戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
数々の思惑を跳ね除け、集積コーラルを制圧したのはベイラムだった。
だが、アーキバスは未だにヴェスパー部隊も失っておらず、惑星封鎖機構から奪取した兵器や基地も健在である為、依然としてルビコンでは二大勢力の睨み合いが続いていた。
「う、うぅむ……」
スネイルは医務室で目を覚ました。どうやら、あの状況で命を奪われずに済んだらしい。大方、ホーキンスかラスティ辺りが助けてくれたのだろうと予想した。医師が駆け付けて来る。
「目を覚ましたか?」
「あぁ。……怪我の具合の説明を」
1分1秒でも時間を無駄にするわけには行かず、スネイルは現状の確認を進めた。医師曰く、気絶していただけで外傷などは殆ど無いとのことだ。
「それと、身体の疲労が無視できない領域に達しています。休め、とは言いませんが、仕事の効率を落とすことも視野に入れませんと」
普段の彼ならば激昂して要求を跳ね除けていただろうが、起きたばかりで虚脱状態であったこと。……また、別ベクトルでの怒りが猛り狂っていた為、酷く冷静だった。
「そうですね。こういう時こそ、ひとまず落ち着いて考えましょうか」
珍しく自分の意見が聞き入れられたことにより、医師は多少驚いていた。
とは言え、仕事をしないということはない。まずは、現状の把握として先の作戦の詳細を確認していた。
「(集積コーラルはベイラムに取られ、V.Ⅵメーテルリンクは捕縛される。だが、他の隊員達は撤退に成功。私をここまで連れて来たのは、ホーキンスですか。流石です。そして、レイヴンの方は……)」
捕縛成功。という報告に、彼は沸き上がった達成感を隠す様にして、眼鏡のブリッジに中指を当てた。このルビコンを舞う鴉(レイヴン)を捕まえたのだと。
「(さて、どうするか。再教育センターに入れても良いが、奴の飼い主も捕まえている。下手な調整を施して廃人にするよりかは、そのまま使った方が便利でもあるでしょう)」
再教育の過程で、廃人になった強化人間は幾らでも見て来た。レイヴンと言う戦力を潰すよりかは有効に活かした方が合理的だ。
今後、ベイラムからバスキュラープラントを奪い返すことも考えれば、早急に方針を決めた方が良いと考えた彼は、直ぐに内線を掛けた。相手はホーキンスだ。
「やぁ、スネイル。目を覚ましたようだね」
「私を救出したのは貴方だと聞きました。ヴェスパーの名に恥じぬ活躍、称賛に値します」
「そんなストレートに褒められたら照れちゃうなぁ。で、何の用だい?」
「レイヴンは何処にいますか? 捕縛したと、報告書には書いてありましたが」
「ちょっと待ってね。替わるから」
替わる。ということは、近くにいるのか。事情聴取でもしていたのだろうか。程なくして、電話口から底抜けに明るい声が飛んで来た。
「おはよー!!」
「……一応、確認しますが。貴方がレイヴンですね?」
「うん!!」
決して職場に迷い込んだ、誰かの娘とかそう言うことはないらしい。捕虜らしからぬ天真爛漫さから、丁重な扱いを受けていることは分かった。
彼女のペースに飲み込まれてはいけない。今後、切り札として使う上では主従の立場を分からせてやらねばならない。
「ご存知かと思いますが、貴方の飼い主とオマケは私達が預かっています。今はまだ手を出していませんが、彼らの安全を保障して欲しければ、私達の言うことに従うことです」
「分かった!」
「拒否をすれば……うん?」
「分かった!!」
まるで交渉の余地もなく快諾した。もしや、条件などを追加させない為の高度な駆け引きなのかと、スネイルは思案する。
「(なんだ、この手応えの無さは。もしや、私の考えの遥か先を読んでいる? 反論や抵抗をしないことで、こちらが躾をする機会を潰しているというのか?)」
再教育センターの様に大掛かりな物を使わなくとも、スネイルは人心掌握術にも長けていた。心酔させるも、隷属させるも思いのままである彼にとって、彼女は類を見ないケースだった。
「ならば、私の部屋まで来なさい。任務を言い渡しましょう。今から、10分以内にです」
「うん!」
躊躇いのない返事が却ってスネイルをイラつかせた。まるで、小馬鹿にされている様な。見縊られているかのように思えたのだ。
直ぐに電話を切ると、早速スネイルは手配を始めた。部下達に『レイヴンに対してスネイルが使っている部屋を教えるな』というのと、アーキバス社内の案内図を表示させないようにと言う物だ。
「(初見で私の部屋が分かる訳もないでしょう。来なかったら、責めて自尊心を砕いてやればいい。何とも思っていない様ならば、ウォルター達に懲罰を課せばいい)」
本人がふてぶてしいとしても、流石に飼い主にまで手を出されたら動揺せざるを得ないだろう。スネイルは時計を見た、電話を切ってから2分程経っていた。
そらから3分後のことである。ドアがノックされた。恐る恐る、インタホーンから部屋前の様子を窺うと、そこにはレイヴンが居た。
「来たよー」
スネイルは社内に敵も多い。慎重を期する彼は、余計な小細工が仕掛けられない様に、案内されなければまずは辿り着けないような場所に自室がある。
どうやってここまで辿り着けたのか。無暗な懲罰を行うよりも、その能力について尋ねた方がよいと判断した彼は、扉前のスキャンを使って彼女が凶器を持っていないことを確認してから、部屋に上げた。
「10分以内に到着しましたね。どうって、ここが分かったのですか?」
「スネイルの声がした方に向かったら、ここに来た」
「……声?」
この部屋は防音性も完備しており、室内での会話が外に漏れることもない。だとすれば、彼女が言う声とは何を指しているのか?
