戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
元・オールマインドの隠し拠点室内と言うこともあり、パッチのノーカウントは得意の機動戦を活かせずにいた。自慢の逆関節で飛び回り、逃げ回ることも出来ない中、スッラは確実に彼を追い詰めていた。
オールマインド製のパーツで統合された『エンタングル』の背部兵装『45-091 JVLN BETA』から放たれたデトネーティングミサイルが、パッチの逃走先へと打ち込まれる。
「クソッ!」
通常ならば被弾は避けられないが、ノーカウントに展開されたPAを犠牲に彼は無理矢理回避していた。被弾覚悟で突っ込んだのは、相手に誘導された先には更にキツイ一発が待っていることを、彼は確信していたからだ。
機体のアセンブルからしても分かる様に、パッチの基本は生き延びることにある。ルビコンに降り立ってから稼いだ報酬のこともあり、尚更死ぬ訳には行かなかった。その消極的な戦い方からオールマインドも察したのか、エンタングルのスピーカーから彼女の声が流れた。
『独立傭兵に告ぎます。もしも、貴方がこの場で武装を解除し、こちらに雇用主の情報を提供するなら身柄の安全と報酬を約束しましょう』
目に見えて、パッチの動きが鈍った。合わせて、スッラも攻撃の構えを解いた。
さっさと、勧告へと移らなかったのはスッラの脅威を体感させて交渉を有利に進める為だろう。これ以上、戦いが長引けば無事では済まない。その前に降伏することで命も助かり、報酬まで得られる。
『加えて言うのなら、既に我々は救援を取り付けています。貴方が制圧されるのは時間の問題でしょう。残念ながら、この施設には他の脱出口もありません。言ってみれば、貴方は詰んでいるのですよ』
ここに来て、オールマインドは更に揺さぶりをかけた。お前に残された時間は少ないと。パッチの中ではグルグルと計算が行われていた。
「(どうする? ここで降伏しておくか? そもそも、ケイトの動きも最近は怪しい。用が済んだら消されるかもしれねぇ。んで、ここで降伏したとしても俺は連中を手に掛けたりも機体を潰したりもしてねぇんだ。今までの出来事はノーカウントで済ませられる可能性も0じゃねぇ)」
最初こそは色々と面倒を見てくれたが、奇妙な虫と繭を見つけた後の彼女の対応には不信感を募らせていた。なら、ここら辺で鞍替えしようかと武装を解除しようとした時のことである。
彼の意思に反してノーカウントは解除しようとした武器を、エンタングルに向けて引き金を引いていた。この不意打ちを予想していた様に、スッラは易々と回避していた。
「何があっても依頼を完遂しようとする意志は大した物だな。なら、このまま撃墜させて貰うとするか」
『そうですね。人道的勧告は行いましたからね』
エンタングルのもう一つの肩部兵装『45-091 ORBT』が起動し、室内に数基のレーザーオービットが射出された。先のデトネーティングミサイルと合わせて、閉所で相手の動きをコントロールする様にして追い込んで行く動きは、ノーカウントには特に刺さっていた。
「やめろ!! 俺は戦う気なんてねぇんだ! 機体が勝手に!! 畜生!! やっぱりツイてねぇよ!!」
ノーカウントのコックピット内で、パッチが悲鳴を上げていたがマイクの電源は入らなかった。自らの意思に反して動くノーカウントの挙動は、今までの自分の癖を再現した物に過ぎず、このままでは捕まるのも時間の問題だった。
脱出装置も働かなければ、こっちの操縦も受け付けてくれない。ここに来て彼は理解した。
「あの野郎!! 最初から、俺を始末する気で!!」
実際の思惑は別にして。こんな状況に追い込まれたのだから、彼の被害妄想が加速するのも無理はないことだった。
戦いをスッラが有利に進めて行く中、緩慢な動きをするノーカウントのPAも剥がされ、パーツ各所にもダメージが蓄積していく。動くこともままならくなり、膝と両手が地面に就いた。もしも、この場に六文銭が居たら言っていただろう。――あれは日系に伝わる降伏と恭順のポーズ『土下座』だと。
