戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
洋上都市ザイレム。かつて、惑星委封鎖機構によって閉じられていた場所であり、未だに調査の及んでいない場所が残るエリアである。
今は霧も掛かっておらず、訪れた当初に受けた歓迎を考えれば、嫌になる程に静かだった。純正の『MELANDER C3』に乗ったレイヴンは、先に来ているメンツとの合流を目指して進んでいた。
『防衛機体達は撤去されていますね。カーラ達が回収したのでしょうか?』
『ゴースト』の件と言い、彼女はレイヴンが遭遇した無人機達を回収しては運用している。未知の兵器である彼らを直ぐに再利用できる程の技術力は、彼女が『オーバーシアー』に所属しているからだろうか。
ともすれば、この洋上都市の仔細についても彼女は知っているのかもしれない。問題は、その上で何をさせようと言うことなのだが。
『調査と言う目的はあまりにも曖昧です。ベイラムの検閲を避ける為かもしれませんが』
「建物だ」
調査と言われたので、調べる素振りを見せたレイヴンの口からは一つも情報量が無いワードが紡がれていた。代わりにエアが周囲を探索していた。
この都市に残った施設は未だに稼働しているが、一体何の為に稼働しているか。そもそも、何処から電源が来ているのかもサッパリだった。
『何故、この都市は今も稼働中なのでしょうか?』
惰性で動き続けているだけとは思えない。一体、何を目的として通電しているのだろうか? 近場の建物にアクセスしても大した情報は得られない。エアが調査をしている間、レイヴンは頻りに周囲を見渡していた。
「エア、今呼んだ?」
『いえ。何か聞こえたのですか?』
「うん。呼ばれた様な気がして」
普段から、コーラルを吸引しているが故の幻聴と切り捨てる訳にはいかない。ここはドルマヤンのアストヒクに使われている、コーラルジェネレーターが発見された場所なのだ。そう言った施設や、何かしらの遺物があるかもしれない。
『この地点のポイントをマーキングしておきます。メンバーと合流してから、調査を進めましょう』
「分かった」
単独調査ならば深入りも出来ただろうが、合流する予定を勝手に崩す訳には行かない。そうして、目的地へと向かっているとエアから制動が掛かった。
『待って下さい。この先で交戦が行われています』
レーダーには数機分の反応があり、いずれも既知の機体ばかりだった。ビタープロミス、バーンピカクス、ユエユー。ノーザーク達が駆るACであり、彼らは何者かによって攻撃されていた。
攻撃している側の機体編成はLCが数機。そして、彼らを率いている四脚ACのガイダンスだった。この機体を用いるパイロットを、彼女達はよく知っている。
『V.Ⅶがどうしてこの様な所に?』
現在、アーキバスがベイラムとRaDと交戦していることは周知の事実であり、こんな所に派遣している余裕などある筈がない。
もしも、されているとすればここがそれだけ重要な拠点なのか。と考えた時、ふとエアはもう一つの事情に思いあたった。
「助けに行くよ!」
『……はい!』
ひょっとして、この状況を作り出すことで自分達を誘き出そうとしているのではないか? アーキバスやスネイルが、どれだけ彼女に執着していたかをエアはよく知っている。
ここに派遣されたのがスウィンバーンであることがなお引っ掛かっていたが、レイヴンの実力ならどうにでも出来るだろうと考えて、彼女は引き止める真似はしなかった。
~~
レイヴンが訪れるよりも前。解放戦線の面々は愕然としていた。本来、このミッションはレイヴンと合流して無人都市を調査する物であり戦闘は予想していなかった。だと言うのに、何故かV.Ⅶが現れたのだ。
「貴様らはRaDの連中だな。こんな所に何の用だ?」
「た、助けて下さい! 私は争いに巻き込まれたくなくて逃げて来ました! こっちの二人も同じです!」
すかさず、ノーザークが助命を請うた。あまりにも見事な命乞いにツィイーが処世術の一環を垣間見て、多少の感心を覚えていた。秘匿回線で更に通信が入って来た。
