戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
会議の合間に挟まれた小休止においても過ごし方はそれぞれだった。
歓談に興じる者もいれば、先程までの話をまとめていたり……。携帯端末などを持ち込めない以上、ある程度、過ごし方は限られていたが。
「ウォルター。ウチのペイターは何か迷惑を掛けていないか?」
「掛けられ続けている。どういう教育をしているんだ」
「ペイター君はやんちゃだからね。彼の能力は、あの性格あっての物だから。矯正は出来ないと思うよ」
ウォルターからの切実な訴えを笑いながら流す辺り、V.Ⅴにペイターが宛がわれていた理由が分かった。
他者を顧みない。つまり、自分のみしか信じていない為、延々と向上し続けられる性質の持ち主だということは、流石にウォルターとしても理解していた。
「帰って来なくて良いと伝えてくれ。奴が居るだけで、閣下の心労が増える」
「メーテル君、流石にそれは酷いよ。彼だってヴェスパーなんだから」
神経質そうな表情で、先程までの会議をアナログでまとめているメーテルリンクが口を挟んだ。生真面目な彼女にとって、この空間は若干居心地が悪かった。
まず、競争相手であるベイラムの連中が居ることも癇に障ったし、そんな彼らと歓談に興じている同僚にも腹が立った。
「まさか、ベイラムの歩く地獄と歓談が出来るとは思わなかった。木星戦争における貴殿の活躍は有名だ。あの戦争以来、ベイラムは中距離にも対応する戦術を組み立てていたはずだが、最近は逆戻りしている様に見受けられるが…」
「ふん。上も下もG13の活躍に目を焼かれている! 戦場にいるのは英雄ではない! 兵士達だ!」
ラスティとミシガンが軍人同士、至極まともな会話を交わしている中。そうじゃない奴らもいた。
「G13。どうですか? ベイラムに来れば、毎日コーラルが吸い放題でミールワームも食べ放題。今なら、風水薬房の薬膳までついて来ます!」
「……薬膳?」
「はい。美味しくて、健康になる料理です!」
「やめんか! 交渉をするなら、せめて保護者を通さんか!」
『この人、根は結構善良なのでしょうね』
五花海がノーザークとは比べ物にならない程、手練手管で取り込もうとしているのをスウィンバーンが倫理観と常識のガイダンスで防いでいた。
……最も、ウォルターは621の意思を尊重している為、彼の言動は的外れではあった物の。
「ヴォルタはアンタの所で上手くやっているのか?」
「あぁ、皆から可愛がられているよ。軍人上がりってことで、よく働いてくれるしね。この間、アイツ用にACを組んでやった位さ」
「今回の作戦で説明したグラインドブレード。あの武器の作成に関しても、ヴォルタはよく働いていた。真面目で良い奴だ」
RaDに就職した相棒の様子を知りイグアスは安堵していた。所属場所の垣根を越えての会話が盛り上がる中、人込みから外れているレッドに声を掛けに行ったのは、ブルートゥだった。
「おや? どうされたのですか?」
「貴様はレイヴンの……」
「はい、彼女のご友人です。何か、お悩みの様でしたので。私でよろしければ話だけでもお聞きしますよ」
慇懃無礼か荒くれ者が多い中で、柔和な人当りであったことも手伝ってか、レッドはボソボソと語り始めた。
「自分は、レイヴンと直接会うのを楽しみにしていた。惑星封鎖機構や企業も翻弄してみせる戦士がどの様な英傑かと。何を話そうかと色々と考えてはいた物の、実際に会ってみたら言葉が出なかった」
「どうしてですか?」
「自分には妹がいる。彼女と同じかあるいはそれよりも幼い少女が戦場に身を投じていることがショックだった。……何より、そんな彼女を崇め奉っていた自分が恥ずかしい!」
この場にいる者達の中では最も若輩であり、だからこそ戦場や兵士の常識に染まり切っていない彼の考えは、あまりに常識的だった。ブルートゥは彼が善人であることを察し、優しく語り掛けた。
