戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
スウィンバーンをキャッチ&リリースしてから数日。たんまり貰ったコーラルとミールワームに興じている621に暗号通信が入って来た。
「ウォルター。電話―」
『いやいや、報せる必要はありませんから。内密に話す為の暗号通信ですから』
「やっぱり電話ないー」
コーラルに染まった脳内で女性の声が響く。とある任務を達成してから、ずっと621と行動を共にしている存在。
姿形こそない物の、自らを『エア』と名乗る彼女は、任務のマネジメントや作戦行動中のサポートなど様々な分野で621に力を貸していた。
『これは、ルビコン解放戦線からです。依頼を確認してみましょう』
「独立傭兵レイヴン。貴方に引き受けて貰いたい仕事がある。先日、アーキバスからベイラムグループへと所有権の移った『壁』の奪還。その重要な一手を引き受けて欲しい」
『また「壁」ですか』
先日、ベイラムグループのMT達を引き連れて『壁』を奪い取ったばかりだというのに。とは言え、奪い取ったばかりで防護が形成し切れていない状態を狙うのは合理的ではあった。
「壁レースだ。よーい、ドン」
企業や勢力の思惑を揶揄しているのか。彼女はミールワームを壁に這わせて競争させようとしていたが、あらぬ方向に進んだり排泄したりと。レースの体を為していなかった。
『レイヴン。もしや、これは企業間が摩耗するばかりの様子に対する風刺を?』
「うめっ。うめっ」
『はい。何も考えていませんね』
レースを見守るのに飽きたのか、片っ端から捕まえて口の中に放り込んでいた。見方によれば、壁に群がる思惑を平らげるという剛毅なスタンスを表しているようにも思えたが、多分そんなことは考えていない。止めていた依頼の続きを再生した。
「壁の防護を任されているのはG2のナイルだ。我々にとっても、捕虜救出作戦以来の会敵となるだろう」
以前、ルビコン解放戦線から帥父であるサム・ドルマヤンを始めとした重要人物達の救出作戦の際に、彼女は護衛として随伴したことがある。
脱出を目の前にして現れた手勢を引き連れて現れたG2達に、解放戦線の面々が絶望する中。単騎で全てを打ち倒した621の活躍に惚れ込んだのか、この様に度々依頼が入って来る。
「ツィイーちゃん元気かな?」
『レイヴン。貴方、人のことを心配したりするんですね』
思いやりと共感という言葉が最も似合わない彼女が口に出す位なのだから、よほど仲が良いのだろう。と考えると、エアは自らの胸中に何とも言い表せないモヤを感じた。
「独立傭兵レイヴン。あの時、私達に見せてくれた奇跡をもう一度見せて欲しい。それと、個人的なことにはなるが。ツィイーがすっごいデカいミールワームを見つけたと言っていた。写真も添付しておこう」
「マジで!?」
依頼に対しては殆ど反応しなかったが、最後に添付された画像に対しては食い入るように見入っていた。
白くブヨブヨした表皮に走る亀裂からは青白い光が放たれていた。周囲の風景から推測するに、体長は4~5m程はある。
『レイヴン。これ、明らかにヤバい奴ですよ』
「任務の帰りに見に行こ」
コーラルを起源とするエアとしては、何となく察しが付いたが意気揚々とACのコックピットに乗り込む621が両目をキラキラ輝かせているのを見たら、諫める気も失せた。
~~
『壁』。かつてはルビコン解放戦線の重要拠点であり、アーキバスの調査拠点であり、現在はベイラムが管理していた。
哨戒するMT達は一様にして同じ武器を所持していた。ベイラムが誇る制圧兵器。長距離ショットガン『ZIMMERMAN』である。
「あまりにも浮かれすぎている」
レッドガンの参謀でもあるG2ナイルの懸念は尤もだった。
ルビコンにおける企業間競争において劣勢に立たされているベイラムにとって、この武器は、分かり易く企業の威光を示す物だったのだろう。
