戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
グリッド086。RaDの根城であり、現状の打開の為にオーバードレールキャノンの製造が行われている場所に、ブルートゥは足を運んでいた。
ドーザー達に慕われているカーラを裏切った所業が許される訳もなく、ラミーを始めとした血の気の多い住民と一触即発の状況に陥っていた。
「お久しぶりですね。インビンシブル・ラミー」
「テメェ、どの面下げて来やがった!」
「待ちな。ラミー!」
今にも、殴りかかりそうなラミーを制止したのはカーラだった。ラミーが腕を降ろした直後、駆け出した彼女はジャンク品で作ったパワーフィストでブルートゥを殴った。
鈍い音が響き、周囲のドーザー達も息を呑む。今の一撃で頬骨が砕け、歯も欠けたが、彼はいつもの調子で言った。
「カーラ。ただいま、帰って来ました」
「おかえりなさいだよ。クソ野郎」
彼が犯した罪に対してあまりに軽い懲罰であったが、カーラが再び彼を迎え入れる言葉を発した以上、他のドーザー達が口出しすることはなかった。
皆が息を呑んでいる中、ラミーはポケットに入れているRaDでの配布端末が震えていることに気付いた。相手はチャティだった。
「ラミー。どうして、ボスはこの様なことを?」
「そりゃ、お前。ケジメって奴だ。悪いことをしたのに、何のお咎めも無かったら、示しがつかねぇからな」
普段は要領を得ないことを発するラミーでも、集団における最低限必要な物は本能的に把握していた。それは、チャティも十分に納得できる説明だった
「明文化されていないが、法律の様な物であるということか」
「そんな固ェモンじゃないとは思うが」
もっと小規模に適応される『ルール』位な物だろう。本来ならドーザー総出で八つ裂きにしたい衝動に駆られているが、現在。彼が担っている役目もあり、ギリギリ許されていた。
「で、古巣を懐かしみに来た訳じゃないだろう? 大方、レールキャノンの様子を見に来たって所か?」
「はい。それと、ミルクトゥースの修理とカスタムをお願いしたいのです」
口中に血が満ちている為、喋り辛そうではあった。彼の機体が、先の多重ダム防衛戦に置いて大破していることはカーラも把握していた。
「元々、あの機体は作業用のACだ。今後もビジターを守っていく上では、不便な部分もあるだろうとは思っていたよ」
「では……」
「支払いはウォルターの所に振り込まれる、アンタの報酬から引き落として行く。付いて来な」
歩き慣れたグリッド086のレールの上を進んで行く。施設全体が物資の輸送が快適に行える造りをしており、カーラは建物の機能を遺憾なく発揮させていた。
進んで行った先にあったのは、彼女の研究室(ラボ)だった。オーバードレールキャノンはほぼ完成しており、他にも開発品が雑多に並んでいる中。異様な雰囲気を放つ物が二つ。
「こちらは、新たなミルクトゥースの箱舟になるのでしょうか?」
「こっちは副産物だね。本命はこっちだ」
ACと思しきフレームが収納されているハンガーの隣。一見すると作業用であり、同時に武器としても使えるAC用のチェーンソーを製造しているのかと思ったが、大型のチェーンソー刃が6枚も並べられている。
「グリッドの増設にでも使うのですか?」
「いや。オーバードレールキャノンがアイスワーム用の武器だとしたら、こっちはあのバカでかいミールワーム用の武器。アーキバスの連中はルビコニアンデスワームとか言っていたが」
6基のチェーンソーは、やがて一つのユニットに取り付けられていく。友人の変わらぬ発想力に、ブルートゥは微笑んでいた。
「この様な素敵なサプライズまでご用意してくれているとは。素敵だ…」
「そうかい。じゃあ、コイツの使用はアンタに任せるよ」
「勿論です。ご友人の力になれるなら、とても嬉しい」
ぶっきらぼうに言い放つと、カーラはこれらの品についての輸送準備をブルートゥに手伝わせている中、一連の流れを見ていたチャティは考えていた。
「(ボス。その兵装はあまりに安全性と継戦性を欠いている。起動させれば、使用者は命の危険に晒されることになる。これも、ケジメの一つなのか?)」
~~
「よし! 1機脱出出来ました!」
破壊の暴風を潜り抜けた輸送機が作戦領域から抜け出した。スッラもレイヴンを撒き切れなくなっている所に、アーキバスからの通信が入って来たのだ。
「レイヴンも居るのです。防衛戦力がこれだけ揃っているのですから、小出しにするより、一斉に脱出を目指した方が生存確率も上がります」
全てを見下すかの様な声色を含んだ主はV.Ⅱスネイルだった。冷酷に聞こえるが、合理的ではあった。
レイヴンと言う傭兵に追いすがられていることを考えれば、スッラも輸送機に割ける余裕が減っている。この状況下で、護衛機が一斉に脱出を計れば全てに対処するのは困難を極めるだろう。……確実に犠牲が出る。という点を顧みなければ、の話ではあるが。
「そうですね。後、4機。作戦領域を通過できれば、コーラルの運用に関する分は足ります。脱出できた者には、相応の報酬を用意します」
