戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
ベイラムの方では大きな動きは見られない。精々、バスキュラープラントの増築の人手が増えた位で、ウォルターを始めとした外様は作業に携われずにいた。
扱いこそ、丁重な物だが無為に時間が過ぎて行くことは耐え難いことであった。ブルートゥ、ペイター、1317も同じく、手持無沙汰な日々が続いている。
「暇ですねぇ」
作業の手伝いを申し出たりもしたが、先の一件で手癖の悪さなどがバレてしまっている為、何もさせて貰えない。娯楽として旧世紀のフィルム鑑賞で時間を潰したりもしていたが。
『あぷぷーぷりぷりーぷー。ちょんわーちょんわーあぷぷ、あぷぷ、あぷぷ』
モニタ内では木製のマネキンが奇天烈な動きと共に奇妙な鳴き声を上げていた。紛うこと無きクソ映画のワンシーンだった。
ブルートゥは穏やかな笑顔と共に眺め、1317は只管に疑問符を浮かべ、ウォルターはジィっと眺め、ペイターは爆笑していた。
「ガッヒャ、ウヒッ、ハヒャッ。ヒヒヒヒッ!」
「お前の笑い方って、本当に汚いな……」
途中で詰まる様な笑い方がかなり耳障りだったが、ペイターは特に気にした風もなく笑い転げていた。1317は映像と笑い声と言うダブルの不快感を誤魔化す為に、画面横に表示されている作品の解説に目を走らせていた。
「本格ホラー・テーマパーク『イルブリード』を舞台に繰り広げられるスプラッタムービー! 全アトラクションをクリアすれば1億ドル、失敗すれば死亡。倫理観はどうなっているんだ」
ネタにマジレスするタイプである1317としては設定の時点で、作品に入り込めそうになかった。画面内では材木人間と化した主人公の女子大生が回転アタックを駆使して、殺人木こりと戦っていた。
無駄にスプラッタがてんこ盛りで、回転アタックで頭部を叩き潰されて、トマトみたいに画面が真っ赤に染まっていた。
「ブルートゥ、ウォルター。ひょっとして、これは拷問の一種なのか?」
1317が同意を求めて振り向くが、2人とも画面に見入っている。分かりやすい反応をしているペイターは兎も角として、彼らは何を考えているのだろうか?
「ご友人、これはとても素敵な作品です。かつての人々が如何に自由に発想をしていたか、商業的、大衆的目的から解放された当時の人々の奔放さが伝わって来る映像です」
「えぇ……」
ペイターの振る舞いばかりに気を取られていたから忘れがちだったが、ブルートゥも十分変人だった。では、ウォルターの方はどうかと言うと。
「カーラの奴がこう言うのが好きでな。621と一緒に見たりもした物だ」
「そう言えば、レイヴンもこの意味不明な鳴き声を上げていたな……」
だから何だという話だが。他の3人が楽しんでいる中、自分だけ不満を言う訳にもいかず、この拷問みたいな映像が『TOY HUNTER』とかいう異様に下劣な章の半ば位で乱暴にドアが開かれた。入って来たのは、イグアスだった。
「おい! RaDからテメェらに通信が入っているぞ。……って、おぉ! イルブリードじゃねぇか! しかも、TOY HUNTER!」
彼は上映されているイルブリードを見て満面の笑みを浮かべていた。風体の粗暴さと好みがあまりにも合致していた。これに気を良くしたのは、ペイターだった。
「お! 貴方もこの作品好きなんですか?」
「おう! 特にミミズバーガーの話は最高だよな!」
アーキバスとベイラムの垣根を超えて語らいに、元・惑星封鎖機構の一員は冷めた目で見つめるばかりだった。
こんなことよりもRaDからの通信を優先すべきだ。当然、会話内容はベイラムに聞かれている。その上で何を話すのだろうか?
「よぅ、ウォルター。調子はどうだい?」
「丁重に扱って貰っている。今は、上映会と洒落込んでいる。……内容は、お前も知っているイルブリードだ。どんな内容か覚えているか?」
「勿論だとも。TOY HUNTERなんて最高だ。笑いってのはこれ位、下品で丁度良い。女王ミミズの復讐も良い、あの感動とかそう言うのに唾を吐く様な演出がグッと来るね! あぁ、でもやっぱり初手の死を呼ぶホームランも良いよ! 巨大バンブローを破壊する為に操縦者を直接殺るシーンで、この映画に引き込まれたね!」
ガチで下らないことだった。ひょっとして、この映像は物凄く面白い物なのでは? と言う気がしていた。勿論、1317の気の迷いである。カーラの楽しそうな様子に、ウォルターも相槌を打っていた。
「活き活きしているな。俺もつい、年甲斐もなく見入っていた」
「そう。このイルブリードにはそれだけの魅力があるんだよ! ……って、アンタの調子を聞くだけのつもりだったけれど、思ったよりも弾んじまったね」
「構わん。丁度、暇だったからな」
それから、多少映画の話に触れつつ他愛のない話をして通話を切った。通信機を返されたイグアスは名残惜しそうに映像の方を見ながら、去って行った。
そして、映画がスポンサーをおちょくる内容に入った所でウォルターは盗聴器などにも聞き取れない声量で言った。
「621はRaDにいる」
~~
「ラスティ、目を覚ましたか?」
ミドル・フラットウェルの声にラスティは意識を覚醒させた。ベッドに寝かされ、全身に包帯を巻かれている。節々の痛みから、彼は意識を失うまでに何があったかを思い出していた。
「そうだ、戦友は!?」
「ツィイーが診ている。流石に異性に肌を晒す訳にはいかんからな」
隣のベッドには彼女の姿があった。目を閉じ、規則正しい呼吸をしていることから重体と言う訳ではなさそうだった。……だから、何だ?
