戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
バイザーの指示に従い、見事に脱出を果たしたメーテルリンクはアーキバスの基地に戻る間にも様々なチェックをしていた。
「(追手は、来ていない。機体の方は通信機器がイカレている。恐らく、鹵獲された際に通信位置を報せまいと自壊装置が働いたか)」
通信には企業独自の暗号などが用いられることもあり、パターンを解析されることを防ぐために機体の通信装置が自壊を起こす様になっている。
レーダーなどの機能は生きているにしても不便という外ない。かと言って、ベイラムの基地付近に利用できる、施設がある訳もない。
「(とにかく! 遠く! 遠く!)」
今、頼りになるのはこのバイザー内のデータだけだ。頻りにレーダーで追手の確認をしながら、彼女は突き進む。
一体、自分囚われている間にどれだけ状況が変わったのか、アーキバスの方では自分の捜索や奪還について協議されているのか。気になることは大量にあったが、彼女は突き進む。
「(私は、ヴェスパー部隊の荷物などではない)」
彼女も自らに向けられる評価については自覚していた。アリーナランクの低さ、他のヴェスパー部隊長と違い、パイロット以外の仕事を任されていないこと。
戦場と言う男性社会の中で、女性が負うハンデは理解していた。故に、強化手術を施して貰い、男達にも負けないだけのポテンシャルを手に入れた。
企業の広報やマーケティング部の戦略だけで、この立場に取り立てられた訳ではない。ペイターの協力はあったとしても、見事に1人で脱走して帰還できれば、自分の能力は認められるはずだ。
彼女を焦られているのは、追手により再び捕縛されるかもしれないという恐怖からか、それとも功を逸る気持ちからか。どちらとも付かない中、満足に補給も受けないまま進み続けている。
~~
そんな彼女を追う者達がいる。RaD産のAIであるチャティ・スティックが駆るステルス機『ゴースト』の内部に作られた搭乗用のスペースに窮屈そうに収まっているペイターとブルートゥだ。
「ペイター。この道で正しいんだな?」
「はい。大丈夫です。このまま進み続ければ、今夜中にでもアーキバスの基地に辿り着くでしょう。にしても、本当にレーダーにも映らないんですね」
チャティの確認に何度も頷きながら、ペイターはこの機体が持つ能力に感心していた。レーダーにも映らなければ、機影も見えない。……彼の想像力を持ってすれば、幾らでも悪用方法が浮かんだ。
「可哀想なお友達。今、我々がするべきことはご友人達を助けることです。しかし、あの機体に仕込まれたバックドアとはどの様な物でして?」
特定のプログラムが潜伏していることは聞いていたが、どの様な効能を発揮するかまでは聞いていなかった。出入りを管理するゲートを麻痺させてセキュリティにダメージを与える類とは聞いていたが。
「ボスは笑えることが好きだ。ゲートとセキュリティの麻痺だけではなく、ペイターからの提案も受けて作成したビックリ箱になっている」
「可哀想なお友達の?」
「えぇ。騒ぎを起こすなら大きくして貰わないと。……そうすれば、レイヴン達を移動させようとする動きも見れるでしょう?」
騒ぎが起きれば、要人を移動させるのは当然の措置とも言える。即ち、動きから何処に誰が居るかを察することも出来る。
ペイターの考えは実に合理的ではあった。……そのビックリ箱を運ばされている、メーテルリンクの安否は兎も角として。
「可哀想なお友達。確かに、貴方と彼女が不仲であることは分かっていますが、ここまでやる必要はあるのですか?」
「あるからやるんですよ。あのレッドと言う男に感化しましたか?」
ブルートゥの脳裏に浮かんでいたのは、歯噛みしているG6の姿だった。ペイターとは対極とも言える存在であり、友人と呼ぶに相応しい善良な男だった。
「はい。ご友人の悲しみや憤りは私の物でもあります。本当に彼女を犠牲にするつもりなのですね?」
