戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
アーキバスの基地から帰還した一同は回収した面々のチェックを行っていた。体内に発信機や盗聴器の類が埋め込まれていないか。あるいは依存性のある薬物などを打ち込まれていないか。
特に老齢のウォルターはアーキバスでの監禁生活による衰弱が心配されていたが、思いの外丁重に扱われていた為か一人で歩けるほどだった。
「俺は問題ない。それよりも、あっちを見てくれ」
彼が指差した先には、呆然自失と言った様子のメーテルリンクが居た。幽鬼の様にスタッフの案内に従い、検査を受けているが肉体的には過度な疲労がある位で、内臓物の損傷などは見られなかった。
彼女の憔悴ぶりの理由については、ここにいる者達は皆分かっている。こうなることを知って、誰も引き止めなかった。いわば、全員が共犯者なのだ。今更、慰めの言葉を掛けよう等と偽善に過ぎる。……が。
「立てるか?」
この場にいる者達が自責や罪悪感に駆られている中、迷うことなく彼女に駆け寄ったのはレッドだった。彼の顔を見るや、メーテルリンクは自嘲気味に呟いた。
「どうした。お前らがハメた相手が無様に生きているのを、笑いに来たのか?」
「笑いはしない。我々に笑う資格など。ある訳がない。そちらがウォルターやレイヴン達を丁重に扱った様に、我々も貴方に対して同じ様に扱おう」
「そう扱っていたのは、アーキバスであった。私では無いがな」
最後まで卑屈な笑いを浮かべながら、彼女は兵士達に連れられて独房へと運ばれて行った。全員が何処か安堵したような溜息を吐く中、隠れていたペイターはひょっこり姿を現した。
「いや、意気消沈とはこのことですね」
「お前、どの口が……」
イグアスでさえ眉間に深い皺を刻む中、レッドは無言でペイターに近付き、顔面に目掛けて拳を振り被ったが空を切った。それ所か、腕を掴まれ、捻りあげられていた。
「がっ!?」
「今更、善人面しないで貰えますか? 私の作戦のお陰でウォルターと1317は取り戻せたのですから」
そう言うと、ペイターは直ぐにレッドの拘束を解いた。一触即発の空気が高まる中、ウォルターが一歩前に出た。
「待て。元々、ペイターがこの様な作戦を取らざるを得なかったのは、俺が捕らえられたからだ。責められるべきは俺だ」
「責任の所在を気にするのは、司法の仕事だ! 俺達がするべきことは目の前の任務をこなすことだ! ウォルター! お前が、もしも申し訳ないとでも思っているのなら、あの女に顔でも出してやれ! それはそれとしてペイター!」
「はい?」
ミシガンがウォルターの自責を突っぱねた後、ペイターに近付くとゲンコツを落とそうとした。
しかし、ペイターはコレを避けようとして、スウェー移動で背後に回りこもうとした瞬間、想像以上の旋回速度で追って来たミシガンと目が合った。
「貴様は、この作戦の場で無用な争いを生じさせた! 皆が話している所では静かにしろ!」
「ぶべっ!!」
彼の身軽さにピッタリと付いて来たミシガンのゲンコツを食らった。レッドガン部隊が痛みを思い出す様に頭を擦る中、そのままレッドにも近付いて来た。
「そもそも、お前が手を出したのが悪い! 感情で行動をするな!」
「ぐぉ!?」
喧嘩両成敗と言わんばかりに、レッドにもゲンコツが落とされた。何故か、殴られるだけなのに異様に痛かったのか、2人は暫し転げ回っていた。
~~
アーキバス基地に侵入騒ぎがあった翌日。基地内では、未だに緊張感を漂わせつつの痕跡集めが行われていた。その調査結果をスウィンバーンが報告していた。
「ウォルターと1317が奪還され、ついでにメーテルリンク殿も誘拐されました」
「再教育センターで掛かるコストの削減が出来たと思いましょう。手元にレイヴンが残れば問題ありません」
「ぷはー」
ウォルターに置いて行かれたという様な感傷なども無いらしく、スネイルの隣では、ヴェスパー隊員の服を着たレイヴンがパイプでコーラルを吸引していた。
モクモクと赤い煙が立ち込める。スネイルの隣でこんなことが出来る時点で、彼女が特別な存在になり上がっているのは見て取れた。
