戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
コーラル集積。惑星ルビコンにおける最大級の採掘プラントであり、今はベイラムが管理している場所である。バスキュラープラントによって、コーラルが汲み上げられ、吸い上げられていく。
巡回用と作業用のMTに分かれて作業を進めて行く様子を、離れた場所から観測している機体があった。
「吸い上げは順調です。当初の予定ではアーキバスが、この役割を担うはずでしたが」
奇妙な外見だった。中央にある巨大な円盤から細い手足が生えた様な不格好な姿をしている。ウォルターやRaDの面々からは『ゴースト』と呼ばれている、技研が遺したステルス機である。
カーラ達はこれらに有人スペースを用意して用いていたが、本来は無人機であり、この機体にもコックピットは存在していない。故に、この機体を有機的に操作できる存在は限られていた。
その一人が彼女、ケイト・マークソンこと独立傭兵支援システムの管理AIである『オールマインド』だった。通信先から粘着質な声が返って来た。
「コーラルリリースは行けそうなのか?」
「はい。ただ、正直に言いますとアーキバスなら、もっとうまくやってくれていたとは思います」
吸い上げは順調ではあるが、安全性を重視しているのか早くはない。物量で押し潰す社是、言い方を変えれば大雑把な彼らの動きとしては意外だった。
「元々、連中はルビコンでのコーラル競争でトップに立てるとは思っていなかったのだろう。アーキバスに食い下がりつつ、妥協点を見つけて協定を結ぼうとでも考えていたか」
スッラの意見にオールマインドは少しばかり考えたが、彼の結論をなぞるのはさほど難しいことでは無かった。
「企業的な勢力で言えばアーキバスに軍配が上がりますし、強化人間の配備数に加えて、惑星封鎖機構の兵器が鹵獲された時点で諦めていたとでも?」
「そうだ。だが、あの小娘に踊らされ欲が出たんだろうな」
多重ダムの襲撃を失敗してから、ベイラムの活動は殆どが上手く行っていない。壁越えは失敗し、ナイルは拉致され、ルビコン解放戦線の者達を捕らえる事すら出来ていない。
だと言うのに、レイヴンを用いてからは風向きが変わった。惑星封鎖機構から『壁』を奪い返し、ルビコニアンデスビートルなる怪物の死骸を手に入れ、ウォッチポイント・アルファを殆ど兵力の損耗も無く制圧できた。
その上、バスキュラープラントまで手に入れたとなれば、慎重にならざるを得ない。こんな幸運を手放すわけには行かない。
「行き当たりばったりですね。もう少し計画性を持って欲しい物です」
「そうだな。じゃあ、お前の今後の計画を聞かせてくれ。まさか、吸い上げるのを見守っているだけ。なんて、バカなことは言わないだろうな」
スッラの質問には言外に『お前が言うな』という意味も含まれていた。勿論、AIに人間の機微や皮肉というユーモアが理解できる訳もなく、淡々と返した。
「そうですね。この吸い上げ作業を妨害されないように、不穏分子を潰して回ります。これは彼女の意向でもあります」
「セリアか」
もう一人の協力者。Cパルス変異波形と呼ばれる生命体で、姿は持たないが、一部の者達だけには確かに感じ取れる存在。
『はい。アーキバスに奪還されることがあっても、我々の計画に支障はありません。しかし、それ以外の勢力に取られては困ります。惑星封鎖機構、RaD、ハンドラー・ウォルター。そして、ルビコン解放戦線……』
セリア。かつて、解放戦線のトップであるドルマヤンの傍いた女性であり、今はコーラルリリース計画の従事者でもある。
先の作戦ではレイヴン達をこの場に案内して、コーラルの防衛機構を排除し、企業にバスキュラープラントを引き渡した上、ウォルターが持つ最強の猟犬をアーキバスへと追いやることに成功している。
「今更、ルビコン解放戦線が障害になり得るのか?」
『えぇ、サムにはとっておきの秘蔵っ子が居ますからね。彼を取り除けば、後は瓦解するだけ。この作戦が上手く行けば、彼も考えを変えてくれると思う。私、この為にずっと待っていましたから』
