戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
アーキバス内でのレイヴンの1日は規則正しい物だった。
毎日、決まった時間に起きて、指定された朝食を取り、強化人間部門で実験に付き合い、これらが終わればシミュレーターにおいてデータを収集される。アリーナにおいてあるデータは攻略し慣れている為、参考にならない。
故に、彼女の動きに付いて行ける人間に付き合って貰う必要があるが、そんなパイロットは限られている。
「シミュレーターじゃなくて、本物でやりたいな。レイヴン、お前はどうだ?」
「機体ないー」
情報収集用のシミュレーターである為、訓練用の物と違って一般隊員達が見ることは出来ず、開発部や戦術部の者達だけが見ることの出来る光景なのだが、凄まじい物だった。
彼女の対戦相手はV.Ⅰフロイト、ヴェスパー部隊長の首席だ。恐らく、このルビコンでTOP2のパイロット達が繰り広げるVRでの戦闘光景は常人には理解しがたい領域だった。
「本当にコイツら、人間か?」
まず、早すぎて人間の目では追えない。なので、スローモーションなど解析に掛けると、更に不可解な動きが見えて来る。
両者、共に機体に向って攻撃を加えていない。外れているのでは無く、ワザと外しているかのような挙動が多かったが、遊んでいる訳ではない。しかし、これは戦術部からの意見で理由は直ぐに判明した。
「この2人が攻撃している場所は、パイロット達が回避行動をとった場合に機体が向かう先なんだよ」
AC戦の基本は攻撃を避けることにある。回避行動で動いた先に、予め攻撃を置いておく挙動はもはや予知に近い挙動であり、シミュレーター内で戦っている二人は、まるで現在から未来の事象を見通している様でもあった。
戦場では考えてから行動するのではなく、訓練や経験に任せた反射的な動きに頼ることも多いが、この2人は反射を超える予測で動いていた。
お互いの力量を把握しているので、2人とも咄嗟に出る動きを抑制した上で高速思考と戦闘を繰り広げていた。
『2人にはお互いの動きが見えているのでしょうか?』
反射的行動。というのは、普通はコントロールできる物ではない。例えば、熱いマグカップを触った時に手を引っ込めてしまう様な、生存本能などに関する部分は意思だけでは操れない。
極限状態に陥りやすい戦場において、死という恐怖から思考が剥奪されることは多々あるが、この2人はそんな者達を容赦なく刈り取る存在なのだろう。
「これを毎回繰り広げているんだから、凄いよな」
スタッフの一人がポツリと呟いた言葉に全員が頷いた。彼らにとっては最先端のデータが幾らでも手に入ると言う喜ばしい話に見えて、このデータをどの様にして実用的な物として組み込むべきか頭を悩ませるばかりだった。
今回も決着は着かず、タイムスケジュールの関係上で切り上げられた。シミュレーターから出て来た二人は、ビッショリと汗を掻いてはいたが疲労した様子は無かった。
「VRに加えてタイムスケジュール。アーキバスのバックアップは嬉しいが、時に窮屈に思えるな。レイヴン、決着が付くまでやりたいとは思わないか?」
「うん!」
『普通、同じパイロット同士の戦闘は何時間も続かないんですよ』
彼らの戦いが強制的に切り上げられるのは、限界までやらせるとぶっ倒れると言う判断もあってのことだった。2人の顔から湯気が立ち込めているのを見て、ドクター達によるクールダウンが施された。
彼らの常人離れした動きを見た者達が一つの想像を抱くことは無理からぬことだった。即ち、アーキバスがルビコンを取るのではないかという未来を。
「あぁ、今日は解析班が大忙しだよ。全く」
~~
そして、これらが終わるとスネイルに呼び出されて、以後の業務に付き合わされることになる。自由時間がない訳ではなく、呼び出されないこともあるので、そう言った日は知り合いの部屋に訪れたりもしている。
今朝にした約束通り、彼女はラスティの部屋を訪れていた。ミールワームの飼育ゲージが多数設置されており、大分ショッキングな光景となっていた。
その中で、彼は食堂から貰って来た残飯をワーム達に与えていた。このルビコンにおいては、原住民よりも上等な食事である。
「やっほー、ラスティ―」
「戦友、来てくれたのか。ほら、見てくれ。これが生まれたばかりのミールワームだが」
生まれた時点で、成人男性の小指程の大きさがあるのは不気味と言う外ない。昆虫らしからぬズラリと生えた牙、目玉らしき物は見当たらず、芋虫の様な見た目はしているが、ずんぐりむっくりした足らしき物が蠢かせて移動している。そして、青白く光を放っている。
アーキバス内の者達でも生理的嫌悪感を抱く者は少なくはないが、レイヴンは目を輝かせていた。
「おいしそう」
「戦友。そこはせめて、可愛いとか言って欲しいな」
『いや、一つも可愛くありませんが。むしろ、グロイんですが』
食材として見るのは我慢できても、生きている姿は中々キモイ。ルビコニアンデスワームは馬鹿げたサイズと言うこともあって、グロテスクさよりも衝撃の方が勝っていたが、改めて見てもキモかった。
【戦友、ゲージだけを見て欲しい】
不意に、ラスティが心中で指示を飛ばして来た。流石に胸中の想いは、レイヴンの首輪でも盗聴することは出来ない。すると、不意にゲージの壁面に文字が浮かび上がった。
例え、声に出さなくとも映像は取られるのだから関係ないと言いたいのだが、エアは直ぐに理解した。
