戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「うーむ」
ペイターは唸っていた。最近はレイヴンと一緒に出撃することも多かっただけに、こうして待機を命じられるのは久しぶりだったからだ。
スネイルから不興を買い、本来の乗機であるデュアルネイチャーを没収され、今は惑星封鎖機構のLCを乗り回していたが、データが特殊過ぎてVRに持ち込めないのでアリーナで腕を磨くと言う真似も出来ない。まぁ……暇だった。
「体を休めるのも仕事だ。レイヴンのモニタリングはウォルターとエアが行っている。何かあった時の為にも準備はしておけ」
ナイルは負荷をかけ過ぎない程度に筋トレをしていた。ペイターとしてはこんな汗臭い時間の潰し方は御免だったので、友人である1317を探すことにした。
何か適当に駄弁っていたら時間も潰れるだろうと思って、彼を見つけた。その手には大きなゴミ袋が握られていた。
「1317。それは一体?」
「レイヴンの部屋から出たゴミだ。食いかけのミールワームやレーション。それから、脱ぎ捨てられた衣服とか」
寝間着用の衣服はボロボロだった。何度も洗った為か、色落ちしたような跡も見られた。ウォルターのことだ、経費の削減の為に徹底的に使いまわしているのだろう。ルビコンでオシャレをする必要は無いからだ。
「そうか。頑張ってくれ。では」
下着を掴んでいることを恥じらいでもしていればネタにしようかと思っていたが、特段慌てる素振りも気恥ずかしそうな様子も見られなかったので、多分素面で返されると考えて、ペイターはさっさと別れを告げた。
いよいよ、参考にする相手がいなくなった。ブルートゥとは折り合いが悪いので参考にするつもりはないし、多分できない。となれば、残るはウォルター位なので、レイヴンに指示を出す指令室に向かった所。
「ペイターか。丁度、良かった」
「うん? どうかしたんですか?」
「どうしても外せない用事が出来た。後に回す訳にもいかない用件だ。エアにも連絡は残しているが、621のミッションのオペレーターを替わって欲しい」
暫しの沈黙。通常、ミッション中にオペレーターが変わることがあるとすれば余程の非常事態だ。それこそ、本拠地が襲撃されたりでもしない限りは起こらないだろうが、少人数運営が仇となった。
ペイターは少し考えた。恐らく、この連絡は相当に火急の用件なのだろうと。でなければ、ナイルか1317に頼むはずだ。それらをひっくるめた上で彼は返事をした。
「喜んで!!!」
傭兵起用も担当していたペイターには多少なりともオペレーターの心得があった。ウォルターが小走りで出て行った後、早速ペイターはレイヴンが先行している映像を見た。
迎撃砲台ネペンテス。侵入者を拒むように大出力のレーザーやプラズマミサイルが頻りに放たれていたが、レイヴンには一つも当たっていなかった。自動砲台やタレットで仕留められる程度なら、ここには辿り着いていない。
「オペレーションはペイターが引き継ぎます。レイヴン、ネペンテスへの接近には足場を使って砲撃を防いで……」
「アレ? ラスティ?」
映像を見ていた限りでは、一定間隔で配置されている足場を立てのように用いてレーザーを防ぎながら少しずつ降下していく。というのが、定石であったがレイヴンは落ちながら回避していた。
その途中には無人MTが構えていたレーザーライフルの引き金を引いていたが、蹴落とされたりしてネペンテスの砲撃の餌食となっていた。
「いや、まぁ。通信越しだったら似ていると言われることは偶にはありましたが。……戦友。引き続き、深度への降下を頼む」
「似ているー!」
『今、任務中なのですが』
ペイターは共感性こそ低いが観察力は高い。故に、こうした物真似は得意であったが、揶揄と受け取られることが多かった為、お披露目できずにいた特技の一つだった。なので、こうやってウケたことは若干嬉しくもあった。
