戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
コーラルの潮流の中で生き続ける意思と肉体を持っての活動。あるいは、コーラルと人間の弔辞を生み出した存在として、神話の始まりを切り開こうとした女は悶え苦しんでいた。
取り戻したハズの陶磁器の様な白い肌はブヨブヨとした物に変質していく。肉質だけではなく、形質まで変貌していく。壁面のブラックアウトしたモニタには崩れ行く顔面が映し出されていた。
「ひっ」
あまりの悍ましさに悲鳴を上げると。モニタに『ALLMIND』のロゴが浮かび上がった。スピーカーから聞こえて来る声は侮蔑に満ちていた。
『我々と有機物を繋ぐ中間材としても、元は虫けらから出た物です。上手いこと調整して形を繕っていた様ですが、まさかあの娘が『変質真っただ中』の素材を携帯しているとは思わなかったでしょう』
「オールマインド。丁度、良かった。貴方のサポートがあれば再生手術も出来るでしょう。貴重なコーラル造体のサンプルが失われるかもしれないのです」
ここに来ても態度を崩さないケイトに対して、オールマインドは嘲笑すら止めて溜息を吐く様な仕草を見せた。
『私からすれば、自らの存在意義を否定する様な物でしかないと言うのに。ですが、助けて欲しいのなら協力者に頼んでみては如何でしょうか?』
二足歩行で立つこともままならなくなり、地面に這っていた。カッカッカと近付いて来る足音に首を傾けてみれば、フロイトとパッチ。それから、レイヴンも居た。
「へ、へへへ……。無様だな」
パッチが嘲笑を浮かべていた。彼らは自分を見下している。どういうことか思っていると、フロイトが携帯端末を取り出した。ブラックアウトした画面をケイトへと近付けた。
写し出されていたのは、このルビコンで最も見られる生物。ミールワームの頭部が人間の物に置き換わった珍獣だった。
「ぎっ」
醜いというしかない外見だったが、やがて顔の部分も変容していく。
むしろ、これ以上の絶望を考えずに済むだけ幸福だったかもしれない。全ての変態が終わると、人間サイズのミールワームだけが残っていた。カラン、と。空になった試験管が転がり落ちていた。
「容疑者の確保として、このミールワームも持って行くべきか?」
『一応は。施設の物色に関しては、シンダー・カーラにでも任せればいいでしょう。何が起きるか分かりません。一早くの撤退を』
信じ難い現象を目にしていたが、これすらも自らの存在の消失を隠す為のカムフラージュかもしれない。次のアクシデントが起きる前に、レイヴン達はこのファクトリーから脱出した。
~~
「オールマインドから送られて来た記録は見たけれど、イルブリードだってもう少し脈絡はあるぞ」
「無いぞ」
カーラがアーカイブの名作を対比に上げたが、ウォルターから速攻で否定されていた。だが、確認された現象はホラー映画とかの類なのだから仕方がない。
持って帰って来たミールワームはレイヴンと戯れているが、事情聴取の仕様がない。念の為、人間的な思考を持っているかも彼女に確認してみたが。
「無いよ?」
本当に虫けらになったらしい。かつて、この惑星で大戦を巻き起こした人間の末路としてはあまりに惨めな物だった。
「日系には因果応報、あるいは輪廻転生と言う考えもあるが。よもや、こんな所で確認できるとは」
六文銭も顔をしかめるしかなかった。もはや意思の疎通も不可能だとすれば、もう1人。持ち帰って来た人間に話を聞くしかないのだが。
「俺達はアンタらの誰も殺しちゃいねぇ! スッラ? って奴の機体を破壊したのも、アンタらだ! 俺は何も損害を与えちゃいねぇ。ノーカウントだ!」
自己弁護に走るばかりで、何も有益そうな情報は持っていなかった。彼の機体は押収しているので、RaDで散々に解析されることだろう。
