戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「レイヴウウウウウン!!」
「ノーザーァアアク!!」
互いに誰のことを指しているのかも分からないまま、戦いは続いていた。
パイルバンカーの一撃が閃き、621の重ショットガンが後方に弾き飛ばされた。と同時に、彼女もその場で機体の反転制御を一瞬で行い、サマーソルトキックを放ってレイヴンのパイルバンカーを後方へと蹴り飛ばした。
「チッ!」
『レイヴン! 後方へと取りに戻るのは危険です! あのパイルバンカーを取りに行って下さい!』
「レイヴン! 反転動作を行うよりも前面に跳んだ方が早いです! 姿勢制御はお願いします!」
背中を見せるのは危険。と、両者は瞬時に判断して前面へと飛び出した。
621の手にはパイルバンカーが、レイヴンの両手には重ショットガンが握られた。お互いの得物を手にしている姿は『レイヴン』という名前が辿っている数奇な経緯を表している様でもあった。
『レイヴン! 行って!』
「レイヴン! 来ます!」
先に動いたのは621だった。パイルバンカーをキャッチすると同時に直ぐに反転してアサルトブーストを吹かした。少しでも遅れれば、重ショットガンが自分をハチの巣にすることを理解していたからだ。
一方、レイヴンは手にした重ショットガンを突き出しながら、アサルトブーストを吹かしていた。加速による威力の向上と、近距離における破壊力を十分に理解した上での加速だった。
「金返せ!!!!!」
先に攻撃態勢に移ったのはレイヴンだった。加速を乗せた散弾は標的物を食い散らそうと、621に猛接近する。機体を傾け回避しようとしたが、背部武装とパイルバンカーを握っていない腕に命中して千切れ飛んだ。
「返さないよ!!」
残された腕で繰り出したパイルバンカーの一撃は重ショットガンを正面から叩き潰し、顔面と両腕のパーツが後方へと吹き飛んだ。必殺の一撃が交差した所で、互いの機体に溜まったダメージから煙が噴き出していた。
「『脱出を!』」
両パイロットとも判断は速く、機体から緊急脱出してから数秒後。2つの爆発が巻き起こった。直ぐに両陣営の者達が駆け寄って行く。
「レイヴン! 大丈夫!?」
「問題はない」
「損傷はアンバーオックスとナイトフォールの2機。キングは継戦可能ですね」
特段頭を打った様子なども無ければ、意識もはっきりしている。機体を失ったが、作業用フレームは修繕をするとしても買い直すとしも安上がりで済む。パイロットが無事であるなら、損耗は軽微と言えた。
「ご友人!」
「私、ノーザークじゃない……」
『あの傭兵はどうして、ノーザークの名前を……』
一方、621の方も怪我は無かったが資金的な損耗は遥かに上だった。また、買い直すことを考えれば、今回の依頼料も吹き飛ぶだろうと考えた。
これだけ大規模な戦闘があったにも関わらず、誰一人として死んでいないのは奇跡的とも言えた。しかし、7機も投入された戦場で残ったACは1機のみ。
「つまり、お前達の生殺与奪は俺が握っているってことだ」
アスタークラウンは手持ち武器の残弾数こそは少ないが、稼働状態にある。やろうと思えば、彼は621達を全滅させることも出来ると言うことだ。
緊張が走る。621が打ち負かされると言うのは、初めて経験することであり咄嗟の対応も分からぬ中、真っ先に口を開いたのはペイター……ではなく、ナイルだった。
「お前達の依頼はダムの襲撃だろう? 俺達を殺すことも内容に入っているのか?」
「入ってはいない。……が、追加で一つ注文が入っている。レイヴンを名乗る独立傭兵を捕獲して来いと言う物だ」
勿論、これは彼らの仲間であるレイヴンを指しているのではなく、621のことを指している。やはり、アーキバスとしても彼女の存在は手中に収めたいらしい。
「それなら私も同行しよう。なにせ、私はV.Ⅷのペイターだからな」
自身の生存可能性を見出した瞬間、口が回る彼のバイタリティにおおよその者達が顔をしかめた所で、キングが続けた。
「レイヴンと行動を共にしているペイターは偽物だと通達を受けているのだが」
「ふ、ふざけるな! 私は本物のペイターだ!!」
道理で、アーキバス社からの依頼であるにも関わらずペイターの存在が不審がられなかった訳だ。何せ、彼は偽物と言うことになっていたのだから。
「もう一人のレイヴン。貴方が投降すると言うのなら、他の3人は見逃しましょう。どうしますか?」
「行くー!」
「投降しなければ……え?」
オペレーターが選択を迫るよりも先に、621は返事をしていた。即答は彼女のモットーである。
「ご友人! 私達の為に……」
「スウィンバーンとラスティ―もいるし!」
『いや、単純に自分が行きたいだけかと』
戦友呼びして来るだけにラスティ―とは懇意であるらしいが、スウィンバーンのことも気に行っていたらしい。
