戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
LC High Maneuver型。上級尉官の執行機として配備されるだけのことはあり、通常のLCにミサイルランチャーを搭載したフライトユニットを装着し、機動性と攻撃力の両面での強化が施されていた。
「ぐぅ!?」
撃墜を免れる為に咄嗟にリペアキットを使ったが、今のが最後だった。
ペイターとて惑星封鎖機構に対する策を講じてなかった訳ではない。故に、道中のLCの動きを誘導したり、追い込んだりということも出来ていたのが、目の前のHM型はワケが違った。
「LC達の動きをよく研究しているが、それだけだ」
3点バーストで発射されたライフル弾を回避した先には、ミサイルが回り込んでいた。パルスバックラーを展開して防いだ後の僅かな隙に合わせるようにして、グレネードランチャーが放たれた。
「この、デュアルネイチャーが……!」
ペイターの機体は高速戦闘の為に軽量装甲の物を使っている。
一瞬で肉薄して、相手に大打撃を与えるという戦法上、多少の攻撃を物ともしない重装甲の相手や自らを上回る機動力を持つ相手は不得手だった。
HM型は正に後者であり、決してパルスブレードの射程範囲で戦おうとしない。牽制の為にパルスガンを放とうと、シールドに吸い込まれるばかりだった。
「(どうすれば良い?)」
地上部ではレイヴンがカタフラクトを相手取り、ラスティもHCと熾烈な空中戦を繰り広げている。自分に足りない決定打を他者に求めることは出来ない。追いすがろうとしても、嘲笑う様にして引き剥がされるばかりだ。
「(ターミナルアーマーを使っての不意打ち? いや、意味がない)」
耐久力が尽きても一度だけ再起動して、暫くの間はすさまじい防御力を得られるが、発動したが最後。距離を取られ、効果が切れた瞬間に再び攻撃を加えられるだけだろう。
思考を巡らせている間にも間断なく攻撃が続く。このままでは撃墜されるのも時間の問題だろう。では、この状況を打破する画期的なアイデアがあるかと言われればNOだった。
「(あの乞食達の群れに突っ込んでの攪乱。いや、追い付かれて落とされるだけだ。逃げきれない)」
持ち前の分析力は、自らの敗北という未来を弾き出すだけだった。リペアキットも底を尽き、勝負という行方においては足掻きようがないとすれば、彼の出来ることは一つだけだった。
「落ちろ」
「ま、待った! 降伏する! 私の命だけは助けてくれ!」
命乞い。プライドも何もかもを投げ捨てる行為だったが、生き残るためならどんな方法でも問わないというのは、彼の強かさの表れでもあった。
「お前の提案を飲むメリットがない」
「話は最後まで聞いてくれ。私はレイヴンの仲間なんだ。惑星封鎖機構にとっても奴は目障りだろう?」
レイヴンの名に特務中尉は反応した。技術力で劣るACで幾度も惑星封鎖機構に辛酸を舐めさせてきた相手であり、このルビコンに企業を呼び込んだ災厄。現状、最もルビコンで警戒すべき個人であった。
「それがどうした?」
「私が奴を騙し討ちしよう。今、奴は地上でカタフラクトと戦っている。見た限り、レイヴンの方が優勢だ。そこで、私は彼女に助力を求めて飛びつくフリをして拘束する。その隙に貴殿が奴を倒すという話でどうだ?」
もしも、この交渉が他のAC乗りを倒す為に持ちかけた交渉であったのなら、この場で撃ち落とされていただろう。
だが、相手がレイヴンであること。そして、ここまで戦力差のあるペイターであれば、どうにでも始末できるという余裕から、彼はこの提案を呑み込んだ。
「良いだろう。やれ」
「わ、分かった! そちらに着く暁には私にもLCを……」
「早くしろ!!」