既に雇用や生活と言った物で鞭打ちをしている中、生存確率が僅かにでも上がる可能性と報酬をチラつかされれば、輸送機のパイロット達も動かない訳にはいかなかった。
【やってやるぞ! レイヴンもなんとか、追いすがっている。他の奴が犠牲になっても俺だけは助かるんだ!】
【成功すりゃ、弟達を別の惑星に行かせてやれる。もう、ひもじい思いをさせなくて済むんだ】
【生きて、女を買って! コーラル買って! 好き放題やるんだ!】
輸送物資であるコーラルの誘爆を避ける為に間隔を取りながら、彼らは一斉に発進した。これにはスッラも感心したような声を上げた。
「ほぅ、アーキバスの作戦部に優秀な奴がいるようだな。現場にいる人間よりも、よっぽど人を生かす方法を知っているらしい。おまけに、前回のミサイル防衛の時と違って誘爆の可能性もあるから盾にする訳にも行かんか」
「落ちろ!!」
既に会話をする気も無いのか、レイヴンはスッラのエンタングルに攻撃を仕掛けていた。
「ケイトの方も輸送機の破壊は難しそうだ。セリア、どうにかしろ」
『お任せください。既に手は打っています』
ケイトと名乗る逆関節のACもペイターや1317が駆るLC達とオキーフによる包囲で手が回らなくなっていた。輸送機が2機、3機、4機と次々と脱出に成功していく。
【やった! 脱出できた! 流石、レイヴンだ!】
【天は俺達のことを見捨てていなかった! 帰ろう! そして、もうこんな会社は辞めて、木星で生きて行くんだ】
【金! 女! コーラル!!】
脱出した者達の安堵と興奮が混じった喜悦が、彼女の耳に届いて来る。支柱の中にほんの僅かな達成感を見出した所で、燃料基地を激しい振動が襲った。
『レイヴン! 巨大反応が近づいています。これは、宇宙港でも見た……!』
『エア。帰ったら、サムに伝えておいてください』
エアの悲鳴とセリアの穏やかな声が何を意味するか、レイヴンは理解した。
雪に覆われた地表を突き破り現れたのは、ルビコンにおいてなじみの深い食糧であり、コーラルで幾らでも肥大化する生物。アーキバスではルビコニアンデスワームと呼ばれている、巨大なミールワームだった。
「ミ”ィ”イ”イ”イ”イ”イ”!!」
巨大に似合わぬ俊敏さで、ルビコニアンデスワームは輸送機ごと貯蔵タンクに収められていたコーラルを食らっていた。
輸送機が食い散らかされた後は、基地内に残った物を食い付かさんと、巨大な体躯を這わせて周囲の雪や残骸を呑み込んでいた。恐らく、散ったコーラルも摂取しているのだろう。
『貴方のポイ捨てはロクでもないことばかり引き起こすのだから、拾ったものは大事にしなさい。と』
「ケイト! 作戦は達した! 撤退する!」
「了解です」
基地内に残ったコーラルを根こそぎ排除したと思ったのか、スッラ達は急いで引き上げていた。レイヴンにも1317から通信が入って来た。
「レイヴン! 引くぞ! 任務失敗だ! 今の俺達では、あの化け物に対処できない!」
「……分かった!」
行動が出来る者達は一目散に基地を捨てて去って行く。暫く、ルビコニアンデスワームが暴れた後は建物の一つもマトモな形として残ってはいなかった。
~~
「任務失敗か。気にするな。スッラに加えて、この予想外の乱入者だ。任務が遂行できる訳がない。621、後の始末は俺がしておく。今は休め」
「……うん」
トボトボと自室に戻って行く621は誰もが見たことがない程、落ち込んでいた。そして、ハンガーの方にはLCが2機追加されていた。
「収穫が無いわけではない。稼働できるLCを2機持って帰って来れた。これで、俺もアイスワーム戦に出撃できる」
今まで、後方に居たS-1317も前線に出れるようになったことは大きい。カーラからもオーバードレールキャノンの修理が終わった報告も入り、2体の怪物を相手にする総力戦も近いと思われた。
「奴らを排除しなければ、俺達は目的地にたどり着けない。近々、企業の合同作戦に呼ばれるだろう。ペイター、それまで習熟訓練に励め」
「分かりました!」
レイヴンの落ち込みぶりとは打って変わって、ペイターはややテンションが高かった。よっぽど、LCに乗れたことが嬉しいらしい。
そして、もしも表情や肉体を持っているとすれば、一番表情を険しくしていたのは彼女、エアだっただろう。
『(ウォルター。貴方は一体何を考えて、彼女を)』
先の戦いでセリアに言われたことが脳裏にこびり付いていた。年端も行かぬ少女を戦場に立たせるべきではない。と……あまりに真っ当な意見だからこそ、今までのウォルターを見て来た彼女は納得が出来なかった。
『(ですが、彼が善性よりの人間だということは分かっています。だとしたら、どうして? そこまでする目的とは一体?)』
この拠点において、自分の声が届く人間はあまりに少ない。心配になりながら、レイヴンと共に部屋に戻ると、彼女は自室の水パイプにコーラルを入れようとして……エアが口出しをした。
『レイヴン。今日はもう寝ましょう。折角のコーラルも疲れた状態では楽しめませんよ?』
「……あい」
彼女は全身をベッドに投げ出して、間もなく寝息を立て始めた。室内には吸おうとしていたコーラルの紅い煙が漂っていた。