サム。と、ドルマヤンの名前を言った時の声色は優しい物だった。離れてもなお、消えない思いがあるらしい。
普段のスッラならば早々に話を終えるべく、さっさとターゲットの名前を聞き出していた所だが、彼女の話に興味を持ったのか。彼女に続きを促した。
「当時も考えは翻意しなかったのだろう? 今となっては、指導者として抱えている物も大きい。お前の考えに靡くとは思えんが」
『逆ですよ。抱えている物が大きいからこそ、私に付いてくれるんです。だって、手にした物全部が無くなってしまえば、何もかもどうでもよくなって全てを投げ出したくなるでしょう?』
「嫉妬か。まぁ、良いだろう。少なくとも、中身のない話ばかりをするAIよりは興味がある」
「え?」
途中から話すことがなくなって、作業光景の観察に徹していたオールマインドは突如としてディスられた。
「何か文句でもあるのか。不穏分子を潰して回るという話も、概ねセリアの意見じゃないのか?」
「それは誤解です。私はキチンとプランを提案しました。彼女の発想も、私のプランが無ければ芽吹かなかったのです」
『そう。全てはオールマインド情報を整理して、手筈を整えてくれたおかげです。感謝しています』
スッラは、身体の無い筈のAIが胸を張っている光景を幻視した。その横で、適当に手を叩いているセリアの姿も見えた気がした。
「そうか。で、俺は秘蔵っ子とやらを排除しに行けばいいのか?」
自分で振りはしたが、これ以上話をさせても延々と続きそうな気がしたので、さっさと本題に入ることにした。
「はい。スッラ、貴方はBAWSに向って下さい。そこで差し押さえて欲しい物があるのです。セリア、貴方はシュナイダー社の方に」
「了解した」
『かしこまりました』
通信が切れた。ゴーストの視界の先では、バスキュラープラントがジックリと作業を進めていた。
~~
「ふむ……」
スネイルに命じられ、スウィンバーンがシュナイダー社の会計を調査していると、疑問に思う所は幾つも出て来た。
フレームを売った顧客を調べて行くと、大抵は誰かしらの身元に辿り着き、任務の受諾歴まで見れるのだが、幾人かは空白のまま死亡していた。
「(オールマインドの方でも調べてみるか)」
独立傭兵支援システムではあるが、企業も彼らを雇う際には使っている。任務の経歴、アリーナでのランクや素性など。勿論、全てが掲載されている訳ではないが、一指標にはなっていた。
シュナイダー社のパーツは癖が強く、使い手にも技量が求められる。その担い手の最高峰ともいえる存在が、彼の同僚であるV.Ⅳのラスティだった。
「(やはり、大した情報は出て来んか)」
ルビコンに蔓延る独立傭兵は数知れず。誰にも知られること無く戦場に散るか、貧困に吞まれて消える者も多い。
例え、戦場で死ぬにしても何かしらの任務に出ているとは考えていたし、もしもパーツを買ったことが原因で餓死すると言うならあまりに間抜けすぎる。
「(エルカノに対する支出も、新しいパーツを開発する為に素材でも購入しているのだろう。……まぁ、連中と取引できるのは少し珍しくもあるが)」
系列企業ではあるが、完全にアーキバスに従属している訳ではない。独自に取引があったとしても不思議ではないだろう。
特に得られる情報がないと判断して、オールマインドを閉じようとした所で、メッセージウィンドウがポップアップした。
『掲載データの一部に不具合があったので、修正しました。利用者には迷惑をおかけして申し訳ありません』
無機質な文章と共にトップ画面に戻された。修正されたのは、スウィンバーンが見ていたページだった様で、修正されたデータを見て目を丸くしていた。
「(『この独立傭兵は実在性が無く、虚偽の物である可能性が高い』。なんだ、この警告は?)」
まさかと思い、履歴を辿ってみると。先程まで見ていたページの全てに同じ様な警告文が載せられていた。