「何をしているんですか! 貴方も必死に命乞いをなさい!!」
間違っちゃいないんだけれど。何か腑に落ちない指導だった。とは言え、こちら側の機体は装備に乏しい。
持っているだけ無駄だと。ユエユーが両手に装備していた『IRIDIUM』は取り上げられ、手には破砕用のハンマーが握られているだけだった。これは、ダナムのバーンピカクスも同じだった。
「そ、そうなんだ。私も巻き込まれるのは御免で」
言っていて、心がチクチクと痛んだ。アレだけ可愛がってくれた皆を見捨てて逃げるなんてことは、嘘でも言いたくはなかった。
だが、アーキバスの正式パイロットと戦って勝てる訳がない。生き残るためには仕方ないと、ツィイーが本心を押し殺して吐いた手前のことである。
「こんな所に来るとは! アーキバスは随分と余裕な様だな!」
清廉な烈士であるダナムは己の心に嘘を付くことなど出来るはずもなかった。ハンマーを突き出しながら意気揚々と煽る彼に対して、スウィンバーンは嘲笑を持って応えた。
「そうだな。お前達の様な敗残兵に声を掛ける程度には余裕も常識もあるのが、アーキバスだ。逃走をするにしても方角を間違えているぞ? こんな所に何の用だ?」
「いや、ここなら戦いに巻き込まれないと思いまして!」
ノーザークが窓口に立って必死に命乞いをしている傍ら、ダナムに『黙れボケ』と通信を入れていた。普段の慇懃無礼さすら失せる本音が飛び出していた。
下手なことを喋れば怪しまれると思って口を閉ざしたツィイーは賢明だった。ダナムもノーザークに任せるのが適任だと思ったのか、激情家の彼にしては珍しく自重していた。
「なるほどな。ここに来る者は少ないからな。よし、私は寛大だ。貴様らをアーキバスで保護してやってもいい。ただし、情報を吐いて貰ってからだ」
「はい! 何でも言います!」
「ん? 今、何でも言うと言ったな。では、聞きたいことは3つ。解放戦線はRaDに匿われているのか? そして、迎撃に出ているあの軽量機体の主はラスティなのか?」
いずれも本当のことを話せば、RaDへの攻撃が本格化されかねない物だ。だが、これに関してノーザークはスラスラと答えた。
「いえ、知らないです! 私は外部でスカベンジャーを導いていたので、RaDの現状を知らないんです! 偶々、帰って来たらドンパチしているのが見えて逃げて来ただけで!」
よくもこんなにスラスラと出て来るな。と感心していたが、ツィイー達に関してはそうはいかない。彼女達は正式な解放戦線のメンバーなので知らないという言い訳は通じない。
「あの機体に乗っている奴はレオンって奴で、ラスティなんて奴は知らないよ!」
「そうだ! それに俺達がRaDに居たのはグリッドの修繕作業をしているに過ぎない。俺が職工だったのは、オールマインドが開示している情報にも載っているだろう?」
拠点を失った解放戦線のメンバーがRaDで働いているだけ。と言うことらしいが、納得するかどうかは別だった。
「なるほどな。修繕作業をしている連中が機体を持ちだして、我々に抵抗していると? 随分とアグレッシブだな。何かやましいことでもあるのか?」
だが、内情はどうあれ防衛の為に戦力を出したという事実には変わりない。敵対の意思を見せた以上、スウィンバーンも容赦をするつもりはないようだった。
「そ、そんな解放戦線の融通の利かなさに呆れて逃げ出して来たのです! 一部の連中は抵抗を続けるつもりの様ですが、この通り。我々は脱走して来ました。だから、戦うつもりはありません」
「なるほど。腰抜けとは批難せんよ。貴様らが賢明を装って、同志を裏切る薄情者だとしても興味はない。では、最後の質問だ―――レイヴンをベイラムに引き渡したのは貴様らか?」
今までの嘲笑と余裕を兼ねた様子から、一瞬で敵意が籠った。これには流石にノーザークも言葉に詰まった。少しの時間を置いて、相手の機嫌を確かめるようにゆっくりと言葉を繋いだ。
「私にはどういった遣り取りがあったかは知りません。ただ、気づけばRaDから去っていた。というのが、私の知る限りです」
