戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】   作:ゼフィガルド

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今回はかなり独自の解釈多め。


依頼20件目:ウォルター「嫌な予感がする」

「C3-291のバイタルはどうだ?」

「身体面は問題ない。ただ、精神面が破綻している」

 

 男はどうして自分がここに居るかを覚えていなかった。

 度重なる投薬で記憶は漂白され、実験という名の苦痛に耐え続けるだけの日々。同じ境遇にいる者達が次々と発狂するか廃人となって行く中、彼だけは生き延びていた。生きるに足り得るだけの理由が自分の中にあったのだ。

 

「ご友人、貴方には名前が無いのですね。産まれたばかりですからね。では、これからはこの世界を噛み締めて行きましょう。貴方の乳歯(ミルクトゥース)で」

 

 隔離された部屋で延々と虚空に物語っている様子を見ていた、男達は淡々と手続きを行っていた。不気味に思ったりする様子も無いのは、この施設がそう言った場所だからだ。

 

「引き取り先は、ケイト・マークソンか。独立傭兵がなんでこんな物を」

「買い手の付かない在庫処分の手間が省ける」

 

 輸出されるC3-291を見る視線には同情も憐憫も無い。運ばれた先で何が起きるかは、彼らが気にすることでは無かった。

 

 

「良いのか? 奴を逃がして」

 

 グリッド086付近。赤と黒が絡み合ったカラーリングが施されたAC『エンタングル』を駆る独立傭兵スッラは、雇い主に問うた。彼の実力を持ってすれば、逃走者の排除は不可能では無かったが止められていた。

 

「構いません、独立傭兵スッラ。元より、彼は制動できる存在ではありませんから。この付近ならば、RaD。いえ、シンダー・カーラに拾われることでしょう。帰投してください」

 

 スッラが追撃を止め引き返す一方、いつ誘爆するかも分からないACを乗り捨てたC3-291は只管に走っていた。交戦で負った傷がズキズキと痛むが、彼は生きることを決して諦めてはいなかった。

 騒ぎを聞いて駆け付けた作業用MTが駆けつけ、頭領であるシンダー・カーラは傷だらけの男に問うた。

 

「アンタ。名前は?」

「名前、ですか。C3-……」

 

 呼称されていた名義はあるが、それは決して名前とは言えない物だ。

 自らの中にある声に耳を傾ける。何かを喋ったりはしないが、意思があることは確かだった。絶望と苦痛の中から救い上げてくれた存在に対して、彼は何時でも誠実に生きて来た。決して、友人である彼を一人きりにさせまいと。

 

「いえ、私は誠実(オーネスト)なだけの獣(ブルートゥ)です」

 

 実験体でしかなかった自分は人間未満の存在ではあるが、誠実に生きて来たつもりだった。この回答が甚く気に入られたのか、彼はグリッド086。即ち、RaDに迎え入れられることになった。

 MTを使ってのグリッド086内での作業に関して、彼は他のドーザー達とは頭一つ抜けた働きぶりを見せていた。元より強化人間であった為、機体を乗りこなす素養は飛びぬけていた。

 

「オーネストォ! ここも頼むぞ!」

「はい! ただいま!」

 

 彼の誠実で柔和な人柄は人望を集め、カーラ達からの信頼も得ていた。実際、彼の働きぶりは専用のACを組んで貰えるほどだった。

 

「いや、ここに来る丁寧な奴なんて、ウチに隠れ住んでいるアイツみたいな詐欺師ばかりだと思っていたよ」

「そう言う方もいるのでしょう。カーラ、私を拾ってくれた貴方には感謝しています。そして、数々のご友人に出会わせてくれたことも」

「よしなよ。こそばゆい」

 

 ブルートゥはここでの生活に満足していた。日々を充足させてくれる仕事に加えて、コーラル中毒者の数々。この状況は、友人にとって非常に心地が良いものだったらしい。

 

「そうですね。これだけ気持ちが良いと、踊りたくもなります」

 

 言葉を交わさずとも、どういった状況にあるかを把握することは容易かった。実態のない友人に差し出す様に、ブルートゥは虚空に手を差し伸べた。

 

「スロー、スロー…。クイック、クイック。スロー」

 

 1人、リズムを刻む。記憶を失い、友人と出会う前の自分が何をしていたのかは覚えていない。ただ、今があれば良いと思っていた。

 ……そんな彼の決意が翻ったのは、ある日のことである。神妙な面持ちのカーラに呼び出されたブルートゥは、彼女から図面を渡された。

 

「これは一体?」

「オーバードレールキャノン。コイツはとある用事に使って貰う物だ。極秘裏での開発だから、出来るだけ少人数で行いたい。だから、アンタを呼んだ」

「どうして秘密にするのですか?」

「とある場所を守っている化け物を退治するためさ。コーラル集積地点。あそこに用事があるんでね」

「ドーザーの皆さんに振舞う為ですか?」

 

 コーラルの使い道は幾らでもある。カーラが欲しがるのも不思議では無かった為、ブルートゥとしてはジョークがてらに投げた質問だったが、彼女はいつもの様に笑いはしなかった。

