戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
ナイルを除いた猟犬部隊(ハウンズ)とイグアスを引き連れて、ウォルターはグリッド086を訪れていた。そんな彼らの応対に当たった人物はと言えば。
「あ? イグアスじゃねぇか。なんで、お前がソイツらと一緒にいるんだ?」
解放戦線のメンバーを表に出す訳には行かず、かと言って、ラミーを始めとして住人の殆どがドーザーなのでやはり応対させるわけには行かない。
唯一、ノーザークは身綺麗にしていたが、真偽含めたレイヴンに詐欺行為を働いたことがある為、抜擢される訳もなく。消去法で、一番マトモなヴォルタが選出されていた。
「お遣いだよ。にしても、お前が応対なんて本当似合わねぇな!」
イグアスとしては軽口を叩いたつもりだったが、ヴォルタは静かに背後を指差した。何事かと思って覗き込んで見れば、中年のドーザーがコーラルを吹かしていた。
「ぷぴぴぴぴぴぴぴ」
レイヴンがスパスパ吸っているから忘れがちだが、コーラルは依存性のある危険物である。少女がやっていれば、ギリギリ可愛いで済まされる仕草も中年がやっていたら地獄絵図でしかない。
脳がパチパチ弾けている連中が跋扈しているのがRaDだと言うことを忘れてはいけない。ヴォルタの方が珍しいのだ。
「アイツらに案内して欲しいか?」
「いや、お前に任せるわ」
イグアスとしても正気に戻らざるを得なかった。相棒は隠居などしていなかった、こんな掃きだめみたいな所で常識を保ち続ける為に戦っている。
住人はドーザーばかりではなく、解放戦線から身を寄せていると女子供の姿もあった。いずれも瘦せ衰えており、物珍しそうにヴォルタ達の方を見ていた。ウォルターが問うた。
「コイツらに分配する分の食糧はあるのか?」
「キツイってのが正直なところだ。いきなり食料の搬入量が増えたら、怪しまれるだろ? ノーザークが色々とバカなことやっているお陰で、多少は誤魔化せているけれどよ」
解放戦線から流れ込んで来た者達全員を匿うだけでも、それなりの苦労が必要であり、食料の供給まで含めたら相当に負担も増えているだろう。
「どうして、彼らを匿っているのですか?」
反抗勢力を匿っているとなれば、RaDも攻撃される可能性がある。ペイターからすれば、そこまで世話を焼く必要があるかどうかは疑問だった。
「解放戦線の中には、匿う程に価値がある奴もいるってことだ」
「……V.Ⅳか?」
「俺の口からは何も言わねぇ。自分の目で確かめな」
ウォルターからの質問に答えることはせず、グリッド内を走るレールを使ってカーラ達の所まで運ばれて行く。無骨な構造物の中に作られた、唯一の応接間らしき場所に彼女達は居た。
「ウォルター!!」
真っ先にウォルターに抱き着いたのはレイヴンだった。老体であったとしても、小柄な彼女の体を受け止めることは容易であり、優しく彼女の頭を撫でた。
部屋内にはRaDの頭領であるカーラ以外にも、解放戦線の幹部達も詰めかけていた。その中にはラスティの姿もあった。
「あ? なんで、V.Ⅳがここに居やがる?」
イグアスは疑問符を浮かべていたが、猟犬部隊(ハウンズ)の面々は何処か納得した様な表情をしていた。真っ先に声をかけたのはペイターだった。
「まさか、アーキバスを出て以来。味方同士として再会出来るとは! 何かと縁がありますね!」
「そうだな、私も会えて嬉しいよ」
「アレ? 元気ないですね?」
ここ等辺は共感性が無くても目敏いペイターのことである。直ぐにラスティが本調子でないことに気付いた。
「カーラ。何があったかを聞かせて貰おうか」
「OK。じゃあ、何が起こったかを話そうか」
カーラは手短に説明した。傭兵支援システムであるオールマインドから足が付き、シュナイダー社への監査が入ったこと。
ラスティがレイヴンを人質に取ってアーキバスからの脱走を図ったこと、V.Ⅰに戦闘不能へと追い込まれたこと、人質であるはずの彼女が代りに戦ってくれたおかげで生き延びたこと。
「戦友とか言っていた癖に誘拐した挙句、助けられたとか。ダセェな」
イグアスが率直な感想を述べ、ラスティの表情が固まった。一方、アーキバスの事情に詳しいペイターは驚いていた。
「スネイルを懐柔するだけじゃなくて、乗り慣れていない機体でV.Ⅰフロイトを相手に生き延びたんですか。本当に化け物じみていますね」
先程、イグアスの言葉で固まったのを見て、出来るだけ触れない方が良いと判断したのか、ペイターは話題を切り替えていた。
