戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「ハンドラー・ウォルター。仮の話になるが、レイヴンが本気でアーキバスに付いた場合はどうするつもりだ?」
レッドはウォルターを乗せた車椅子を押しながら問うた。
アーキバスでの捕虜生活で衰弱している訳でもないと言うことは、検査で分かっていたが、念の為に。という、ベイラムの意向で丁重にもてなされていた。猟犬であるレイヴンの御機嫌取りも兼ねているのは本人も把握していたが。
「アイツの意思を尊重する。奴がアーキバスの待遇や信念に賛同して、手元を離れると言うのなら引き止めはしない。その場合は、俺だけで活動するつもりだ」
レイヴンが手元に離れる。というのは、戦力が抜けると言う単純な話ではない。彼女を通して集めた人脈や信頼を手放すことも意味していた。
常人や企業ならば何としてでも引き止める所を、この老獪な男は引き止めないと言った。この人柄こそが彼女を引き留めていたのかもしれない。同時に、何があってもやり遂げると言う鋼の意思を感じた。
「そこまでして、やり遂げるべき目的とはなんだ? コーラルの獲得と言うのなら、ベイラムに帰属すればいい。取り分は減るが、上層部なら貴方達を手厚くもてなすことは間違いない」
星外からルビコンに来る者達の目的と言えば『コーラル』か、それを求める者達から利益を得る位だ。どちらにしても、ベイラムに帰属するのは悪い選択ではないはずだ。だが、ウォルターは首を振った。
「遠慮しておこう。目的地に着いたぞ」
ウォルター達が辿り着いた先。プレートには面会室と書かれており、強化アクリル板を挟んで、部屋内は二分されていた。
部屋には武装した兵士が配置されており、レッドは彼らから面会相手に関する書類を受け取って読み上げていた。
「V.Ⅵメーテルリンク。捕縛された時点では衰弱していたが、今は回復。身体機能や言語機能にも問題は無く、会話も可能と」
「はい。流石は強化人間と言った所でしょうか。ただ、精神的にはかなり参っている様で、聴取も行えない状態です」
例え、身体が強化されていようと心まで強化されているとは限らない。
昨夜の出来事は、メーテルリンクの心に深い傷跡を残していた。信じていた企業や上司に裏切られ、何処に行く宛てもない。破れかぶれになってベイラムに付くことも期待していたが。
「難しいだろうな。企業に裏切られた娘が、もう一度企業に就こうと思うか?」
ウォルターの言葉には頷くしかなかった。今後も捨てられるのではないかという恐怖が付き纏えば、誰かに忠誠を尽くすことも難しくなる。
程なくして、対面の部屋に囚人服を着せられたメーテルリンクが入って来た。俯きがちで、生気は殆ど籠っていない。電気ショック付の首輪を付けられているが、逃走する恐れも無さそうだった。レッドは対話用の受話器を取った。
「昨日は、寝れたか?」
「……あまり寝れていない。私に何の用だ?」
さっさと話を切り上げたがっている様子が見えた。きっと、事情聴取をすれば洗いざらいに情報を吐くだろう。……そして、彼女の役割は終える。その後は、どうなるかとは考えたくは無かった。
昨晩の間にレッドも色々と話題を考えてはいたが、虚無を纏った相手には言葉を掛けるが躊躇われた。このままでは、話しやすさに傾倒して事情聴取になりかねないと思った所で、ウォルターが口を出した。
「これから、お前に身を立てる算段はあるか?」
「どうでも良いだろう。お前達が欲しいのはアーキバスの情報じゃないのか?」
「そんな物、俺達でなくても聞ける情報だ。態々、足を運んで来たのは個人的な話をする為だ」
ウォルターの私用。というのは、先程も話していた目的に関わって来ることだろうか? レッドも耳を傾けていた。
「身を立てる算段か。そんな物は無い。私がしたことを考えれば、口座も凍結されているハズだ。このまま解放されたとしても、野垂れ死ぬか娼婦になるのが精々だ」
