戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
食堂でスウィンバーンと共にレーションを貪っている621が喉を詰まらせたり、背中を叩かれたりしていると。賑やかさに惹かれたのか、V.Ⅴホーキンスが彼らの卓にやって来た。
「やぁ、スウィンバーン。それに、レイヴン。随分と馴染んでいる様だ」
「ホーキンス殿。いや、どうにも普段からマトモな物を食っていないらしく、ここの食事が気に入った様です」
「輜重部門責任者として嬉しいね。あの企業のレーションを選んで正解だったよ」
他の隊員達からすれば食い飽きた物だが、これでもレーションとしては美味いと評判だし、レイヴンもがっついていた。
「一体、普段は何を食べているんだ?」
「ミールワームとボソボソした奴」
「ボソボソしたレーションだから。あの滅茶苦茶安い奴だね。私も食べてみたことはあるけれど、美味しくないよね」
スウィンバーンは雑談がてらに話をしているが、ホーキンスの場合は違う。
輜重部門責任者。即ち、軍事物資の補給を担っている者として、相手の食事から台所事情の推察を行っていた。
「うん。喉詰まるし」
「食事は皆の原動力だから大事にしないと。そこを切り詰めるんだから、台所事情が相当に寂しいのか、あるいは興味がないのか」
「飢えさせていないだけとも言えますがね。まぁ、良い。閣下や我々の尽力の賜物である豊かさを享受するが良い」
戦場においては飢えさせないだけでも上等ではある。と言っても、レイヴン達は少数精鋭で動いている為、少し事情も違うが。
戦場では土を付けられっぱなしだが、こういった福利厚生面では言うまでもなく圧倒的にアーキバスが有利であった。勝利感に酔いしれているスウィンバーンは、彼女のプレートの上に自らのココナッツクッキーを乗せた。ただ、彼女は何をされたか分からず首を傾げているだけだった。
「食っても良いのだ」
「ありがと!」
『すっかり、餌付けされていますね』
食事と言うのは、それだけ重要な要素なのだ。戦場で見せる苛烈さからは想像もできない様な可憐さに、ホーキンス達が微笑んでいると。これまた歩み寄って来る者が、また1人。
「随分と賑やかですね。貴方達が餌付けしている相手は、小鳥ではなく鴉(レイヴン)であることをお忘れなく」
「閣下!?」
「スネイル。今日は上機嫌だね。良いことあった?」
スウィンバーンが姿勢を正す中、ホーキンスだけは変わらない様子で尋ねた。
そもそも、スネイルが食堂にやって来るのは珍しい。自身が撒き散らす不機嫌さが他者への攻撃になることを知っている為か、基本的には自室で取っているのだが、今日は違った。
「そうですね。少しばかり、気分が良くなることがありました」
「それは、それは……。上層部の方がお越しになられていましたし、閣下が見事に応対してみせたのでしょう」
ホーキンスが『あっ』と言わんばかりの顔をしていた。これはスウィンバーンが上層部の相手をすることが少ない故の弊害なのだが、基本的に嫌味を食らいまくっていることを、彼は知らないのだ。
そして、スウィンバーンも周囲の空気が変わったことから、自らの失言に気付いたが、スネイルは表情を崩さなかった。
「えぇ、それはもう見事に対応しました。これも、彼女のお陰です」
彼が視線を遣った先には、ココナッツクッキーを齧っているレイヴンが居た。そんな彼女に労いと言わんばかりに、スネイルも自らのココナッツクッキーを渡していた。
「ありがと!」
「この後は、私と一緒にもう少し施設を回って貰います。良いですね?」
いつもの様に二つ返事で頷き、彼女はアーキバスのレーションに舌鼓を打ちつつ、ウォルター達の所では到底体験することのない賑やかさと豊かさに囲まれた卓で食事を取っていた。
~~
食後。スネイルに連れられた彼女は、毛髪再生局に訪れていた。従事するスタッフ達は一様にして髪が無かった。
「ねぇ、どうして皆は髪の毛が無いの?」
『れ、レイヴン。それは……』
肉体を持たないエアでも、センシティブな部分であることは分かっていた。
男性はまだいい。髪の処分が面倒だということで行った可能性があるからだ。だが、女性スタッフはそうはいかない。何かやむにやまれぬ事情があるはずだ。
しかし、この場にいる者達の心情を聞けるレイヴンの耳には悲嘆も責める様な声も聞こえてこなかった。
