戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「レイヴン。丁度、ランチタイムだ。一緒に食事はどうだ?」
ペイターが手にしているのはレーションだった。ウォルターが経費を詰めた為、中身はパッサパッサの物ばかりで、食味はまるで期待できない。
地味ながら強化人間の身体強化によって嚥下能力も強化されており、彼はコレらを水分も取らずに唾液だけで飲み込むことが出来る。ただ、作業の様に流し込むのは苦痛であることに変わりなく、誰かとのコミュニケーションというおかずは欠かせなかった。
「申し訳ありません。ご友人とは、先に私が食事をする約束をしておりまして」
ここでディフェンスを決めたのは、先日加入したばかりのブルートゥだ。彼の手には、ビクビクと動くミールワームが握られていた。
コーラルによって肥大化した体長はバナナ程の大きさとなっており、脂分を始めとした栄養分は申し分ない。ただ、味は脂っこく、見た目がグロテスクな為、星外ボーイであるペイターの口にはまるで合わなかった。
「そんな栄養バランスも考えていない物ばかりを食わせていたら、レイヴンが肥え太ってしまう。体型を維持しつつ、戦闘における活力を得る為にもレーションの方が適しているのは言うまでもありません。自分が好かれることにしか興味がないとは。これだから、享楽主義のドーザー上がりは」
「悲しい話です。ご友人を戦う為のコマとしか見ていないとは。私は彼女と日常を歩みたい。傍に居たい。だから、彼女の日常を寄り添いたいのです。アーキバスの指導には、友人との付き合い方という項目は無かったのですね」
バチバチとレイヴンを巡って火花を散らしている二人に興味がないのか、彼女はフラフラとこの場を去って行った。
彼女が向かった先の会議室には、ウォルターとナイルが話し合っており、1317が情報をまとめていた。3人は直ぐに621に気付いた。
「どうした?」
「ご飯。持って来た」
丁度、この場にいる人数分のレーションを用意しており、彼女にしては考えられない気遣いであった。何処となく視線が泳いでいる所を見るに、ウォルターは直ぐに察した。
「621。ブルートゥを連れて来たことを気にしているのか?」
「うん」
「気にするな。本当に無理な場合は、追い出している。受け入れると決めた以上は、俺の決定でもある。だから、気に病む必要はない」
彼の言葉を聞いて、621はパァっと笑顔を浮かべた。普段は恍惚としていたり、ロンパリ気味に視線を彷徨わせている彼女にしては、これまた珍しく少女らしい。と言える物だった。
全員が卓に座り、ボソボソしたレーションをちょっとずつ齧りながら、会議を続けていた。
「例の兵器の完成にはまだ時間が掛かるのだろう? アーキバスもベイラムも停戦協定を敷いている。互いに出し抜こうと考えるほど、愚かでもあるまい」
未だに返還交渉が実施されないナイルとしても、ベイラムがそこまで愚かではないとは信じたかった。
「暫くは、小康状態か。解放戦線も攻撃を仕掛けるほど間抜けでもあるまい」
解放戦線としては、アーキバス、ベイラム、惑星封鎖機構といがみ合って互いに消耗する展開を期待していたのだろうが、現状は思ったほどではない。
惑星封鎖機構ばかりが消耗しており、何ならアーキバスとベイラムは消耗に対するリターンを得ている始末だった。ウォルターとしても、この状況はあまり好ましい物ではなかった。
「例の化け物達を処理したとして。順当に行けば、アーキバスがコーラル競争を制するでしょうね」
1317の言う通り。多少はドーザーを始めとした与太者達に回収されているにせよ、惑星封鎖機構の技術や機体の多くはアーキバスが鹵獲している。
一方で、ベイラムも制圧や撃破は出来ても機体や技術を物にするまでは行っていなかった。これには歴とした理由がある。