「星外に親戚や頼れる者は居るか?」
「居ない。言っておくが、お前に飼われる気はないぞ。お前の元に行ったら、そのまま、あの男を殺しかねない」
言わずもがな、ペイターのことである。こんな状態になっても恨みや殺意だけはしっかりと残っているらしい。
「そうか。では、何かしたいことはあるか?」
ここに来て、初めてメーテルリンクは考える素振りを見せた。即ち、疑問に対する反応ではなく、彼女の思案と言うモノが初めて表れたのだ。
「……水星に行きたいと考えている。メール友達がいるんだ」
「惑星間を航行する令嬢だったか。意外と見栄を張るタイプなんだな」
「え?」
ウォルターが知っていたことに、彼女は少し驚いていた。彼女に釣られるようにして、レッドも驚いていた。
「そう言った側面もある。だが、本当の自分を言うのが怖かったんだ」
彼女は土木工事などの作業用MTのパイロットではない。戦場に赴き、脅威を排除する兵士であり……人殺しでもあった。
「企業に命令されたという言い訳をしないのか。いさぎよいな」
「従ったのは、自分の意思だ。強化手術やパイロットとしての訓練。日々の糧と言う対価を得ていた手前、被害者面をするつもりはない」
いずれにしても、アーキバスとしては少なからぬコストを費やしたことだろう。特にヴェスパー部隊長に選ばれる程の人材となれば、尚更だ。
こうした責任感の強さもまた、彼女が取り立てられた要因の一つではあるのだろうが、今は彼女に自責を促すばかりだった。
余計な慰めを掛けるつもりもなかったが、直ぐに切り出して良い物かとウォルターが考えていると、レッドが口籠っている様子が見えた。
「何か話したいことがあるのか?」
「はい。つかぬことを聞くが、そのメール友達の名前は『マーキュリー』という名前だったりしないか?」
「……なぜ、知っている?」
まず、思い当ることとすれば。このレッドがメール相手だという可能性だが、だとすれば、彼はネット上で性別を偽るネカマ的な存在になるが。
「あ、いや。俺じゃない。実は、俺の出身地は水星なんだ。昔と比べたら大分マシになっているが、娯楽とかにはまだまだ乏しい場所でな」
「だから、木星戦争時のミシガンが記憶に残ったのか」
娯楽に少ない惑星で、木星戦争という遠く離れ場所の出来事はさながら映画めいた物に見えたのだろう。娯楽や興業が大量に用意されている場所では、浪費される話題程度にしかならない。
「そう言うことだ。通信回線も貧弱で、制限も掛かっている様な環境じゃチャットとも数少ない娯楽だ。故郷に残して来た妹から、チャット相手の話についても聞くことはあるんだが。まさか、お前が『ミオミオ』だったとは」
配備されていた兵士達が噴出した。こんな陰気な雰囲気を放っている女が、自らを『ミオミオ』と名乗っているギャップに吹かずにはいられなかった。メーテルリンクは目に見えて表情を変えた。
「ここで言うな」
「でも、確認しないと分からないだろう? そうか、そう言うことなら水星に来た暁にはウチに立ち寄って欲しい。きっと、妹も喜ぶはずだ」
世界は思ったよりも狭い。俯いていた彼女の瞳に光が戻った様な気がした。そして、ここに来てから初めて笑みを浮かべた。
「約束。だからな」
「勿論だ」
2人の間で談笑が交わされる中、ウォルターは場を取り繕う様に微笑みを浮かべていたが、内心では影を落としていた。
「(未来の無い老人共の権益争いに巻き込むには余りにも惜しい)」
若人達の未来を阻んでいるのは何者か。少なくとも、このルビコンにおいて心当たりのあるウォルターが出来る事としては、彼らの会話に口出さぬ様に閉ざしている位だった。
ちなみに本来の予定。
ノーザーク「実は水星の子って、私がロマンス詐欺をするときに使うネカマ名義なんだ」
メーテルリンク「〇す」
流石に現状を鑑みて、あまりにもメーテルリンクちゃんが可哀想だと思ったので、こんな感じになりました。