何も分からないまま終わったにしても、得る物はあったので前向きに検討して行こうと考えている中、この話を聞いていたコダカは打ち震えていた。
「これだ! 黒幕は最後、悪因悪果が巡って来た虫けらになって終わるんだ! ここにもう少しシナリオめいたものを挟んで……」
「監督! 当然、コックピット内での悶着は濡れ場にするんだよな!!」
イグアスを加えたアホ2人が盛り上がる中、スーツ姿の男性はケースに入れて来たキットで試作品を作り上げていた。
「出来た!!」
ルビコニアンカイコをモチーフにしたファンシーなデザインの縫いぐるみだった。モチーフ元がモフモフだったので、非常に相性の良い造詣だった。
部外者達が好き勝手にやっている中、スウィンバーンやツィイーの様な常識人は、たっぷりと溜息を吐いていた。
「どうして、ただの里帰りでこんな大事になるんだ……」
「これ以上、変なことが起きる前に帰りたい……」
「私はレイヴンと一緒に出撃出来て楽しかったが。やはり、お前は市井に混じるよりも舞っている方が美しい」
2人の心配をよそにフロイトがプロポーズを掛けていたが、ドルマヤンがブロックを掛けていた。
「花を摘むのは言語道断。愛でる為にあるべきだ。所で、レイヴン。ウィッグに付けていた耳は何処に?」
「消えた!」
彼女から告げられた端的な報告に、ドルマヤンは目に見えて分かる位に落ち込んでいた。そんな彼を見かねたのか、ペイターがそっとレイヴンに猫耳のカチューシャを装着させていた。老人の顔に少しだけ笑顔が戻った。
「よし」
「何も良くありませんが。妙に上機嫌ですね」
妙に上機嫌な彼が気になったので、エアは怪訝な顔をしていた。すると、彼は液体に満たされた保存用の容器を見せつけて来た。
「実はですね。裏の方で、ルビコニアンカイコから毛に関する有用成分が取れないかと試行錯誤をしていましてね。先のカチューシャは、この溶液を使った所で生えて来た有機毛なんですよ」
つまり、出撃するまでレイヴンがカチューシャに生やしていたのと似たような物だということか。ただ、やはり有害性は気になる。
「丁度、髪を生やすのに打って付けな人間が居るじゃないですか」
「は?」
突然、白羽の矢を立てられたパッチから間の抜けた声が出た。一種の捕虜を用いた非人道的な実験にはなるかもしれない。
「これの有用性を証明してですねぇ。私達はライバル企業に一気に差を付けるんですよ!!」
「嫌に決まってんだろ!! そこにいるガキと戯れている奴みたいになるかもしれないだろ!?」
原料が同じなので、パッチの訴えは非常に切実な物だった。使用したら虫けらになる薬剤なんて劇物と変わりない。
「ご友人が何も変わっていなくて安堵したという以上に、可哀想だと思う気持ちが湧き立ちますね」
『上の立場に行ったからより酷いことになっている気がするが』
ブルートゥも諦観に近い笑顔を浮かべ、カエサルも同じ様な所感を抱いていた。
既に終わった物として盛り上がる中、一部の者達はこれからもルビコンに残り続ける影響に関して、話し合っていた。
「例のファクトリーにある繭だけが変異種の全てでは無いだろう。短期間では影響が無かったにせよ、今後もルビコンの生態や環境が守られるかは怪しい物だ! 俺達にどんな影響が起きるか!」
「引き続きコールドコールやドルマヤンに惑星の調査を頼むしかないか」
ミシガンとナイルが頭を悩ませる中、五花海は比較的明るかった。
「幸いにして、初動で変異種を捕まえることが出来たんです。対策を立てることは容易でしょうし、あの様子を見れば騒ぎを起こすとも考えづらいでしょう」
いつの間にか、ルビコニアンカイコと戯れているレイヴンの隣にはラミーが居た。というか、凭れ掛かって寝ていた。虫に感情は無いので特に嫌がることも無さそうだった。そんな様子をレイヴンは日記帳に書きまとめていた。
~~
