戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「どいつもコイツも裏切り者ばかりだ!」
スネイルの自室にて、彼の怒りは頂点に達していた。
あまりの怒髪天ぶりを見て、流石に不味いと思ったのかホーキンスが派遣されていた。こんな状態の彼に声を掛けられる人間は、もはや彼位しかいなかったからだ。
「まさかねぇ、ラスティ君まで……」
「だが、我々の方が一手早かった様だ」
モニタにはスウィンバーンがシュナイダー社に訪れている様子が映し出されていたが、彼は戸惑うばかりだった。何故なら、アーキバス本社の上層部が既に訪れていたからだ。
「ど、どうして上層部のお方達が」
「スネイル君から通達があってね。それと、匿名の通報もあったんでね。関係者達からは事情聴取を行うつもりだ」
スネイルはラスティを取り逃したというのに、上層部の者達はシュナイダー社の関係者達を捕縛していた。勿論、個人と集団という違いから動きの速さは違って当たり前だが、スウィンバーンは彼らの手腕に感心する様に平身低頭の小物ムーブをかましていた。
「こういうことをすると、彼って本当にしっくりと来るよね」
「そして、奴の追撃に関してはV.Ⅰを派遣しました。捕え次第、拷問して情報を吐き出させた後はファクトリーに送り込んで下さい」
ホーキンスは息を呑んだ。再教育センターは思想の矯正と調教を担う場所であるが、更に先にあるファクトリーと言う場所では個人のパーツ化を目的としている。
このパーツと言うのはパイロットを生体パーツの様に扱うと言う比喩的な意味ではなく、人体を解体して有機デバイスとして直接組み込む為の、アーキバスでも非道を極めた場所である。
ホーキンスの様な極一部の者達しか知らない施設であり、口に出すのも憚られる場所を口にするほどの怒りが、スネイルの中に沸き上がっていた。
「了解したよ。それと、レイヴン君の確保についてはどうする?」
「問題ありません。V.Ⅰなら彼女ごと取り戻せます」
スネイルと言う男は猜疑心の塊であったが、人事の采配に関しては私情を挟まない。能力の評価はほぼ誤ることがなく、こういった大胆な決定すらも通すだけの胆力もあった。
事実、彼の予想通り。V.Ⅰフロイトはラスティを圧倒していた。しかも、機体を潰すのではなく、中の人間を気絶させるだけという方法を取ることが出来るほどの技量差を見せつけていた。
そして、スティールヘイズが落ちようとした時。不意に態勢を取り戻した。2人はこの挙動に違和感を覚えたが、以後の交戦で違和感を確信に変わっていた。スティールヘイズの動きが明らかに変化し、ロックスミスと渡り合っている。
「まさか、今機体を動かしているのは彼女。なのか?」
フロイトと渡り合えるほどのパイロットと言えば、彼女位しか居ない。ホーキンスが口にしたことはスネイルも考えていた様で、彼の全身は震えていた。
「まさか、レイヴン。貴方まで、この私を裏切ると言うのですか?」
それは、ホーキンスも見たことがない程の動揺ぶりだった。ペイターを追放し、メーテルリンクに失望し、ラスティに裏切られた時でも怒りはしたが、今の彼を支配している感情は明らかに違っていた。
通信を入れようにも、スティールヘイズには当然繋がる筈もない。なので、フロイトに通信を入れた。
「フロイト君。今、スティールヘイズを動かしているのは誰だい?」
「間違いなく、V.Ⅳラスティだ。先程までは、こちらの動きを測っていたのだろう。スネイルには心配ないと伝えてくれ」
一方的に告げられると、通信が切られた。ホーキンスとしては、俄かに信じがたいことだった。そして、普段の言動から察するに敢えて虚偽の報告をしているのではないかと言う考えも過ったが、真実かどうかを確かめる術はなかった。
「クソ!! どいつもコイツも何故、好き勝手に動く!? レイヴンは何処だ! 彼女を連れて来い! 奴らの本心を調べさせろ!」
「その為に、フロイト君が動いてくれている。彼を信じて待とう」
「信じる!? 奴も何か嘘を付いているんじゃないだろうな!? そもそも、スティールヘイズの挙動がおかしい! まさか、あの機体を動かしているのはレイヴンで、彼女まで私のことを裏切ろうとしているのか!?」
ホーキンスが想像することをスネイルが思いつかない訳もなく。裏切りに次ぐ、裏切りで精神の均衡を欠いている中で、思い浮かんだ彼女の謀反と言う懸念が最後の一押しになったのか凄まじい狂態だった。
「大丈夫だ、フロイトも言っている。今、スティールヘイズを動かしているのはラスティだ」
「……そうだな。奴が相手を間違える訳がない。言うことは聞かないが、任務に忠実な、奴ならば」
まるで、自分に言い聞かせるかの様にブツブツと呟いていた。ホーキンスも出撃しようかと考えたが、暫くはこの部屋に居ることにした。
「(パイロットとしても恐ろしいし、こんなに容易く人の心に入り込んで来る無垢さはさらに恐ろしい。ウォルター、君は本当に恐ろしい猟犬を飼っている)」
V.Ⅱスネイル。彼の冷徹な振る舞いに対して、人の心が無いと評価されることがある。企業と言う過酷な場所で生きて行く上で、心を凍り付かせていたのだろう。
