戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「これより会議を行います。捕虜となったV.Ⅶ隊長についてです」
アーキバス社。ルビコンに進出している企業の一つで、この場に集まっている者達は、企業お抱えの強化人間部隊『ヴェスパー』の隊長達である。司会進行を務めているのは、No.2のスネイルだ。
議題に上がったV.Ⅶ隊長のスウィンバーンは、調査拠点である『壁』の護衛任務に就いていたが、突如としてやって来たレイヴンを始め、ショットガンを携えたベイラムMT部隊に壊滅させられ虜囚となっていた。
「私は、スウィンバーンさんの奪還は諦めるべきだと思います」
真っ先に意見を呈したのは、ヴェスパー部隊で最年少の隊長。V.Ⅷのペイターだった。若輩でありながら、先達を切り捨てろ。と言わんばかりの意見に少なからずの動揺が走った。
「その考えに至った意見を述べなさい」
「現状は惑星封鎖機構に睨まれ、ベイラムが信じられない位に強くなっています。今、弱みを見せれば付けこまれる可能性もあります。それならば、アーキバスグループの人材層の厚さを見せて、我社の威光を見せましょう」
「人材層の厚さ。とは言いますが、スウィンバーンの代わりにアテがあるのですか? 彼は会計責任者だったのですよ?」
人事も兼任しているスネイルには幾らか心当たりはあった物の、意見を切り出したペイターの考えを聞くべく、続きを促した。すると、自信に満ちた答えが返って来た。
「この私です。副官として、幾度かスウィンバーンさんと仕事を共にしました。ある程度は部隊の出納も把握しています。どうでしょうか? 私をV.Ⅶ隊長として取り扱ってみる気はありませんか?」
切り捨てるように提案した挙句、空いた席に収まろうとする図々しさと共感性の無さは、強化人間になった弊害。という訳ではなく、素の人格の問題だった。
「待ちなよ、ペイター君。切り捨てるばかりが威勢の示し方ではないはずだ」
そんな彼を嗜めるように発せられた声色は穏やかな物だった。V.V隊長ホーキンス。部隊内では人格者として多くの者達から慕われている。
「ホーキンスさん。では、奪還を?」
「条件次第だよ。そもそも、スウィンバーン君は今どこにいるんだい? やはり、ベイラムに?」
「そう思って問いましたが、どうやらレイヴンが持って帰ったそうです」
「ほぅ、戦友が!」
喜色に富んだ声を発したのはV.Ⅳ隊長であるラスティだ。共に『壁越え』を為したこともあり、このアーキバスグループでは最もレイヴンと懇意な人物と言っても良いだろう。
「何故、レイヴンが?」
V.Ⅵ隊長であり紅一点であるメーテルリンクの疑問は最もだ。まさか、個人で身代金を取ろうとでもしているのだろうか。
「理由はない。らしい」
「閣下。どういうことですか?」
「あのコーラルヤク中にロジックを求めるのは無駄と言う物です。ベイラムも機嫌を損ねたくないから、持って帰らせたのでしょう」
アーキバスグループからもベイラムグループからもコーラルヤク中であると同時に、アホみたいに強い独立傭兵として知られている。その為、しばしば企業からも忖度される。何せ、行動原理が本当に読めない。
「ラスティ君。彼女の機嫌を取る方法は、僕達の中じゃ君が一番詳しい筈だ。何か手はあるかい?」
「そうだな。戦友はミールワームが大好物だ。コーラルを塗って食べるのが生き甲斐だと言っていた。詰め合わせでも送れば、快く返して貰えるかもしれない」
「ハハハ、ラスティさん。まさか、スウィンバーンさんの価値がミールワーム並だと言うんですか」
「何匹分だろうな」
本人が居ない所で好き勝手に言われていることから、隊内での評価が透けて見えた。ホーキンスが苦笑する中、スネイルは溜め息をついた。
「何をバカなことを言っているのですか。奴の背後にはハンドラー・ウォルターが居るのですよ」
如何に本人がアホだとしても、バックに優秀なブレインが付いているなら話も変わって来る。それにスウィンバーンは会計責任者であり、部隊内の出納にも詳しいなら資金の流れから社内の動きを察せられる可能性もある。
「そうだった。奴には優秀な飼い主が付いているんでした! クッ! スウィンバーンさんはもう!!」
「ペイター君、勝手に殺しちゃ駄目だよ。スネイル、スウィンバーン君に取り付けている装置から向こうの様子を傍受することは出来ないのかい?」
「今、アクセスしているのだが。妨害を受けているのか中々表示が出来なくてな」
モニタには砂嵐が走るばかりで映像は映らない。と思われていたが、徐々に晴れて行き音声が先んじて聞こえて来た。
「うわぁあああああ! 何をする! このバカ女! 止めろ!!」
砂嵐が晴れると、そこにはバナナ程の体躯を持つミールワームの尻を咥えているアホが映し出されていた。
ルビコンを舞う戦場の鴉(レイヴン)としての威厳は微塵も見当たらず、コーラルを塗り付けられた影響からかミールワームは青色に輝きながらも蠢いていた。
「コーラル。Oh、コーラル。コーラルと共にあれ」
「くっさ!!」
尻から呼気を送り込むと、ミールワームの口から赤色っぽい吐息が吐き出された。甚く不愉快なのかスウィンバーンの表情が苦悶に歪んだ。そんな様子を真顔で眺めている初老の男性に対して、抗議の声を上げた。
「き、貴様! コイツの飼い主だろう! 指導はどうなっている!」
「これでもマシになっているんだ。さて、映像の方は見えているか?」
画面越しに問いかけられている。ということは、映像は敢えて見せられているということだろう。問題は見せられている光景に危機感もクソも感じられないということだが。
「何が望みですか?」
「身代金の請求だ。あの時、621がこの男を持ち帰らねば、ベイラムで尋問か拷問を受けていただろう。それに比べれば、ここで行われていること位。大したことではないはずだ」
コーラル吐息を浴びせるのに飽きたのか、621はスウィンバーンの顔にミールワームを這わせていた。確かに拷問と言うには余りにもショボく、その様子を見ているペイターとラスティは爆笑していた。
「いいでしょう。保護代と思えば、安い物です」
スネイルとウォルターの交渉が進められていく背後では、悲鳴と笑い声が響いていた。温和で人格者であるはずのホーキンスでさえ小さく笑っていた。
話自体は法外と言うこともなく、互いに納得できる領分で収まって行く中。最後にウォルターはチラリと621の方を見た。
「お前も何か欲しい物はあるか?」
「コーラル! コーラル! 後、ワーム!」
「良いでしょう」
機体や開発に使う訳でもない、個人が求めるコーラルの量やミールワームの代金など企業から見れば端金も良い所だったので、直ぐに許可が下りた。その反応を見てか621は無邪気に喜んでいた
「おじさん。また、来てね」
「二度と来るか!!」
そう言って息巻くスウィンバーンの顔面に追加でミールワームを乗せた。悲鳴が木霊した。