戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
ルビコン解放戦線。企業や惑星封鎖機構の横暴に立ち向かうべく、ルビコニアンを中心として作られた反抗組織(レジスタンス)ではあるが、内実は貧弱その物である。
資金、食糧、人員、武器、弾薬、MT。ありとあらゆる物が不足しており、この戦いに影響を及ぼす間もなく消えていくかと思われていたが、今の彼らはどの勢力よりも先んじてコーラル集積に接近していた。
『レイヴン。彼らと落ち合う場所は、この付近ですが』
彼らの依頼を受けて、レイヴンは指定された場所へと向かっていた。
以前、解放戦線の者達と一緒に肥大化したミールワームを打ち捨てたエンゲブレト坑道だ。既に、現地には六文銭のシノビと見慣れない機体が到着していた。
「来たか、レイヴン殿。いや、まさか再びここで落ち合うことになるとは」
「久しぶりー。こっちの人は?」
「そうか、顔を合わせるのは初めてか。私はミドル・フラットウェル。解放戦線の実質的指導者だ。帥父やツィイー、ダナムからもお前の評価は聞いている。独立傭兵として唯一信用できる存在と見込んでのことだ」
現状、ルビコン3にて一番解放戦線の依頼を受諾、遂行して来た存在であるレイヴンは、組織内でも非常に信頼を寄せられていた。レイヴンの機体を介して、ウォルターからの通信が入った。
「解放戦線のNo.2が態々出向くのだから相当に重要な案件なのだろう。どうやって、先行した?」
「……ここから先は聞かれると不味い。レイヴンに話そうとは考えているが」
彼の予定としてはレイヴンに話をして、事が済んだ後。ウォルターや各位に事情を説明して貰おうと考えていたのだが。
「ツィイーとお爺ちゃん。フレディも元気?」
「あまり芳しくない状況ではあるが、何とかやれている。先日の一件もあって同士ツィイーはミールワームの発見と世話を任されている。ルビコンの守り神を再度生み出そうとしているそうだが」
『いや、あんな迷惑な物を生み出そうとしないで下さいよ』
「すごーい!」
エアの至極当然と言える反応とは裏腹にレイヴンの声は喜色に弾んでいた。
ツィイーと変わらない位だと聞いていたが、ここまで幼いとは思っていなかった。正直、彼女の口から事情を説明できるとは微塵も考えていなかった。
「心配するな。621の機体に記録された会話ログを見れば良い。だが、任務の達成よりも帰還することを第一の命令にしている。いざという時は、恨むなよ」
「構わん。こちらとしても作戦の失敗で共倒れになるよりは次に繋いで貰った方が良い。では、時間も惜しい。進むとしよう」
一同は機体の通信関係を切り、エンゲブレト坑道へと入った。
先のコーラル逆流の一件で廃坑となっており、各所には大破した無人機やドローンを始めとした汎用兵器が打ち捨てられていた。
『レイヴン。廃棄された機体からログを収集して貰えませんか? コーラルの情報導体特性から、先日の逆流で残骸のデータが部分復旧している可能性があります。ここで何が行われていたかという手掛かりが掴めるかもしれません』
「おっけー」
「レイヴン? 誰と……いや、帥父の言っていた友人か」
どうやら、洋上都市での一件は一部の幹部には伝わっているらしく、ミドル・フラットウェルにもエアの存在は把握されていた。
『私のこともご存知ですか。出来れば、私もこの作戦の会議に参加したいのですが……』
「エア、六文銭―! 変なデータ取れた! 裸のお姉さんがいっぱい!」
「貴殿には早すぎる代物。拙者が大事に預かっておこう」
ブルートゥが居れば彼女の考えを出力することも出来たのだろうが、レイヴンには難しいことだった。ちなみに吸い上げたデータにあったポルノの数々はエアが速攻で削除した。フラットウェルは溜息を吐いていた。
「全く。ルビコンの趨勢を決める一手を担っている最中とは思えんな」
『同意です。ですが、今吸い上げたデータはこの坑道が重要視されていない場所だった。ということの証でもありますね』
本当に忙しい場所なら、こんなしょうもないデータを機体に入れている余裕がある訳もない。……少なくとも、この機体のパイロットの普段は、悶々するだけの暇があったということだ。