当のレイヴンはと言うと、見知った顔を見て安心したのか。パイプでコーラルを吸引していた。入り口付近で見た中年と比べて、貫禄すら感じる喫煙ぶりだった。
「ご友人が無事だったのは良いとしても、今回の一件でアーキバスは相当に怒っているのでは?」
「実際に奴らは解放戦線の拠点に攻撃を仕掛けて回っている様だね」
カーラが操作すると。壁面のモニタには、強襲艦隊を用いて解放戦線の拠点を攻撃している映像が映し出されていた。効率よく、段取り良く攻められては配備していたMTや防壁が次々と壊滅させられていた。辛うじて、非戦闘員が働いている工場などは襲撃されてはいなかったが。
ドルマヤンとフラットウェルは淡々と映像を眺めていた。企業が本気で怒った時の攻勢を目に焼き付けていた。
「フラットウェル、解放戦線の残り戦力はどれほどだ?」
「このRaDにいる者達位だ。シュナイダー社や関連企業の者達のどれ程が逃げ延びられたことか」
ウォルターは頭を抱えた。同盟を結んだと言うが、彼らの戦力には然して期待は出来なさそうだった。それ所か、アーキバスから狙われているのだからマイナスと言っても良かった。
「しかし、なんでBAWSやエルカノの工場に攻撃が仕掛けられてねぇんだ?」
アーキバスの苛烈な攻撃を見たイグアスは率直な感想を言った。これだけの攻撃力があるならBAWSやエルカノを攻撃すれば、解放戦線の戦力を直接削り取ることも出来そうだと。これに対して、口を挟んだのは1317だった。
「企業間で工場への攻撃は禁じられているからだ。というか、禁じなければ企業の排除方法として工場襲撃が一般的になってしまう。企業同士としても生産力を落とさない為の条約があるんだ」
もしも、工場への襲撃が一般的になれば働き手が居なくなる。すると、企業の生産力が落ちていく。
同じ様に報復し合えば、企業での働き手が減る一方なので、摩耗していくだけの状況を避けるために工場への攻撃は基本的に禁止にされている。
「だからこそ、BAWSの工場に直接攻撃を仕掛けていた惑星封鎖機構がどれだけ強硬的だったかも分かるが」
ウォルターの補足を受け、1317は目を逸らした。とは言え、工場を機能停止に追い込む方法は幾らでもあるし、今後も使われる事だろう。
暫くの間、アーキバスは近辺整理とルビコン解放戦線の排除に気を取られてはいるだろうが、それを終えれば本格的にバスキュラープラントの奪還に乗り出す事だろう。
「つまり、お前らはレイヴンの保護を手土産にベイラムに保護して貰いたいってことか?」
イグアスとしては、こんな場を設けた理由としてはそれ位しか思い浮かばなかった。そうすると、RaDがルビコン解放戦線を保護している理由が全く分からないが、彼はウォルター達が協定を結んでいることを知らない。
ここで、カーラが案内役に付けて来たヴォルタに目を遣った。ここに来てから、一言も発していなかった彼が口を開く。
「イグアス。お前もベイラムから鞍替えするつもりはねぇか?」
「は?」
唐突に言われても何のことか分からず、イグアスの口から間の抜けた声が漏れ出た。気にせずにヴォルタは続ける。
「俺達、RaDはルビコン解放戦線とレイヴン達と組んだんだよ。考えても見ろ。仮にコーラルを吸い上げて、どうすんだ? どうせ、次の戦場に向わされるだけだ。これ以上、ベイラムに付くのも馬鹿らしい。最後に一発デカい花火を打ち上げてやろうぜ」
壁越えの任務で死にかけたヴォルタだからこその意見だった。実際、今後もベイラムに付いて行っても使い捨てられることは目に見えていた。
もしも、バスキュラープラントが健在であるならば、自分達もアーキバスとの戦争に駆り出される事だろう。これらを防ぐためにバスキュラープラントを破壊すると言う選択肢はない訳では無かった。
「ちなみにウチはいつでも人手は募集しているよ!」
カーラの一押しも受けて、イグアスは暫しの思考を経た後、改めて部屋内の面々の顔を見ながら言った。
「聞かせろ。テメェら、何するつもりだ?」
「俺達『オーバーシアー』はルビコンのバスキュラープラントを破壊する。ただし、小規模の破壊では直ぐに修繕されるだろう。故に、規模を限定させた『アイビスの火』を行おうと考えている」
アイビスの火。かつて、ルビコンを包んだ死の炎であり、惑星を蝕んだ災害である。灰被りと言われた、当時を生き延びた世代の者達の頬に冷や汗が流れた。そして、改めて計画を話し始めた。