「今、スネイルが心の中で呟いたこと」
瞬間、スネイルが固まった。相手の感情や考えを読む、と言っても状況や情報から推測するのが基本だ。だが、目の前の彼女が、前提条件や推測を全て踏み倒して、相手の心中を読めるなら……彼は直ぐに内線を繋いだ。
「強化人間部門ですか。捕縛したレイヴンのテストを行いなさい。彼女が本当に読心術を持っているかということです」
~~
コーラル集積場でイグアスから事情説明を受けたナイル達は、そのままベイラムに身を寄せていた。G2ナイルが引き連れていたこともあって、彼らはすんなり受け入れられていた。
だが、現状の彼らは動きようがなかった。ウォルター達は囚われ、何処に連れて行かれたかもわからない。
「俺はこのままベイラムに帰投すれば、済む話だが。お前達は違うからな」
「えぇ。なにより、私はご友人を放っておくつもりはありませんから」
ナイルはこのままベイラムに戻ればいいのだから、身の振り方に関しては保険があった。ブルートゥもいざとなれば、RaDに戻ると言うことも出来た。……問題は、この中で唯一敵対企業出身であるペイターだった。
彼は自らの進退を気にしたり、ウォルター達のことを気にしたりしているかと思いきや、イグアスと話に興じていた。
「アーキバス先進局のパーツを付けているから、十中八九ハゲが乗っているとは思っていたんですけれど、前に多重ダムの時に偽物扱いされたことがありましたから、その時の報復で始末してやろうと思ったんですよ! 同じやり方で!」
「お前、よく適性検査で弾かれなかったよな……」
「あんな物、幾らでも誤魔化せますからね!」
ベイラムのレーション舌鼓を打ちながら顛末を話すが、狂犬と呼ばれたイグアスでさえ引くほどの無法ぶりだった。
確かに問題ではあった。ただ、本人は意にも介していない所を見るに、多分アーキバスをクビになっても速攻でベイラムに付く位の強かさはありそうだった。
「いや、アーキバスはお堅い連中ばっかりだと思っていましたが、貴方は面白いですね!」
「でしょ~~!!」
何なら、この会話に五花海も加わったので、余計に話は盛り上がるばかりだった。見方を変えれば、企業の垣根を超えた友情関係と思えなくもない。
彼らが盛り上がる中、ブルートゥやナイル達と同じく神妙な表情をしていたのは、G6のレッドだった。
「レイヴンが捕縛されたと聞きました。アーキバスの尋問は非人道的だと聞いている。ウォルター共々、無事でしょうか?」
「このルビコンにおいて、2人の価値は高い。拷問や尋問で潰すよりかは、有意義な使い方は分かっているはずだ」
この辺りは、ナイルとしてもスネイルの性質から推測する。という気休め程度しか出来なかった。もしも、彼が不安要素を全て潰す性質だったとしたら……。
「ナイル、ご安心ください。ご友人は無事です」
「ブルートゥ。何か確証が?」
もしや、自分達には見えない存在同士の伝手があるのか。もしやと思ったが、ブルートゥは首を横に振った。
「いいえ、エアからの声も聞こえません。ですが、私の中の友人が言うのです。彼女達は生きていると」
「無事な姿でいると良いが……」
「あ、あの! ナイル参謀! よろしいでしょうか!」
彼らが表情を曇らせていると、背後から声を掛けられた。見れば、眼鏡を掛けた、何処か垢抜けない表情をした青年がいた。
「お前は、オオサワか。どうした?」
「ミシガン総長から司令部に来るようにとのことです。愉快な仲間達も一緒に連れて来い。と」
今はバスキュラープラントも奪還して、ひと時の休憩を取っていると言うのに、もう次の任務かと。だが、動いていた方が気も紛れる。ナイルとブルートゥは立ち上がった。
「よし、次の任務は何か。単なる辞令と言う訳でもなさそうだ」
「はい。私も一緒に赴きましょう。ミシガン総長はとても奥ゆかしい人だ。彼と話していると、ご友人も喜びます」
そして、そのままミシガンがいる司令部に向かって行くのを眺めながら、何かに気付いたようにオオサワは声を上げた。
「二人共―! ペイターさんを忘れています!!」
それは忘れているのではなく、敢えて連れて行かなかったのだと思ったが、言われた以上は無視する訳にもいかず、ナイルは渋々と連れて行くことにした。