戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「これはひどいな……」
先の通信で承諾を得られたので、ラミーとノーザークを迎え入れ、彼らの機体をチェックしていたのだが、ウォルターは頭を抱えていた。
ノーザークの機体はまだ良い。最新の装備で固めているという割には、廉価な第2世代のパーツが目立つが、性能は保証されている。問題はラミーの機体だった。
「見てくれは大豊と作業用パーツのミキシングだが」
ナイルも愛機である『ディープダウン』には、大豊のパーツを使っている。
重厚で堅牢なパーツは多少の攻撃ではビクともしない。ただし、同社には『樹大枝細』というコンセプトがある。これは中心たるコアは大きく、他は最小限にと言う物であり、コアに近い部分にウェイトが集中している。
故に先端部分は小さく、必要最低限の機能しか有していない物が多い。例えば、頭部パーツである『DF-HD-08 TIAN-QIANG』なんかは正にそうだった。
「加えて、ジェネレーターとFCSも作業用レベルだ。621をこの惑星に送り込んだ時に乗せていた機体に搭載していた物と変わりない」
ウォルターは手元のデータを見ながら呆れていた。これだけの重量機体を動かすのに、この程度のジェネレーターしか積んでいないのかと。
両肩に何も搭載していないのは機動力を優先してのことではなく、単に出力が足りなかったのだろう。
「ついでに金も足りねぇんだ!」
彼らの会話が聞こえていたのか、ラミーは実に切実な理由を述べた。
武器を始めとした外部のパーツはRaD特有の技術力で何とかなったのだろうが、内部パーツであるジェネレーターとFCSはどうにもならなかった。
「ウォルター。ウチで使っていないジェネレーターを上げちゃダメ?」
「甘やかすな。と言いたいが、このまま付いて来られても迷惑だからな。仕方があるまい」
企業が販売しているパーツは一通り揃えており、中には使っていないパーツも多く存在している。作戦内容に応じて搭載するパーツは変えながらも、どうしても使用頻度の低い物も出て来る。
「マジかよ!? 俺のマッドスタンプに新たな力が!!」
「ついでに積載武器も変えろ。その土木作業用のアームでは満足に武器も握れないだろう」
マッドスタンプを構成する腕部パーツの『AC-3000 WRECKER』は剛性こそ凄まじい物の、マニピュレーターがペンチ状になっており、精緻な扱いが必要な武器には全く向いていない。
では、チェーンソーの様な振り回すタイプの武器の取り扱いに向いているかと言えば、これまたNOだった。しっかりと固定して使う必要のある破砕武器をペンチ状のマニピュレーターで扱うのは無理がある。
「廃材をACの形にしているだけだな……」
当初は、揶揄する為に様子を見に来た惑星封鎖機構のエージェントもあまりに暗澹たる構成に絶句していた。こんな物で参戦した所で犬死には避けられないはずだというのに。
「コーラルうめぇ」
このコーラルジャンキー少女が作戦に参加するだけで勝ち馬に乗れてしまう可能性が濃厚なのだから、あまりにも理不尽だった。
「……ウォルター殿。私にも使っていないパーツを融資するつもりは?」
「メンテはしてやる。お前は、まだ戦えるだろう」
少なくとも、ラミーのACよりはマトモだった。戦えないことはないだろうが、封鎖機構という強敵を相手にするには、機体もパイロットもあまりに物足りないという印象は拭えなかったが。
そんな彼らの気も知らず、新しいパーツを貰える運びとなったラミーは無邪気に喜んでいた。
「やっぱり、お前は幸運の鴉(レイヴン)だ! 作戦を成功させたら、たらふくコーラルをヤろうぜ!」
「イェーイ!」
「よぅし、私も前祝に一服」
親子以上に年齢は離れており、パイロットとしての技量は天と地ほどの差がある物の、垣根を一切感じさせない見事なコーラルの吸引っぷりを見せていた。
「621。お前にも友人が……」
「そこは飼い主として拒否をしろ」
ウォルターがちょっとだけ感じ入りそうになった所で、ナイルが冷静な指摘を入れた。流石に年頃の少女の友人がヤク中と詐欺師なのはあんまりだ。
『……レイヴン。私は』
「エア!」
友人と呼べる存在かどうかと聞いたつもりだったのだが、コーラルをキメていた為、マトモな応答を期待するのは難しそうだった。
「おぉ^~。なんか、レイヴン以外に女の声が聞こえる気がするぞぉ。何処にいるんだァ?」
「バカですねぇ。レイヴンの声が二重に聞こえているだけですよ」
『え? もしかして、私の声が聞こえて……』
ラミーはその場でグルグルと回り出し、ノーザークは両手両足を引っ込め赤ちゃんの様な態勢を取り、621はゲラゲラと笑っていた。
