戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】   作:ゼフィガルド

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1周年記念:『彼女の夏休み』 9

「ふぁああ……」

「レイヴン。おはようございます」

 

 昨晩、眠れずにウォルター達と少しお喋りした後、レイヴンは翌朝までグッスリと眠っていた。すると、グリッド086が騒がしくなっていることに気付いた。

 何事かと思っていると、滞在中に連絡を取る為に渡された通信機が鳴った。相手はカーラだった。

 

『ビジター。お目覚めかい? 例の観察スペースに来て欲しい。何が起きたかは、そこで話すよ』

 

 手短に用件を告げられると、通信が切れた。彼女の言うことに従い、向かった先では衝撃的な光景が広がっていた。猫ミールワームは白い糸の様な物で全身をドーム状に覆っていたのだ。六文銭が反応した。

 

「これは。もしや、繭か?」

「BAWSの所長も同じことを言っていた。遥か昔、日系の国では『蚕』と呼ばれる虫から取れる有機性の糸で服を作っていたそうだ」

 

 フラットウェルも頷いていた。これは、ルビコニアンデスビートルが決して行わなかった変化であり、全く未知の事象だった。

 

「この繭? って奴の中では、かなり大規模な変化が起きている。六文銭、アンタが知っている繭とかの話を聞かせて貰えるか?」

「うむ。実物を見たことはないが、私が説明できる範囲では」

 

 遥か昔、日系の国では『蚕』と呼ばれる家畜昆虫がいたらしい。彼らが成長の為に作る繭は美しい生糸として重宝されて来たらしい。

 

「ですが、成長途中の繭を採取する。と言うことは、当然中にいる変態途中の蚕は死ぬんですよね?」

 

 ベイラムの経済圏の中で比較的日系に近い位置にいた五花海も多少聞き覚えはあるらしく、六文銭に質問した所、彼は頷いた。

 

「そうだ。また、この蚕と言う虫は完全に家畜化されていた為、成虫になっても飛ぶことも出来ず、食事も出来ずに短命で死ぬらしい」

「実に合理的な作りですね。まぁ、あくまで『蚕』であった場合の話でしょうがね。他にも繭を作る昆虫はいるでしょうよ」

 

 チラリと彼はレイヴンへと視線を送っていた。彼女が安堵しているのを見るに、やはり猫ミールワームの寿命に関しては気になっていたらしい。

 そして、直ぐに答え合わせをする様に繭の一部がゲル状になった。中では、何かが蠢き、繭から這い出て来ようとしている。カーラが周囲に警戒態勢を敷きながら観察を続ける……這い出て来たのは、白色の全身にペタリと水平にした翅が特徴的な、巨大な虫がいた。

 

「間違いない。カイコだ」

 

 ウォルターが手元の端末を使ってデータベースにアクセスした結果、観察スペースで這っている物と似通った昆虫が『蚕』という名前で載っていた。翅は生えているが飛べないらしく、芋虫と同じ様に這っていた。

 カーラは直ぐに観察スペース内の機器を用いて反応を確かめた。コーラルや未知の物質を飛散させていないかなど。特に計器の類は異常を示していなかった。今直ぐに危険というかは分からないが。

 

「ねぇ、ねぇ。見て来て良い?」

「何を言っとるか!! 前が安全だったとは言え、今回も安全とは限らないんだぞ!」

 

 レイヴンは興味津々と言った様子だったが、スウィンバーンが止めに入っていた。実際に、未だ異常が見当たらないだけで安全かどうかは分からない。

 

「ビジター。ちょっとだけ時間をくれ。安全だって分かったら遊ばせてやるよ。それに、ホラ」

 

 蚕は暫く這った後、観察スペースからこちらの方を見ていた。2つに並んだ複眼は、まるでレイヴンのことを見つめている様だった。

 

「観察日記。まだ、続けているんだろ? だったら、最後までちゃんと書きなよ」

「うん!」

 