「強化人間。か」
ナイルが知る限りでは、ベイラムにも居ないことはないが数は少ない。基本的には訓練を積んだ一般兵士が主力であるからだ。
物量で制圧すると言う社是もあり、1人辺りに掛けるコストは抑え、代わりに練度の低い兵士でも扱える武器や機体の開発。という方針に舵を切っていたのだが、ここに来て裏目に出ていた。
「そうだ。強化人間は、機種転換に殆どコストが掛からない。621が機体のアセンブルを刷新しても直ぐに乗りこなせるのは、そのおかげだ」
621の方を見た後、何かを思い出しそうになったのか。ウォルターは少しだけ目を逸らした。
通常、機種転換というのにはコストも時間も掛かる。フレームやパーツを変更すれば挙動は著しく変わり、思い通りに動かすこともままならなくなる。武装も使い慣れていない物では、満足に取り扱うことも出来ない。
「そのおかげで、アーキバスの連中は鹵獲した我々のLCやMTの運用も出来るという訳ですね」
技術体系の違う機体を、然程の時間も掛けずに使えると言うのは驚異的という外なかった。奪い取った力を直ぐに転換できるなら、どちらの伸び代があるかは言うまでもない。
「むしろ、それでも拮抗しているウチのグループが凄いと言うべきか。レイヴンが有用性を示した、重ショットガンの影響も大きいが」
『SG-027 ZIMMERMAN』。通称、重ショットガン。レイヴンの得物であり、ベイラムのMTを始めとして多くの機体に配備されている。
近距離での破壊力と衝撃力の大きさ、面攻撃による命中力。直撃すれば、重量二脚やタンク型でもない限り、制御不能(スタッガー)状態へと陥り、更に攻撃を叩きこまれるという凶悪とも言える拘束力を有している。ベイラムが開発した傑作とも言える武器だった。
「ヴォルタの奴も愛用していたな」
戦場から身を引いた部下のことを思い出しながら、ナイルは部下がどの様に惑星封鎖機構に立ち向かったかという資料映像に目を通していた。
場所は『壁』。ここを占拠していた解放戦線は追い出されたらしく、LCやMTが警備に当たっている中、隊列を組んで行進して来る機体群があった。先頭にはG6レッドの『ハーミット』とG5イグアスの『ヘッドブリンガー』が並んでいた。
「構ェ!」
レッドの掛け声に応じる形で、全員が物理シールドを構えた。丁度、お互いを庇い合う様にして展開して、隙間からは重ショットガンの銃身が覗いていた。
「ファランクスなんて。連中、何考えて」
「撃てぇ!!」
遥か古来。銃火器など存在しない時代にも使われた陣形を使うのは、時代錯誤も甚だしい。筈なのだが、配備されていた惑星封鎖機構の機体達は蹴散らされて行く。
相手の攻撃をシールドで防ぎながら、重ショットガンの弾幕を張り巡らせるという馬鹿みたいに単純な戦法だった。単純だからこそ付け入る隙も少なく、ベイラムの社是を体現したような戦い方だった。
「侵入者確……なんだ、この数!?」
「撃てぇ!!」
レッドの号令に合わせて重ショットガンが火を噴く。殺意の幕を叩きつけられた、LC達は地に落ちる外なかった。ゾロゾロと建物内に機体が入って行き……暫くすると、破壊されたLCや新型HCが運び出されていた。
「皆! 壁は我々の物となった!! ヴォルタ先輩も浮かばれることだろう!」
「勝手に殺すんじゃねぇ!?」
レッドが皆を鼓舞するが、そもそもヴォルタは死んでいない。律儀にイグアスがツッコミを入れていたが、皆の喝采を浴びているレッドの耳には届いてなさそうだった。
「ミシガンなら。この光景に苦言を呈するだろうな」
作業をとにかく簡易化させることによって、兵士の育成コストは大幅に削減することは出来るだろう。ただし、彼らには殆どパイロットとしての技量は備わっていない。ウォルターは、自分が知っている友人ならこの様な教導はしないだろうと思っていた。
