戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「また、お前か。どうにも縁があるようだな」
「お前は、自分の娘にどういった教育をしているんだ!」
捕虜となって早々、スウィンバーンはウォルターに抗議していた。
レイヴンが彼を持ち帰って来た時は、尋問に掛けられようとしたが彼女が頑なに引き渡さなかった為、ウォルターの所で預かりになっていた。
「いやぁ、私にメーテルリンク。スウィンバーンも揃いましたから、後はホーキンスさんが来れば、下位ナンバー勢揃いですね!」
ペイターも何処となく嬉しそうだった。猟犬部隊(ハウンズ)内の面々は殴り返して来る奴らばかりだったし、1317は玩具にするには反応が悪い為。スウィンバーンの訪問を歓迎していた。
レイヴンが好意的だったこともあって、スウィンバーンは特に批難されることも無く受け入れられていたが、逆に居心地が悪くもあった。他の同志達が鎬を削る中、こんな立場に甘んじていて良いのかと。
「気にするな。どうしても、気が咎めるなら自分は捕虜と思え。初めてではないだろう?」
「むしー」
見かねたウォルターが差し出した気遣いに呼応するようにして、レイヴンがスウィンバーンの顔にミールワームを乗せようとしたが、逆に掴み取って彼女の口に放り込んでいた。
「何時までもやられっぱなしだと思うな!」
「ふがふが」
「そう言えば、帰って来た後。ラスティの部屋でミールワームに慣れる訓練とかしていましたね」
全く、需要が無さそうな訓練であるが微妙に実は結んでいた。口にミールワームを突っ込まれたレイヴンは暫くモゴモゴした後、吸引を始めていた。ミールワームの尻尾から赤い煙がモクモクと立ち込めた。
緊張状態にあると言うのに、全くそんな気配を感じさせない光景に呆れながらも、改めて1317は現状を鑑みていた。
「ペイターの言う様に、現状。アーキバスは幾らか弱体化しているのでは?」
現状、部隊長の半数が脱走か捕虜と言う状態に陥っている。隊員達の士気にも関わって来る問題でもあるが、アーキバスに弱体化した様子は見られない。
これに関して、スウィンバーンは眉をひそめていた。彼の心を占めていた憂慮は、レイヴンにも伝わったのか。彼女も目を伏せた。
「いや、ペイターには分かるだろうが。最近は、ファクトリーの稼働率が高くなっている。V.Ⅳと解放戦線を粛正した成果だ」
それが何を意味するのか、ペイターは直ぐに理解した。どうして、その様な事態に陥ったかというのも、レイヴンの方を見て察した。
「思ったより、レイヴンに入れ込んでいた様ですね。それだけ手勢を揃えれば、頭が抜けてもカバーは出来そうですが」
「だが、このやり方は反感を買う。例え、ルビコンを制圧しても閣下の求心力が低下することは避けられない」
部下には恐れられ、敵からは投降と言う選択が奪われる。そして、今でこそ無人機は猛威を振るっているが、いずれ対処されることは目に見えている。
こんな短期間での成果だけを求める手法は、スネイルらしくない。というのは、ペイターとスウィンバーンの共通の認識だった。
「奴も焦っているのかもしれないな。グリッド086の方も防衛に成功したらしいが、もう拠点としては使えない位に損傷を負ったらしい。近く、ザイレムに移動するそうだ」
ルビコン内の勢力図は徐々にアーキバスに染まりつつあるが、ウォルター達の思惑は着実に進んでいる。後は、どの勢力が一番先に本懐を遂げられるかだ。
アーキバスとベイラムはバスキュラープラントを用いて、コーラルを吸い上げる。オーバーシアーとルビコン解放戦線はバスキュラープラントを破壊する。
『そして、もう一つ。セリアやスッラ達を始めとした、コーラルを用いて人々の肉体を焼き払わんとする者達』
「だってさ」
「決して無視できるものではないか」
ウォルターも当初は少数精鋭でことを進めようと考えていたので、スッラ達のことを軽視するつもりもなかった。
故に、今自分達が出来ることを急ぐとすれば、ザイレムから持ち帰って来た、HAL826の解析だった。
技研製のパーツだけで構成されており、ジェネレーターに至ってはコーラルで構築されている。ベイラムからしても興味が尽きない研究対象であるだけに、彼らに技術を引き渡すことにもなりかねない為、自分達だけで研究を進めなければならなかった。