「でしたら、貴方は彼女の信奉者では無く友人になるべきです。大丈夫。既にナイルさんも彼女のご友人なのですから」
「私が、彼女のご友人に?」
「はい。見て下さい、彼女が楽しそうにしているあの様子を」
彼が指差した先では、未だに五花海とスウィンバーンの攻防戦が続いており、その間で621は棒立ちしていた。
「どうせアーキバスに行った所で、再教育センターで洗脳されてACのパーツになって終わりですよ! そっちのハゲの非道ぶりは有名ですからね!」
「なんだと! 貴様、閣下を侮辱するか!!」
『誰もV.Ⅱスネイルのことなど言っていないのですが』
「ハゲ閣下!」
一見、上官の侮辱に憤慨する部下の鑑の様な行動であるが、内心でどう思っているかということが露見した瞬間であった。
特段、何の思慮も無い621は2人が言ったことを単調に繰り返すだけであったが、立派な暴言が出来上がっていた。
「見て下さい。戦場で出会えば、銃を取り合い傷つけるしかありませんが、彼女の周りにいる者達は全てご友人になるのです」
「そ、そうか? 自分には言葉の銃撃戦が行われている様に見えるが……」
レッドが疑問符を浮かべていると。会議室のドアがノックされた。もう、来場者は来ないハズだと思っていた一同が構えた所で、チャティの無機質な音声が響いた。
「来訪者はアーキバスのV.Ⅱスネイルだ。思ったよりも早く用事が片付いたらしく、急遽来ることにしたそうだ」
「閣下。本日は来られないと……」
「今度の作戦指揮はアーキバスが執りますからね。私も意見を聞く必要はあるでしょう」
メーテルリンクを始め数名は驚いていたが、勘の良い者達は気付いていた。
敢えて、来るのを遅らせることで、この会議が安全であるかどうかということを確認していたのだろう。ヴェスパー部隊の下位ナンバーを先に送り出すことで、相手の出方も伺っていたのだろう。
「スネイル。流石に合同会議位はいつもの遅刻は止めようよ」
「ですから、私は仕事が早く片付いたので急遽来ただけです。それはそれとして、先程は愉快な会話をしていた様ですね」
「べ、ベイラムの人間の品性を疑う話でしたな」
スウィンバーンが冷や汗を流しながら全ての責任を五花海に押し付けようとしていたが、スネイルの視線が彼から外れることはなかった。
「ベイラムの人間が何と言おうと気にしません。育ちの悪さと品性の無さが見えるだけですから。そこにいる独立傭兵も同じことです。子供相手に怒るのはあまりに大人げない」
「流石、閣下。心がお広い!」
スウィンバーンがゴマをすっているが、既にヴェスパー部隊の面々には分かっていた。これはもう、切れる為の助走をつけている段階だと。
「ですが、スウィンバーン。どうして、貴方はハゲと言われた直後に私への敬称を出したのですか? まさか、万が一にでも私のことをハゲだとか思っていましたか? 貴様も例の展望占いとやらに興じているウチの1人か?」
「い、いえ! これはベイラムの卑劣な誘導尋問です! 再教育センターと言う栄えある役職に就かれているのはスネイル閣下ただ一人!」
「生えだと!? 貴様も私を愚弄するか!!」
もはや何を言っても憤慨ルート以外を選べないのは可哀想だった。流石に気の毒に思ったのか、カーラが場を鎮めるようにして両手を叩いた。
「じゃあ、新たな参入者も来た所でもう一度説明しようか。丁度、ベイラムとアーキバスの頭脳が揃っているんだ。また、違う発展が見られるだろうさ」
「必要はありません。作戦の概要なら、予想が付きます。大方、次の議論内容はどういった人員で2体の化け物に当たるか。という、振り分けでしょう?」
アーキバスの頭脳と言わるだけにあって、先程までの会議内容程度は想像が出来ていたらしい。ならば、話も早い。と、カーラは休憩を切り上げた。
「じゃあ、どういった人員で当たるかっていう話だが――」
アーキバス、ベイラム、RaD。そして、ハンドラー・ウォルター。このルビコン内におけるブレイン達が一堂に会しての、かつてない規模での作戦が練られようとしていた。