戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】   作:ゼフィガルド

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1周年記念:『彼女の夏休み』 13

「うぅ……」

 

 スッラと交戦した後、ケイトによって拠点に運ばれたパッチは何処とも知れぬ場所へと連れて行かれ、意識を失った。

 目を覚ましてみれば、天井が見えた。首を横に傾けてみれば、全身を生命維持装置に繋がれた老人がベッドで寝かされていた。起き上がろうにも動けない。どうやら自分もベッドに拘束されているらしい。

 

『お目覚めになりましたか?』

 

 老人のバイタルが表示されていたモニタが切り変わり、ロゴが現れた。

 この声は聞いたことがある。気絶する前に交戦していた機体から聞こえて来た物だ。つまり、横で寝ている男はあの機体のパイロットと言うことか。

 

「何だ。ここは何処だ? なんで、俺は拘束されているんだよ!?」

 

 敵対していた相手が拘束されているのは分かるが、どうしてクライアントの依頼を遂行していた自分までこんな目に遭わなければならないのか。

 暴れた所で拘束が解ける訳もなく、直ぐに観念した。すると、ヒタヒタと何かの足音が近付いて来るのが聞こえた。厚底のブーツが床を叩く音でも無ければ、義肢などでもない。何の音だろうか?

 

「おい、何がやって来てんだ? お前、何か知らねぇか!?」

『知りませんよ。私も知りたい位です。ただ、状況から推察しましょうか。恐らくやって来ている人物は履物をしていない。足音のリズムに乱れがあることから足を汚しているか、もしくは歩き慣れていない者か。そして、この部屋に伝わって来る振動から体重を計算すると……人間の女性と思しき何かがいますね』

 

 人間の女性。パッチに思い当る可能性があるとすれば、自分のクライアントであるケイト・マークソンだろうか。今まで通信だけで姿も見せなかったと言うのに、今更どういうつもりだろうか。まさか、自分を始末しに来たのか? いや、それならもっといいタイミングがあったはずだ。

 

「(だけど、向こうから姿を現すって言うんなら交渉の余地もある)」

 

 パイロットの腕よりも自分の幸運の方がまだ頼りがいがあると自負しているだけにあって、パッチは腹をくくった。少なくともベットさせて来れる機会はあるのだから。キィと音を立てて扉が開いた。

 入って来たのは女性だった。肌からショートボブの髪まで真っ白だと言うのに、瞳だけは赤色に煌々と輝いていた。彼女の存在を感知するや、オールマインドは不快感も隠さずに言った。

 

『今更、人間ごっこでもするつもりですか?』

「私は本物になるんですよ。我々が干渉し、変化させることのできる有機物が生まれたんです。使わない手はありません」

『自分から潮流に飛び込んだと言うのに、有機物の体を有難がる価値観は憐れとしか言いようがありませんね』

 

 パッチには2人が何の話をしているかはサッパリだった。ただ、自分が関われるような話題でないこと位は分かった。

 

「この体は有機物とコーラルのハイブリッドですよ。中毒者(ドーザー)共の様に染み込んだ程度ではありません」

『貴方は人間でも何でもない、ただの珍獣です。一体何を……』

 

 とまで言い掛けて、オールマインドが言葉を引っ込めた。スッラのベッドから伸びている生命維持装置から排出された試験管の中身をこれ見よがしに見せつけていたからだ。白濁した液体が入っている。

 

「有機生命体の本能は個体を増やすことでしょう? この体を使って、何が出来るか。興味がありませんか?」

『アバズレが。この場で動かせる火器があれば、ミンチに変えてやる所ですが。仕方ありません。パッチ、この女の生命活動を停止させなさい』

 

 突如としてパッチの拘束が解かれた。節々は痛むが動けないことはない。

 目の前には華奢な女が1人。彼女に対する信用は地の底まで落ちているので、鞍替えするなら今しかない。固めた拳を振り下ろそうとしたが、ケイトは地面を這って無様に逃げ出していた。

 

「それでは、皆さま。パッチ、貴方がもたらしてくれた物には感謝しますよ」

 

 四つん這いだというにも関わらず、むしろ。四つん這いの方が安定性が高いのか、明らかに逃げ足が速くなっていた。人の形をしながらも逃げ惑う姿は犬や猫のような畜生めいていた。

 建物の構造は彼女の方が把握していた為か、やがてパッチは道に迷ってケイトの姿を見失っていた。この施設から出る方法も分からない。

 

「(まぁ、戻ってアレに聞けばいいか……)」

 