戦場を舞う鴉(レイヴン)の得物であり、アーキバスを跳ね除け、辛酸を舐めさせられた壁を入手するに至った武器。……だが、決して扱い易い物ではない。
「(装填数が少ないこと。面での攻撃になること。そもそも、武器の重量自体も重い。これを使っての戦闘ともなれば、ヴォルタの様なタンク型のACでもなければ難しいだろう)」
現在は意識不明の重体ではあるが生きてはいる。俺が叩き起こしてやる! と意気込んでいた友人の顔を浮かべていると、緊急無線が入って来た。
「どうした?」
「襲撃! G13です!」
つい、先日は壁の奪還に協力していたというのに。昨日の友は今日の敵と言わんばかりの変わり身だが、独立傭兵であるのなら珍しいことではない。
「被害状況は?」
「G13の撃破もそうですが、ZIMMERMANによるフレンドリファイヤで!」
恐れていたことが起きた。攻め込むときは無類の強さを発揮するが、単騎で攻め込んで来る相手の防衛には向いていない。
特にACの様な機動兵器に対しては、MTでは照準を合わせるのもままならないだろう。銃撃音が響くことすら無く、次々と信号がロストしていく。
「(まさか、これを見越して?)」
実は、既にあの時点で第三者の依頼を受けており、前回の華々しい制圧は今回に向けての布石だったのではないのかと。
「ナイル殿!」
「何時でも脱出できるようにレバーに手を掛けておけ!」
指示を飛ばしたG2に影が覆い被さる。夜に舞う鴉(レイヴン)は、地獄からの使者の様に思えた。
「つくづく俺も地獄に縁があるな!!」
手にしたハンドミサイルから4発の弾体が放たれた。更に両肩に取り付けられたミサイルも放ちつつ、これらによって相手の機動をコントロールした後、もう片方に握られた武器。リニアライフルの『HARRIS』による一撃で沈めるというのが必殺のルーチンだった。
以前会敵した時は至近距離に潜り込まれ『ZIMMERMAN』により態勢を崩された後、一方的にボコられたことは覚えている。
「(この為に、機体の姿勢制御に対して重点的なカスタムを加えている。お前の攻撃が途絶えた時が、最期だ!!)」
二の轍を踏む気はない。改めて、鴉(レイヴン)ことG13を正眼に見据える。両手にZIMMERMAN。肩部にもZIMMERMANが4丁。
「え……」
通常ACと言うのは両肩のウェポンハンガーを含めて4つしか武器を持って来れないハズで。だとしたら、何処でこんな……と考えて、先ほどから銃撃音が全く響いていなかった理由を理解した。
「イェーイ」
流石に6丁の猛攻には耐え切れず、G2の機体は揺さぶられ、吹き飛ばされ。搭乗者であるG2ナイルは気絶した。
「でっけぇワーム。でっけぇワーム」
G2の愛機ディープダウンの武装を解除した後、621は戦利品の様にして機体と中身を持ち帰った。
~~
「見て。ほら、デカいワーム」
「うわ。デカイ」
「うむ。これは誠にデカイ」
『ボキャブラリーが貧困ですね』
G2を押し付けられ頭を抱えるウォルターを傍目に、621は件のデカいワームを見に行っていた。
誇張でも何でもなく4~5m程の体長を持っている割には大人しく前進するだけだったので、体表を切り取られ子供達に振舞われていた。
「美味しい! 気持ち良い!!」
「子供達も腹いっぱい食えるようになったし。このワームのお陰だよ」
『あの、レイヴン? そのミールワームからはコーラル反応が……』
リトル・ツィイーと傍らに立つ全身真っ赤な装いをした男は笑顔を浮かべていたが、やっていることはインモラルも良い所だった。全てが善意で行われていることなので救いがない。
「うめっ、うめっ。エアもどう?」
『いや、食べられませんよ……』
621も子供達と同じくクソデカミールワーム焼きを楽しんでいた。そんな彼女を見つめる子供達の視線は、何処か遠方を見ている様な胡乱な物だった。