特務中尉に急かされて、ペイターは地上部で戦っているレイヴンへと向かってブーストを吹かしていた。その背後では、HM型がバーストライフルを構えていた。
「レイヴンごとぶち抜いてやる」
~~
「クソ! クソ!! クソ!!!」
カタフラクトを駆る特務少尉は苛立ちを露わにしていた。大量の火器による弾幕を張り続けているのに、レイヴンはまるで泳ぐようにして避けて行く。
それ所か、MT部分を覆っている前面装甲まで接近して蹴り上げて来る始末だ。全武装の射角に潜り込んで来て攻撃するなど、正気の沙汰ではない。
「キャハハハハ!!」
オープンチャンネルでは耳障りな笑い声が発せられていた。対峙している相手が人間や機体を超えた怪物であるような気がした。
沸き上がった不安を焼き払う様にして、レーザーを放とうとした時。降下して来た機体がレイヴンに組みついた。
「れ、レイヴン! 助けてくれ! 私では手には負えない!」
「うわわ」
『デュアルネイチャー!? 何をしているんですか! 邪魔です!!』
相当に混乱しているのか、機体制御もままならない有様だった。降って来た幸運に、特務少尉は飛びついた。
「ハハハ! あの時は、幸運に味方されたようだが! 今度は私の番だな!」
4基のガトリングから大量の銃弾が吐き出され、32連装のミサイルが吹き上がり、9門のレーザーが2機を焼き切らんと照射される。
この一斉射撃を食らえば、タンク型ACは疎か4脚型の重MTでも一溜りもないだろう。目の前まで迫りくる勝利という甘美を予感して、喜色を満面に浮かべていた特務少尉であったが、一瞬で表情が切り替わった。
「は?」
バーストライフルを構えながら急降下して来たHM型が射線に割って入って来た。バカな、アラートは出なかったのか。こちらの状況を見ていなかったのか。
特務中尉を非難する言葉は翻って自分の失態を正当化する為の言い訳でしかなく、HM型も急いでシールドを展開していたが間に合わない。
惑星封鎖機構が誇る最強の地上兵器は、その攻撃力を遺憾なく発揮した。多種多様の弾丸をぶち込まれたHM型は地面に激突する直前に何かを射出した後、爆発を引き起こしていた。
「嘘だ」
少尉の思考が凍り付く。事故とは言え上官を撃ったショックが大きすぎた。歯の根が噛み合わず、目尻には涙が浮かんでいた。だが、泣きっ面に追撃を入れるのは蜂(ヴェスパー)が得意とすることだった。
「動きが止まっているぞ!」
接近を許してしまったデュアルネイチャーのパルスブレードがMTを覆う装甲を切り裂いた。彼の背後に控えていた、レイヴンが丸裸になったMTに照準を付けた。
「じゃあね」
引き金が引かれる一瞬、きっと幸運の女神もこういう風に笑っているのだろうと思いながら、生存本能だけで微かに動いた指が脱出レバーを引いていた。
~~
「おや、君には随分優秀な部下が付いている様だ」
「馬鹿共が!!!」
特務上尉は地上で起きたコメディの顛末に対して悪態を吐いていた。
余裕を見せて、油断していた中尉は言わずもがな。カタフラクトと言う兵器をロクに活かさない所か、フレンドリファイヤを引き起こした少尉に対しては無尽蔵とも言えるほどの怒りが沸き上がっていた。
「どうする? 逃げ帰らなくて良いのか?」
「ほざけ!!」
上尉に任されるだけにあり、彼はラスティの愛機であるスティールヘイズが既に限界間際だということを見抜いていた。
両肩のパルスキャノンがスティールヘイズの右腕と両足を破壊し、頭部を吹き飛ばした。それでも怒りが収まらないのか、胴体を寸断しようとパルスブレードを展開して肉薄して来た所、デュアルネイチャーが割り込んで来た。
「うぉおおおお!!」
フレームの殆どが軋んでいた中で発動させたターミナルアーマーはHCのパルスブレードを弾いた。その一瞬の隙を狙って、両手に重ショットガンを構えたレイヴンが肉薄する。