「では、他に方法があるとでも? 無いでしょう?」
他の方法など思い当りもしなかった。機体を持って来れる訳も無ければ、騒ぎを起こすだけの下準備も足りない。一方で、ペイターと言う男は一人の女性を犠牲にすることで、全てを整えていた。その手腕は驚嘆に値する。
「必ず、しっぺ返しを食らいますよ」
「その時は、レイヴンと一緒に払って貰うことにしましょうか」
悪びれる様子もない。悪意こそは無いのだろうが、他者への関心が極度に薄いのだろう。理知的ではあるが、自分とは違う形での人間離れした精神に、ブルートゥは僅かながらの不快感を抱いていた。
~~
「何だこれは!?」
そして、ペイター達が仕込んだ爆弾は炸裂した。継ぎ接ぎのインフェクションは、彼女の意に反して見境の無い攻撃を始めた。機体を停止させようとするが、まるで彼女の操作を受け付けない。
辛うじて制御姿勢を操作してフレンドリファイヤを避けているが、こちらの意図が相手に伝わる訳もない。
「あの機体は破壊対象だ! 潰せ!」
戻るべき場所は警報が鳴り響き、警備のMTが次々に出撃して来た。メーテルリンクは何度も通信を入れようとするが、彼女の懇願を嘲笑う様にして操作を受け付けなかった。
「違う! これは、私がやっているんじゃない! 誰が! 誰がこんな……」
と、ここまで言って。彼女の頭が急速冷えて行く。……この機体に自分を案内した奴は誰だ? 震える手でバイザーを取り外す。
コマンドを入力して、内部に走るプログラムを確認すると、明らかに見覚えのない物が増えていた。そして、今も稼働を続けている。
「ペイタァアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
少しでも、あの男を信じてしまった自らの愚鈍さを呪った。バイザーを叩き割るが、時は既に遅い。上空には四脚ACが2機。
「あの機体は、インフェクション!? まさか、中にはメーテルリンクが」
「いやいや、彼女ならこんなことをする訳が無いだろう。概ね、彼女の機体を使った工作員だ。スウィンバーン君、油断しちゃ駄目だよ」
あの機体は間違いなく、V.ⅦとV.Ⅴの物だ。このままでは殺される。姿勢制御だけでも動かせるなら、せめて殺されはしないようにと。彼女は多数のMTと2機のACを相手にする羽目に陥っていた。
……そして、その激戦の傍ではコッソリと。姿の見えない機体が基地内へと潜入していた。
~~
「シュナイダーの連中が帰ったばかりというのは幸運でした。もしも、滞在中に起きていれば、批難は免れない物でしたでしょうから」
レイヴンを連れているスネイルの眉間には青筋が浮かんでいた。この騒ぎは直ぐに彼の耳にも入っていたからだ。そして、連れられた先は避難場所……ではなく、何と。スネイルのACであるオープンフェイス前だった。
「乗るの?」
「はい。貴方は大柄ではありませんから、問題なく乗れるでしょう? 恐らく、こんな作戦を思いつくのは、あの害獣しかいません。いや、獣ですら過ぎたもの。奴は糞虫です。ゴミ虫です。いや! クソその物!!!」
『レイヴン。恐らく、この作戦は、私達を奪還する為の物でしょう。乗り込んで下さい。私が居れば、いざという時。この機体をハックして落とすことが出来ます』
逃げ出そうとすれば、逆上して暴力を振るわれかねないのなら。今はスネイルに従う方が賢明だった。彼の言う通り、共に乗り込んだ。
「うんこペイター!」
「良い機会だ! 私、自らの手で葬ってやる!!」
オープンフェイスに乗り込んだスネイルが出撃した先では、件の機体が大立ち回りしていた。既にMTも何機か落とされており、パイロットとして高い技量を持つことが伺えた。
無機質に何機も相手をしている姿は、無人機を彷彿とさせる物であり、アーキバスの攻撃は激しさを増す中、唯一。レイヴンだけが聞き取っていた。
【違う! どうして私がこんな! 私は! 本当にメーテルリンクなんです!】
