戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「ご友人は今頃、どうしているのでしょうか」
ブルートゥを始めとした猟犬(ハウンズ)部隊は、拠点で待機していた。
ウォッチポイントアルファの様子は彼らにも伝わっているが、レッドガン部隊が深度2を突破したというのに、一向にアーキバスの動きは見えないし、レイヴンからの連絡も入って来ない。
「レイヴン達が使っているルートをアーキバスも察したのかもしれん。ウォルター、状況の確認はどうだ?」
「ナイル。お前の同僚達が深度2の攻略と環境を整えてくれたおかげで、こちらも通信拠点を間借りできそうだ」
惑星外からの観測も不可と言う位に地中深くにある場所には通信も届き辛い。が、これらはレッドガン部隊が解消してくれたらしい。この切り口を作ったと言うならば、ネペンテスを攻略したことも無駄ではなかったようだ。
「映像。出します」
1317がモニタに映像を出した。一同が驚愕に目を見開いた。
既にレイヴン達は交戦に入っている。相手はMTやAC、汎用兵器の類ではない。IA-02程ではないが、規格外とも言える造詣をしており、機動から攻撃方法まで常軌を逸していた。
「『IB-01: CEL 240』アイビスシリーズ……。そうか、621。バスキュラープラントへと辿り着いていたか」
「ウォルター。あの機体を知っているんですか?」
尋ねて来るペイターはレイヴンを心配しているのと同時に、アイビスと呼ばれている機体にも興味津々だった。
「かつて、技研が遺したコーラルの最終安全装置。平たく言えば、防衛兵器だ。無断でバスキュラープラントに接しようとした者達は、例外なく奴に排除される。聞こえるか、621」
ウォルターの呼びかけにも反応はない。送られてくる映像からも彼女達が苦戦している様子が伝わって来ていた。
「ウォルター。ご友人を助けに行きましょう! 私のミルクトゥースも修理は終えています!」
「今から行った所で、交戦には間に合わないだろう。だが、姿の見えないアーキバスの動向も気になる。エンゲブレト坑道へと向かえ。ルートは先程、通信をした際に受け取っている。1317は残れ」
「分かった」
ブルートゥを始めとした3人は頷き、AC2機とLC1機が出撃した。そして、ウォルターと1317は引き続きモニタリングを続けていた。
「(恐らく、621が交信を取っている半壊ACの中身はエアと似た様な存在なのだろう。コーラル護衛任務の時と言い、こちらに対して少なからぬ興味を抱いている様だが……)」
アイビスの猛攻を掻い潜る面々を観察しながら、ウォルターが通信を入れた先はルビコン解放戦線だった。
「貴様は、レイヴ……猟犬の飼い主か。依頼の件か?」
「そうだ。サム・ドルマヤンに変わって貰おうか」
通話を取ったリング・フレディは躊躇った。もしも、これが企業や根無し草の独立傭兵なら一蹴していただろう。だが、レイヴンには少なからぬ恩があり、彼が敬愛するドルマヤンも彼女のことは甚く気に入っている。
だが、帥父の威厳を考えて軽々に話をさせて良い物かと考えていると、フレディの名前を呼ぶ声がした。
「フレディ。替わりなさい」
「帥父……。分かりました」
何処から会話を聞いていたのか。まさに件の人物であるサム・ドルマヤンと直ぐに出てくれた。
「単刀直入に言う。セリアと言う人物……いや、存在のことを知っているか?」
「……レイヴンから聞いたのか?」
「そんな所だ。ソイツが彼女の前に姿を現して、何かをさせようとしている。心当たりはあるか?」
少なからぬ驚嘆が伝わって来た。反応を見るに、今もいるとは信じていなかったような雰囲気だ。
「そうか。彼女はまだ諦めてはいなかったのか」
「何についてだ?」
「『コーラルリリース』と呼ばれる、我々との共存方法だ」
「……1317。621のモニタリングを替われ。俺はドルマヤンと話をする」
「馬鹿な。俺はアイビスシリーズについて、殆ど何も知らないぞ」
「大丈夫だ。俺も先程話した情報以外は、何も知らない。戦闘のサポートに関しては、お前と俺では変わりないということだ」
~~
アイビスはレイヴンとしても初めて相対する無人兵器だった。
バルテウス、シースパイダー、アイスワーム、ルビコニアンデスビートル。いずれも常軌を逸した質量と攻撃力を持つ兵器達だったが、彼女は持ち前の機動力で翻弄して来た。
だが、目の前の相手は自分よりも早い。無人兵器であるがゆえに、パイロットへの負担を踏み倒したかのような高速機動に翻弄されている。
「酔いそう……」
『レイヴン。相手は無人機です。ある程度のパターンがある筈なので、私が割り出すまで耐えて下さい!』
「うぉおおお!!」
六文銭とフラットウェルも攻撃を仕掛けるが、アイビスは超反応と呼んでも差支えの無い速度で攻撃を避けていた。更に、攻撃を仕掛けて来たことを咎めるように周囲に浮かんでいるオービットが彼らの機体にレーザーを照射する。
「ぐっ」
