)」
幸いなことに事前に勧告は行われている。以前の様に降伏した後に撃たれる。なんて自体は無い筈だ。脳裏に甘い想像が過るが、もう一つの想像も過った。
「(だけどよ。ここで降参したら、俺はまた以前みたいな生活に戻るんじゃねぇか?)」
閉じ込められた窮屈な世界で、僅かな報酬の為に命の危険に曝し続ける日々。折角、新しい世界に来て得た剛運を手放すというのか。
「ふざけんじゃねぇ!!」
更にノーカウントのブーストを吹かし、デッドスレッドの上を取ったかと思うと、脚部パーツ『SAUBEES-LEGS』で思いっきり踏みつけて、更に高度へと飛翔した。
「ソリを踏み台にするとは……!」
地上へと叩き落されようとする中、姿勢を立て直すことには成功したが、高高度でOBを吹かして逃げて行くノーカウントを追跡することは出来なかった。
戦いの余波か、周囲には緑色の粒子が散っており、近くの巣穴に潜んでいたミールワームがちょこちょこと顔を出していた。