戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
帥父、サム・ドルマヤン。企業の搾取に対抗するべく立ち上げられた原住民達の反抗組織『ルビコン解放戦線』の軍事的指導者であり、かつてこの惑星を灼いた大火『アイビスの火』を生き残った人物でもある。
「帥父。例の独立傭兵の協力もあって『壁』の奪還には成功しましたが、我々の戦力では恒常的に守っていくのは不可能に近いかと」
傍らに立つ男『ミドル・フラットウェル』は率直に述べた。アーキバスとベイラムを追い払ったからと言って安心できる訳ではない。
彼らは企業が持っている資金力に物を言わせて直ぐに立て直して来るだろう。また、彼ら以外にも惑星封鎖機構が各地の調査拠点を制圧して回っており、やはりこれらに対抗するだけの力もなかった。
「構わん。少しの間だけでもいい。落ち着ける場所さえあれば、飢えずに済む」
ルビコンの食糧問題は深刻だった。各地で企業による搾取や戦闘が行われている為、土地は痩せこけ食糧を生産する体制も整わない。
唯一の頼みがあるとすれば、どんな荒地でも育つミールワームにコーラルを用いて養育することで糊口を凌いでいた。
「はい。おかげで子供達も食事にありつけています」
「そうか」
フラットウェルからの報告を聞いて、ドルマヤンの表情からは険が取れた。
企業は新時代のエネルギー源として消費することしか考えていないが、本来は、こうして自然の恵みと同じ様に共生していくべきなのだと。自らが理想としたあるべき姿の一端を見て、ほんの少しだけ救われたような気がした。
「(セリア。私は臆病者だ。君と同じ歩幅で歩けなかった。残された時間は多くないが、それでも。私は人とコーラルとの共生と可能性について、もっとじっくりと考えて行きたい)」
誰に聞かせる訳でもない、誰に分かって貰えるはずもない理想を心中で呟きながら案内された先。そこでは、子供達が歓声を上げてはしゃいでいた。
「ワームワームワームワームワームワームワームワーム」
「見て! 空が赤いよ! キラキラしている!」
「コーラル! コーラル!」
先日発見された異常成長している上、青色に発光しているミールワームをケバブの様に炙って、切り分けているのは、解放戦線の妹分であるリトル・ツィイーだった。
子供達も十分な食事を取れて喜んでいるのか、意味の分からない発言をしたり、口から赤い吐息を吐いたりしていた。フラットウェルの表情が固まり、ドルマヤンはにっこりと微笑んでいた。
「あ、帥父! 視察に来て下さったんですか!」
「そうだ。ツィイー、君が皆に振舞っていたのか?」
「はい! レイヴンもウメェウメェって言って食していましたし、皆にも食べさせてあげたいと思って!」
子供達が喜んでいるのは潤沢な食事だからだろうか。それとも、このミールワームに変な成分が含まれているからだろうか。常人には判別が付き難い光景であったが、ドルマヤンは笑顔を絶やさぬまま頷いていた。
「そうか。ツィイー、君は優しいな」
「そんな、帥父……」
幼い頃に両親を事故で失って以来、ツィイーにとってドルマヤンは父親以上の存在であった。そんな彼から笑顔と共に賞賛を送られたのだ。嬉しくないはずがない。
「それはそれとして、よくもこんな危険物を皆に振舞ったな。貴様はポアだ」
「!?」
「帥父! 落ち着いて下さい! ダナム! アーシル! 六文銭! 止めるのを手伝ってくれ!!」
微笑みから一転。感情のアサルトブーストを吹かしていた。コーラルと人との展望を最悪な形で見せつけられたドルマヤンとしてはブチ切れる外なかった。
フラットウェルが周囲に呼び掛けて制動を掛けるまで、解放戦線の尊師は猛り狂っていた。
~~
「という経緯がありて、同志ツィイーはミールワームを遠方へと廃棄してくる任務を仰せ付かった」
『壁』の奪還に引き続きルビコン解放戦線から、再び依頼が届いた。
今回は暗号通信ではなく公の通信でもある為、ウォルター……だけではなく虜囚となっているハズのG2ナイルも聞いていた。
『でしょうね』
エアは溜め息を吐いていた。分かり切っていた問題を何故回避できなかったのか。何故、コーラルの性質をある程度把握しているハズのルビコニアンが分からなかったのか。