「ウォルター。1つ、話を聞くんだが。この機体は、そもそも搭乗できる代物なのか? 機体性能だけではなく、ジェネレーターから発せられるコーラル粒子の有毒性も鑑みてだ」
1317は俄かに信じ難かった。惑星封鎖機構の一員として、コーラル粒子は封印されるべき物であり、自分達の兵器として用いる場合は無人機に限ると言ったスタンスを取っていたこともあったから
こんな危険物を振り撒く機体に人を乗せる。という考えは、もはや狂気にも近しいと考えていた。
「搭乗自体は出来るだろう。パイロットにかなりの負荷は掛かるだろうが」
コーラルが人体に対して有害であることは既に知られている。そんな物を多用する兵器に安全性が備わっている訳が無い。……代わりに、現行のACでも類を見ない性能を実現できているが。
ウォルターが淡々と事実を述べたことに対して、スウィンバーンが眉をしかめながら詰め寄った。
「ウォルター。まさか、貴様。この娘を乗せ続ける訳ではないだろうな?」
「俺からは乗れと言わん。新規の機体が欲しければ用意する。だが、HAL826を使用する場合は必ず出撃前後の検査を義務付ける。その上で、お前が決めろ」
「分かったー」
使用を禁ずることはしなかったが、慎重な姿勢は見て取れた。ただ、それでもスウィンバーンは納得していないようだった。
「ウォルター。貴様はこの娘の判断を尊重しているのかもしれないが、私には無関心な様にも思えるのだが?」
「俺はコイツのサポートをするが、保護者や父親と言う訳ではない。対等な関係を結んでいると考えている。1人の自立した人間であり、庇護したり是正したりする対象ではない」
「常識的に考えろ! パイロットの技量はあるかもしれないが、自立させるには明らかに早すぎるだろ!!」
「早すぎるも何も。今のご時勢、その選択の機会を貰えない人間も多いんだ。621は自らの意思で付いて来た。そこに経過年数による年齢は前提とするべきではない」
「なにこれ教育方針の違い?」
子の教育方針を決める会議はこんな風に行われていたのだろうかと、ペイターが傍観者として無責任に考えていた。
そんな保護者会議の様子をレイヴンは、新しく取り出したミールワームにコーラルを塗して吸引しようとした所で、1317に取り上げられた。
「お前のことで会議しているんだ。ちゃんと耳を傾けておけ」
「はーい」
『自立はしているというか、常に暴走しているというか。まぁ、お目付け役は必要ですよね』
もしかしたら、自分が一生その立場になるかもしれない。なんてことを、エアはボンヤリと考えていた。
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スネイルにRaDの攻略の顛末が伝わった。想像以上に苛烈な反撃に遭い、グリッド086の機能を停止させることには成功したが、ルビコン解放戦線やドーザー達を捕らえるには至らなかったこと。
そして、別所に派遣したV.Ⅶが捕縛されたこと。……その下手人がレイヴンであることも伝わっていた。
「そうか。貴様はそちらに付くと言うのか」
既に怒鳴る段階は通り過ぎ、スネイルの怒りは彼から人間的な熱量を奪うに至っていた。ホーキンスですら言葉が発せない状況で、フロイトは淡々と述べた。
「それじゃあ、スネイル。ザイレムの方にリベンジに行こうか。LCやスウィンバーンが直前まで送って来ていた映像から、あの都市は何かしらの機能を有していると判断して間違いない」
「……良いでしょう。ただし、やるなら徹底的に潰しなさい」
「了解だ」
氷の様な表情筋を動かさないスネイルと対照的に、フロイトの顔には張り裂けんばかりの笑みが浮かんでいた。彼の心は件の映像に映りこんでいた機体とパイロットに囚われていた。
「(レイヴン! あの時、生かしておいた甲斐があった! 早く、奴と相まみえたい! 見たこともない機体だ。一体、どんな戦い方をするんだ!)」
そんな二人を見比べながら、ホーキンスの表情は実に人間的に歪んでいた。そして、この痛みを分かち合える同僚の損失に内心、愚痴を吐いていた。
「(あぁ、スウィンバーン。ペイター君。そっちがちょっとばかり羨ましいかな)」