戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】   作:ゼフィガルド

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依頼53件目:郭公

 レイヴンがアーキバスに従い始めてから数日。当初は、ヤク中の少女を雇うことに反感を覚える者は少なからずいたが、ヴェスパー部隊の隊長達が揃って推薦したこと。何よりも、隊員達を一番黙らせたのは。

 

「私の勝ち―」

「嘘だろ……」

 

 シミュレーターでも遺憾なく発揮された、彼女のパイロット技量だろう。

 並の隊員では歯が立たず、スウィンバーンやホーキンスなど。下位ナンバーの者達を寄せ付けない強さを誇っており、彼女と渡り合えるのはラスティを始めとした上位ナンバーの者達だけだった。

 隊員達が必死の形相で操縦している間も、彼女はゲームで遊んでいるかのような気軽さで2手、3手先を取って沈黙させていた。

 

「本当に並外れた強さだね。ラスティ君はどうやって、彼女に追い付いているの?」

「追い付いていない。辛うじて、彼女の動きに反応出来ているだけだ」

 

 ホーキンスは肩を竦めた。それは参考に出来そうにない。

 暫し、隊員達とシミュレーターに興じていたが、筐体にスネイルが近付くと、直ぐに静まり返った。

 

「レイヴン。行きますよ」

「分かったー」

 

 全く臆することなく、レイヴンはスネイルの後ろをピョコピョコと付いて行った。そして、彼の姿が見えなくなると皆が一斉に溜息を吐き出した。

 

「スネイル閣下。最近、機嫌がいいよな」

「レイヴンが来る前は本当にピリピリしていたけれどな。このまま、居続けてくれたらいいんだけれどな」

 

 もはや、彼女の扱いは捕虜や虜囚の様な物ではなく、ちょっとした妹分の様になっていた。ホーキンスは、この光景を微笑ましく見守っていた。

 

「うんうん。脱走したり、謀反したりする雰囲気もないし。首輪を無くしても良いんじゃないかとは思うんだけれどね。ラスティ君はどう思う?」

「いや、戦友はそう甘くないさ。首輪を外せば、直ぐにでも飛び出して行ってしまう。……連れ出そうとする者がいない限り」

 

 ラスティの目が鋭くなった。同じ様にホーキンスの雰囲気も研ぎ澄まされて行く。彼らには当然分かっている。裏では、何かしらの奪還作戦が進められているであろうこと位。

 

「作戦を立案する人間が居るとすれば、G2かペイター君だろうね。ペイター君に至っては、この基地の構造も把握している。彼、記憶力も抜群だからね」

「ACでの潜入は勿論。単身での潜入も不可能だろう。この課題をどうやって解決してくるかだな」

 

 内部に潜り込まれたら厄介だが、まずは通さない。哨戒機は勿論、ほぼ死角なく配置されたカメラに一定間隔で、敷地内全てがスキャンされている。この堅牢さは、袂を分かったV.Ⅷも知っているはずだ。

 

「もしも、彼が作戦を実行することがあれば。これらの課題をクリアするのが条件なんだけれど……何か知らない?」

「すみません。心当たりはありません」

 

 ホーキンスがジィっとラスティの方を見ていた。この様な行動に及んだことに理由はない。敢えて言うなら、長年の勘の様な物が働いた故だった。

 

「そっか。知らないなら、仕方ないね。じゃあ、僕はスウィンバーン君の仕事を手伝って来るよ。モチベも激下がりして、進んでないだろうしね」

「彼女に30連敗するまで諦めなかった、根性だけは凄いと思う」

 

 先にコーラル集積で見せた勇姿は何処に。ボキボキにプライドを折られたスウィンバーンがどんな風に仕事をしているのかを想像するのは酷な話だろう。

 レイヴンが居なくなり、隊員達も散っていくのに合わせてホーキンスも去って行く。その中で、ラスティだけが一つの可能性に思い当っていた。

 

「(BAWSの工場を襲撃したステルス機。アレを鹵獲しているとなれば、侵入も出来るはずだが……)」

 

 アーキバスの者達が知り得ないハズの情報を、彼は知っていた。この心の呟きは誰に聞こえる訳もない。……ただ、1人を除いて。

 

『例のステルス機『ゴースト』。何故、彼がBAWSやグリッド086に出現した極秘機体を知っているのでしょうか?』

 

 レイヴンが聞こえる声の一部はエアにも届いており、ラスティが心中で呟いた単語を聞き取っていた。……つまり、ラスティの声が聞こえる範囲に彼女達は居る訳で。

 

「レイヴン。彼は何と?」

「ゴースト? 幽霊になって入るのかな?」

『ちょ』

 

 エアはかつてない程に焦っていた。この数日で、レイヴンの警戒はかなり緩んでおり、辛うじてエアの情報は話していなかった物の。こういった重要な単語をお漏らしする機会が増えていた。

 

「ふん、幽霊などいる訳もないでしょう。次はシュナイダーの上層部達とも面会をします。連中の動きはどうにも怪しい。いつも通りに」

「分かったー」

「よしよし。貴方は素晴らしい猟犬です。噛みついて吠えるだけの狂犬や甘えるだけの駄犬とは大違いだ」

「えへへ」

 

