戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「相手がヴェスパー部隊でも怯むな! 構え!!」
レッドの号令が響く。ベイラムのMT部隊は一斉にシールドを構えて、手にした『ZIMMERMAN』の引き金を打ちながら、包囲網を狭めて行く。
パイロット個人の練度を見ればアーキバスに分があるが、物量による圧殺を覆すには至らない。
「畜生! コイツら!!」
惑星封鎖機構から鹵獲した高機動MTに乗っているアーキバスパイロット達も応戦するが、彼らの手持ち火器ではシールドを突破出来ずにいた。
通常、戦場でシールドは軽視されがちだ。というのも、重量が凄まじい割には砲撃や接近戦に弱く、本体が先に潰されるケースも多々ある為だ。
ACの場合は、軽量のパルスバックラーもあれば、そもそも攻撃を被弾しないように高速で立ち回る方が一般的だった。
「豆鉄砲しか持っていないアーキバスの貧弱共が!」
だが、数を揃えてシールドと攻撃の役割を分担できるのならば、話も変わって来る。相手の攻撃を耐えながら、高速で動き回られても問題がない程の面攻撃と威力を兼ね備える『ZIMMERMAN』が大量に配備されたからこそ、出来る戦法だった。
次々とアーキバス側の機体が撃破されて行く中、ヴェスパー部隊長達の動きは様々だった。
「(正面から戦う訳にはいかない)」
V.Ⅵであるメーテルリンクはベイラム部隊を見るに直ぐに、あの場を脱していた。近くにある建物付近に隠れていると、見慣れない機体が擱座しているのが見えた。
「(パイロットは既に脱出した後か。レイヴンと一緒にアイビスと交戦していたが、大破する前に機体を乗り捨てたと言った所か)」
胴体部分や頭部の損傷は酷いが、腕部と背部の武装はまだ生きていた。
特に左腕に装着している近接兵装は彼女も見たことがない物であり、パルスガンではベイラム部隊を突破できないと踏んだ彼女の判断は早かった。
「(よし、動く)」
パルスガンを廃棄し、右腕部に装着する。左腕部の『HI-32: BU-TT/A』と併せて、近接戦に特化した兵装となっていた。流石に背部兵装までは入れ替えることは出来なかったが、十分だった。
スキャンを掛ける。建物に入って行く姿が見られていたのか、表には数機のMTを率いたG6レッドのハーミットがオープンチャンネルで呼びかけていた。
「お前は包囲されている! 武装を解除して出て来るのなら、丁重に扱おう! 共にルビコニアンデスビートルを討伐した仲だ! 悪い様にはしない!」
そう言えば、と。メーテルリンクは思い出していた。あの機体とは、共にルビコニアンデスビートルの脚部を切り飛ばした仲だと。
僅か数日前の出来事だと言うのに、企業の意向次第ではこうも簡単に敵対するのがルビコンである。だが、彼女は迷わなかった。
「私もヴェスパー部隊長だ。スネイル閣下の任務を成功させるまで!」
鹵獲した『IA-C01W2: MOONLIGHT』がチャージされ、ブレード上のエネルギー刃が射出された。MT達が構えていたシールドによって防がれるが、もう一方の腕に装着されている『HI-32: BU-TT/A』を続けざまに振るい、ベイラムのMT達を切り裂いた。
「ならば、倒すまで!」
ハーミットも『ZIMMERMAN』を構えて引き金を引いた。パルスバックラーが出現させたバリアによって防がれるが、他のMT達からも続けざまに攻撃を食らって、あっと言う間にインフェクションは制御不能に陥る。
「このっ!」
背部兵装の『FASAN/60E』から、チャージされたプラズマ弾が放たれて周囲に爆破が起き、シールドを持っていたMT達の姿勢が崩れるのを見計らってブーストキックで吹き飛ばしていた。