だが、1人の少女が彼の心から冷たさを奪い取っていた。一度、融かされたモノは以前以上の冷たさを持って凍り付こうとしていた。
~~
スティールヘイズとロックスミスの交戦は続く。LCや惑星封鎖機構のMT達も駆けつけるが、繰り広げられる戦闘が早すぎて援護が出来ずにいた。
ロックスミスの背部兵装『Vvc-700LD』から発射されたレーザードローン達が疑似的な包囲攻撃を仕掛けるが、スティールヘイズはこの攻撃によって移動範囲を制限されること無く、ドローン達の攻撃に合わせるようにして『MA-E-211 SAMPU』を放って、次々と撃ち落としていた。
「おい、あのレーザードローンって。後方支援ありきで動いている訳じゃないんだよな?」
「そんな干渉は出来ないはずだ。だから、アレはV.Ⅰフロイトが戦闘しながら動かしていることになるんだが」
当然、戦闘中にドローンの操作に専念できる訳がない。故に、機体を動かしつつ、相手の軌道を予測して誘導しながら、レーザードローンも操作していると言うことになる。
対するスティールヘイズも同じ様に相手の攻撃を読みつつ、レーザードローン全ての動きに追いつきながら、ロックスミスの動きに付いている。
「化け物だ」
増援に来たパイロット達は、顔を青褪めさせていた。俺達が付いて行ける戦いではない。と。
『レイヴン、距離を作りながら戦って下さい! 生き残ることが目的なら、ロックスミスを倒さなくても大丈夫なはずです!』
「うん!」
モニタに表示されるマーカーが何を表しているのかは分からなかったが、彼女はロックスミスと戦いながらも何処かしらに向っていた。
「戦いよりも優先することがある。そう言う動きだ。V.Ⅳに妬けてしまうよ。このヴェスパーたらしめ!」
「たらし?」
『レイヴン! それよりも目の前のことを!』
敵はロックスミスだけではない。後方には詰めの様にLC達が追従している。戦闘には参加してこないが、厄介であることには変わりない。
収納されていたレーザードローンを全て撃ち落とされ、バーストマシンガンの残弾も尽きたので、2機は用済みとなった兵装をパージした。
ロックスミスが『RF-024 TURNER』アサルトライフルを放ちながら接近して来た所、『Vvc-703PM』から放たれたプラズマミサイルが接近するが『SB-033M MORLEY』から放たれた拡散バズーカが撃ち落としたと同時に爆炎を上げた。見れば、スティールヘイズは『MA-J-200 RANSETSU-RF』を握っていた。
「なるほど。プラズマミサイルを囮にした訳か、面白い戦い方だ」
簡単に言うが、プラズマミサイルの推進速度と『MA-J-200 RANSETSU-RF』から放たれる弾丸の速度を計算しつつ、ロックスミスの武装を狙うと言う芸当を経て初めて為せる物であり、到底人間業ではない。
しかし、フロイトは感心しただけで動きを止めない。残った背部兵装もパージして、更に身軽になった機動力で肉薄して『Vvc-770LB』レーザーブレードでスティールヘイズの背部兵装である『Vvc-703PM』を切り落とし、『MA-J-200 RANSETSU-RF』を蹴り飛ばした。一方、『RF-024 TURNER』も叩き落とされた。
「残る武装は1つ! ロックスミス! 行くぞ!」
『レイヴン! 迎撃してください!』
エアがサポートできる範疇を超えた遣り取り。互いに、残った武装は近接装備一つのみ。レーザー刃が互いの機体を行き交う。腕部が、脚部が、頭部が次々と切り裂かれて行く。
「フロイト隊長! 下がって下さい! 後は我々が!」
捕獲用の装備を持って来たLC達が武器を構えようとした所で、突如として地上部から発進して来た機体が2機。
『アレはシノビとツバサ。解放戦線の二人ですか!』
射出された高速回転体がLCやMT達を打ちのめした所で、次々と『SG-026 HALDEMAN』ショットガンで制御不能(スタッガー)へと追い込む。そして、追撃の様にして放たれた光波キャノンが止めを刺して行く。
地上部では潜伏していたのか、解放戦線の面々が落ちた機体に群がって、パイロット達を捕縛していた。
「……ッチ。良い所だったが、仕方ない」
フロイトの作戦成功率が高いのは、本人の能力の高さも去ることながら引き際も心得ている所が大きかった。残った戦力を考えれば、不利でしかなく。彼は撤退をするにしても迅速だった。
ロックスミスが退却するのを見届けて、スティールヘイズは降りて来た。もはや、左腕部と胴体しか残っておらず、中のパイロットの安否も気遣われる中、六文銭達がハッチを開けると、出て来たのは。
「ラスティを、おねがい……」
パイロット席に座っていたのはレイヴンだった。彼女の隣ではラスティがグッタリとしていた。フラットウェルは何が起きたかを直ぐに理解した。
「我々、解放戦線はレイヴンにどれだけの貸しを作っているのだ……!」
極限状態にあった為か、レイヴンは疲労困憊の状態にあった。直ぐに二人は救助されて運び出されて行った。捕縛されたLC達はパイロット諸共何処かへと連れ去られて行った。