「……スネイル。あの機体、メーテルリンクが乗っている」
「そうですか。ならば、尚更許せませんね」
左腕に展開したレーザーランスのエネルギーがチャージされて行く。まさか、スネイル自らが出撃するとは思っていなかったのか、周囲の隊員やヴェスパー部隊長達も驚きの声を上げていた。
「閣下自らが!?」
スウィンバーンの驚愕に反応するようにして、件の機体はオープンフェイスに銃口を向けたが、レーザーランスの刺突を受けて行動不能へと陥った。
【か、閣下。私は】
「メーテルリンク。まさか、貴方がここまでの愚物だとは思いませんでした。言うことを聞くから使っていた物の。貴方の代りは見つかりましたから」
【……え? 代り?】
「この機体を収容し、中のパイロットを再教育センターに送り込みなさい。使えない様なら、ファクトリーへ!」
直ぐにMT達が機体を運び入れて行く。改めて、彼のパイロットとしての技量に舌を巻くと同時に。この冷徹さにエアは身震いしていた。そして、問題は山積みだ。
『レイヴン。侵入した者達は、今どこに?』
~~
「は? レイヴンに首輪が?」
「あぁ。俺が一定の距離以上を離れると、彼女の首輪が爆発するようになっているらしい」
内部に侵入したペイター達は真っ先に1317を拾い上げていた。彼の存在はあまり重要視されていなかった為か、特別何処かに移動させられようとする様子も無かった。
1317は自らの首輪を指差すが、ゴースト内部ではAIの無機質な音声が響いていた。
「この程度なら、解錠できる。勿論、健在であることを偽装しながら」
移動がてらに、チャティが彼の首輪を解錠していた。これに連動してレイヴンの首輪が爆発するのではないかという懸念はあったが、今の所。エアから送られてくる情報では確認されていないらしい。
「残す所はご友人とウォルターですね。彼らが何処にいるかはご存知ですか?」
「……すまない。何処にいるかは分からない。面会室に居る訳もないだろうし」
こういったまとまっての脱出を防ぐためにバラバラに管理されているだろうことは予想できていた。更に不幸は重なる。
「オキーフ。どうしてこんな所に?」
「妙だ。基地内のスキャンでは、侵入者は居ないことになっているが。この周辺のスキャン反応がおかしい。まるで、何かが存在を誤魔化している様だ」
V.ⅢオキーフとV.Ⅳラスティの姿が見えた。しかも、回線の内容からしてゴーストの存在を察知している節がある。
「何者かが潜んでいると言うことか?」
「あぁ。それこそ、幽霊(ゴースト)がいるのかもしれん」
ラスティの言葉に、オキーフがジョークを交えながら反応した。ほぼ確信に近い自信があった。この2人は、ゴーストの存在を把握していると。
「(うぅ。この2人を相手にするのは避けたいですね)」
「(彼女のことはぞんざいに扱っていたのに)」
メーテルリンクの扱いとは、明らかに違う反応を見せるペイターに対して、ブルートゥの視線は冷たい物だった。……しかし、奇妙なことに2機は周辺を警戒してはいる物の、こちらの姿を見つける気は無さそうだった。
「まぁ、戦友はスネイルと同じ機体に乗り込んでいると聞いたし、彼女の飼い主はスネイルの自室に避難させられたと聞いた。見つかることはまずないだろう」
「違いない。この、基地内の構造にでも詳しくない限りはな」
まるで、誰かに言い聞かせる様な会話をしながら、2機は去って行った。今の話が本当であるならば、彼らがここに来た目的は。
「まずは、ハゲの自室に向かいましょう。私はバッチリ把握していますので」
「頼んだぞ! ペイター!」
1317からの応援も受け、ペイターはスネイルの自室へと向かう。……どういう思惑があるかは知らないが、あの二人は自分達にレイヴン達を助けようとさせているらしい。
ならば、期待に堪えるまでと。先程まで同僚に見せていた態度とは明らかに違い、ペイターは誠実に応えようとしていた。