戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
惑星封鎖機構。あらゆる惑星の統括と管理を行っている組織であるが全容を知っている者はいない。
企業を上回る技術力と資源を何処から調達しているのか。誰が組織の方針を決めているか等、末端構成員であるS-1317には知る術もなかった。知る必要もないと考えていた。
「S-1317。貴方がルビコン3に派遣されることが決まりました。全ての惑星に秩序と平和を」
無機質なシステム音声が告げる。ルビコン3。新資源であるコーラルが発見され、採掘と調査が行われていたが『アイビスの火』という周辺星系を巻き込む大災害を引き起こした。故に、惑星の管理は至急の課題であった。
「これだけの災禍を引き起こしたというのに、懲りない企業どもめ! やはり、我々が導かねばならない!」
作戦に参加する者達に共通して見られたのは、この期に及んでコーラルを求める者達への侮蔑と嘲笑。そして、彼らから秩序を守り通すということに対する士気の高さだった。
彼らに便乗する一方、S-1317は何処か空虚な物も感じていた。守り通した秩序を誰が享受しているのか、守れた人間は誰だったのか。
「(俺の守りたい物は)」
~~
「もう駄目だ! このままでは撃破される! 準備は不十分だが、燃料の輸送の開始を……」
「させんよ」
スッラの放ったバズーカが直撃し、輸送機が爆散すると同時に積み込もうとしていたタンクにも誘爆した。コーラル粒子に引火し、パイロットは脱出する間もなく紅蓮の爆発に吞み込まれた。レイヴンが叫ぶ。
「そんなの捨てて、早く逃げて!」
「い、嫌だ! 任務に失敗したら使って貰えなくなる……。クビにされたら、生きていけなくなる!!」
彼女が普段交流している強化人間達と違って、輸送機のパイロットは替えの利く存在。彼らが使命を遂行せんとするのは忠誠心からではなく、文字通り命が掛かっているからだった。
「見上げた愛社精神だ」
「やめろ!」
『レイヴン。ミサイル防衛ミッションの時よりも、スッラ機の機動力が上がっています』
レイヴンは鬼気迫る勢いでスッラに接近するが、彼女の闘志を嘲笑う様にして軽くいなすだけだった。そして、放たれた砲弾は、また1機。コーラル粒子によって引き起こされた爆発の中に呑み込まれて行く。
「痛ぅ……」
『レイヴン?』
尋常ではない様子だった。殆ど、攻撃されていないにも関わらずバイタルが乱高下している。こんな異常はエアでさえ見たことがない。
戦場においても笑いながら待っている彼女に、一体何が起きているのか? そんな、彼女の疑問に応える様に返事があった。
『彼女には多くの声が聞こえているのですよ。エア』
一瞬、エアは己の正気を疑った。だが、波長は疑う必要もない程の確信があった。自分以外のCパルス変異波形がいる。
『あなたは一体?』
『既に知っているはずです。サムから聞いていませんか?』
かつて、洋上都市で出会ったレイヴン以外に自分の認識が出来る存在。ルビコン解放戦線の指導者である男のファーストネームを上げる彼女の名は。
『セリア?』
『はい。こんな場所でも無ければ、貴方と話してみたかったのですが』
戦場ではレイヴンがスッラに追いすがろうとしているが、彼は一方的に翻弄していた。オキーフの援護を期待してみれば、彼は別の機体の相手をさせられていた。
~~
「オキーフ。防衛に名乗り出たのは、私を始末する為ですか?」
「……誤魔化す気も無いようだな」
女性パイロットが乗っていた機体は、コアと腕パーツは『MIND ALPHA』であったが、頭部と脚部のパーツは違っていた。
旧世紀における宇宙服を象った様な頭部と、獣の四肢の様な逆関節の脚部は、現代における人間文明から距離を取っているかのような造詣だった。手にしている武器は、先程スッラが使っていた規格外の威力を持つマルチENライフル『44-142 KRSV』だった。
「オキーフ隊長! 我々も援護します!」
彼女を脅威と認識したLC達が、空中から取り囲みレーザーライフルを放とうとした刹那、影が覆い被さっていた。
「貴方達には過ぎた玩具です」
脚部の先端から見目に相応しい爪状のブレード飛び出し、LCのコックピットを貫いた。機体の損傷が少ないにも関わらず、落ちて行く。
他のパイロット達の思考に産まれた隙を逃さず、マルチENライフルを構えた彼女に果敢に切りかかるLCが1機。
「貴様ら。何が目的だ!」
怒りに声を震わせるのはS-1317だった。特に訓練も受けていないハズのペイターもLCに乗って随伴していた。
「ほぅ、惑星封鎖機構も調教師に飼われているのですか」
「答えろ!」