「……そうか。あの娘らしいな」
先程の緊迫感から一瞬だけ気が緩んだ所で、スウィンバーンは随伴機達に命じ、狙撃銃を構えさせた。
「そんな! 正直に話せば、助けてくれるのでは!?」
「その為には武装解除をして、機体から降りろ。それが最低条件だ。戦うつもりはないのだろう? 何を躊躇う?」
機体から降りた後は拘束されるのは目に見えている。そして、現在のアーキバスの方針から考えるに、捕虜となった後の扱いも想像できた。故に、素直に投降する訳には行かなかった。ダナムが吠えた。
「ほざけ! 人面獣心の畜生共が! 捕らえた人間共をどの様に扱われているか、俺達が知らないとでも思っていたのか! 死ぬとしても、俺は戦って死んでやるぞ!」
「……良いだろう。ならば、戦士として貴様らを葬ってやる!」
LC達が構えた狙撃銃から、一斉にレーザーが斉射された。3機ともバラバラに散開した所で、各個撃破に当たる様にスウィンバーンは命令を飛ばした。
「畜生! どうせこうなるなら、最後まで戦ってやりますとも!」
ノーザークのACはスカベンジャー行為によって多少の更新はされており、惑星封鎖機構の機体からパクったレーザーブレードを振るうが、正規のパイロットからすれば当たる訳もない攻撃だった。
とは言いつつも、生き残るだけの経験を重ねて来たこともあって彼はLCとギリギリ交戦は出来ていた。問題は残る2機である。
「ぐぉおおお!!」
バーンピカクスは集中砲火を浴びていた。交戦に至るとは思っておらず、ハンマーしか握っていないのだから距離を取られたら勝てる訳がない。
しかし、彼はグリッドの建造に携わった職工であり、建築物の造詣には詳しい。この洋上都市の様に建物が林立する場所は、彼のホームグラウンドと言っても過言では無かった。
「企業の走狗め! 鉄槌を受けろ!」
BASHOフレームの強靭な近接適正により繰り出されるハンマーの攻撃は、建物を粉砕して、散弾のように打ち出していた。当然の如く命中する訳もないが、臨時で作り出した飛び道具としてはそれなりの強力な物であった。
そう言ったことが何も望めないツィイーは逃げるしかなかった。だが、直ぐに追い付かれてしまう。
「わ、私だって! 戦士だ!」
迫り来るLCに対してハンマーを振るうが、まるで当たらない。カウンターがてらに繰り出されたブレードの一撃でアームが吹き飛ばされた。続いて、LCの腕部からスタンバトンが取り出され、ユエユーに打ち付けようとした所で吹き飛ばされた。
「ツィイー!」
「レイヴン……!」
機体の構成はまるで違っていたが、通信で聞こえて来た声は聞き慣れた物だった。そして、それは上空でLCを指揮しているスウィンバーンの耳にも入って来た。
「……そうか。小娘、いや。レイヴン。貴様はそちらに着いた訳か」
納得する反面。納得できない感情が、彼に貧乏ゆすりを起こさせていた。彼はLC達に引き続き命令を飛ばした。
「今、現れた機体に関しては私が対応しよう。貴様らでは荷が勝ち過ぎる。引き続き、先の3機の捕縛に当たれ」
了解という旨を受け取り、スウィンバーンは件の機体に接近した。アセンブルは純正の『MELANDER C3』であり、彼女の機体構成としてはピンと来ない物ではあったが。
「スウィンバーン……」
「予想は大当たりだったという訳か。貴様の意思は一旦置いとくとして、我々の元に戻って来て貰うぞ」
彼女と対峙するのは一度目ではない。壁では捕らえられ、ミールワームを用いて弄ばれたりもした。シミュレーターでは30回連続で負けた。
パイロットの力量としては雲泥の差がある。それでも、引く訳には行かなかった。今は企業の為だけでは無く、自身と敬愛する上司の為にも諦めるという選択肢は存在していなかった。
『レイヴン。構えて下さい! 貴方なら、彼を無力化することは不可能ではないハズです!』
「うん!」
【来い! 今度こそ、貴様の性根を指導してやる!】
ブーストを吹かす。互いにとって、避けられない戦いが始まった。