戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
『IE-09: HELIANTHUS。中々に洒落た名前を付けた物ですね』
大橋の上から様子を眺めていたセリアは独り言ちていた。車輪状に幾重もの破砕用刃を取り付けた姿は、側面から見ればヒマワリの様に見えなくもない。
ただ、轢き殺さんばかりに猛進し側面から火炎放射やミサイルを放つ姿には、兵器然とした殺意しか見当たらなかったが、大橋から降りたレイヴンは次々と撃破していた。
「あの兵器は、興味深い」
観察に徹しているフラットウェルを守る様にして六文銭が警戒を続けている間にも、次々とヘリアンサスが撃破されて行く。
側面から攻撃されて大破されるのは勿論、猛進をするにしても直線的な軌道でしか進めないことを利用しての同士討ちを誘導したり、あるいは壁に激突させたりなど、武器の火力だけに頼らない柔軟な戦い方が見て取れた。
「戦場にいる立ち振る舞いとは思えん。さながら、牛若丸の様だ」
六文銭はふと、日系の古典に出て来る武将の幼名を思い出した。時に八艘もの船を飛び越えたという身軽さ、奔放さ。そう言った傑物はいつの時代にも存在しているのかもしれないと考えていた。
『レイヴン。この機体のログは……画稿ですね』
「絵、上手っ」
この時代の娯楽や芸術はAIによって作られた画一的な物か、あるいは旧時代の古典的な物であり、人の手で描かれた物と言うのは非常に珍しくはある。
だが、彼女のお目当てはコチラではない。大破したヘリアンサスを背後に、彼女はコンテナを開けた。中に収められていたのは、ブレードの発振器と思しきものが取り付けられた腕部兵装だった。
『近接武器ですね。……『IA-C01W2: MOONLIGHT』。先に拾った『IA-C01W3:AURORA』と同じく、レーザー技術とパルス技術の複合品の様です』
この都市で行われていた研究の一端が見えるかのような兵器だった。
安全が確保されたと分かるや、フラットウェルと六文銭も大橋から降りて来た。そして、彼女が見つけたパーツを見た。
「レイヴン。機体重量的に考えて、持ち運ぶのは大変だろう。私が預かっておこう」
彼女の機体は両手に『SG-027 ZIMMERMAN』、肩部に『SONGBIRDS』も載せているのだから、積載量に余裕が無いのは事実だった。
一方、フラットウェルが積んでいる武器は殆どが軽装な物であり、十分に載せられるだけの余裕がある。
『この人、直ぐに人が見つけた物を預かろうとしますね』
「はい」
エアの疑いを特に気にすることも無く、レイヴンはフラットウェルに『IA-C01W2: MOONLIGHT』を渡した。彼は『BML-G1/P20MLT-04』をパージして、バーストライフルをマウントしてから、渡された武器を装着していた。
『この技研都市で最初に乗り込んだ甲斐もありますね』
大橋の上に戻ると、セリアからそれとなく寄り道に対する皮肉を受けつつ、彼らは先に進む。
ヘリアンサスの様な怪物こそ出てはこなかったが、プラズマミサイルやパルスバリアを装備したMTを撃破しつつ先へと向かうと、巨大な建造物が見えた。
「これは一体」
『バスキュラープラント。このルビコンにおけるコーラルを吸い上げる為の装置です。レイヴン、説明できますか?』
六文銭の疑問に応えるべく、セリアが解説をしたが彼女の声は聞こえていない。故にレイヴンを介して説明を出力した結果。
「コーラルを吸い上げるんだってさ。ストロー?」
「バスキュラープラントと言った所か。となると、この下に広がっている湖の全てが……」
フラットウェルに緊張が走る。今、自分達はルビコンで最もコーラルの源泉に近い場所にいる。これらを手に入れることが出来れば、ルビコン解放戦線は企業と交渉の卓に付ける……いや、奪い取られるだけだ。
ならば、これらを利用した兵器や力に換えれば、虐げられて来たルビコニアン達が反撃の狼煙を上げることも出来るのではないのか? 沸き上がる興奮と予測に突き動かされるようにして、彼は湖に向って突き進んだ。
『コーラルに目が眩みましたか』
『レイヴン! 高速で接近する機体反応が!!』
「帥叔!!」
セリアが呟き、エアと六文銭が叫んだ。バスキュラープラントへ近付こうとした、フラットウェルに高速で飛来する機体がいた。
「なんだと!?」
間一髪の所で回避したが、現れた機体を見て言葉を失っていた。
非常に奇妙な造詣をしていた。上半身の大半を占める程に巨大化した肩部から大量のオービットが射出されていた。いずれも、赤い粒子を撒き散らしている。
腕部と脚部は異様に細く、胴体と肩部が本体であるかの様に思えた。
『セリア! この機体は!?』
『IB-01: CEL 24。アイビスシリーズと呼ばれる、コーラルの最終安全装置です。このバスキュラープラントを接収しようとした者達を迎撃する為の防衛兵器』
