戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
ザイレムの各所で激闘が繰り広げられている中、最も激しい攻防が行われているのは、レイヴン達の交戦地点だった。
ルビコン解放戦線きってのエースパイロットであるラスティ、裏社会で暗殺者として名を馳せた六文銭、半世紀もの間ルビコンで生き抜いてきた超熟練パイロットのドルマヤン。この3機を相手に、レイヴンは大立ち回りしていた。
「ラスティ、六文銭! 来るぞ!」
HAL826が『IB-C03W2: WLT 101』を振り被る。コーラルの群知能に干渉することで形成された刃は、機体を容赦なく切り裂く。
出力の調整次第ではブレードではなく、まるでバーナーの様に刃を照射すること言うデタラメなことさえも可能だった。ドルマヤンのサポートが無ければ、ラスティも六文銭もここまでは立ち回れていなかった。
『レイヴン。恐らくですが、ドルマヤンにはHAL826の挙動が見えています。彼もドーザーですから、群知能の動きが分かるのでしょう。……私の声も聞こえているのでしたね』
返事こそしなかったが、エアの指摘通りだった。ドルマヤンにはエアの声のみならず、HAL826が攻撃する際に用いるコーラル粒子への干渉が見えていた。
ただし、レイヴンは展開した後で悠長に振るう、等と言うことはしない。振ると同時に形成しているので、命中するまで刃の軌跡が見えない。その為、非常に避け辛い物になっていた。
「鬼に金棒。とは、まさにこのことか!」
強い物がさらなる力を手に入れた時に使われる、日系の慣用句であるが、ここまで当てはまる状況が来るとは思っていなかった。
『44-143 HMMR』の投擲体は切り飛ばされ、『SG-026 HALDEMAN』を打ち込もうにも、コーラルによって形成されたバリアに阻まれる。コレを切り裂かんと、スティールヘイズ・オルトゥスが『Vvc-774LS』を剣舞の様に用いるが、レイヴンも黙って見ている訳が無く。
『IB-C03W3:NGI 006』によって形成された、コーラルの炸裂弾を近接攻撃の軌道上に置くことで、相手側の連撃を防いでいた。
「全く。3機掛かりで対等とはな!」
彼女は軽量機体の使い手だったと記憶している。目の前の機体重量は中量クラスだったが、挙動は軽快だった。
ラスティの操縦桿を握る手に力が籠る。自分にもこれだけの力があれば、企業を相手取ることが出来たのなら。と、何度夢想したことだろうか。
「ラスティ。貴様は一人だけで戦っている訳ではない。潜入していた時とは違うのだ。もっと、周りを頼れ」
ドルマヤンのアストヒクがコーラル機雷とも言える群を突破して、ラスティがダメージを与えていたHAL826のバリアを『HI-32: BU-TT/A』で叩き切った。
同時に機体のバランスも崩れたが、レイヴンは動揺しない。ドルマヤンが吶喊して来ることを分かっていた様に、縦方向に1回転してヒールレイドをアストヒクに叩き込んでいた。
「ぐぉお!?」
「帥父!」
加速を乗せた一撃は、アストヒクを地面へと叩き付けた。凄まじい衝撃がコックピット内を駆け巡り、意識が持っていかれそうになった所である。
『あぁ、もう。サムが頑張っているから我慢できなくなっちゃった』
「……まさか」
エアがこんな風に語り掛けてくるはずがない。見れば、手の届く範囲に使い慣れたパイプが転がっていた。朦朧とした意識の中で手に取った。
戦闘中に薬物を過剰使用(オーバードーズ)すると言うことは決して珍しくはない。恐怖、緊張を吹き飛ばす為に使われることもある話だ。そして、ドルマヤンの全身の血潮が滾る。半世紀前に忘れた感覚が完全に甦る。
『今はこれだけ。サム、負けないでね』
「勿論だ! セリア!!」
意識に火が入る。ジェネレーターである『IA-C01G: AORTA』から大量のコーラル粒子が噴出され、再び宙に舞い戻る。
接近して来るアストヒクを見て、レイヴンの顔が喜色に染まる。シノビとオルトゥスを蹴り飛ばして、彼女もまた接近する。2人とエアの間を漂う波長が重なり合ったかのような感覚で、その中には明確な一つの意思があった。