「って、コラァ!? 先日、取り上げたばっかりなのに何を吸っとるか?! 閣下! こんなことを許して良いのですか!?」
「強化人間部門からの報告によりますと、コーラルを吸引すれば調子が良くなるようです。何故か、彼女に限っては人体への悪影響も少ない様で」
コーラル。新資源ではあるが、人間が吸引すれば酩酊状態を引き起こす麻薬的な作用もある。アーキバスの中でも、戦いに赴く恐怖を紛らわす為に吸引する者達も少なからずいる。
「ちょんわー。ちょんわー」
「……いや、これ絶対悪影響出ていますって! この娘は、こんなにアホじゃなかったはずです!」
「肝心な時に動けば、問題ありませんよ。それと、貴方にやって貰いたいことがあります。関連企業シュナイダーの調査です」
基地襲撃があったばかりだと言うのに、随分な話題転換だった。そして、腑に落ちないことがあった。
「そう言った調査に関しては、私よりもオキーフ殿の方が適任では?」
「彼に関しては、今回の件で少し疑問を抱いたので。それに、調べて貰うのは会計の流れです。どうにも最近はシュナイダーの資金の流れがおかしい」
一体、どの様な疑問を抱いたのかはさておき。会計長である彼からすれば、資金の流れを追うことは難しいことではない。
「おかしい。と言いますと?」
「資金の流れが妙に活発なのです。まるで、何処かに流れているかのような。気になって、先日の接待でレイヴンを用いて情報を引き出した所、エルカノに流れているそうです」
「エルカノに? それは、妙な話ですな」
『エルカノ』。ルビコンの地元企業であり、解放戦線のメンバーの中でも同社のフレームを用いている者達もいる。
『BAWS』と違って仕事を選ぶ性質があり、アーキバスやベイラムにMTやパーツなどを卸したりすることは少ない。
「何故、彼らがエルカノに資金を流しているのか、調査をして下さい。立ち入りの際は抜き打ちでも構いません」
「ハッ! 分かりました!」
「がんばえー」
とろーんとした目で、レイヴンが手を振っていた。傍目で知的という言葉から最も遠い存在の様に思えるが、彼女が居なければスネイルは今回の案を思い浮かぶことも無かったのだろう。
スウィンバーンを送り出した後、スネイルは上層部に連絡を取っていた。リストを押す指が重かったが、今は容易に押せる。
「む、スネイルか。どうかしたか?」
「ベイラムからバスキュラープラントを取り戻すプランを進めていますが、少し憂いが出て来たので絶ちたいと考えています」
「憂い? 何だ? 惑星封鎖機構は殆ど動いていない様だし、ハウンズ部隊のトップは捕えているのだろう? 他に何が? まさか、ルビコン解放戦線だとでもいうつもりじゃないだろうな」
ルビコン解放戦線。もはや、アーキバスとベイラムの争いに参加するだけの力も残されていない、現地民による抵抗組織。先日、レイヴンを連れて技研都市を調査していたそうだが、今は何をしているのか。
「そのまさかです。奴らに機体を卸している会社に『エルカノ』がありましたよね。あの企業を調査して貰いたいのです。それと、シュナイダーに極秘で行ってください」
「……分かった」
上層部は自分よりも遥かに嗅覚が優れており、何かしらは感じ取ってはいたが動けずにいたらしい。だが、切っ掛けを与えた時の経済的、政治的動きはスネイルの遥か上を行く速度で動く。
「スネイル? ラスティが。どうかしたの?」
スネイルの胸中に浮かんでいた言葉を感じ取っていたらしい。コーラルで酩酊した頭でも不安は感じ取れるらしく、声色には覇気がなかった。
「何、彼の潔白を晴らすだけですよ。貴方は心配しなくても構いません」
限りなく黒に近い何かを掴んでいるスネイルの手に力が籠る。
バスキュラープラントの管理などをしていないことが却って幸いした。あんな物を管理していたら、身近を見回す余裕などありはしなかっただろう。だが、今はその余裕があった。
「(V.Ⅳ。貴様は何を企んでいる)」
スネイルが操作したタブレットには昨日の基地襲撃の際の様子が映し出されていた。内部で捜査を行っているV.ⅢとV.Ⅳの映像をジィっと眺めていた。