戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】   作:ゼフィガルド

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依頼51件目:スウィンバーン「そう言えば、あの娘。文字とか読めるんだろうか?」

 毛髪再生局の視察が終わった頃、再びスネイルの自室へと連れて来られた彼女は、思いもよらぬ人物と再会をしていた。

 

「あ! 1317! ラスティ!」

「やぁ、戦友。アーキバスには慣れたか?」

 

 彼女に付けられている首輪を見て、ラスティは一瞬だけ顔をしかめかけたが直ぐに平静を装った。彼女と同じ様に首輪を付けられている1317がスネイルを睨みつけたが、敵意を含んだ視線は受け流されるばかりだった。

 

「これで、互いの状況は分かったことでしょう。どちらかの首輪が破壊、または反応が消失すればもう一方の首輪は強制的に爆破されます。早まった真似は考えないように」

「はーい」

 

 挑発とも受け取られかねない621の能天気な返事にも慣れたのか、スネイルは苛立つ様子もなかった。

 

「それと。貴方達の飼い主の安全についてですが、2人とも進んで首輪を付ける姿勢を評価して、監視員を同伴させるなら面会も許可しましょう」

「ほんと!?」

「はい。会話は全て録音され、暗号の類が無いかもリアルタイムで解析されますので、余計なことは喋らないように」

 

 621がはしゃいでいる手前、1317は下唇を噛んでいた。自分が隷属を選んだのは、少しでもアーキバスの情報を入手する為だと言うのに、これでは情報が抜かれて行くばかりだ。

 加えて、レイヴンと違ってパイロット適正が非常に高い訳でもないので、用済みとなったことを考えると焦りが募る。

 

「うん! ねぇ! ラスティ! 一緒に行こ!」

「あぁ。戦友を交えて、彼とは話もしたいとは思っていた。喜んで付き添おう」

「では、今から向かうのですね? 連絡を入れておきましょう」

「ありがと!」

 

 スネイルは手が早かった。直ぐに面会に関する連絡を入れると、ラスティとレイヴンだけ先に送り出した。この場には1317だけが突っ立っていた。

 

「まだ、俺に何か用が?」

「自覚しているでしょうが、あのバカ、いえ。レイヴンに比べて貴方は価値が低い。彼女の様な自由は望まないことです」

「……心得た」

「それと、彼女には連絡事項が把握できないでしょうから、精々伝達係としての役目を全うする様に。以上です、行きなさい」

 

 頭で分かっていたつもりだが、実際に言われると響くものがあった。

 アーキバスの狙いはあくまでレイヴンだけだ。自分はおまけにしかすぎず、他のパイロットやスタッフ達と比べて秀でた所は殆ど無い。2人を守っているつもりが、2人に守られている。

 

「(焦るな。従うのは慣れている)」

 

 だが、彼は不貞腐れなかった。惑星封鎖機構の時と違い、助けに来てくれるという確証があった。何故なら、彼女には自分達しか知らない心強い存在が付いていることを知っていたからだ。

 

~~

 

 面会室に訪れた621は、この基地で起きたことを話していた。たった、1日だったが多数の人と交流をしていた彼女は話題に尽きなかった様で、ラスティとウォルターは微笑みながら、彼女の話を聞いていた。一頻り話して、テンションが落ち着いて来た所で、彼女は問うた。

 

「ねぇ、ウォルター。普通。ってなに?」

「普通。か」

 

 ウォルターが考え込んでいたのは、暗号などを残す為ではない。……彼にとって、普通とはあまりにも縁が遠い物だったからだ。暫し、考え込んだ後。言葉を選んでいるかのように、ゆっくりと紡いだ。

 

「きっと、お前が今日体験したようなことだ。沢山の人と出会い、交流をして、繋がりを作り、誰かを助けて、誰かに助けられる。その為に、誰かの自由や権利を侵害する必要もない。そう言った穏やかさの中で生きて行くことだ」

『ウォルター?』

 

 彼の声色はいつに増しても優しい物だった。621は調子が違うことしかわからず、エアは言いようのない不安を覚える中。ラスティが彼の感情の機微が何に由来する物かを察したのか、口を出した。

 

「ハンドラー・ウォルター。貴方が何を目的としてルビコンに来たかは知らない。その為に投げ打った普通もあるだろう。だが、今までに戦友にとっての普通を与えていたのは貴方だ。気負い過ぎる必要はない」

「随分と優しいんだな」

「湿っぽいのは苦手だからな」

「時間だ」

 

 看守から言われて、2人は面会室から立ち去った。1人になった後、ウォルターはしばらく考えていた。ここから脱出する為の手筈もそうだが、酷く個人的なことも同時に考えていた。

 

「(まさか、アイツが普通ということを気にするとは思わなかった)」

 

 コーラルが引き起こした災禍により、少年期から一つの宿命を背負って生きて来た彼にとっては、到底想像できない領域の話だった。

 惑星を焼き、争いを呼び込んだ大罪人の子。自分の半生は贖罪に充てられていたと言っても良い。その最中に前猟犬部隊も犠牲にして、この惑星へと戻って来た。バスキュラープラントも発見され、コーラル争奪戦は佳境に入っている。終わりは近付いている。