このビットの照射もまた人間が取り得る回避行動のパターンを研究し尽くしたかのような挙動を取り、1つ目の攻撃を避ければ、2つ目は回避先に攻撃を。2つ目の攻撃を避けるかのようなフェイントを入れると、3つ目が着地取りや包囲攻撃へと切り替えて来る。
交戦経験が豊富な六文銭やレイヴンは回避が出来ていたが、フラットウェルのツバサは機体の各所に被弾していた。
「帥叔! 下がれ!」
だが、被弾に寄る機動力の低下は避けられない。機体が制御不能(スタッガー)状態に陥った所で、両腕部の発振器からクロス状のエネルギー刃が放たれる。間一髪で機体を動かして回避したが、既に機体は限界に達していた。
「すまない。散々にパーツを預かっておきながら、この始末だ。撤退する」
「あいー」
彼の撤退を援護するべく六文銭とレイヴンが引き続きアイビスに攻撃を仕掛ける。流石に2機の連携攻撃は全てを回避できることも無く、被弾をした時の挙動とダメージの大きさから、装甲は極度に削られている物だと察した。
『レイヴン! パターンを解析しました! 説明します!』
「うん!」
「レイヴン。そちらに合わせる!」
アイビスが飛翔して、周辺を薙ぎ払う様にしてビットによる一斉掃射を行う。これらの攻撃を回避すると、身を翻しながら腕部に展開した刃で切り付けて来る。
先の攻撃でビットの回避にブーストを使い過ぎていると、避ける事が難しくなるが、このパターンを知っていればブーストの管理も出来なくはない。この擦り抜け様の斬撃をも回避できた時、初めて相手の隙を付くことが出来る。
『今です!』
「おっしゃー!」
放たれた『SG-027 ZIMMERMAN』の散弾がアイビスの装甲を引き裂き、追加でアサルトブーストの加速を乗せた蹴りが入る。すると、制御不能(スタッガー)状態へと陥った所に、もう片方の手に握られた『SG-027 ZIMMERMAN』の一撃が入る。
本来なら、ここで追撃は終わって姿勢を立て直していただろうが、今は2機掛かりだ。六文銭のシノビもアサルトブーストを吹かした上での蹴りを入れ、『44-143 HMMR』から射出された高速回転体で強か打ち付けた。
『止めてはいけません! レイヴン!』
「うん!」
これら、一連の流れで拘束をした後。再び、レイヴンは先程のワンセットを繰り返した。ただし、機体的にはかなりの負荷が掛かる無茶な挙動だったのか、着地をした時に関節部分に大きな負担が掛かっていた。
しかし、その甲斐性もあったのか、ダメージの限界を超えたアイビスは小さくコーラル粒子の爆発を巻き起こしながら機能を停止させていた。
『敵機、コーラル反応停止……』
「やったか!?」
通信越しから1317の声が入って来た。レイヴンと六文銭も長期戦に持ち込まれず、一安心した瞬間。水面を赤い……コーラル粒子の閃光が走り、アイビスへと注入されて行った。
「なんだ!?」
六文銭が叫んだ直後のことである。彼の機体であるシノビに多数のコーラル粒子によるレーザーが照射された。ダメージの限界を超えて爆破する直前、六文銭は脱出レバーを引き、遠方へと射出された。
『周辺コーラルとの共振。環境からエネルギーを受けています』
「嘘でしょ?」
楽天家であるレイヴンでさえ困惑していた。先の交戦でも相当に無茶をしたというのに、相手は再起動して来た。
しかも、こちらに対する脅威度を引き上げたのか。明らかに攻撃の規模も頻度も増している様子だった。先程は、フラットウェルと六文銭が居てくれたのでターゲットも拡散して回避もし易かったが、今は自分1機だけだ。
『ジェネレーターを破壊しない限り、この機体は止められません…!』
「コーラルを守る。って……」
ポツリと呟きながらも、レイヴンは激しさを増す攻撃を回避していた。しかし、先程無茶な動きをしたことが原因か、回避運動を取った時に姿勢が崩れた。
その挙動に合わせるべく、アイビスは吶喊を仕掛けて来た。赤い刃が迫る。エアが悲鳴にならない叫びを上げようとした所で、レイヴンは笑みを浮かべた。
「来た」
『え?』
接近して来たアイビスが吹き飛ばされた。何が起こったかとレーダーを見れば、新たな反応が2機。
「戦友。今のは、敵で良かったのか?」
「ラスティ!」
「まさか、本当に繋がっているとは」
『アーキバス!? 後を追って来たのですか……』
現れたのは、ラスティが駆るスティールヘイズとスウィンバーンが搭乗するガイダンスの2機だった。先のキックは致命傷足り得ず、アイビスは依然として排除の意思を見せていた。
「君を連れて来たであろう者達が見つからないが、まぁいい。この場を切り開くことを考えよう」
「わ、私もやるぞ! コーラル集積が目の前にあるのだから!」
「うん!!」
先程までの調子とは一転。機体とパイロットの損耗は決して軽くは無い物の、彼女は立ち向かう気概を奮い立たせていた。
「これは行幸。解放戦線の用心棒とNO.2も退け、コーラルの防衛兵器とバカ犬も損耗しているとは。メーテルリンク、ホーキンス。警戒を怠らず」
「ハッ! 閣下!」
「いや、まさかラスティ君達にも知らせないとはね。敵を騙すにはナントヤラとは言うけれどさ」
そんな彼女らを、ヴェスパー部隊長達は遠巻きに眺めていた。背後には、鹵獲した惑星封鎖機構のMTを引き連れながら。