戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
アーキバスによるベイラムへの攻撃は概ね順調だった。機動力では勝る物の決定力に欠けるLCの相性補完として、無人機はよく働いていた。
その中身に関しては、一般隊員達は仔細を知らないにしても黒い噂程度には知っていた。何せ、捕縛した捕虜たちが何処へと消えているのだから。
「なんだか、スネイル閣下。人が変わったみたいだよな」
「あぁ。レイヴンが居た頃は、よく皆の前に姿を現していたのに」
そして、これらを指揮しているスネイルの変容ぶりもまた噂になっていた。
レイヴンを従えていた頃は、隊員達の前にもよく顔を出していたのだが、最近はめっきり姿を見せなくなっていた。
「ねぇ、スウィンバーン。どう思う?」
「良くはありませんな」
交戦が始まったことで食堂内の空気もピリ付いている中。ホーキンスとスウィンバーンは向かい合わせで食事を取っていた。先日までの和やかさが嘘のようだった。
「ベイラムの攻略は順調だ。RaDには少してこずっているけれど、本格的に攻めれば落とすのに時間は掛からないだろうしね」
「あの無人機共を使ってですか?」
スウィンバーンは思い出していた。ベイラムの拠点を攻略する際、死も恐れずに突撃していく無人機達の空恐ろしさを。アレは決して勇敢などでは無い。ホーキンスもその辺りを理解しているのか、諦観の混じった返答をした。
「ロクでもない物だけれど、役に立つのは確かだ。部隊の損耗も避けられる」
「合理的であるのかもしれませんが、私は賛同しかねます」
「それでいい。あんな物が賛同されるようになれば、世も末だ」
正に、その末で先陣に立って指揮をしているのが自分達であるのだが。気が滅入る話ばかりだったので、スウィンバーンは無理やりに話題を切り替えた。
「あの娘は、どの戦場にも姿を現していないのですか?」
「少なくとも今の所はね。というか、もしも報告が上がっていればスネイルが真っ先に動くだろうしね」
彼女の機体は未だにアーキバスの格納庫に保管されている。交戦記録や機体の挙動に関するデータは豊富にあったが、彼女の飼い主であるウォルターや背後関係に関するデータは殆ど入っていなかった。
ベイラムからすればイコンの様な存在であり、戦場に解き放てば縦横無尽の活躍をするだろうが、その様な真似はさせていなかった。思いつく理由は幾つもある。
「まず、単純にあの娘が動かせる機体が無いと言うことでしょうな。どんな機体でも動かせることと、任務を遂行できることは別ですから」
彼女と交戦経験のあるスウィンバーンはこの様な推測を立てていた。彼女は軽量~中量機体の使い手であり、機体の挙動も相まってかなり慎重な調整が必要な物だと考えていた。
「もしくは、飼い主であるウォルターの考えがあって動かさずにいるのか。少なくとも、ベイラムとしては動かさない理由が思い浮かばないよね」
ホーキンスからしてもベイラムが動かさない理由が、スウィンバーンの述べた理由以外にはこれ位しか思い浮かばなかった。損失を恐れて後ろに下げているとすれば、あまりにも愚かな判断だからだ。
「あるいは秘密裏に動いているのかもしれないな」
突如として割り込んで来たオキーフに、2人は小さく驚いていた。ただでさえテンションの低い彼だが、連日の出撃で更にテンションが低くなっていた。
「秘密裏に何をすると言うんだ?」
スウィンバーンの知る限りでは、アーキバスへの破壊工作などは確認されていないし、そもそもレイヴンは戦場で戦わせた方が効果的に活躍するはずだった。
「ベイラムの思惑で動くのではない。ホーキンスも言っていた様に、ウォルターの考えで何かしら動いているのかもしれん。ここ数日、RaDにも不審な動きが見られる」
オキーフの調査資料にはここ数日のRaDの動きが載っていた。一部の機体が逃走していた。その中には、カスでお馴染みのノーザークも居た。
「不審と言うか、当然な動きの気もするが。我々の攻勢を見て怖気づいたのだろう。特に不義理の体現者であり、不誠実を人間の形にしたが如き独立傭兵が真っ先に逃げることは自然なことでは?」
「君、ノーザークに何かされた?」
スウィンバーンの辛辣な評価は兎も角、ホーキンスからしても不自然な動きとは思えなかった。戦局が悪くなり、脱走兵が現れると言うのは至極当然な流れだったからだ。
「問題はこいつらが向かった先だ。基本的にはバラバラに逃げているんだが、ノーザークと数機がザイレム方面に向かって逃走している。……一体、こいつらは何が目的で?」
逃走先にしても奇妙な場所だった。アーキバスとしては戦略的な価値の低さから、殆ど触っていなかっただけに。そんな所に向おうとする連中の挙動が気になった。
「では、この動きにレイヴンも来ると?」