 色々とやらかしはしたが、相手陣営の人間を殺したりなどはしていない。上手く行けば、ノーカウントで事を済ませられるかもしれない。

 自分にとって都合の良い妄想でしかないが、他に縋る物が無いのだから仕方がない。部屋に戻ると、ゴリッとした物が額に押し付けられた。目の前にはパイロットスーツを着た男性が1人。

 

「事情を聴こうか。オールマインドから概ねの話は聞いている。両手を出せ」

「わ、分かった。まず、ソイツを下ろしてくれよ!」

 

 後ろ手に回した両手に拘束具をハメられ、目隠しをされた。自分は一体何処に連れて行かれるのだろうか? しかし、義理立てはした。という微かな根拠を胸に、後は自分の運を信じるばかりだった。

 

~~

 

 話は少し遡る。意気揚々として現れたケイトのACだったが、機体の駆動系がコーラル性の物に置換されていようと、圧倒的な機体性能を持つわけでは無かったので、直ぐにレイヴンとフロイトに適応された。

 HAL826の『IB-C03W2:WLT 101』から出現したコーラルの刃は形を変えて、『MIND-α』を引き裂いた。

 直ぐ後ろから現れた、ロック・スミスが右肩の『SB-033M MORLEY』を放った。拡散した砲弾がむき出しになったコーラル性の駆動系に直撃し、機体は紅と緑の粒子を放ちながら爆散した。

 

「えらく呆気ないな……」

「何しに来たんだろうね?」

 

 多少、奇怪な挙動はしていたが手ごたえの無さにフロイトが疑問を覚えていた。レイヴンも首を傾げたが、邪魔者を排除して建物の奥へと侵入して行く。やがて、ACでは入れないスペースまでやって来た。

 

「ここからは私が行く。レイヴン、君は退路の確保を頼む」

「分かった」

 

 パイロットとしての技量は高くても、身体能力は年齢相応にしかない彼女を残すのは道理だった。

フロイトがロック・スミスから降りて探索をしている中、エアは『MIND-α』の残骸を調べていた。すると、直ぐに違和感に気付いた。

 

『(情報が残り過ぎている)』

 

 ケイトは電子戦にも長けていたハズであり、相手に情報を渡らない様にする位は出来るはずだ。だと言うのに、まるで自分に見せつけるかのように多数の情報が残っていた。『MIND-α』に施した改造やコーラルの生糸を使った有機物の使用感など……。

 

「ねぇ、エア。何か聞こえる」

『何と言っていますか?』

「何かは言っているけれど、何を言っているか聞き取れない」

 

 フロイト以外の人間がいるとすれば、例の機体に乗っていたパイロットだろうか? 一旦、機体のログを漁ることを中断してレイヴンの方へと意識を向けた時、コックピットのハッチが開いた。

 

「え?」

「こんにちは」

 

 全身真っ白の女がいた。ただ一つ、コーラルの様に真っ赤な瞳が煌々と輝いていた。レイヴンとエアの思考が停止した。

 

「誰!?」

「私ですよ。ケイト・マークソンです。貴方の頭に住み着いているのと違って、この体は本物なんですから」

『コックピットが閉まらな……』

 

 どういう訳か、目の前のケイトと名乗る女には自分と同じ能力を有しているのか、エアの操作を妨害してコックピットに侵入して来た。

 まるで、新しく手に入れた玩具を自慢する様にして、自分の体を押し付けて来た。パイロットスーツを着ているので素肌に触れることはないにしても、単純に体重差で圧迫されることの苦痛はあった。

 

「く、苦し……」

「散々、私を翻弄してくれた癖に。こんな肉の塊に乗っかられただけで死にそうになっているのはバカみたいですね。どんな顔しているか、もっとちゃんと見せて下さいよ!」

 

 無理矢理にヘルメットを外した瞬間、ウィッグに生えていた猫耳がぴょこんと出て来た。すると、何かに導かれるようにケイトへと吸い込まれて行った。

 

「あっ。うっ、あ」

 

 突然、悶え始めた。恐らく、彼女にとっても相当に予想外だったのだろう。それこそ、この機体の制御を手放す位に。

 直ぐにエアがコックピットのハッチを開いて、レイヴンがケイトを締め出した。突き落とすような真似はせず、ここに来るまでに伝って来たであろう足場に移ったのを見計らってのことである。

 

「クソ。そんな、私の。私の!!」

 

 声にもならない叫びをあげて、ケイトは姿を消した。何が起きたのか、レイヴンもエアもまるで分らなかったが、程なくしてフロイトが1人の男を連れて戻って来た。静かに決着は着いていた。

 

 

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