「勝つ!!」
BASHOフレームと言う旧式を用いながらも、アストヒクはまるで性能差を感じさせないような高速での近接戦を行っていた。
振るわれるコーラルブレードを避けるのは無理だとして、HAL826の右腕部を下方から払い上げ、代わりに『IB-C03W1:WLT 011』から放たれた赤色のレーザーが背部にマウントしていた『MA-T-222 KYORAI』と『BML-G1/P20MLT-04』に命中した。直ぐに、パージすると地上部に落ちる前に爆発した。
『レイヴン! 明らかにアストヒクの動きが違います。これは……コーラル粒子による機体制御が行われています。目の前のアレはBASHOフレームの形をした、何かとなっています』
「知っている!」
「一ドーザーとして、小娘如きに引けを取らんわ!」
あまりの苛烈さから六文銭とラスティは介入が出来ずにいたが、バカみたいに棒立ちしている訳にもいかなかった。
「ラスティ。拙者は、ノーザークの援護に回る。アレでもともに仕事をした同志だ。見捨てる訳には行かん」
「分かった。では、私はペイターの方に回ろう。彼を相手にするのは骨が折れるだろうからな」
戦場では瞬時の判断が戦況を分ける。六文銭は直ぐにノーザークの援護へと向かった。一方、ラスティは熾烈な戦いを繰り広げるレイヴン達を見ながら、歯噛みしていた。
「(新たな力を手にしたというのに。また、距離を開けられたと言うのか)」
先日まで、隣に立っていた相手が随分先へと進んでしまっている様に思えた。そんな彼女に、旧式の機体で追い縋っているトップのことを……少しだけ羨ましく思いながら、ラスティもまたラミーやダナムの援護に向かった。
~~
「ボス、全体的に押されている。俺もカタフラクトで出るべきか?」
ザイレムの内部。表で激闘が繰り広げられている中、システムやハードウェアの修繕に当たっていたカーラは暫し悩んでいた。
「いや、カタフラクトは修理するのが面倒だ。ビジターが使う技研の機体とやり合うのも面倒だろうしね。ベイラムの連中は楽しませてやったんだ。適当な所で幕を引きたいんだけれどねぇ。あのバカ共が余計なことをしなければ、このままビジター達も拉致出来たんだけれど」
このザイレムへの干渉に関しては、オールマインド達は急所を突いていた。
ウォルターの恭順を示す為に喧嘩は買って出たが、この船が接収されることだけは避けたい。かと言って、船を飛ばすことも出来ないとすればやることは一つ。彼女は、ソフト面で余計なことをしてくれたオールマインドが用いたコードをザッと眺めていた。
「チャティ。このコード、真似ることはできるか?」
「問題ない。計算量は莫大だが、コード自体は難しくない。ボス、何をするつもりだ?」
「なぁに、先に嫌がらせをして来たのは向こうさ。だったら、まとめて面倒ごとは背負って貰わないと」
カーラは悪戯心を剥き出しにしながら、ザイレムに走るプログラムに細工を施し始めた。その度に語られる、彼女のこだわりにチャティは大いに同意しながら共に細工をしていた。
~~
「……そうか。分かった」
ヴォルタはハーミットを大破に追い込んだ後、カーラからの通信を傍受していた。技術職の仕事をし始めたとはいえ、G4としての腕前は何一つとして鈍っていなかった。
脱出したレッドは悔しくもありながら、かつて慕っていた先輩が変わらぬ実力を持っていることに、何処か嬉しくも感じていた。
「せんぱ……ヴォルタ! 俺をどうにもしないのか!」
「しねぇよ。殺しても給料払われる訳じゃねぇからな。イグアスの野郎に言っておけ。今度は、テメェが来いってな」
キャノンヘッドは追撃を行うことも無く去って行った。これは決して、慈悲を掛けただけではない。実力差を明確に示すことで、ベイラムへ警告しているのだろう。あるいは、本当に伝言の為に生かしておいたのかもしれないが。
戦いの気配はまだ止みそうにない。戦闘の余波に巻き込まれない様に、近くの建物へと入った。息を殺して、周囲を探索する。
「(ザイレム。色々と曰く付きのある場所だが、一体何があると言うんだ?)」