「かもしれない。かつて、彼女はザイレムに訪れたこともあったらしい。そこで何かを知ったのかもな」
全ては推測に過ぎない。今はベイラムと交戦中であり、そんな場所に向かう余裕がある訳もない。ある訳も無いのだが。
「どうにかして、向かえないだろうか?」
「難しいと思うよ。ヴェスパー部隊長がそんなことをしている余裕はないだろうしね。私も次に攻める場所が決まったし」
スウィンバーンが口籠った。ホーキンスの手が空いている訳もなく、自分もまたいつ任務が来るかも分からない状態だ。オキーフの方を見るが、彼も首を横に振った。
「俺はV.Ⅰと共にRaDの攻略に当てられている。防衛機の中に異常に強い奴がいるらしい。ソイツは軽量機の使い手だそうだ」
「まさか、それは」
「まだ、誰かは分からない。だから、フロイトと共に行く。……だが、情報は少しでも欲しい。スウィンバーン。お前はRaDから脱走したノーザークの確保に向って欲しい」
「私が?」
「仮にでも相手はアリーナのランカーだ。過去にヨルゲン燃料基地でスカベンジャー達を煽動した危険人物でもある。一般の隊員を向かわせるわけには行かないからな。フロイトを随伴させるほどの任務だ。スネイルの許可も下りるだろう」
ノーザークの評価としては過大な気もするが、確認をしに行く為にはこれだけ大仰にする必要があった。スウィンバーンが頷く。
「分かった。その任務、私が行こう」
「今回の任務はそんなに多くの機体を連れて行けない。LC数機だけで向かうことになるだろうが、頼んだぞ」
形としては秘密裏の捕縛任務と言うことになる故である。すっかり冷めたレーションを頬張りながらも、スウィンバーンの中には熱い決意が滾っていた。
「(レイヴン。アーキバスの為にも、閣下の為にも。帰って来て貰うぞ)」
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ザイレムへと向かうことが決定したレイヴンに配備された機体は、以前と同じ様に両手に『SG-027 ZIMMERMAN』を装備させた物だったが、幾らか違っていた。
「ちょっと重い」
「ベイラム内のドッグを利用することもあって、ベイラム関係のパーツしか使わせて貰えない様になっていた。連中の広報も含めてのことだろう」
ウォルターの恐れていたことの一つだった。企業に所属することで機体の構成が著しく縛られることがある。
レイヴンの機体構成は、シュナイダー社の物を始めとした軽量の物を好んでいるが、今は純正の『MELANDER C3』を使っていた。ベイラムの傑作機と言える『MELANDER』のカスタムモデルである。
「そんなに重いか? 普段、軽量~中量位を普段は使っているんだろ?」
イグアスからすれば見慣れたアセンブルであり、言うほど重さと言う物を感じたことはないが、レイヴンは違っていたらしい。
「中量と言っても、殆ど軽量の中量だがな。本来なら、全力のコンディションで挑ませたいが」
今後のことを考えると、ベイラムから信頼を得ることは重要だ。故に、この機体にも慣れていく必要がある。ウォルターとしても気が進まないが、バスキュラープラントの延伸は企業の力に頼るしかない為、致し方ないことだった。
「ん、頑張る」
夜間。幾分か静まり返っている中、レイヴンを乗せた『MELANDER C3』はザイレムを目指して進んでいた。昼間の喧騒が嘘の様に静かな中、エアがレイヴンに語り掛けた。
『ザイレム。何かと謎が多く残る場所ですが、あの時の調査で見つからなかった物が何か見つかるのでしょうか?』
「何が見つかるかな?」
稼働していた無人機体達はいずれも見たことが無い物ばかりだった。後で、RaDに調査して貰った所。技研製の物だと言うことが分かり、あの場所が技研と関係のある場所だと言うことは判明していたが、それ以上は分からなかった。
『分かりません。ただ、以前にドルマヤンがこの技研都市で『IA-C01G: AORTA』ジェネレーターを見つけたと言っていました。コーラル技術の結晶とも言える様な代物が見つかった場所です。まだ、何かがありそうな気がしますね』
「見つかると良いね!」
もしも、見つかったとすれば。それは、コーラル獲得競争を更に過激化させかねない代物なのだろうが、どういう訳か彼女が手にすればそんなことが起きないような気もした。
『えぇ、そうですね。レイヴン、目的地に到着するまではまだ時間があります。敵影も見つかりませんし、もう少しだけ話をしても良いですか? 最近、いつも周りに誰かが居て、こうして話せることがありませんでしたから』
「いいよ!」
他愛のない話をしながら、機体は彼女達を運んでいく。ザイレム、技研と密接な関係のある場所に何があるのか。調査を依頼したカーラは何を期待しているのか、今は何も分からないが。ひとまずはこの歓談に耽ろうと、エアは暫し話を続けていた。