『これは、ゴーストにも使われていた『MDD方式』ですね。何故、彼はこの様な技術を持っているのでしょうか?』
『Monitor Display Deception jamming』、モニタに出力される映像を誤魔化すという物であり、カーラ達が運用していた光学迷彩型の『ゴースト』よりも隠蔽性は低いが、逆に言えば周囲に起こす変化の少なさは長所とも言えた。
【単刀直入に言おう。私はルビコン解放戦線のスパイだ。調査の為にアーキバスに身を置いている】
「あ、食われた」
ゲージ内では残飯の取り合いをして喧嘩していた2匹の内、敗者は勝者に食われていた。このルビコンの縮図を表しているかのようだった。
壁面に表示されたメッセージを見てエアは驚いていたが、レイヴンはミールワームの様子を眺めているばかりだった。もしも、これが演技だとすれば女優も真っ青だが、多分素だった。
【君は読心能力を持っていると聞く。また、帥叔からの報告を聞くに、君の中には誰かがいるらしいな。その友人が、このメッセージを読み取れているのなら、戦友にも説明して上げて欲しい】
「集まって寝ている。可愛いね!」
「寝ぼけて齧ってしまうこともあるらしい。ほら、あの子は尻が欠けているだろう?」
エアは話すことが出来ないので一方的に頷くことしか出来なかった。まさか、ヴェスパー部隊長きってのエースがルビコン解放戦線のスパイであるとは思っていなかったが、幾らか納得できることはあった。
『コーラル集積の際に駆け付けて来たのも、あの時。撃破されたルビコン解放戦線の二人を救う為で、貴方を連れて帰ったのもベイラムに確保されることを防ぐ為だったのでしょう』
アイビスに撃破された二人が無事かどうかは分からない。特に六文銭は撤退する余裕もなく大破していただけに心配していた。
【ルビコン解放戦線において君の評判は悪くない。帥父の目的とウォルターの目的は妥協点を見つけられる物だ。戦友、君の主人の目的はコーラルを焼き払うことだ】
『え?』
ふと、エアはコーラル集積で回収したデータを思い出した。アイビスの火を見届けた科学者の遺書には、1人の少年を気遣う思いが記されていた。あの時から、彼の計画は始まっていたのだろうか。
【人の手に余る物と考えたのだろう。だが、このルビコンに住まう者達はコーラルの恵みに活かされている。焼き払われては生きていけなくなる。そして、戦友の友人。君もコーラルを焼き払われたら、生きていけないのだろう?】
ドルマヤンから詳細に話を聞いていなければ、分からないことだった。
エアからすれば自身達を焼き払われる話であって、自分の存在を聞いたウォルターは何を思って接していたのだろうと。最終的に焼き払う対象となる自分に対して、どうして普通に接していられたのだろうと。
『レイヴン。彼の言うことを全面的に信じる必要はありません。アーキバスから翻意させる為の欺瞞である可能性もあります』
【ひとまず、我々の現時点での目的はバスキュラープラントの破壊ということで手を打っている。アーキバスなら、もっと早くに伸ばしていただろうが、ベイラムの手際の悪さが幸いした。私の素性もバレ掛かっている。だから、共にルビコン解放戦線に来て欲しい。ここが分水嶺だ】
エアからすれば反対したい所だった。ウォルターの真意は測り兼ねる所だったが、今後も自分達が無事でいられる保証はない。
一方、アーキバスはバスキュラープラントを始めとしてコーラルを増産させる方向ではあるのだろう。何よりも、この企業の豊かさや人脈はレイヴンの人生にとって必ずプラスになる物だと判断していたからだ。
『レイヴン。貴方が選んでください』
今まで、誰かの意図に従うばかりだった彼女が選択をするときだった。彼女の選択次第では、エアも袂を分かつ覚悟をしていた。
先程までは年頃に相応しい無邪気さでミールワームの挙動を眺めていたが、一通りの説明を聞いた彼女は口を開こうとして、乱雑に扉が開かれた。鎮圧用の装備に身を固めた隊員達が居た。
「V.Ⅳラスティ。貴方には背信の疑いが掛けられています。ご同行をお願いできますか?」
「……何の話だ」
「スネイル閣下からの命令です。レイヴンに対して翻意を促していると、彼女の首輪の映像から」
『え?』
MDD方式の欺瞞が有効なのは、先日のゴースト騒ぎで分かっていたことではないのか。いや、アレは光学迷彩をも併用した上位機ではあったが。
あるいは、先日の痛手さえ布石として用いたと言うのか。受けた被害さえも有効活用する、スネイルの強かさが表れた策でもあった。
「ハメられた訳か。いや、戦友にも知らされていなかったのだろう」
観念するかのようにラスティが壁に両手を付けた。隊員達が拘束しようとした所で、彼は掌で壁を叩くと同時に何かのスイッチが入った。すると、部屋内の飼育ゲージが真空状態に陥り、ミールワームに摂取させたコーラルが増殖する。と同時に、シュボッと小さな音が聞こえた。
【戦友。伏せろ】
『レイヴン! 伏せて下さい!』
瞬間。全てのゲージに収められていたミールワームが爆発を引き起こし、部屋内に爆風が荒れ狂った。ラスティの動きは速く、レイヴンの小柄な体を抱えると同時に走り出した。
「逃げたぞ! 裏切者のV.Ⅳを追え! 射殺許可も出ている!」
「やめろ! レイヴンにも当たる!」
銃を構えた隊員を隊長と思しき男が制した。もしも、彼女に何かがあれば自分達もただでは済まない。間もなくして、基地内に警報が鳴り響いた。