帥叔の視線は厳しい。V.Ⅰフロイトを追っ手として差し向けられて無事に逃げ果せる訳がない。だと言うのに、治療を受けれていると言うことは何があったかは想像に容易い。だが、聞かない訳にはいかなかった。
「帥叔。何があったのですか?」
「説明する。前に、この場にお招きしたい方達がいる」
フラットウェルがドアを開けると、カーラとリング・フレディを侍らせた帥父ドルマヤンが入室して来た。ラスティは頭を下げていた。
「帥父。申し訳ありません、私の不手際で……」
「謝る相手が違うぞ」
ドルマヤンの視線の先には、規則正しい寝息を立てているレイヴンの姿があった。もはや、疑いようもなかった。
「彼女に、助けられたのですね」
「そうだ。そして、彼女の隣人からも事情を聴いた。お前が怪我人でなければ、殴っている所だった」
心臓をわし掴みにされている様だった。彼を最も責めているのは彼自身に他ならなかった。ドルマヤンを通して、エアも声を上げた。
『レイヴンを人質に取った挙句、彼女に裏切りを強要させて、助けられている貴方が戦友に相応しいとは思えませんね』
呆れたり、不快感を口にすることはあった。しかし、本気で怒ったのは初めてだった。敵対しているスッラやセリア達にさえ、ここまで怒りを覚えたことはなかった。
「返す、言葉もない」
「ちょっと。怪我人にそこまで言わなくても」
見かねたのかツィイーが擁護したが、フラットウェルから睨まれると彼女も口を閉ざす他なかった。周囲が静まり返る中、カーラが声を上げた。
「アンタのスティールヘイズは途中で破壊した。幾ら工作しても、機体から場所を割られる可能性もあったからね。収集したデータの方もこっちで解析した。そのことだけは言っておくよ」
「助かる」
失態を犯しはしたが、スパイとしての活躍に意味はあった。そのことが、ラスティにとって僅かながらの救いとなっていた。だが、フラットウェルは眉間に皺を寄せていた。
「だが、シュナイダー社とエルカノのパイプは殆ど潰された。ギリギリでオルトゥスは回収できたが、今まで以上に解放戦線は厳しいことになるだろう」
「どうしてアーキバスは気付いたんですか?」
「心当たりがあるとすれば、傭兵支援システムか。シュナイダー社のパーツをエルカノに回す為の架空名義の使用実態がないと言うことで摘発された。こんな動き、今までになかった」
シュナイダー社が直接エルカノ社に卸せば、関係性が疑われる。故に、幾つもの架空名義を通していたのだが、今になってバレた。まるで、システムがアーキバスに味方をしているかの様だった。
「タイミング的にも不自然だね。なんで、今頃?」
修正タイミングの不自然さに関してはカーラも疑問を抱いていた。修正するならもっと早くか、あるいは放置される方が普通と言うはずなのに。
「アーキバスに味方したとも思えんが。兎も角、我々は今まで以上に苦しい戦いを強いられる。ラスティ、早く治してこい」
「分かりました」
フラットウェルは短く用件だけを告げると部屋から出て行った。カーラとドルマヤン達も続き、部屋には3人とエアだけが残されていた。そして、ツィイーも壁際の時計を見た。
「ごめん、えっと。アンタが仲間って実感はイマイチ湧かないんだけれど、私も色々と働かないと行けなくて」
「構わない。行って来てくれ。戦……彼女の面倒は、私が診よう」
申し訳なさそうにしながら、ツィイーも出て行った。残されたラスティは痛む体を動かして、レイヴンの方を向いた。
「参ったな。私は、君と肩を並べているつもりだった。なんなら、手を引いているとさえ思っていた。……実際は、君に手を引かれていたんだな」
壁越え、宇宙港、ルビコニアンデスビートル、アイビス撃破。多くの強敵達と共に戦って来た。だが、先の戦いは無様と言う外なかった。
訓練で鍛え上げられた自分と違って、少女らしい華奢な肉体しか持たない彼女に、心身共にどれだけの負担を掛けてしまったのだろうか? 戦友と名乗れる自信は既に喪失していた。
「調教師(ハンドラー)に繋がれている君は、私と似た者同士と思っていた。だが、そうではなかった。首輪を付けていても、企業にも、運命にも、しがらみにも囚われない。―――君の在り方に憧れていた」
そんな彼女の自由を奪ったのは自分だ。誰とも分かり合えない。いずれ敵対することを思って、アーキバスの者達とは距離を置いて来た。
だが、彼女はそうでなかった。誰の心にも立ち入り、あの猜疑心の塊であるスネイルの心さえ融かしてしまった。自分達からコーラルを搾取する第一人者に一矢報いてやった。なんて気持ちは微塵も湧いてこなかった。
「私は、君の翼を折ってしまった」
自由に憧れながらも他者の自由を貪る姿は、彼らが唾棄して来た存在と何ら変わりない。俯いた所で、顔に何かが触れた。見れば、目を開けたレイヴンがラスティの顔にシーツを押し当てていた。
「ラスティ。泣きそうな顔している」
「目を、覚ましたのか。待ってくれ、皆に報せて来る」
ラスティは壁に掛けられていた内線を取り、レイヴンが目を覚ましたことを皆に告げた。