 グリッド086で微笑ましいやり取りが行われている一方。昨晩、捕獲任務に失敗したコールドコールはミシガン達に交戦情報を渡していた。

 

「軽量逆関節に重量級のコアとは何ともチグハグな機体だな。武装はレーザーライフルとスナイパーライフル。と言うことを考えるにだ!」

「恐らく、操縦者は生き残ることを考えて組んでいるのだろうな」

 

 ジークムントが続けた。重量級のコアはいざと言うときに攻撃に耐える為の物であり、軽量逆関節は逃げ回る為の物だろう。遠距離武器が多いのも引き撃ちをする為だと考えれば、相手は慎重なタイプだと想定できた。

 

「だが、厄介だぞ。下手に好戦的な奴より、引き際を理解している奴の方が長生きする」

 

 ナイルとしては、むしろ好戦的な相手の方が有難かった。だとしたら、幾らでもからめとれるし戦力的にも撃破は容易だったからだ。

 だが、相手の機体は自分達のACと比べ、機動力に優れており、簡単に潰せないだけの装甲とアーマーがあるらしい。

 

「常時、バリアが展開されている様だった。一番近いのはバルテウスだったかもしれんな」

「だとしたら、パルスガン系を装着しての交戦も考えねばな」

 

 交戦をして逃れることが出来ても、確実に対策は積み重ねられていく。元・レッドガンの精鋭達が対策を詰めて行けば、絡めとられるのはもはや時間の問題と言えた。

 

~~

 

『そうです。パッチ、昨晩の戦闘地点に向って下さい』

 

 ケイトに指示され、パッチは戦闘跡へと訪れていた。すると、ミールワームの巣穴近くには大量の繭が転がっていた。

 

「何だこりゃ?」

『ミールワームが作った繭です。パッチ、幾らか回収して指定のポイントへと来て下さい』

 

 言われた通り、コンテナの中に幾らか繭を詰めて指定のポイントへと向かった。

 どうやら、何かの施設であり、奥へと進んで行くと大釜の様な物の中でボゴボゴと水が沸騰していた。

 

『その中に繭を入れて下さい』

「あいよ」

 

 コンテナの中に詰めていた繭が沸騰した湯の中へと落ちて行く。こうすることで何が起きるかは分からなかったが、あの虫達が死のうが、どうなろうがパッチとしては知ったことではなかった。

 大釜の底では何かが動いているが、詳細を尋ねる気も起きなかった。自分は言われた仕事をしただけだ。

 

『では、後数回ほど往復して貰いましょうか。十分な数が集まるまで』

「分かったよ」

 

 理由を問おうとも思わなかった。マトモな答えが返って来るとは思わなかったからだ。ただ、今までの観察と言う依頼からスウィッチしたと言うことは、こっちの方が本願である可能性は高そうだった。

 

『時に、パッチ。人間の体は筋繊維で出来ているそうですね。言ってみれば、糸を紡ぎ合わせた様な物です』

「だから、何だってんだ?」

『いいえ、大したことではありません。この変異ミールワーム達はコーラルと貴方達の世界に遍在する粒子の合いの子。興味深い存在であると言うことだけ』

 

 パッチは眉間に皺を寄せていた。興味深い存在をこんな大釜で煮て、何をするつもりだろうか? 少なくとも、生物としての興味はないのだろうと思った。

 機械に掛けられた繭の水分が乾かされ、何処かへと保管されて行く。アレを使って何をするのか。余計なことを考えるよりも先に、パッチは空になったコンテナを持って先程の場所へと戻ろうとしていた。

 

「――」

 

 昨晩の戦闘の疲れ、楽な依頼を受けたことによる意識の緩み。故に、彼は後を付けて来る改良型『GHOST』の存在に気が付かなかった。

 そして、この往復の映像は『RaD』へと送られることになり、程なくしてパッチの現在地は筒抜けになるのであった。

 

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