「お前達もコーラルの性質は分かっているハズだ。未然に防ぐことは出来なかったのか?」
「腹を空かした奴らの目の前に食料があるんだ。制動が利く訳がない」
エアとウォルターの疑問については、代わりにナイルが答えていた。通信相手の六文銭も相槌を打っていた。
「うむ。成人した者達に何ら異変が見られなかったことも発見が遅れた要因であろう。稚児達も喜んでいるとばかりと思っていた」
「そんな異様な喜び方をしていたら、もっと早くに気付きは……」
と言いかけて、ウォルターは621の方を見た。今日はオーソドックスにパイプを使ってコーラルを吸引しながらケタケタ笑っていた。
「ウォルター! 私、あのミールワーム飼う!!」
「飼える訳が無いだろう」
「けちんぼ!」
同時に納得した。これを常日頃から見ていたら、常人と狂人のテンションの境目は極めて曖昧なものになるだろう。任務と言うにはあまりに個人的ではあるが、ルビコン解放戦線的には無視することも出来ないのだろう。
「虫だけに!!」
「俺達も暇ではない。それに処分する方法は幾らでもあるだろう。少なくとも、こいつに依頼するよりは安く上がるぞ」
「拙者も爆殺は提案したのだが、帥父から許可が下りなかった。どういう形であれコーラルの賜物を無闇に処分することは気に食わんそうだ」
あまりにも合理性から外れている。そんな彼らに、調査拠点を奪われたナイルは首を振った。
「ルビコン解放戦線は随分と余裕があるらしいな」
「指導者という立場上、権威的なスタンスは必要だろう。621、受けるかどうかはお前が決めろ」
「受ける!」
『即断ですね』
「助力、誠に感謝。同志ツィイーも喜ぶことだろう」
「捨てに行く場所に心当たりはあるのか?」
聞いている限り、コーラル成分がミッチリと詰まっているのだから近場に捨てた所で『壁』に眠っている、コーラルに反応して戻って来る。かと言って、他にコーラルがある場所と言えば企業か惑星封鎖機構が管理している。
「所用があって、我らは中央氷原に来ているが。大陸を隔てたからと言って、路傍に捨て置くのも酷な話だろう」
子供達がアヘアヘしてしまった原因ではあるが、ドルマヤンが激怒するまでは確かに大人達の栄養分ではあったのだ。じゃあ、捨てるなよ。と言われても癇癪を起されたのだからキッチリと捨てなければ納得もしないだろうが。
とことん合理性を欠いた任務内容にウォルターの眉間の皺が深くなっていく。そんな場を収めるべく、ナイルはパチンと両手を叩いた。
「だったら、同時にベイラムグループの同盟会社『大豊』からの依頼も受ける。というのはどうだ?」
「何の依頼だ?」
「中央氷原、エンゲブレト坑道。この場所にはコーラルの感知装置(センシングデバイス)が設置されている。近く、惑星封鎖機構が補修に入るそうだ。更にコーラルを搾り取るつもりだろうが、奴らの手に渡る前に装置を破壊する」
感知装置を潰してしまえば、採取しようにも非効率極まりないことになるだろう。自分達の手に入らない位なら破壊してしまえ。という、焦土作戦の様な物でもあった。
「あそこは中期からコーラルの採掘場所だったからな。今は惑星封鎖機構が管理しているとはいえ、採掘量は多くない。ついでに奴らに対する陽動作戦も併せて。と言った所か?」
「その通りだ。例のバカデカいミールワームを放つなら、少しでもコーラルのある場所へと還してやるのも優しさだろう?」
管理されていないコーラル採掘場所などある訳もなく。捨てに行く場所としては、一番現実的な落とし所だった。
「拙者らを惑星封鎖機構にぶつけるということか?」
「いずれにせよ、ぶつかる相手だ。レイヴン共同作戦で受けている間の方がデータも採取できるだろう?」
G2。ミシガンの参謀と言われるだけにあって、策略には長けている。と、ウォルターは考えていた。切っ掛けが如何に馬鹿らしいものだとしても。
「貴殿の返事を聞こう」
「受ける、受ける」
『何もかもが軽いですね』
実に軽い返事だった。かくして、ルビコン解放戦線、ベイラムグループ、独立傭兵レイヴンと言う奇妙な組み合わせによるポイ捨て任務が始まろうとしていた。