「畜生。畜生!!」
それでもパッチは生き延びるためにコックピット内のマイクの電源を入れようとしていた。だが、彼の願いも空しくマイクがオンになる様子はなかった。
スッラが『44-141 JVLN ALPHA』の引き金を引こうとすると、ノーカウントのコアの背面のハッチが開いた。すると、目にもとまらぬスピードで何かが撃ちだされた。電極だった。
『スッラ!』
パッチの目の前で電極は凄まじい勢いで放電し、エンタングルの機能を停止へと追い込んでいた。訳も分からず呆然としていると、ケイトから通信が入って来た。
『貴方の同行は観察させて頂きました。契約を反故にすれば、どうなるかと言うことは身をもって知って頂いたと思います』
「ふざけんじゃねぇ!! こっちは死ぬ所だったんだぞ!?」
『ですが、貴方は生きています。おまけに、目的物であるパーツも目の前に転がっています』
もしも、途中で再起動したら。等考えたが、援軍が来ているという話なら余剰パーツを探している余裕などない。しかし、自分を殺そうとした相手に従えるかと言われれば、話は別だった。
だが、ここで反旗を翻したとしてもやはり弄ばれるだけだ。自分の道具と思っていたノーカウントに何が仕込まれているかは分からないし、周囲が汚染された中で降りる訳にも行かない。
『後はもう、その機体さえ持って帰って来たら解放しますよ。ここまで来て、全てを放り投げるのですか?』
そもそも、先の戦いで負ったダメージを考えれば、倒れたエンタングルを牽引できるとも思えない。そんなことを考えていると、目の前に2基のドローンが着陸した。裏切りたくても裏切ることはできないのだ。
『あと少しです。あと少しで、華やかな生活が貴方をお待ちしています』
妄想と願望と走馬灯が入り混じった光景を幻視しながら、パッチはノーカウントごとドローンで輸送されていた。
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一方、レイヴン達も行動を起こしていた。ゴーストが破壊された直後から、既に件の拠点へと向かっていたのだが、入り口は固く閉ざされていた。
『レイヴン。ロックが相当に厳重に施されています。私でも解析するのが難しいです』
「加えて、我々の手持ち武器でぶち抜ける障壁でもない」
レイヴンと共に駆け付けたフロイトも言った。直ぐに、RaDへと通信を繋げたが、カーラの苦々しい返事が来た。
『アクセス権の偽装も難しくなっている。GHOSTを招き入れたのも、ワザとか? 他に入り口がないか捜索してくれ』
室内戦が想定されていた為、レイヴンとフロイトの2機だけでやって来ていた。周囲をスキャンに掛けてみたが、それらしき物は見つからない。かと言って、排除する為に何かしらの装置や兵器が出て来る様子もない。
「……?」
『レイヴン?』
機体には何も反応がないが、レイヴンはコックピット内でキョロキョロと周囲を見回していた。その度に、ウィッグから生えた耳がピョコピョコ動いていた。
「声が、聞こえる」
「誰のものだ?」
フロイトが問うた。彼女の読心能力は広い範囲には届かない。近くに誰かがいる。ならば、少しでも情報を得たい。
「多分、あの機体に乗っていた人。『もうやってらんねぇ』とか。凄く疲れた感じがする」
周囲にスキャンを掛けたが、やはり機体の反応はない。と言うことは、何処か別の場所に搬入口を設けている可能性がある。
『何処から聞こえて来たか。等は分かりますか?』
「下としか」
正確な方向は分からないが、既に相手は拠点内部へと移動している。捜索を必要とするなら、2機ではあまりに少ない。
『探索用のドローンをそっちに飛ばす。2人は付近で待機していてくれ』
「了解した」
拠点内へと戻っていると言うことは、既に何かしらを手に入れている可能性が高い。故に、あまり時間は掛けたくはなかったが無駄に捜索に体力を使う訳にも行かなかった。
スッラの安否。敵対者の思惑。気になることはあったが、いざと言うときに備え、2人はコックピット内で少しでもリラックスできる態勢へと移行していた。