戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
コーラル輸送機の護衛に失敗したレイヴンが寝静まった頃、エアはとある人物の帰りを待ち侘びていた。そして、今まさに件の人物が帰投した。
「ウォルター。カーラがオーバードレールキャノンを完成させました。それと、私にルビコニアンデスワーム用の対策機もプレゼントしてくれました」
「仕事が早いな。見慣れない装備だが、試運転の方は?」
「兵装の関係上、シミュレーターでしか動かせませんでしたが、ご友人が開発した物です。本番でも上手く行きますよ」
ウォルターは平静としているが、ブルートゥの頬は腫れ上がって顔面のバランスが若干崩れていた。RaDから持ち帰って来たACと特殊兵装をハンガーに格納したのを見届けて、エアは声を掛けた。
『ブルートゥ。少し、話したいことがあるのですが。よろしいでしょうか?』
「おや、ご友人。貴方だけが活動しているのは珍しい」
現在、この拠点でエアと言う存在を認識できるのは621とブルートゥだけだった。マトモな会話が出来るかは不安であったが、少なくとも反応や返事は出来ていた。
「ブルートゥ。誰と話している?」
「そうですか。ウォルターにはご友人が見えないのですね」
『はい。ですから、私が先の作戦で知ったことを伝えて欲しいのです。……それと、ハンドラー・ウォルターに聞きたいことがあります』
「お安い御用です」
そして、ブルートゥの口から先の燃料基地での作戦の顛末とエアだけが接触できた存在についての話をした。
最初は、妄言の類かと疑っていたウォルターであったが、あの場に居なかったハズの彼が仔細を話していること。スッラにも似た様な存在が付いているということは、聞き流せる物では無かった。
「そうか。時折、621の話に上がる『エア』という存在は確かにいるのだな」
「えぇ、ご友人はいつも傍で見守って下さっています」
俄かに信じがたい話ではあるが、ウォルターは暫し考えていた。
今までの作戦を思い返してみれば、621の動き方は明らかに1人だけの物では無かった。協力者でもいるかの様な対応力を伴っていた。
「今も、ソイツは居るのか? 居るとすれば、いつから居た?」
『ウォッチポイント・デルタを襲撃した時。惑星封鎖機構の機体『バルテウス』と戦った時から、レイヴンと共に在りました。だから、貴方に聞きたいことがあります。どうして、彼女を戦わせているのですか?』
誰もが当たり前の様に思っていたから疑わなかったが、セリアに指摘され時からエアの中で疑念は膨れ上がっていた。
どうして、こんな少女を戦わせているのかと。普段、コーラルを吸引しているのも戦いへの恐怖を紛らわす為ではないのかと。
「知って、どうするつもりだ?」
『ウォルター。貴方が、自らの目的の為に彼女を無理矢理戦わせているとすれば、私にも考えがあります』
このルビコン内に逃げる場所は無いにしても、少なくともウォルターの手から引き剥がすことは出来る。頼りなくはあるが、身を寄せる場所についても心当たりはあった。
今は、アイスワームとルビコニアンデスワームとの対決を控えた時期であり、レイヴンの離脱は相当な痛手となる。故に、彼が選んだ選択はと言えば。
「……分かった。俺と621がどの様に、このルビコンに来たかを話そう。お前が、納得できるかどうかは別だが」
~~
「ウォルター。丁度良い在庫がある」
ルビコン3への切符を手に入れる為に、猟犬(ハウンズ)達を犠牲にしたウォルターが新たな戦力を求めに来た時に提供されたのが『C4-621』だった。
今まで、提供されて来た強化人間と違い、年端もいかぬ少女を差し出されたことに、ウォルターは不快感を顕にした。
「面白くない冗談だ」
「強化人間としての機能には問題はない。お前以外に渡したら慰み物になる未来しかないからな」
彼女の未発達な肢体に劣情を催す輩は幾らでもいるだろう。先程、ウォルターが不快感を示した際にも男は安堵の表情を見せていた。
だが、当人は苦い顔をしていた。猟犬(ハウンズ)達を犠牲にしたばかりの自分が、彼女の命を預かる資格があるのかと。
「大丈夫」
「……?」
「コイツは声がよく聞こえるらしい。直接、口に出していない物も含めて」
今まで幾人もの強化人間を引き取って来たが、その様な能力を持った者は見たことがない。相手の声……口に出していない物も含めるとすれば、それは思考すらも読めることになる。
ACでの戦闘のみならず、交渉の場においても相当に優位に働く能力ではあるが、担い手は少女だ。銃や操縦桿を握るより、ペンやバッグを握っている方が似合う様な小さく華奢な手を見て、ウォルターは一つの決意をした。
彼女を怯えさせまいと。あるいは、彼女を見下すことも見上げることも無く、視線を合わせて口を開いた。
「『C4-621』。俺はお前の保護者ではない。お前に施しを与える為に引き取る訳ではない。その代わり、俺はお前を1人の対等な人間として見る。隷従をしなくても良いし、卑屈にならなくても良い。俺と一緒に来てくれ」
そう言って、手を差し出した。親と子、それ以上に年齢の離れた相手に対してウォルターは見下すことも、憐れむ真似もしなかった。目の前に居る少女を一人の人間として見ていた。
人権を尊重する、とは意味が違う。庇護されて然るべき人種に、1人の人間としての意味と責任を与えようとしている。猶予期間(モラトリアム)を経ない、バカげた提案に対して、彼女は頷いた。
「一緒に行く」
ウォルターの手を取った。彼女に対しては美辞麗句も建前も通用しないということはよく分かっていただけに、闇医者の男は餞別にパイプを渡した。
「これは?」
「ソイツの唯一の持ち物さ。コーラルを吸うのが好きなんだよ」
パイプを受け取ると、少女は慣れた手つきで吸い始めた。プハーと赤い煙を吐いている姿には、先程までの神妙さは見当たらなかった。
「よろしくね!」
~~
「ルビコンに来てからについては、作戦記録を読んで貰えれば分かる。もしも、621がルビコン解放戦線やRaD。あるいは企業に身を寄せると言うのなら、それでもいい。俺は止めない」
嘘をついては居なかった。少女に背負わせる物としては重過ぎるが、彼女とウォルターの立場を考えれば、ゆっくりと積み上げていく余裕も無かったのだろう。一蓮托生と言う言葉が思い浮かんだ。
『レイヴンは少女ではなく、1人の人間だと?』
「そうだ。依頼を果たすだけの能力がある。自分で行動や指針を決めるだけの考えがある。アイツは世話を焼かれるだけの娘ではない。歴とした独立傭兵だ」
「我々からしても、ACに乗る以上。大人子供関係はありませんから」
共にいる時間は短いが、エアはウォルターと言う男を誤解しそうになっていた。
セリアの言葉は常識と倫理観に満ちた物であったが、そもそもレイヴン達は常識や倫理観に保護される場所に居ない。
「だが、全てが終われば、アイツには人並の生活を送って欲しい。……俺に、もしものことがあった時は、奴のことを頼む」
対等な関係を結んでいると言いながら、損益だけの関係に収まらずに溢れているのは、ウォルターと言う男が持つ善性の部分だろう。
彼はブルートゥに端末を渡した。画面には621の預金口座と残高が表示されていた。ミッションで得られた報酬分から、予め避けておいた分だろう。
『ウォルター。これは預かっておきます。だから、貴方も必ず621と対等な関係を歩み続けて欲しい。これからも』
「……そうだな」
曖昧に頷いた。それから間もなくのことである。カーラからの通達により、アイスワームとルビコニアンデスワームの討伐に対する打診が入って来たのは。