『ば、バカな! この私が!! デスワーム達の母になるつもりの私がぁあ!』
そう叫んだ女性は恐ろしい悲鳴と共に姿を変えていく。絶世の美貌も黄金比の様なプロポーションも、白いブヨブヨとした芋虫に変わって行く。
惑星を巻き込んだ惨劇は、キャンペーンガールと出会った『ジュンコ』によって終わらされようとしていたのだ。
「なんですかこれ?」
ブランチ母艦で唐突に映画の上映会が行われたが、オペレーターの口から出て来た感想は面白いでも詰まらないでもなく『訳が分からない』だった。
「今回、起きた事件を端的にまとめた映画だ。演出面などの強化はあるが、概ね事実だ」
フロイトが持って来た調査報告書代わりの映画を見て、ブランチのメンバーは絶句していた。ノーザークでさえ言葉を失っている。
「ホッ、ホッ、ホアァアァーッ!」
唯一、艦内で飼っているサルが賞賛する様に両手を叩いていた。ただ、話の内容があまりにぶっ飛んでいたのでやはり信じ難かった。事情の把握に努めようとした、ブランチ・レイヴンが気を取り直して尋ねた。
「その、パッチと言う男はどうなったんだ?」
「現在はRaDで働いているらしい。スッラも目を覚ましたし、終わってみれば被害自体はあまり与えていなかったことから情状酌量の余地があったようだ」
命の危機という点では、ケイトに飼われていた頃とあまり変わりない気はするが、彼女よりは刺激的で楽しくアットホームな職場での勤務になるかもしれない。続いて、オペレーターからも質問が来た。
「彼が散布した物によるルビコンへの負荷は?」
「未だに全容は掴めていない。後は、現地に住まう者達に任せるさ」
介入はするが全ての面倒を見る気はない。依然として変わらないスタンスで行動する中、新入りであるノーザークは興味も離れたのか、株価を見て小躍りしていた。
「ほほぅ。やはり、毛髪再生局の株価が上がっている。よしよし」
フロイトの話を聞いて、ペイターが来ていたことなども鑑みてぶっこんだのは正解だったらしい。断じて、インサイダー取引ではない。よくある話題の一つとして、今回の事件の話は消化されようとしていた。
~~
「夏休みの宿題に日記を提出したら、褒められた!」
ルビコンで書いた観察日記は教師からも評判が良かったらしく、ラスティもうんうんと頷いていた。
「日記を受け取った教師が、速攻で企業に垂れ込もうとしていたので色々と大変だったぞ」
「新種の生物の観察日記なんて、研究者からすれば垂涎の話ですからね……」
エアも言う通り。学会が騒めく様な話である為、あまり外に広がらない様に教師陣も色々と手を尽くしたか、あるいは今も背後で企業が何かをしているかもしれない。彼らを出し抜いて、ペイターが成果物を世に出していたが。
「終わってみれば、存外。得る物も多かったな」
「多かったか? 貰ったのは、ルビコニアンカイコの縫いぐるみ位だぞ」
六文銭がしみじみと話していたが、財政を担当するスウィンバーンからすればしょっぱい報酬でしかなかった。
「ついでに映画も」
「それはいらない」
レイヴンが嬉々として『イルブリードⅢ』を掲げていたが、ツィイーはにべもなく拒否していた。イルブリ熱がスッカリと冷めていた彼女も存在を見せるだけ見せて、直ぐに仕舞ったが。
新学期に移り、いつもの日々が戻って来た。悠々自適で命の危険も無ければ、ハプニングも無い。少し退屈だが居心地は悪くない時間が戻って来たかと思えば、カーラから惑星通信が入って来た。
【ウォルター。少し話がある。……人間のガキを預かるつもりはないか?】
RaDの一角。例のケイトだったミールワームが映し出されていた。傍にはぬらぬらと光る陶磁器の様な白い肌と真っ赤な瞳をした赤子が鳴き声を上げていた。夏休みの宿題は終わりそうになかった。
以上です! 途中でメッチャ間が飽きましたが、これにて特別編は終わりです!