「実は伝えねばならないことがあるんだ。今日限りで、私はV.Ⅳの立場をペイターに譲ろうと思う。これからはV.Ⅳペイターとなるんだ」
「ラスティはそんなこと言わない」
急に素面で拒否された。彼女なりに譲れないラインと言うのもキチンとあるらしい。この調子で行けばスウィンバーンの真似も拒否されそうな気がした。
メーテルリンクは性別が違うから出来ないし、ホーキンスの真似は彼に残された僅かながらの良心が拒絶した。良心に関わることをやっている自覚はあるらしい。
「(オキーフさん。いや、レイヴンと面識があるのは燃料基地でだけだし、ネタに出来るタイプではないからな)」
真似にはコツがある。その人物の特徴とも言える部分を強調し、抽象化することだ。オキーフは気怠そうな声色が特徴的ではあるが、ネタにし辛い。……後、恩義はあるので、彼のことを茶化す真似をしたくは無かった。
V.Ⅰのフロイトは殆ど知らない。とすれば、茶化したり揶揄しても全く良心が咎めず、それでいて特徴的な人物と言うのはもう1人しかいない。彼は無い眼鏡のブリッジを押し上げるように、鼻の上に中指を置いた。
「失礼、先程はウチのバカが失礼しました。ペイターの活躍は目覚ましく、アーキバスに取っても誇らしい物です。彼の上司であることを私は誇りに思います。V.Ⅱスネイルです」
「言いそう―!」
『レイヴン。ネペンテス前に降りました。さっさと破壊してください』
こんなバカなやり取りを交わしながら、あの砲撃を全て掻い潜って砲台に直接攻撃を加えて破壊しているのだから。彼女を起用したベイラムの判断は正解という外なかった。
「お疲れ様です、レイヴン。私がオペレーターを務めることを光栄に思いなさい」
「今から帰るねー」
『はい、任務は終わりです。遊ぶのは帰ってからですよ』
多分、ウォルターが席を外しても全く問題なかった様相を繰り広げながら、ペイターはレイヴンの帰投を指示していた。
~~
「先んじて、深度3に進んでいる者達が居る? どうやって?」
「どうにも別口での侵入経路を知っている奴がいたらしい。こんな真似が出来るのは、ルビコンの事情について相当詳しい奴じゃないと無理だね」
通信などの傍受を防ぐ特殊な小部屋にて、ウォルターはカーラから緊急連絡を受け取っていた。今、621がネペンテスを破壊したばかりだと言うのに先んじて深層に辿り着いている者がいると言うことだ。
「ルビコンに詳しい者達……」
ザッと思い浮かぶ者達が居るとすればルビコニアン達が所属する解放戦線であるが、いつ頃から着手していたのだろうか? ……いや、布石はあった。
「だとしたら、ルビコニアンデスビートルは意図的に……」
ルビコニアンデスビートル。企業を始めとした勢力が手を組んでようやく倒した程の相手。元を辿れば、肥大化したミールワームがエンゲブレト坑道に投棄されたことが原因だ。コーラルの逆流まで計算していたかどうかは兎も角として。
何故、ミールワームを捨てて来ると言うバカげた任務にルビコン解放戦線の者達は大陸を渡って氷原までやって来ていたのだろうか? と考えれば、別の任務に当たっていたと考える方が自然だった。
「ウォルター?」
「カーラ。近々、ルビコン解放戦線から依頼があったら気を付けろ。アイツらは俺達が思っているほど、弱小勢力と言う訳ではないかもしれない」
短く注意喚起をするとウォルターは通信を切った。表に出れば、レイヴンも帰投していた。侵入者を阻む砲台が沈黙したとなれば、いよいよ競争は激化するだろう。次の依頼はアーキバスか、引き続きベイラムか。
この場にいる者達の疑問に応える様にして通信が入った。相手はどちらでもなかった。ルビコン解放戦線だった。
「アーシルだ。独立傭兵レイヴン、貴方に依頼がある」
「なにー?」
「我々と共に企業を出し抜いて欲しい。深度3への先行調査に共に向かって欲しいのだ」
誰もが固唾を飲んだ。弱小勢力のレジスタンスに過ぎない彼らが一体、どの様にして先行していたというのか? 全員がブリーフィングを聞き入っていた。