「(スパムみたいな物だったと言うことか? だが、シュナイダー社は実際に販売しているし、資金のやり取りも行われている。どういうことだ?)」
だとすれば、生産されたパーツは何処に消えたのだろうか? まさか、傭兵支援システムの更新により事態が進むとは思ってもおらず、スウィンバーンは引き続き調査を行っていた。
~~
「やぁ、戦友……と、スネイル」
「やっほー!」
すれ違ったラスティは爽やかな笑顔と共に挨拶を交わそうとしたが、彼女の傍にピッタリとスネイルが張り付いている様を見て、顔をしかめた。
「なんですか、その顔は。私が邪魔だとでも言いたそうですね」
「彼女と二人っきりで話がしたい。保護者同伴は、ご遠慮願いたい」
V.ⅡとV.Ⅳがロリを取り合っている。隊員達は興味こそあれど、口出しをするのは憚られる為か、横目でチラチラ見るだけだった。その内の何割かは、何とかしろ。と言わんばかりに、レイヴンに懇願の視線を送っていたが。
「え? なんで?」
事態を余計に悪化させかねないことを言うばかりだった。どうやら、スネイルはある程度、彼女を飼いならすことに成功していたらしい。
普段は、二つ返事で頷いてくれる彼女が疑問を呈するようになったのは、ある種成長とも言えるかもしれないが、この状況においては好ましくなかった。
「私に聞かれて困ることでも話すつもりですか? 思い出話程度なら、聞き流してあげましょう」
「そうはいかない。スネイル、伴侶が仕事だけの人生と言うのは空しいぞ」
自分でも何を言っているんだろうかと、ラスティは若干混乱していた。
しかし、普段クールな彼が言うとボケている様には聞こえない。普段から、悪戯を仕掛けていることもあるので茶目っ気と言うことで聞き流すことも出来るだろうが、弄られ慣れているスネイルは殴り返していた。
「ほぅ、つまり貴方はレイヴンに対して伴侶となって欲しい旨を話したい訳ですか? このロリコンめ!!」
普段、ペイターや自分に弄られている側はこういう気分だったのか。と、ラスティは初めての経験をしていた。
『レイヴン。多分、ジョークです。ラスティは戦友でしかありませんから』
この時ばかりは、何故かエアもスネイルの味方をしていた。一方、彼女は首を傾げていた。
「はんりょ?」
「知る必要のない言葉です」
『生涯を共に添い遂げる相手のことを指します。使用例として適当かは分かりませんが、常に傍にいる私なども該当しますね』
「なるほど」
一つも分かって無さそうな納得だった。なので、余計な情報を入れて混乱させようとするよりかは、スネイルの様にシャットアウトさせた方が正解だったのかもしれない。
ラスティも多少動揺はしたが、ここ等辺は煽られプロのスネイルとは違う所、直ぐに冷静さを取り戻して、次の一手を投げた。
「全く、好き勝手に言ってくれる。……実はスネイルのことを思ってのことだったんだが、仕方がない」
ラスティがタブレットを操作して画面に表示された物を見ると、スネイルの表情が小さく悲鳴を上げ、レイヴンが目を輝かせた。……ミールワームの産卵光景である。
「実は、新しい子が生まれたからレイヴンに見せたかったんだ。スネイルはこう言うのが苦手だと思って」
「まぁ、見ていて気分の良い物ではありませんね。趣味の悪い」
スネイルが吐き捨てる様に言ったが、レイヴンは依然として興味津々なのかジィっと画面に見入っていたが、動画は終了した。
「見に行く! 見に行く!」
「そうだ、スネイル。これを機に、ミールワームを」
「結構だ!」
画面端には他のゲージも見切れていたことを考えるに、まだまだいるのだろう。……それともう一つ。
「(ここに来て、強行する方が不自然だろうしな)」
こういった中を無理にでも行くと言う方が逆に不自然でもある。故に、自然さを装う為にもレイヴン1人で行かせるしかなかった。
「それじゃあ、昼過ぎに来て欲しい。歓迎しよう」
「分かった!」
『本当に虫を見るだけですからね』
果たして、本当にただの鑑賞会になるかどうか。この場にいる者達の中で、それを信じているのは無垢に笑顔を浮かべているレイヴン位だった。