戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
V.Ⅱスネイル。アーキバスお抱えの強化人間部隊の2番隊長であり、作戦の立案から現場での指揮、また敵味方問わずパイロットの『再教育』を行う施設の長も務めており、多岐にわたる才能の持ち主でもある。
その性格は能力に裏打ちされたかのように尊大で傲慢、そして冷酷無慈悲でもある。業務には大いに貢献するが個人的に付き合いたいかと言われれば、誰もが首を横に振る人物ではあったが、これほど優れた人材が稀有であることにも変わりはなかった。が、能力の優秀さ故に多くの悩みを抱えていた。
「今回も……駄目でした」
白衣を着た禿頭の責任者は項垂れていた。周りにいるスタッフ達も老若男女問わずにスキンヘッドだった。
「構いませんよ。道は遠く険しい物です。今回も失敗したと考えず、上手く行かない方法を見つけたということにしましょう」
普段は結果の上がらない連中には嫌味と催促を織り交ぜた口撃を行う所だが、スネイルは非常に穏やかな面持ちで彼らに労いの言葉を送っていた。
ここはアーキバス毛髪再生局。スネイルがパトロンを務めている部署であり、私欲のために創設したつもりなど、毛頭ない場所だ。
「今回のアプローチ方法は、毛母細胞を埋め込み、毛根を再生させるという治療方法です。実験と失敗を重ね、今度こそは上手く行くと思いましたが」
スタッフ達の頭部を見るに、成功した毛生は無かった様だ。
欠損した部位を代替細胞で補い、定着させるという技術は珍しくもない。これによって、角膜や臓器を復活させた例も多数存在している。
「どうして、成功しなかったのですか?」
「それは、やはりパイロットと言う職業が頭部にハゲしい負担を掛ける職業だからです。戦場におけるストレスは勿論、ヘルメットの着用で頭皮を痛めるのです」
激しい交戦によって、機体内部で身体を打ち付け殉職する。ということは何ら珍しいことではない。パイロットの生存確率を上げる為にもヘルメットの着用は義務であり、アーキバスも教育課程では徹底している。
その為に髪の毛を剃る者も珍しくはない。が、ヴェスパー部隊長としては他と一線を画する為に、毛髪の存在は重要だった。フサフサしていない人間に、隊長と言う役職はフサわしくないのだ。
「つまり、痛んだ頭皮には毛母細胞が定着しない。ということですか?」
「はい。毛母細胞以外にも、これらに栄養を送る周囲の毛細血管や毛乳頭も損傷している場合があり、これらまで代替するのはかなり難しいのです」
毛根と言うのは幾つかの細胞で構成されている。人体を走る『毛細血管』から『毛乳頭』が栄養を受け取り、これらを使って『毛母細胞』が分裂を繰り返して毛が生えて来る。
ただし、パイロットと言う職業に損耗と怪我は付き物だ。度重なる戦いで人体の外部からあるいは内部から負債が積み重なり、異常を来す者も少なくはない。
「では、アプローチを更に変えてみるのはどうですか。埋め込むのが難しいのなら、予め人工的に作った毛乳頭と毛細胞を埋め込んだシート状の物を頭皮に張り付け、その人物が持っている毛細血管と結びつくようにする。などはどうですか?」
「植物で言う所の接ぎ木みたいな方法ですね。……これならば、損傷した毛細血管の治療と併せて行えば、効果が見込めるかもしれません!」
散々失敗したアプローチを何度試しても結果は得られない、不毛な行為である。ならば、画一的で普及も容易な方法を同時に考え付く辺りは、正にアーキバスの頭脳と言える冴え渡りぶりだった。
「この生えある任務は署長。貴方に任せます。良い結果をお聞かせ願います」
「はい! 勿論です!」
アーキバスの精鋭たる者。敵を蹴散らすことはあって、毛散らすことがあってはならない。彼は細かな取り決めを話し合い、ハゲ増しの言葉を送った後。食堂へと向かった。
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食堂。通常、兵士達の食糧はレーションや粗食で賄われる。日常が美味で埋められてしまえば、戦闘中の糧食が却ってストレスになりかねない為だ。
それでも運営しているのは、企業としての福利厚生の手厚さを示し周辺勢力の気勢を挫き、投降を促す意味もあった。
「閣下。一緒にお昼は如何ですか?」
スネイルに声をかけたのは、ヴェスパー部隊6番隊長であり紅一点のメーテルリンクだった。彼女が手にしている、プレートの上には厚みのあるクッキーとクラッカー、チリビーンズが載せられていた。そして、横にはこれらを流し込む為のフィーカが添えられていた。
「構いませんよ」
スネイルが食しているランチもメーテルリンクの物とほぼ同じだったが、フィーカの代りに添えられていたのは、琥珀色の液体に緑色の厚みのある草を浮かべたスープだった。
「閣下、これは一体?」