「アレ? エア。データに何かが隠れている」
『え? 少し確認させてください』
……という印象を植え付ける為のブラフだったのか。だとしたら、このパイロットは一流の工作員だったかもしれない。見られたら問題は生じるが致命的なダメージにならない程度の秘密を先に提示し、本丸は奥に隠しておく。と言った方法だった可能性があるかもしれない。
エアは削除したポルノの数々を再生して、データを搔き分けて隠しファイルとして埋め込まれた箇所を発見して、中を覗き込むと。
『ヴ“ッ』
確かに、見られたら困るデータはあった。犬や動物と見間違わんばかりに体毛がモッフモッフに生やした、人間の様な造詣をした女性が腹を見せて転がっていた。勿論、服は着ていない。似た様な感じで、動物の様な見た目をした二足歩行の生物達のセクシーな画像が大量に並んでいた。
「???」
「レイヴン。貴殿には早すぎる。やはり、拙者が預かっておこう」
『下らない物を見てしまいました』
エアが怒りに任せてデータを削除する手前で、コッソリと六文銭が自身のフォルダにデータをコピーしていた。
下らないデータもありはしたが、一部は有用な物もあった。技研に勤めていたと思しき人間の手記や惑星封鎖機構が用いる機体の設計図。それと、解放戦線の者にとって興味深い物もあった。
「これは、BASHOか。大破しているが、これは先日のコーラル逆流とは関係ない部分だろう。……旧世代のAC乗りが何かしらの事故に遭ったのか、あるいは撃墜されたのか」
『レイヴン。データの回収を』
フラットウェルの推測を他所にデータを吸い上げた所、思いもよらぬ人物の名前が出て来た。
「ドルマヤンの随想録。だってさ」
「帥父の?」
『声を見るようになってどれほど経つだろうか。「尽きることは無いから心配は要らない」。何時ものように恵みを摂る私に彼女はそう言った。「私が君ならゆるさないだろう」 私はそう言って、それから己の欺瞞を恥じた。…セリアさんのことでしょうね』
一体、彼はどれほど前から声を聴いていたのだろうか。そして、セリアはどれほど前から存在していたのだろうか。そんな疑問がエアに過った所で、フラットウェルは固唾を飲んだ。
「『だから、サム。貴方をこの先で待っている』だと?」
もしも、エアに肉体と言う物があれば総毛立っていた所だろう。データを採取された機体は、あろうことか立ち上った。
『レイヴン! 迎撃を!』
「いや、待て」
全員が構えはしたが攻撃して来る様子もなく、まるで付いて来いと言わんばかりに先行し始めた。
「帥叔フラットウェル。追いかけるべきか?」
「元より、この坑道から続く道を進む為に来たのだ。行くぞ」
動き出した旧型ACを追いかけるようにして、一同は坑道の奥へと進んで行く。
やがて、かつて破壊したセンシングデバイスが野ざらしになっている場所に辿り着き、先行していた旧型ACは坑道の底に向かって飛び降りた。
「なるほど。件のミールワームが表に出て来たのだから、この坑道の地底が奥深くへと繋がっているのも道理ではあるのだろうが」
コーラルの逆流を起こした様な地底に飛び込めばどうなるかは分からない。流石に刺激を与える訳ではないので再び逆流現象の様な物が起きるとも思えないが、何が待ち受けているかも分からない。
だからこそ、帥叔としての責任を果たすべく六文銭とレイヴンを引き連れてやって来たフラットウェルであったが。
『レイヴン。この先には巨大な空間が広がっています。ですが、飛び降りた例の機体の反応はあります』
「行くよー」
「なっ!?」
彼の逡巡などお構いなく、レイヴンは飛び込んだ。先日、ウォッチポイントアルファに飛び込んだばかりなので、落下することには慣れていたのかもしれない。
フラットウェル達の機体に交戦情報が入って来ないことから、降りている最中に迎撃されるということも無さそうだった。
「帥叔。我々も」
「うむ。行くぞ!」
少し遅れて、六文銭とフラットウェルも坑道の最奥に広がる地底に向って飛び降りた。ウォッチポイントアルファと違って、迎撃は無くとも先が何処に繋がっているとも分からない降下であった。