【閣下が連れて来た、あの子が例の?】
【この子が上層部を蹴りだした手伝いをした子か】
【やっぱり、髪の毛が無いことを気にするのが普通よね。よっし】
中には、レイヴンに説明しようとした女性スタッフもいたらしく、歩み寄って来た。
「閣下。彼女に少しだけ説明をしても?」
「良いでしょう。この局の存在理由を理解しているかを確かめる良い機会です」
「???」
レイヴンとしては気になったことを口にしただけだが、彼女達の方では何かしらの話が進んでいるらしく。用意された椅子に腰かけて、女性スタッフがモニタの操作を始めた。
「私達、毛髪再生局はアーキバスのみならず。全世界の毛髪に関する研究を行っています。ここでは特に医療方面に力を入れています」
『医療ですか』
レイヴンはまるで何も分かっていないにせよ、エアの関心を引くことは確かだ。人間を知りたい彼女にとって、髪と言う者がどれだけ精神面に影響を及ぼしているかを知りたかった。
「昨今の情勢から怪我や病気、あるいは加齢などで毛髪を失う人は大勢います。髪の毛が無いというだけで『ハゲ』と言う、心無い中傷で傷付いている人も沢山います。髪が無いということは、本人にとってそれほど大きな問題なのです。昨日まであったはずの物が無くなっている喪失感。笑われているかもしれないという恐怖。特に、女性に関しては将来的にも関わって来ることなのです」
『頭皮の保護などだけではなく、髪と言うのは想像以上に人間の精神に左右することなのですね』
「???」
レイヴンは理解していないが、エアは興味深そうに耳を傾けていた。髪の毛がなければオシャレなどを楽しめない。周りを気遣わせてしまう等。本人の自信が喪失しかねない程に、髪の毛が無くなる痛切さに聞き入っていた。
「そんな負い目を感じる必要のない世界を作りたい。パイロットとして、強化手術の関係で毛の心配をしている閣下は、この思いに応えてくれたのです!」
『……レイヴン。もしかして、V.Ⅷが今までに行っていた誹謗中傷はすさまじく無礼な物だったのでは?』
今まで聞き流していたエアも、髪の毛が無い人達が抱える苦しみや悩みを知ることで、何とも言えない罪悪感を持つに至っていた。
「スネイル。凄い!」
「そうです! 閣下は凄い人なんです! 私も、また髪の毛を生やして色々な髪型にしてオシャレをしたり、色々な服を着たり。そう言った普通の生活をしたいと思っているんです」
『普通。ですか』
レイヴン達にとっては程遠い世界の言葉だ。ただ、アーキバスには、そんな普通を保とうとしている者達がいる。
企業とは、利益の為に争い他者を踏みにじり搾取する為の物だと思っていたが、そこに勤める者達は悪魔でも悪人ばかりでもない。平時であれば、普通の人間もいた。
「普通?」
「そう。貴方達みたいな子供が戦わなくても良い世界。……何時か、やって来ると良いよね」
そんな世界は訪れない。重々に知っているからこそ、女性スタッフの切実な願いがこもった言葉だった。
~~
「という感じで、戦友はアーキバスの生活に馴染んでいる。S-1317だったか? 君も恭順を示すなら受け入れよう。惑星封鎖機構に詳しい者がいるとなれば、整備や運用についても助かるんだ」
1317からの事情聴取に及んでいたV.Ⅳのラスティは、そのまま恭順を促していた。アーキバスには鹵獲したLCを始めとした惑星封鎖機構の兵器が大量に存在しており、これらの運用に関して知識のある人間が少しでも欲しいという切実な事情があった。
「ウォルターの安全は?」
「彼の対応次第と言った所だ。2人が恭順の意を示すなら、スネイルも上層部も、自分達からウォルターに手出しをしようとはしないだろう」
この独房に入れられていても出来ることは殆ど無い。猟犬(ハウンズ)部隊で忘れていたが、自分は既に虜囚の身だ。
「分かった。ウォルターとレイヴンの安全を約束するなら、俺が持っている惑星封鎖機構の情報を渡そう」
「交渉は成立だ。では、手続きの方を進める。まず、惑星封鎖機構の組織体制についてだが……」
「(ウォルター。下手な真似をするなよ。期待をするとすれば、エアが何かをしてくれること位か)」
今の自分達は囚われの身であり、何かが出来る立場ではない。唯一、存在を知られておらず、何かしらの工作が出来るとすれば彼女しかいない。何かがあった時に、直ぐにでも動けるよう。1317の方でも着々と準備を進めていた。