「思ったよりも。ベイラムでのアイツの立場が悪くなっているのかもしれんな。あるいは……」
映像は続いていた。レッドが勝利の余韻を煽る様にして喧々囂々と捲し立て、最後にはこう付け加えていた。
「我々はレイヴンと同じ剣を持っている! ならば、どんな障害でも切り裂いて行けるはずだ! 我々も続こう!」
兵士達が息巻いた所で映像は終わる。かと思われたが、最後に撮影者と思しき者の声が聞こえて来た。
「彼女を帥父の様な存在にしようとは、吐き気がする」
「あ。フレディ!」
この場において、撮影者の声に心当たりがあるのは621位だった。撮影者が知り合いだったことに喜んでいる彼女とは裏腹に、ナイルは頭を抱えていた。
「ベイラムはいつから宗教に傾倒し始めたんだ?」
「不利を悟った者達がイコンを求める。よくある話だ」
誰かを通して奇跡を求めているのだろう。レイヴンは、その象徴とも言えた。
こうした現状整理に勤めている中、一つの通信が入って来た。アーキバスやベイラムではない。先の壁における作戦を記録していた物が所属する組織、ルビコン解放戦線からである。
「独立傭兵レイヴン。聞こえるか? アーシルだ」
「聞こえ、ゲホッ」
普段、食べ慣れていないレーションを詰まらせたのか咽ていた。それが、落ち着くのを待ってから通信が再開された。
「すまない、食事中だったか」
「ヘーキヘーキ」
「そう言って貰えると助かる。依頼がある。君は、多重ダムの一件を覚えているだろうか? 攻めて来たレッドガン部隊を撃破してくれた件だ」
「アレか」
ウォルターも憶えているが、まさか口論から同士討ちが始まるとは思っても居なかった件である。イグアスとの殴り合いから始まり、ヴォルタも巻き込んでの大喧嘩はレイヴンの一人勝ちで終わった。
組織の思惑で動いた訳ではなく、こんなバカな理由で同士討ちを始めたイグアスに謹慎処分が言い渡された結果、ヴォルタは1人で壁越えに参加させられる羽目になった訳だが。
「アーキバスは少し余裕が出て来たらしい。惑星封鎖機構に対する備えと並行して、ベイラムの手が及んでいない場所への支配を強めて来た。奴らは、ここを攻める為にアリーナのランカー上位2名を派遣して来た」
画面は『キング』と『シャルトルーズ』という2人の名前と、2機のACが映し出されていた。
『レイヴン。キングはランキング3位。シャルトルーズは5位と、かなりの強者です。ルビコン解放戦線に向ける戦力としては過剰です』
エアの見立ては尤もだ。ルビコン解放戦線に所属するパイロットはいずれも低ランクであり、唯一ドルマヤンが4位にいるが、他の者達はランキング2桁ばかり。費用対効果は見合っていないように思えた。
「恐らく、アーキバスは我々がレイヴンに打診することも含めて、この2名を派遣して来たのだろう。彼らの策謀に乗ってしまう形にはなるが、応じてくれるか?」
仮にレイヴンが来なかったとしても多重ダムは手に入り、もしも、やってきた場合は処分……ではなく、捕まえてアーキバスで再教育する腹積もりなのだろう。
解放戦線に与するメリットは少なく、力を温存する場合は依頼を受諾しなければ良い話なのだが。
「ウォルター」
621はウォルターのことを見据えていた。普段はホイホイ言うことを聞く彼女ではあるが、ワームポイ捨ての件や洋上都市での件もあって、解放戦線に属する人々への思い入れは強かった。
「……アーキバスに過剰に力を持たれても困る。依頼を受諾しろ。それと」
「それと?」
「そろそろ、ここをホテル代わりにしている奴らも働かせる。ナイル、指揮はお前に任せる」
「了解した」
壁での1件以来、遂に出撃の機会がやって来た。ベイラム、アーキバス、ドーザー、傭兵。一足先に勢力の垣根を超えた奇妙なチームが組まれる事となった。
『凄まじく不安です』
「楽しい遠足の始まりだ!!!」
エアの不安を他所に、621は張り切っていた。