だが、正規のルートで突入して来たベイラムは援軍が送り込まれてくるのに対し、裏口から入ったメーテルリンク達の兵力は限られており、彼女が損耗していくのは分かり切ったことだった。
「だと言うのに、なぜ戦う! 武器を降ろせ!」
故に、レッドは問うた。戦場に身を置いて日の浅い彼には、青臭い価値観が残っていた。だが、彼女は諦めなかった。
「アーキバスに栄光を!!」
不利を悟った彼女は周囲の敵を蹴散らして撤退を試みるが、多勢に無勢。奮闘はした物の、捕獲されるまで時間は掛からなかった。
~~
「どうですか、ご老体。V.Ⅵは捕獲されたそうです。貴方も投降して下さいよ」
「悪いね、応じられないよ。私の方が有利だから」
五花海は小さく舌打ちをした。互いに四脚AC使いであり空中戦を繰り広げていたが空戦に関してはアーキバスの方に分があり、ホーキンスのリコンフィグは『Vvc-770LB』レーザーブレードを振るい、鯉龍を切り伏せていた。
「ここまで来て…!」
「五花海隊長!」
「何をしているんですか! 離れなさい!」
直ぐに周囲のMT達が駆け寄った所で、ホーキンスはチャージした『Vvc-774LS』によるプラズマ弾を放った。駆け寄って来たMT達も含めて爆破に巻き込まれ、機能を停止させた。
「生体反応は……うん。ロストしていないね。これなら、メーテルリンク君への扱いも悪くはならなさそうだ」
他にも交戦しているMTやAC達はいたが、ホーキンスは単身でスネイル達が消えた方向へと向かった。その折、戦線を離脱していたスウィンバーンから通信が入って来た。
「ホーキンス殿! 他の者達の援護は……」
「今の目的はレイヴン君の確保だからね。他の皆も、ちゃんと自力で切り抜けて貰わないと」
V.Ⅴホーキンス。ヴェスパーの年長者であり、柔和な人柄は多くの人を惹き付けているが、戦場においては熟練のパイロットである。
戦闘能力を失っているスウィンバーンも同じ様にして撤退する外ないが、背後で戦っている同僚達がやはり気掛かりであった。
特に、V.Ⅳのラスティはアイビスと戦ったばかりだと言うのに、レッドガン最強の男G1ミシガンが乗るライガーテイルと多数のMT、重MTを相手取っていた。
「これだけの人数を相手に立ち回るとは! 中々の腕前だ! ワーム討伐の時に見せた狙撃の腕前も良い! どうだ、ウチに来ないか!」
「ベイラムの歩く地獄から直々の勧誘は喜ばしいことだが、それならば、私を落とす位の実力は見せて貰いたい物だ!」
レイヴンと共に壁越え、宇宙港襲撃、2大ワーム撃破、そして。先程、アイビスと言うコーラルの護衛者を倒した技量はすさまじい物だった。
大量のMTによる弾幕を避け、あるいは切り落としながら、すれ違いざまに切り裂いていてく。シールドの隙間を縫って、あるいはアイビスの動きを再現するかのような低空飛行からの足元の切り捨てなど、人間離れした技には恐怖すら覚えた。
「ちゃんと帰投するのも任務だからね。早く行こう」
「わ、分かりました」
こうして、スネイルに続いてコッソリとスウィンバーン達も戦場を抜け出していた。……それからも、暫く交戦は続いていたが、やがてベイラムの物量に押し潰される形でアーキバスのMT達は沈黙して行った。
「G3! G6! 報告だ!」
「はい。こちらは……V.Ⅴに敗北。取り逃しました」
「こちらは、V.Ⅵの捕縛に成功しました。武装解除と拘束は済ませております」
「G6! ここに来て一番の大手柄だ! G3! ここに来るまでに疲れたか! 直ちに帰投して、体力の回復に励め! 俺の子守唄も必要か!」
「結構です。……そう言えば、G5は?」
「アイツは体力が有り余っていたからな! 尻尾を撒いて逃げた連中を追いかけて行った!」