通信先のオペレーターが溜息を吐き、暫し迷っている様子を見せたが、平静を取り繕って言葉を発した。
「ある種、自由とはそういうことなのかもしれませんね」
運命に囚われず、自由という概念にも囚われず。風の吹くまま漂う姿は鴉(レイヴン)と呼ぶにふさわしいのかもしれない。
「本当にコイツを回収するのか?」
「いいえ、資質を問うただけです。そもそも、彼女がアーキバスに行ってしまえば、表に立つレイヴンが居なくなってしまいます」
自分の存在を秘匿する為に、態々ライセンスを貸与する芝居を打ったのだから、ここで引き渡してしまえば何の意味も無くなってしまう。
「つまり、俺達は見逃して貰えるということか?」
「えぇ。そして、引き続き表立って貰います。このダムも頂きません」
依頼をして来たアーキバスへの不義理となるが、それだけ自分達へ期待を掛けているということの表れでもあるのだろう。シャルトルーズとレイヴンを乗せて、キング達は去って行く。
「またねー!」
「……何処かで会うかもな」
「その翼。もう少しだけ貸しておきます。だから、あまりトンチキなことはしないで下さいね」
そして、彼らは去って行き多重ダムは静寂に包まれた。依頼は達成したが、結果を見れば全機体が撃破されると言う敗北と何ら変わりない状況であった。
『本物のレイヴンはあそこまで強いのですね』
エアも俄かに信じがたかった。惑星封鎖機構の兵器ですら撃破できなかった、621と相打ちにまで持ち込む相手など、今まで見たことも無かったのだから。こうして、全員が生還できていることは奇跡にも近かった。
「お前ら! 生きているか!?」
先に撃破されていたインデックス・ダナムが車輪と履帯を併用しているハーフトラックで迎えに来てくれた。一度、撃破されながらも迎えに戻って来る所に、彼の人柄と義理堅さが見えた。
「あぁ。一応、任務は成功だ」
実態は程遠かったが、恵まれたとはいえ任務が成功になったことには変わりない。ナイルは大きく溜息を吐きながら、胸ポケットに収めていた葉巻を咥えた。
~~
「そうか。そんなことがあったのか」
帰還した一同は、顛末をウォルターに説明した。惑星封鎖機構と相対しており621と比肩するパイロットを有している傭兵組織ともなれば、今後も関わって来る存在かもしれない。
だが、問題がある。今回の戦闘で全員の機体が大破した件についてだ。アイスワームへの対策も完成に近づいてきている中、使える機体が無いという状況は避けたかった。
「ご友人。いかがいたしますか?」
「修理費を稼がなければならない。予備のフレームは1機だけしかないからな」
「俺は暫く良い。コイツらの指揮は疲れる」
指揮を放棄した結果、彼は1機でランキング3位を抑え込まされる羽目になっただけに、暫く戦場は避けたい様だった。
「ですが、ウォルター。仕事はあるのですか?」
ペイターの疑問は尤もで、今はアーキバスとベイラムは休戦中であり、依頼にも事欠く様子だった。先の多重ダム防衛も任務としてはかなり特殊だった。
「実は、アーキバスから1件。依頼が来ている」
ウォルターがブリーフィング画面を開いた。今回は珍しくスネイルからでもラスティからでも無かった。
「独立傭兵レイヴン。アーキバス社系列グループシュナイダーからの依頼だ。先日のウォッチポイント・デルタの襲撃以来、各所でコーラルが湧出するようになっている。これを持ち帰り解析に当てたいのだが、各地で輸送の妨害が起きている」
声は非常に気怠そうにしていた。そして、任務の内容もまた不可解な物であった。コーラルを破壊するメリットがある組織など思い浮かばない。
「この声は、V.Ⅲオキーフさんの物ですね。普段は表に出てこないハズなんですが……」
「今回は輸送の護衛に当たって欲しい。同時に、一連の襲撃者の確保、あるいは撃破を頼みたい。任務には俺も出向く。以上だ」
と、通信が切れた。全員が頭を悩ましていた。コーラルを破壊して得をする者達と言うのが思い浮かばなかったからだ。
「食えない粥には土を入れてしまえ。という常用句もありますが。ご友人同士になった企業としてもやらないことではありますよね?」
「そうだな。襲撃者が気になる。621、依頼を受けるか?」
「うん!」
資金難に陥った状況では有難い任務ではあったが、襲撃者の思惑が分からない所に一同は不安を禁じ得なかった。
『ブランチの様な惑星封鎖機構に対するカウンター。という訳でもないでしょうし、一体誰が……』
「予備機を動かす為にアリーナしているねー」
エアやウォルターが襲撃者を推測している中、レイヴンは予備機を馴らす為にフレームのデータを入れてのシミュレーターをしに行った。無機質なシステム音が響く。
『ようこそ、アリーナへ。『ALL MIND』は全ての傭兵を歓迎いたします』