戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
グリッド012。汚染地域として隔離された場所であり、本来ならば来訪者などいる訳もなく。とすれば、根城にしている人間は狂人と言う外なかった。何せ、いるだけで命が削られるような場所なのだから。
「始めるよ。ビジター! 案内は私に任せな」
「アハハハ。なんか、ここ気分が良い!」
『工業的な物だけではなく、コーラルによる汚染も含まれています。コックピットにいるとは言え、常人ならば気分も悪くなるはずなのですが』
特に問題は無さそうだった。そもそも通常と異常の境目が極めて曖昧な少女であるので、判断も付け難いのだが。
カーラ達の拠点であるグリッド086とは違い、足場と言える構造物が各所に点在しているだけで、施設内の移動も難しい。この場所が建造途中で廃棄されたのか、あるいは破損したまま放置されているのかは定かではないが、廃墟と呼んでも差支えは無かった。そんな場所でノイズ交じりのスピーカーから男性の声が聞こえてきた。
「ようこそ。ビジター! この様な僻地に足を運んで頂けるなんて、感激だ」
「こんにちは! お邪魔します!」
「えぇ、いらっしゃい。私達一同、貴方をご歓迎します」
こんな廃墟に相応しくない恭しい出迎えであったが、資金や資源を持ち逃げされたカーラにとっては慇懃無礼な挑発にしか聞こえなかった。
「ブルートゥ。アンタが盗んだ物、返して貰いに来たよ」
「おや? カーラのご友人でしたか」
2人の会話を他所にレイヴンは足場を飛び移って行く。降下している最中、特攻兵器が猛スピードで突っ込んできたが撃墜することも無く、相手の照準を誘導して同士討ちをする様に仕向けながら避けていた。
「うん。カーラは私のお友達なの。それから、ラミーとチャティも! 後、えぇっと。ノーザークとも」
「素晴らしい! RaDの皆との友人であるのなら、私とも友人であるということです。素敵だ…」
『ノーザークの名前を出す時だけえらく時間が掛かりましたね』
多分、友人の中でも優先度は低いのだろうと納得した。言葉の歓迎とは裏腹に、4脚型のMTが彼女の機体を感知し、右手に装着したノコギリを押し当てようと、あるいはグレネードを放つがまるで当たらない。
設置された殺意の奔流に悠々と身を泳がせ、まるでサッカーボールの様にMT達を蹴り飛ばし、建造物から叩き落しながら次の足場へと飛び移って行く。
「放っておきな。……って、言いたいんだが」
「そうなの? 私、もうあなたとお友達なの?」
「勿論ですよ、ご友人。さぁ、楽しい時を過ごしましょう」
「うん! そっちに行くね!」
会話が成立しないまま成立している矛盾を聞かされている者達は、自らに備わっているロジックを揺るがされていた。
レイヴンの作戦記録や通話ログは一通り目を通していたエアであったが、実は自分が知らない間に交流があったのではないかという疑問が浮かんだ
『レイヴン。念の為に聞きますが、ブルートゥとは初対面。ですよね?』
「うん。でも、ブルートゥとは友達なの」
「この際、無理やり黙らせるよりぶつけた方が笑えるかもしれないね」
もはや、ここまで来ると怖いもの見たさだった。今更、凡百のMTや通常兵器が相手になる訳もなく、引き金を引くことも無く蹴り飛ばされた者達は壁に激突するか、あるいは建造物から叩き落されて行く。
「まるで舞踏会だ。貴方を彩るには、彼らでは少し物足りないですね」
縦横無尽に張り巡らされたセンサーに引っ掛かり、次々と4脚MTが起動し、積載された武器を放つがどれもこれもまるで当たらない。
そんな中、レイヴンは踊る様に動いていた。傍で見ているエアは直ぐに理解した。これは戦ってなどいない。
『遊んでいる』
遊技場に招かれた子供の様に、全力でアトラクションを堪能している。
時には機体を蹴り飛ばして別の機体に激突させたり、あるいは重MTと交戦しつつ誘導して建造物から突き落としたりと。無邪気に奔放に脅威を排除し続ける姿を観察していたのか、スピーカーから流れて来る声は歓喜に満ちていた。
「素敵だ。貴方の喜び、笑顔、笑い声、飛び散る唾液、流れる汗、臭い立つ香り。何もかもが伝わって来る。ミルクトゥースも悦んでいます…」
「アハハハ!」
笑いっぱなしのレイヴンとは別に、エアは不思議な感覚に陥っていた。
彼女は実体を持たない。触感などある筈もないというのに、ブルートゥの声色は全身を舐め上げて来るようだった。