「あぷぷー」
『様子のおかしい人達です』
資源や兵器として使われるのもアレだが、同胞達が吸引された挙句、こんな惨状が生み出されているとしたら、エアは自らと人間の関係性について暫し考え込んでしまうのだった。
「ウォルター。俺達が向かうべきは戦場なのか? 病院じゃないのか?」
「いや、戦場で良い。病院に行けば治療費を取られる」
「なるほど。葬儀屋も必要なくなるな」
ちなみにウォルターとナイルは将来性とかではなく、コイツらを激戦区に向かわせることについて心配しそうになっていたが、むしろ自らの手を汚さず片付けられる可能性に思い当って開き直っていた。
だが、万が一。このヤク中と詐欺師に泥を付けられるようなことがあれば、惑星封鎖機構はルビコン内でクッソ嘗められる存在へと堕してしまうだろう。
「アーキバスも人が悪い」
期待はしていないが、本当にこの2人が封鎖機構への攻撃に成功した先兵として知れ渡ったら、どの様な反応が起きるか。……というのは、ウォルターとしても気になっていることではあった。
~~
コーラルをかっ食らったアホ達が寝ている間。ウォルターは作戦の準備や段取りをしている中、惑星封鎖機構のエージェントはナイルと話をしていた。
「壁の一件でお前が捕虜となっていたことは知っていたが、どうして未だに居座っている? ベイラムからの交渉は無いのか?」
「今の所はな。だが、理由は察せられる。分かるか?」
男は暫し考えた。アーキバスと比べて、ベイラムは現場と上層部の折り合いが悪い。碌な作戦を立案しないまま精鋭部隊であるレッドガンのG4を壁越えに参加させ、意識不明の重体に追い込んだ不手際は各陣営に知れ渡っている。
「グループの主体である『ベイラム・インダストリー』としては、レッドガンがミシガン色に染まっているのが気に入らない。だから、参謀であるアンタを虜囚のまま放置している。という所か?」
元々、ミシガンは『ベイラム・インダストリー』の人間ではなく、ミサイルいっぱい『ファーロン・ダイナミクス』という企業で武装船団を率いていた男だ。
ナイルによって引き込まれた後は、持ち前の能力と人間性を合わせてレッドガンを見事に染め上げた。
「そんな所だ。元より『物量による制圧』をスローガンとしている企業だ。部下達を切り捨てる様な使い方をしている上層部の連中にとっては、ミシガンの存在は都合が悪い」
ナイルは知っている。『歩く地獄』として有名で、鬼教官のイメージもあるが、それは偏に、戦場で生きて帰って来られるようにという願いがある故だった。
嫌われない為に角の立たない言葉を吐くことは誰にでも出来る。だが、疎まれたとしても本当に必要なことを教えられる人間は中々にいない。
「命の価値を上げられては困るということか。惑星封鎖機構よりもよっぽど、えげつないな」
始末しては反感を買うが、敵の手に掛かった。となれば、言い訳も着く。
実際の所、ウォルターは察しているので、こうしてナイルを副官の様に取り扱っている訳だが。
「返す言葉もない。だから、俺はここに放置されているのだろう。そう言うお前は、何故ここに?」
惑星封鎖機構は組織への帰属意識が強く、独立傭兵の様な根無し草には居付かない物だと考えていた。故に、目の前の男が大人しく従っているのかが気になった。
「命が惜しいからだ。それ以上の理由はない」
坑道にて遺物の回収を命じられていたが、レイヴン達と接敵した後はトラブルに巻き込まれ命の危機に晒された。その時、自らに手を伸ばしてくれたのは惑星封鎖機構ではなく彼女だった。
「意外だな。そうも簡単に靡くのか」
「惑星封鎖機構に属する人間は余計なことを考えない様、命令に従う様に出来ている。今は、生きたいという本能に従っている。……こうして、こっちに付いた以上、戻れる可能性も無いからな」
企業以上に思惑が不透明であるが故、余計な考えを持たない人間の方が重用されるのだろう。これが全てだとは思わなかったし、翻意する可能性も十分に留意しつつ納得した。
「互いに、古巣に戻れなくなった者同士。今は協力して行こうか。そう言えば、名前を聞いていなかったな」
「名前は無いが『S-1317』という型番はある」
「そうか。では、1317。この縁が続くことを祈ろう。酒でもあれば恰好も付いたんだが……」
フィーカすらなく、あるのは水かミールワーム位だった。少し考えた後、この一同と行動を共にする覚悟も含めて、2匹分のミールワームを持って来た。
「それでどうするんだ?」
「乾杯するグラスも無いから、コイツを打ち付け合うか」
1317もミールワームを手にし、ナイルが持っている物と軽く打ち付けた。ペチッと、何とも言えない感触がした。