 もしも、この時。スネイルの顔を見た者が居たとすれば、驚愕に目を見開いていただろう。高笑いでも、傲岸不遜な物でもない。実に穏やかな微笑みが浮かべられていたのだから。

 

『彼の言い方は、まるで誰かと対比している様でした。狂犬、と言うと。ベイラムのG5が思い浮かびますが、甘えるだけの駄犬。とは誰のことを指しているのでしょうか?』

「スネイル。駄犬って誰のこと?」

「駄犬らしく、首輪を付けられていると思いますよ。ベイラム辺りにね」

 

~~

 

「は? V.Ⅵの救助は後回しにしろ?」

 

 思いの外、スウィンバーンは連敗のことを気にせずにキチンと仕事をしていた。会計責任者として、ホーキンスと相談をしながら身代金を捻出しようとしていたが、オキーフからは冷淡に言い渡された。

 

「バスキュラープラントを取られたことから、上層部は早急な成果を求めている。捕虜の救出にリソースを割くなら、攻略の方に割けということだ」

「オキーフ君。それは、あまりだよ。メーテルリンク君がどれだけアーキバスに貢献して来たことか。次回以降の作戦でも彼女の力は必要だ」

「俺も提言はしたがな。こんな時、普段のスネイルなら待ったを入れてくれるんだが、今のアイツはレイヴンを試したくて仕方がないらしい」

 

 スネイルと言う男は顰蹙を買いやすい。ただ、戦況を見極める慧眼や上層部にも怯まぬ姿勢に関しては、ヴェスパー部隊の誰もが尊敬している。

 現場を知らぬ上層部の防波堤とも言うべき男の決断にしては、短慮な様に思えた。あるいは、深謀遠慮な彼ですら篭絡する魅力が彼女にはあるのかもしれない。

 

「ですが、我々が手をこまねいている間。彼女の身に何が起きても不思議ではありません。その、戦場における女性捕虜の扱いなんて物は、口にするのも憚られる様な目に遭っているかもしれません」

「それも織り込み済みで6番隊長になったはずだ。彼女は悲劇のヒロインじゃない。俺達と肩を並べる同志だ」

 

 オキーフの意見に何一つとして言い返せないが、メーテルリンクという存在をレイヴンで代替しようとする考えは賛同しかねる所だった。

 口ごもるスウィンバーンを見かねたのか、ホーキンスが気休め程度のフォローを出した。

 

「でも、捕虜として捕まえたなら返還交渉なども持ちかけられるはずだ。それがないということは、彼女はどうにかしたのかもしれないよ」

「それならば連絡がある筈だ。……そう言ったことが出来ない状況なのかもしれないが」

「ベイラムめ。もしも、彼女に手を出していたら、ただではおかんからな」

「良い意気込みだね。30連敗したばかりなのに」

「31戦目に勝てばいいのです!」

 

 適度に話題をずらして、スウィンバーンが気落ちすることを回避させていると、オキーフの無線が鳴った。

 

「どうした?」

「第3隊長。基地前に第6隊長の機体と思しきACが来ています。どう対応しましょうか?」

「ドンピシャ。だね?」

 

 ホーキンスの頬一筋の汗が伝った。あまりにもタイミングが良過ぎる。

 スネイルは応対中であり、今は自分達が対処するしかない。スウィンバーンも訝し気な表情を浮かべる中、オキーフが応じた。

 

「まず、基地の中に入れるな。中に何が入っているかは分からない。それから、施設内のスキャンも使うな。バックドアが仕込まれているかもしれん。指示は俺が執る。いいな?」

「はい!」

 

 モニタに基地正面の映像が映し出される。そこにはインフェクションの大破した部分を繋ぎ合わせた歪な機体が佇んでいた。

 正面のMTが停止する様に促すと、命令に応じる形で機体は機能を停止してしゃがみ込んだ。……と思った、次の瞬間。機体は急遽起き上がり、正面のゲートに吶喊を始めた。

 

「停まれ!! 貴様! やはり、曲者か!!」

 

 通信が通じないのか、実力行使で止めようとMT達が武装を用いると。機体に掛かるダメージも気にしないで、ゲート部分にアクセスをしていた。オキーフの全身に怖気が走る。

 

「殺しても構わん。中身事やれ!」

 

 中に6番隊長がいるかもしれない。という恐れから、手を緩めていた警備の者達もコックピットを狙って攻撃を放つが時は遅く、ゲートのロックが解除された。すると、インフェクションと思しき機体は反転してMTの迎撃に当たり始めた。

 照準を定めかと思えば、あらぬ方向へ向けたりと。機体の挙動はチグハグであったが、むしろ隊員達の恐怖を煽った。オキーフは2人に視線を飛ばした。

 

「あの機体の対処を。それと、この混乱に乗じて何かが来るかもしれない。警戒に当たれ!」

「了解!」

 

 2人はハンガーに向って駆け出した。間もなくして、基地内は騒然に包まれた。

 

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