「可愛い我が子がスクラップになっていくのも見るに堪えないが、男の矯声を聞き続けるっていうのも耐え難いモンだね」
『同感です』
会話こそ出来ない物の、カーラの意見にエアは深く頷いていた。このブル-トゥと言う男の興奮ぶりは尋常ではない。声は上擦っており、言葉の折に聞こえる息遣いから、相手がどういった状態でいるのかが想像に容易かった。
「本当に素敵だ。ですが、一つだけ心配があります。私は貴方をガッカリさせてしまわないか。この場に満ちる歓喜が、私のせいで損なわれてしまうのは、とても心苦しい」
『レイヴン。G5の粗暴な言動やV.Ⅱの無礼には何も思わないのに、彼の言葉には途轍も無い程の不快感を抱きます』
咲き誇っている白百合に唾液を垂らされ、手垢を付けられている様な。
丁寧な言葉遣いという薄皮の下に見える汚濁は、エアを甚く不愉快にさせた。レイヴンにも同じだけの怒りや不快感を期待していたのだが。
「変なこと言うのね。一緒に居て楽しいから友人なの。知らなかった?」
「あぁ…。お会いするのが楽しみです…」
初めて恋心を自覚した乙女の様に、スピーカーから流れて来る声は恍惚に染め上がっていた。
『レイヴン。貴方は変質者に好かれる特性を持っているんですか?』
「エアも変質者なの?」
揚げ足を取られた様な気がして、自らの発言を恥じようとした所で、ふと思い浮かんだのはV.Ⅷやノーザークの顔だった。
『いいえ、私は別です』
アレに比べたら、可愛い物だ。しかし、そんな対比を使った納得をしている時点で、性根が彼らに近付いていることはエアも気付いていなかった。
パルスバリアの発生装置を破壊して、屋内らしき場所に突入するころ。スピーカーから聞こえて来る息遣いに言葉が乗せられた。
「スロー…スロー…。クイック、クイック…」
『このリズム。レイヴンに合わせている?』
社交ダンスにも使われるテンポの取り方であり、丁度レイヴンが待ち伏せをしていたMTを落とすリズムに合わせている様だった。
「スロー」
壁に這っていたMTにドロップキックを食らわせた。逆関節という構造から力を得た蹴りは、それ自体が既に武器の一つだ。
「スロー」
その隙に電撃を放った者もいたが、レイヴンは残骸を拾い上げてぶつけた。スクラップは数を増やして地に落ちた。
「クイック」
今度はレイヴンが口ずさんだ。テンポの取り方は分かったらしく、呼吸に合わせて、機体の姿勢制御を用いて放った回し蹴りが天井に張り付いていたMTを埋め込んだ。
「クイック」
動きはそれだけで止まらない。地上にいたMTから放たれたミサイルをヒラリと避けて、着地がてらにブーストを吹かして勢いを付けた後、踏み抜いた。
配備されていたMTを尽く撃破した先。これ以上の下層が見当たらない建造物が佇んでいた。
「ビジター。ここから飛び降りた先にアイツがいる」
「うん。行って来まーす!」
油断するな。とか、掛け値なしのクズ野郎だとか。色々な言葉が思い浮かんだが、こんなにも楽しそうな娘に掛ける言葉なんて、カーラは一つしか思い浮かばなかった。
「行ってらっしゃい」
飛び降りた先に広がっていたのは、巨大な格納庫だった。その正面に1機。待ちきれずに恭しくお辞儀の挙動を取っている機体があった。
「いらっしゃいませ、ご友人。お迎えに上がりました」
「お待たせ!」
不意打ちもしなければ、迎撃の為に戦力を並べているということもない。馬鹿正直に待ち構えている様子は、正に誠実(オーネスト)と言えた。
「カーラ、貴方はいつも私に新しい出会いをくれる。素敵だ。そして、私は新しいご友人のことをもっと知りたい!」
作業用の機体を改修した物なのか。手にしていた物は巨大な回転刃(グラインドブレード)と火炎放射器(フレイムスロワー)と言う、工具の面影を残した物であったが、彼はそれらを捨て去った。両肩に積載していた武装も脱ぎ捨てた。
『え?』
示し合わせた様に、レイヴンも重ショットガンを床に置き、両肩の積載武器をパージした。2機とも素手で接近していく。異様と言うしかない光景に、この場からはじき出されカーラはポツリと呟いた。
「笑えるかどうかは兎も角。見ているだけで、頭が変になりそうだ。コーラルを吸っている奴はこんな感覚なのかね」
流石に1人で見るには腹がいっぱいになり過ぎる為、カーラはこの映像をグリッド086内で流し始めた。間もなくして、コーラル中毒者の活気に満ちた狂笑が巻き起こることとなる。