 

「(このまま、俺に付いて来させても良いのだろうか?)」

 

 燃え残った全てを焼き払う為に、ここまでやって来た。目論見が成功すれば、自分は父を超える大罪人として歴史に名を刻むだろう。どうせ、先は短いから、それでも良いと考えていた。

 ペイターを始めとして付いて来た者達についても、自己責任と片付けるつもりだった。……その前に事情説明位はするつもりでいるが。だが、621は違った。

 

「(俺は、アイツに俺と同じ運命を背負わせるのか)」

 

 普通。本来なら、誰にでも与えられるべき生き方。学校に通い、知識を蓄え、友人と他愛無い話をして、やがて、社会の歯車となり、特別に何かを遺す訳でもなく終えて行く。

 彼女の人生にはまだまだ先がある。先の話を聞くにラスティを始めとした、アーキバスの者達とも折り合いは悪くない。友人もいる。彼女の普通を妨げているのは誰なのか?

 

「(感傷に流されるな)」

 

 自らに過った惰弱な考えを切り捨てた。コーラル。人類が手にするには余りにも早すぎた代物。悲劇を繰り返してはならない。改めて、ウォルターは自らの決意を固めていた。

 

~~

 

 ベイラムとRaDが共同でレイヴン奪還作戦を目論んでいる中。虜囚となっていたメーテルリンクは、何とか脱走できない物かと思案していた。

 部屋内を調べたが抜け穴は無い。また、破壊できるような材質でもない。となれば、看守を誘惑するか誑かすか

 

「近く、作戦があります。虜囚から事情聴取を」

「分かりました」

 

 幸いにして、彼女は自分の性別を道具として扱うことを忌避しない性格でもあった。加えて、看守は誰かと話している様だ。

 こういった時、片方でも引っ掛けることが出来れば、倫理観や自制心が緩んで共犯的に応じる可能性がある。単純に成功率が上がるのだ。

 

「なぁ、こんな所に閉じ込められていたら色々と疼く物があるんだ、この火照りを鎮めて貰えないか……」

 

 こういった事態に備えてアーキバスでも、ハニートラップの手解きは受けていた。色っぽく、甘える様な声色と吐息に加えて彼女の容姿は端麗であり、突き出たヒップがまた魅惑的でもあった。

 幾ら、上から厳重に言われていても、男はバカなんだから溜まるし、堪らんモンである。もしも、ここがベイラムでなければホイホイと男が引っ掛かった可能性はあっただろう。……が。

 

「あ、ヒッヒヒッ! ウヒャヒャ!! い、今なんて!?」

「ブホッ!!!」

 

 最悪なことに、看守と話していたのは元・同僚のV.Ⅷペイターだった。彼女が漏らした喘ぎ声の数倍の声量で、彼は爆笑していた。

 

「『この火照りを鎮めて貰えないか……』って!! そんな陳腐な誘い文句をリアルで使っている奴初めて見ましたよ!! もう一回言って下さいよ! 録音するんで!!」

「死ね!! 二度と顔を見せるな!!!」

 

 気色悪い裏声でメーテルリンクの声真似をしながら演じる様子が、甚く彼女の癇に障ったらしい。

 たっぷり、10分位。彼の爆笑を聞かされた彼女の自尊心がメリメリと音を立てて崩壊しかかっている中、ようやく本題に入ろうとしていたのか人払いをしていた。……すると、先程までの空気が一変した。

 

「メーテルリンク。これを」

 

 カラン。と、独房に投げ込まれたのは、解除キーだった。一瞬、何が起きたか分からずに彼女は、声量を抑えて問うた。

 

「どういうことだ?」

「現在、レッドガン部隊はRaDと共同してレイヴンを奪還しようとしている。連中はバスキュラープラントで手に入れたコーラルを元に、技研都市で回収した兵器を用いるつもりらしい」

 

 アーキバスが来た時には、殆どの無人機が破壊されていたが、アレが稼働していれば脅威であることは間違いない。

 

「私に報せろと言うことか?」

「そうだ。思ったよりも、私に付けられているマークは厳しい。通信は入れられそうにない。取り戻した君のバイザーには、脱出経路と機体を用意している。何とか、アーキバスに届けてくれ」

 

 腑抜けた様子は一変し、ヴェスパー部隊長としての隙の無さを体現していた。

 もしや、今までに行っていたスネイルへの不信を買う行為は、この日の為に打っていた布石だったというのか。敵を騙すには味方からとも言うが。

 

「分かった。……必ずや、閣下にこの情報を届けよう」

「ありがとう。アーキバスに栄光を」

 

 解除キーを翳すとドアが開いた。見れば、看守も気絶している。ペイターからバイザーを受け取った彼女は、表示される経路に向って進む。

 間もなくして、捕虜の脱走を告げるようにサイレンが鳴り響き始めた。そして、直ぐにペイターは通信を取った。

 

「手筈通り。私もそちらに向かいます」

「了解だ。『ゴースト』の準備は出来ている」

 

 彼もまた、この場から脱して何処かに向かった。……そして、気絶していたハズの看守はムクリと起き上がった。

 

「アイツの笑い声うるせぇな……」

 

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