「こういう時にはなんていうんでしたっけ。あぁ、そうでした。まぁまぁ、焦らないで下さいよ」
大衆向けの娯楽動画にも使われている尺稼ぎのフレーズを吐いている彼女は、この混沌を楽しんでいる様にも思えた。1317の眉間に皺が寄る中、僚機が返事をしていた。
「勿体ぶらずに教えて下さいよ!」
「お前の安定感は、こう。凄いな」
彼女が口走った挑発に対応するフレーズを口走るペイターの胆力に、オキーフはただ感心していた。挑発返しなのか、素なのかは判断し辛い所ではあった。
「貴方達にコーラルは過ぎた物。惑星封鎖機構の一員である貴方はよく御存知でしょう?」
「否定はしない。だからと言って、お前達が勝手に処分して良い物でも無ければ、裁きを下して良い筈もない!」
1317を始めとして多数のLCが彼女に向けての攻撃を放つが、まるで全ての攻撃を察しているかのように当たらない。
「行きなさい」
肩部の武装からオービットが射出され、それぞれが独立して動きレーザーとプラズマビームによる照射を行う。自動管理されている物とは思えない程の軌道を描き、乗り慣れていないLCでは性能を活かしきれないまま撃墜されて行く。
「この動き。まるで、我々に合わせている様な……!」
「まぁ、コイツなら出来るだろうな」
「オキーフ。何か知っているのか?」
1317が問い質すが、返事は無かった。とは言え、彼女は迎撃に来た者達の相手に掛かりっきりであり、輸送機やコーラルの破壊に関してはスッラが引き受けていた。
~~
「こっちを見ろ!!」
「ウォルターの猟犬が、今はまるで室内犬のようだな」
輸送機が撃破され、コーラルの爆発が起きる度に命が失われて行く。その犠牲に呼応するかのように、レイヴンは威勢を増していた。
だが、スッラは一向に交戦に移ろうとしない。適度に距離を取りながら、猛攻を避けつつ同時に輸送機に攻撃を仕掛けるマルチタスクを平気で行っている。
『セリア! 何故、この様な殺戮に手を貸すのですか!?』
エアは訴えた。これは互いに平等な立場での命の遣り取りではない。一方的な虐殺であり、自分達の同胞とも言えるコーラルを焼き払う行為は非道と言う外ない。
『貴方こそ。どうして、その娘を戦場に追い立てるのですか? 彼女が泣いていることにも気付かないのですか?』
コックピット内のカメラを見る。涙を流している様には見えなかったが、表情はいつもと比べ物にならない程に凄絶な物だった。
悲嘆と怒りが綯い交ぜになった。普段、コーラルを吹かしてヘラヘラしている彼女の物とは思えなかった。
『エア。どうして、年端も行かぬ少女が歴戦の傭兵と渡り合えているのか。不自然に思ったことは無いのですか?』
セリアに指摘され、エアにとっての常識が一瞬で違和感へと変貌した。
あまりに周りの者達が当たり前の様に思い、日常として接していた故に気付かなかった。何故、こんな少女がベテランパイロット達と渡り合えているのかと。
『何を、知っているんですか?』
『彼女。よく、コーラルを吸っていますよね。とても馴染みやすい筈です。少しだけ、彼女の景色を覗いてみたらどうですか?』
意識の同調。など、出来るはずもないと思っていたが、彼女は強化人間であり脳内の一部にはコーラルが焼き付いている。触れようとすら思わなかった部分に、エアは少しだけ手を伸ばした。声が聞こえた。
【どうだ、猟犬。考えが読めない相手と戦うのは辛いか?】
【レイヴンなんだろ!? 助けてくれ! 俺はまだしにたk】
【俺が次に何をするか知りたくてウズウズしている様だな。お前の反応速度と併せれば、恐らくG1やフロイトにすら肉薄するだろうな】
【ペイター! 無理をするな! 幾ら、お前が強化人間でも初搭乗なんだ。操作系統もACとは全く違う!】
【うっうっ。LCの乗り心地。翼を授かったかのようだ!!】
【だが、俺もお前の思考は読めない。だから、ここから先はお互いの腕と経験だけが物を言う】
情報の奔流だった。この戦場に居る者達全員の声が聞こえている。肉声のみならず、思考領域だけに浮かび上がる物も含めて。
彼女の舞う様な動きや対人戦における優位に立てる理由を理解した。彼女には声が聞こえていたのだ。自分だけではなく、周囲の者達の思考も含めて。
『これは』
『情報導体を吸引しているんです。強化人間に施された処置と併せて考えれば、彼女の感覚は身体だけに収まっていないハズです』
誰だ。誰が彼女をこんな風にした。と、考えれば思いつく人間など1人しかいない。スッラともレイヴンとも関係のある人間。
『ハンドラー・ウォルター……!!』
『エア。手を引きなさい。それが私達の未来の為よ』
セリアの提案に頷いた所で、戦いが止むはずもない。激しさと犠牲を増すばかりの戦いは加速していくばかりだった。