恐らく、ミシガンの制止を振り切ったのだろう。有象無象は撃破できたが、ヴェスパー部隊長達には見事に逃げられていた。
「不味いですよ! イグアス先輩だけだと危険です!」
「心配いらん! ウォルターの奴が残した猟犬(ハウンズ)共がいる!」
~~
「シャァアアアア!」
大量のミールワームから威嚇されつつ、時には飛び掛かられつつ。スネイルは来た道を逆戻りしていた。その手には、レイヴンを抱えつつ。
「(ふん、まぁ良いでしょう。精々、ぬか喜びしていると良い。このバカ犬さえ確保して、ウチの尖兵にすれば幾らでもおつりが来る。それまで、束の間の勝利に浸っているがいい)」
戦場に置いて来た他のヴェスパー部隊長や部下達のことは一切気にせず、目的の為に冷徹に行動し続けるからこそ、彼の作戦はアーキバスに貢献し続けて来た。
今回もまた、目的を達成しようとした所でレーダーに反応があった。見れば、3機。こちらに向かっている。直ぐに予想は付いた。
「(ウォルターの所の、狂犬共とカス!!)」
冷や汗が浮かんだ。もしも、ここに来ているのがG2ナイルだけなら話し合いの余地があったかもしれない。ブルートゥも辛うじて言いくるめることは出来たかもしれない。だが、残りの1人が問題だった。
「アレェー???? 誰かと思えば、スネェエエエエイィィィル閣下ではあぁあありませんぇかあああ!」
間もなくして会合した。ACではなく、惑星封鎖機構が残したLCに登場しているパイロット。V.Ⅷのペイターであり、スネイルの天敵でもあった。
スネイルは思考を走らせる。ここでレイヴンを人質に取って突破を試みるか。いや、タコ殴りにされて終わるだけだ。ならばと、彼は即興で台本を用意した。
「ペイター、久しいですね。先日のワーム排除以来ですか。ここに来たということは、貴方達もレイヴンの救助を?」
「も?」
「はい。この先にはコーラル集積があるのですが、強力な護衛がいました。私は命からがら、レイヴンを連れて逃げ出していた所です。悪いことは言いません。この先に進むのは止めなさい。一旦、引き返しましょう。命あっての物種です」
そう。今の自分はレイヴンを助けて、危機的状況から脱する勇者なのだ。彼らには状況の仔細は把握できていないはずだし、レイヴンを連れて帰るなら、この案にも乗るかと思ったが。
「貴様、偽物だな!! あのハゲが!! 私達のことを心配する訳無いだろ! あの不毛地帯なら『レイヴンが交戦して、相手も弱まっている。トドメは任せました』とか言って、私達を送り込む位の性根の悪さを見せるはずだ! 」
ブチっと。スネイルはキレる音を聞いた。だが、ここで癇癪を起せば全てが台無しになる。理性と感情の頂上決戦が静かに行われながらも、表面上は冷静さを見せる為にフゥと溜息を吐いた。
「ペイター。貴方はいつになったら、感情と私欲だけで行動する猿の様な振る舞いから卒業できるのですか? いえ、猿ですら生存の為に己を律することは出来るでしょう。欲望のままに行動する貴方は、野に放たれた獣と変わりない。野獣です。野獣。この汚物が!!!」
「はぁああ!? 言うに事欠いて、人のことを野獣だの! 汚物だの! もう許さねぇからな!」
「お、おい。余計な揉め事は……」
ナイルが制動するが時は遅く。スネイルの罵倒を実現するかのようにして、ペイターは野獣の如き容赦の無さで、LCの腕部から出現させたスタンバトンをオープンフェイスに叩き付けていた。
普段のスネイルなら回避できていたかもしれないが、幾つか計算外があったので反応できなかった。
1つ。レイヴンを担いでいたこと。これによって動きが鈍るのは道理だろう。
2つ。まさか、敵味方も確定していないというのに、手を出して来るとは思わなかった。もしや、最初から自分を亡き者にするつもりで来ていたのかもしれない。