「ワカメと言うそうです。食料になり得る物ならば、何だって構いません。どんな物であれ、毛嫌いせずに口に運ぶことが大事です」
食事中は食事中と割り切っているのか、一切の仕事をせずに口に運んでいるが、隣にはヒッソリと傍受機が置かれていた。
「何を聞かれているのですか?」
「先日、ハンドラー・ウォルターを始めとした一行も含めて会議をした時があったでしょう。あの時、去り際に仕掛けた物です」
あの会場は、そう言った機器の持ち込みは一切厳禁されていたはずだと言うのに、どうやって持ち込んだのだろうか? 厳重な監視を掻い潜って、情報収集の一手を打った手腕に、彼女は感心していた。
「流石です。閣下、どの様なことを話されているのですか?」
「貴方も聞いてみなさい」
無線のイヤホンを渡されたので耳に装着した所、聞こえて来たのはハンドラー・ウォルター達の声だった。
『ナイル。ミシガンやレッドガン部隊の奴らは元気そうだったぞ』
『そうか。まぁ、俺が心配しなくても何とかなる連中だ。むしろ、気になるのはアーキバスの連中だ。お前から見てどうだった』
意外な所でエゴサーチが行われていたので、メーテルリンクも聞き入っていた。少なくとも失態は見せていなかったはずだ。
『621がスウィンバーンとラスティとは懇意だった。奴も満更ではなさそうだった。こういった縁は今後の仕事でも響いてくるかもしれんな』
『お前達にアーキバスの味方をされたら、いよいよベイラムは後が無くなるな』
普段は口うるさい冴えない男だと思っていたが、佇まいの正しさが周囲に与える影響は大きいということを知った。
『V.Ⅵのメーテルリンクに関しては何も言えん。殆どアクションが無かった。ただ、ペイターが嫌われていることは知ったが』
『部隊間の不和は何処で影響が出るとも分からんと言うのに。女性は感情的とはよく言うが』
「言われていますよ」
「は、はい……」
仲良しクラブという訳ではないが、人間関係は基本的に良好に保った方が得をすることは多い。まさに先程も言った毛嫌いと言うのがマイナスに作用していた。
『ただ、そんなペイターもV.Ⅴのホーキンスには心配をされていた。人材層も含めて、アーキバスの強さが見える面々だった』
『それは手強いな。途中からV.Ⅱも来たと聞いているが』
『奴は仕事が早く片付いたからだ。と言っていたが、慎重を期しての行動だろう』
流石に、この程度は見抜かれるらしい。とは言え、用心深い性質は既に向こうに知れ渡っていることも含めて、問題は無かった。
『V.Ⅱスネイルか。狡猾で用心深く、しかし。作戦の立案も出来る戦術家であり、ACに載せればアリーナ上位に食い込む程の腕前でもあると聞いている。俺もベイラムも何度も辛酸を舐めさせられた強敵だ。ウォルター、実際に会ってみた感想はどうだった?』
『油断ならない相手だ。少しでも隙を見せれば、飲み込まれるだろう』
「当然の評価です。ベイラムは間抜けばかりだとは思っていましたが。参謀らしく、人を見る目は確かな様です」
敵からの評価とは言え、高く見られていることに対して思うことはあるのか。彼は鼻を鳴らしていた。その一方で、メーテルリンクは我がことのようにテンションを上げていた。
「そうです。閣下なら、この評価は当然のことです」
2人がテンション上げていると、通信先の空間に誰かがやって来たのかドアが開閉する音が聞こえた。瞬間、クソデカボイスが漏れた。
『あ~なた~に髪の毛ありますか~! ありますか~~! ありますか~!! なーい、なーい。そんなのやーだー! かーみのけー消え去って行く~~!』
初手無礼歌声で乱入して来たバカの声は凄まじく聞き覚えのある物だった。言わずもがな、ヴェスパー部隊8番隊長のペイターである。
『おい、入って来る時はインターホンを鳴らせ』
『あ、すいません。レイヴンにハゲの悪口を言っていたら、楽しくなってきて』
『誰のことだ?』
ウォルターが苛立ち、ナイルが疑問を浮かべ、盗聴しているスネイルの眉間に青筋が浮かび、メーテルリンクが青褪めている中。彼はサラリと該当人物の名前を出した。
『何って、スネイル閣下に決まっているじゃないですか。メーテルリンクの悪口ついでに言っていたら思ったより楽しくなって来まして』
『貴様! 今はここにいるが、元はアーキバスから橋渡しとして派遣されて来たのだろう。上官の悪口は慎め!』
「私の悪口???」
まさか、敵方であるナイルから擁護されるとは思っても居なかった。流石に人から注意されたら留まる程度の理性があるのか、楽し気な歌声は消えていた。そして、スネイルもイヤホンを外していた。
「メーテル。今直ぐ、ペイターの登録情報を抹消して来なさい。今直ぐにだ!!」
「は、はい!!」
食事も途中でメーテルリンクはプレートを置いて駆け出して陳情したが、上層部にも取り入っていた為か、登録抹消は出来なかった。……アイスワーム討伐作戦が行われる前の話である。