詳細を知っている。ということは、彼女は交戦状態になることを承知で、自分達をここまで連れて来たのだ。
『貴方は……!』
『いずれにせよ、コーラルを目指すなら遅かれ早かれぶつかる相手です。乗り越えて下さいね』
レイヴンと六文銭も飛び降り、フラットウェルと合流した。現れた3機を破壊するべく、アイビスは飛翔して両肩から大量のオービットを展開した。
~~
深度2を探索していたベイラムの部隊は、惑星封鎖機構が遺して行った無人機達と交戦をしつつ先に進んでいた。度重なる襲撃で損耗は重なっており、幾度も撤退と合流を繰り返している。
「レッド。アーキバスの連中はまだ動いていないだろうな?」
『はい、確認は出来ていません』
イグアスが後方へと下がったレッドへと確認を取った。未だに動きを見せないアーキバスを不気味に思うも、高みの見物を決め込んでいるのだと納得して、五花海と共に進む。
「道中で幾度も会敵した例の大型機。惑星封鎖機構から接収した情報と照合するに『AAP03: ENFORCER』と呼ばれる物だそうです」
「『執行者』とは大層なネーミングセンスだな」
ACの2倍近くはあろう体高と比例するかの様な強力な武装ではあったが、向こうは1機だけ。こっちは組織だったバックアップを受けながら進めるので、殆ど力押しでここまで来ていた。
このバックアップや経路の確保は補給の意味合いもあったが、もう一つ。アーキバスや敵対者が侵入して来た際の備えも兼ねていた。
「(妙ですね。連中がここまで動きを見せないとは)」
五花海としても介入が無いことは有難いことであったが、この静けさは不気味でもあった。やがて、進んだ先にある開けた場所に出ると。道中で自分達を襲撃していた機体『AAP03: ENFORCER』が迎撃の構えを取っていた。
「オラッ! 行くぞ!」
1対1で戦えば強靭な相手であることは間違いないだろう。しかし、物量で物を言わせるのなら話も違う。イグアス達が確保した経路を使って現れたのは、シールドを構えたMT達だった。
前方に盾を突き出した機体が並び詰め寄って行く。如何に、無人機で高性能機である『執行者』も物量による圧殺に磨り潰されるのは時間の問題だった。
~~
ベイラムがレッドガン部隊を投入して、ウォッチポイントアルファの攻略を進めている中。アーキバスはと言えば、別方面から作戦を進めていた。
「スネイル閣下。予測通り、エンゲブレト坑道の方にレイヴンが現れたのを確認しました。未だに出て来ていません」
「ご苦労です。……恐らく、私の見立て通りでしょう」
ベイラムも予測していた通り。彼らは、切り開かれた道を通ろうとしていた。だが、それはレッドガンが辿ったルートでは無かった。
スネイルは部下から受け取った報告を、ヴェスパー達にも聞かせていた。スウィンバーンが小さく手を挙げた。
「閣下。つまり、この坑道は奥があると?」
「そうです。企業からの依頼を無視してまで、ここを進むということはルートを把握しているということでしょう」
「それならば、何故。レイヴンはネペンテスの破壊を?」
メーテルリンクの疑問は尤もだった。態々、身を危険に晒してまで砲台を撃破するなら、最初からそのルートを使えば良いだけだ。ここで、彼女の疑問に応えたのはホーキンスだった。
「今、ベイラムが必死に攻略している所から判断するにさ。恐らく、彼女は切り口だけ作って、そこに注視する様に誘導したんじゃないかな?」
「なるほど。目の前に進む為の道が用意されていたら、注意を引かれますからね
あのレイヴンに思い浮かばなかったにしても、彼女の背後にいるハンドラー・ウォルターならば考え付きそうなことだ。
「だからこそ、彼女が別口でルートを見つけていると考える方が自然です。我々も出撃しましょう。ただし、相手はレイヴンです。精鋭が望ましいでしょう」
全員が息を呑んだ。未だ、ヴェスパー部隊内の交戦経験がある者で、彼女に勝った者は誰も居ない。誰もが言葉に詰まる中、当然の様に挙手した人間が居た。V.Ⅳのラスティだ。
「ならば、私が行こう。オキーフは情報収集がメインであるし、彼女が機体を動かす時の癖は把握している」
「言われなくとも、貴方を選抜する気でした。それと、スウィンバーン。貴方も付いて行きなさい」
「は!? か、閣下。理由を……」
思わず、叫んでしまった。明らかに自分は力不足であると言うのに、何故選抜されたのかと。
「ヴェスパー部隊内で、彼女の好感度が高い二人を選んだだけです。負ける可能性は十分にあり得るでしょうが、殺されはしないでしょう」
動機としてはあまりにも理由付けが弱い気がする。策士であるスネイルの提案とは思えないが、彼がレイヴンの情に関する部分を利用していると考えれば、納得は出来なくもなかったが。
「スウィンバーン。共に彼女に打ち勝とうとか」
「は。ハハハ……」
そんな修羅場に放り込まれることになったスウィンバーンは苦笑いするしかなかった。一方、ラスティも笑いながらチラリとスネイルの方を見て……少しだけ眉をひそめていた。