「チィッ!!」
「うっ!?」
一撃はパルスシールドで防ぎ、もう一方の重ショットガンは蹴り上げて弾き飛ばした。だが、片腕だけ残っていたスティールヘイズがブーストを吹かして、中空を舞う彼女の得物をキャッチした。
「外しはしない……!」
引き金を引く。半壊していた左腕が堪え切れずに吹き飛んだ。放たれた散弾は展開し終えたパルスシールドを擦り抜け、HCの装甲を食い破った。
「こ、コード78E……送信……」
『78Eを承認。IA-02の起動を許可します』
撃破された他の者達よりも、コックピットと思しき場所が高く吐き出された。そして、彼女らのオープンチャンネルには無機質な通達音が響いていた。
『レイヴン! 地中から来ます!!』
カタフラクトが巻き起こした地響きとは比べ物にならない程の巨大な振動が訪れた。雪原を食い破りながら、宇宙港の建物を薙倒しながら何かが暴れ狂っている。
「これも、封鎖機構の兵器なのか!?」
「ラスティさん!」
『レイヴン! 高所へと避難しましょう!』
「うん!」
ペイターが武装を全てパージして、大破したスティールヘイズを抱えて上昇し、レイヴンも同じ様に高台へと避難した。
地上部で暴れ狂っている物を観察する。全身に装甲を装着させた巨大なミミズ。そう形容する外ない、滅茶苦茶な兵器だった。
『……待って下さい、レイヴン! もう一つ、反応があります!』
「え?」
先に引き続き、再び地響きが起きた。まさか、もう1機。あの怪物がいるのか。誰もが戦慄した時、地上部に現れた物の正体は。
「ミ”ィイイイイイイ”イ”!!!」
「……は?」
ペイターとラスティは呆気に取られていた。もう1機、先程の兵器が現れたという方がまだ理解できたかもしれない。だが、彼らの前に現れたのは理解を超えた存在だった。
「あー! あの時の!」
AC数機分の体高はあるだろう、先程の機械ミミズと比肩する程に巨大なミールワームだった。
1匹と1機は激しくぶつかり合っていたが、機械ミミズは堅牢さを武器に頭突きで相手を抉っていた。周囲に削り取られた肉片や体液が降り注ぐ。
「ミ”ィ”ィ”ィ”!!」
対するミールワームは全身を青色に発光させたかと思えば、口吻から赤色のビームを照射していた。機械ミミズの装甲は殆どを弾いていたが、流れ弾が周囲の建物やドックに被弾して破壊をばら撒いていた。
「何が起きている!?」
「私だって知りたいですよ!!」
通信越しにウォルターの困惑した様子が伝わって来る。現場にいるペイター達はもっと混乱していた。一体何が起きているのかと。
「戦友、あの時の。と言っていたが、何か知っているのか?」
「うん。アレね。ツィイーちゃんが捨てた奴」
『確かに。胴体の焼け焦げた部分は、あの時に被弾した箇所の名残だとは思いますが』
だとしたら、どうしてこんな所にいるのか。そして、どうしてここまで肥大化したのか? 彼女らの疑問を置き去りに1機が突如として戦いを止め、去って行くのを追いかけるようにして巨大ミールワームも去って行った。
暫く、呆然としていたが落ち着きを取り戻したのか。再びウォルターから通信が入って来た。
「惑星封鎖機構が技研の遺産を抱えていたことも驚いたが、それ以上にあんな怪物がいるとは思わなかった」
「大きくなったね!」
「……621、ペイター。戻って休め。俺はアイツらを始末する算段を立てる」
辛うじて取り戻した落ち着きでウォルターは彼らに告げた。誰もが肩の力を抜く中、レイヴンだけは先程の交戦跡に近付いていた。
『レイヴン? 一体何を?』
「うめっ、うめっ」
ACから降りた彼女は撒き散らされたミールワームの体液に浸って悦に入っていた。何もかもが正気を削って行く光景だと、ボロボロのデュアルネイチャーの内部でペイターは溜め息をついていた。