「おい!? ペイター! 何をしている!?」
「ここで殺して、野ざらしにして、ミールワームの餌にすりゃバレませんよ!」
「可哀想なお友達。倫理観が終わっていますね……」
機体は強制放電して、レイヴンと同じ様に崩れ落ちている中。スネイルは歯ぎしりをしていた。このままでは、バカに殺されかねんと。
「(こ、このカスが……! 私が死ぬ? こんな所で! 誰か! 誰か私を助けろ!!)」
強化人間の施術を受けていたおかげでギリギリ意識は保っていたが、体は動きそうになかった。そして、意識が途切れる前の彼の要望が届いたのか。2機のACが駆けつけて来た。
「閣下!?」
「おや、ペイター君と皆じゃないか。それにスネイルも……あぁ、なるほど。そう言うことか」
「ほ、ホーキンスさん!?」
流石に恩師に見られることだけは気が咎めたのか、シュルシュルとスタンバトンが腕部に収納されて行った。
スウィンバーンの機体はボロボロだったが、ホーキンスの機体は殆ど損傷がなく、コーラルを守る強力な護衛と言う物にぶつかった様には思えなかった。と、すれば。事情は何となく察した。なので、ナイルは罪悪感を掻き消す為にふんぞり返った。
「さて、どういうことか説明して貰おうか。V.Ⅴ、V.Ⅶ」
「弁明の余地があるとは思ってないよ。でも、困ったね。流石にペイター君も含めた3機には勝てるとは思わないよ。だよね、スウィンバーン君。」
「……むぅ、そうだな」
スウィンバーンは戦力にならないので、都合ホーキンスだけで戦うことになるが、流石に彼も3機を相手取れるとは考えていなかった。
「穏やかなご友人。私達はレイヴンさえ連れて帰れたら良いのです。お互い、ここで手を引きませんか?」
「一番妥当な選択だね。どうする? スウィンバーン君?」
「私が選ぶのですか!? では……」
当然、戦えないので撤退の一択だ。……それに、スウィンバーンには先の遣り取りが過っていた。あの少女が、再教育センターに連れていかれる位なら、元の場所に戻した方が良いだろうと。
「閣下の安全を確保したいこともありますし、奴らの取引に応じ……」
「その必要はない」
スウィンバーンが返答しようとした所で、背後から凄まじい勢いでスティールヘイズが駆けて来た、少し遅れてヘッドブリンガーの姿もあった。
「イグアスか!?」
「おい! ナイル参謀! ぼさっとしてんじゃねぇ! そいつらはアホ犬を誘拐しようとしてたんだぞ!」
「何!?」
ようやく、ここに至って事態を理解したナイルとブルートゥは驚愕し、ペイターはホッと溜息を吐いている中。ラスティはレイヴンの機体の四肢を切り落として、コックピット付近だけを抱えた。
「戦友のことはアーキバスが責任をもって預かろう。では!」
興奮したミールワーム達が動くめく中を颯爽とスティールヘイズが駆け抜けていく。彼に追従する様にして、スウィンバーンも駆け抜け、ホーキンスはオープンフェイスのコックピット付近を抜き取って抱えた。
「じゃあね、ペイター君。皆さんに迷惑を掛けちゃ駄目だよ」
「は、はい!」
「挨拶しとる場合か!!」
レイヴンと違って、これに関しては両方とも撃破して問題ないのでナイルとイグアスが銃撃を行ったが、リコンフィグを落とすには至らず、この場から脱することを許してしまった。
残された4機は暫し、佇んでいた。暫くして、イグアスが彼らに声をかけた。
「おい、糞オヤジが言っていたけれど。お前らの拠点、落とされたらしいんだが。本当か?」
「どういうことだ、イグアス。詳しく説明しろ」
ナイルはイグアスからウォルター達の拠点で何が起こっているかという話と、この先で何が起きたかという顛末を聞いていた。