 

「……いや、逆さ。コーラルはこの世界に必要ない。と、私は考えている」

 

 激しい胸騒ぎが起きた。彼女は何をするつもりなのか。何を企んでいるというのか。ただ、彼女が自らの意思を遂行すればよくない何かが起きる。そう、確信を抱いたブルートゥはいつもの様に笑顔を浮かべながら頷いた。

 

「分かりました。どんな理由があれ、私はカーラの。ご友人の力になりますよ」

「そうかい。じゃあ、早速。作業の方に……」

 

 そうして、彼は開発の手伝いを始めた。カーラの為ではなく、自らの中に在る友人の為に。……完成も近づいて来た頃、RaDから大量の資金と資源。そして、オーバードレールキャノンがブルートゥによって持ち出されていた。

 

~~

 

「やれー! やっちまえー! レイヴン! 裏切者のクソ野郎をやっちまえ!」

 

 カーラがグリッド086と通信を繋げたことにより、無責任な野次が大量に飛んでくるようになった。コーラルでパチパチ弾けた脳みそに殴り合いなんて興行が染み渡らないはずもなく。

 

「ミルクトゥースも喜んでいます! 貴方の声が心地良いと! 新しいご友人が来たと!!」

 

 土建向けのアセンブルを組まれていることもあって、ブルートゥのACの剛性は極めて高く、生半可な攻撃を食らっても姿勢制御が保たれていた。

 

「その子! なんて名前!?」

「ミルクトゥース! 貴方の方は!?」

「エア!! エアって言うの!」

『……まさか、彼は』

 

 エアは道中で感じていた不快感の正体を知った。ブルートゥはレイヴンだけではなく、自分にも語り掛けていたのだ。

 

「素晴らしいです! 今日は新しいご友人と出会い!こうして、共に踊れるのですから!」

 

 レイヴンも負けじと機体の質量を乗せたドロップキックを放ち、ミルクトゥースを蹴り飛ばしていた。吹き飛んだ先の格納庫の天井には、件の作成途中であるオーバードレールキャノンが吊り下げられていた。

 

「でも! カーラの物! 返して貰うよ!」

「親元を離れたレールキャノンも啼いています…。ですが、カーラにも知って欲しい。友人が離れて行く哀しみを…」

『まるで意味が分かりません』

 

 自らの声が聞こえると分かってから、エアの言動はさらに遠慮のない物になっていた。殴り合いが続き、両者の腕パーツが拉げマニピュレーターも使い物にならなくなった頃、やっと勝負が着いた。と、誰もが思っていた。

 

「心行くまで交流を堪能できました…。最後にお願いがあります」

「なに?」

「踊りませんか?」

 

 マニピュレーターが損傷しているので当然、武器は握れない。となれば、ここでいう所の踊りと言うのは、戦いを比喩する言葉では無く。

 2機は互いに近付くと、お互いの背中に腕を回してヨロヨロと拙いステップを踏んでいた。珍妙と言うしかない光景だが、コーラル酔いしている連中には丁度良い見世物だった。

 

「スロー、スロー…」

「クイック、クイック」

『何故、踊っているんですか?』

 

 先程まで、排除の為に殴り合っていたのではないのか。踊りと言えるかどうかも怪しい動きではあったが、当事者同士で通じる者はあったのか。2機は何時の間にか戦いを止めて、吊り下げられているレールキャノンを見上げていた。

 

「ご友人。これが必要なのですね? ですが、ミルクトゥースは怯えています」

「必要なの。ね、カーラ?」

「そうだね。そして、この依頼はウチを裏切ったソイツの排除でもある」

 

 どういう形であれ、組織に楯突いた者を生かし続けるということは沽券に関わって来ることだ。ケジメは必要だった。……が。

 

「え? ブルートゥは私の友人だから、そんなことしないよ?」

「まぁ、そう言うだろうと思っていたよ。その場合は、依頼不履行として報酬は減額させて貰うよ」

『レイヴン。ウォルターから通信が入って来ています』

 

 カーラの動きは速かった。同時に資金の動きから、何をするかを察したウォルターから重々しい様子で通信が入って来た。

 

「621。今回の依頼における報酬が引かれている。まさか、また何かを拾ってくるつもりじゃないだろうな?」

「拾ったりはしないよ。一緒に帰るだけだから。それでね、ウォルター! 私、新しい友人が出来たの!」

「もういい。とりあえず帰投しろ」

『そこは飼い主として突っぱねましょうよ』

 

 ただでさえ気の重そうな声は消え入り掛けていた。もはや、調教師ではなく監視員と言う名称の方が似合ってそうな気がする中、彼の苦労も知らない2人は大して損傷していないブーストを吹かしながら言った。

 

「それじゃあ、一緒に帰ろ」

「えぇ。共に帰る。素敵なことです」

『ウォルターに同情します』

 

 この中で、レイヴン達が帰投した時のウォルターの心境を労わっているのは、エアただ一人だけだった。

 

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