ベイラムもこの場所に隊員を向かわせたことはあったが、いずれもMIAとなった為、次第に調査をされることも無くなって行った。
誰が何の為に建てた場所なのか? そんなことを調べていると、俄かに人の気配を感じた。彼は拳銃を構えながら、振り向いた。
「誰だ!!」
「お前、その声は!」
振り向いた先に居たのは、妹と同じ位の子供と大人の境目に位置するような少女。リトル・ツィイーだった。そして、その声は先程聞いたばかりの物だった。
「あのACのパイロットか。その様子だと、お前も機体を捨てたのか」
「だから、どうした。ここでお前を仕留めて帰れば、帳尻は合う!」
彼女は手にしたスリングショットのゴム紐を引いて、小石を打ち出していた。レッドからすれば、こんな原始的な武器が使われるとは思っておらず、ほんの僅かだが反応が遅れた結果、拳銃が弾き飛ばされた。
これ幸いにと、ツィイーは次弾を装填したがレッドもまた軍人である。直ぐに冷静さを取り戻し、ポーチから取り出したライトを彼女の目に向けて照射した。
軍用に使われる物は輝度が高く、ツィイーが反射的に目を伏せた瞬間。レッドは飛び跳ねるようにして駆け出した。
彼女は慌ててスリングショットを放つも、狙いもままならぬ状態で当たる訳もない。肉薄して来たレッドに対してナイフを突き出すが、直ぐに叩き落され関節を極められ、手首に錠を掛けられた。
「甘く見るなよ」
「離せ! 企業の畜生め! 貴様らに慰みにされる位なら!」
「よせ!」
ツィイーは自らの舌を噛み切ろうとしたが、勢いよく歯が舌に当たった時点で『痛っ』となって、嚙み切るのを断念した。何とも言えない、間抜けな空気が漂う。気を取り直したレッドが窓際から離れた場所に移動しながら言った。
「少なくとも戦闘が終わるまでは、我々はここに待機する外ない。逃げ出そうとしたり、バカなことをするなよ」
「ッチ」
返事の代りに舌打ちをした。外では未だに交戦が続いており、建物へ流れ弾が命中することも少なくはない。だが、外に出て行くことも出来ない。
「おい、何処か安全な場所は無いのか?」
「知らないよ。私達だって、ここに来て日が経っている訳じゃないんだ」
彼女も、この都市についてはよく知らないらしい。その後も、レッドはあれこれと聞いたが、ツィイーは殆ど何も情報を持っていなかった。というよりは、持たされていなかったと言った方が正しい。
「そうか。なら、戦いが終わるまで待つしかないか」
聞き出せる情報も無いなら、無駄に体力を費やすのは得策ではない。何も喋らずにいると、外での交戦音が2人の神経を削って行く。耐えかねて、先に口を開いたのはツィイーだった。
「アンタらは、このルビコンでコーラルを入手したとして。それで、どうするんだ?」
「そんなことは知らん。俺達は上の命令に従うだけだ」
「上の命令が一番だってのか。その陰で、私達が飢えて死のうが知ったことじゃないってのかよ!」
ツィイーから睨まれて、レッドは思わず視線を逸らしてしまった。妹と年恰好が近かったこともあり、任務中であるにも関わらず感傷が過ってしまった為だ。
彼だって理解していない訳ではない。ベイラムが行っていることが搾取であり、ルビコンに貧困を強いていることは理解しているつもりでいた。
だが、彼は被害者と遭ったことは殆ど無かった。いずれも企業の理念を阻む敵位にしか考えていなかった。実際に会ってみれば、敵と言うだけで切り捨てられる相手ばかりでないことは直ぐに分かった。
例えば、競合企業の相手は冷徹な兵士ではなく、裏切られれば傷付くし、差し伸べられた手を取らずにはいられない普通の女性だった。
例えば、自分達が貧困と飢餓を強いているのは、理性や知性の劣った相手ではなく、自分の妹と同い年位の少女だった。
「兵士になった以上、それ以外の生き方は無い」
「嘘付け! アンタの所にいたヴォルタはそうじゃなかった! 今じゃ、RaDの奴らと一緒に作業用の機体を作ったりしているし、解放戦線の奴らとだって仲も良い! 誰に命じられた訳でもない! 自分で考えて動いているよ!」
少年の頃。ミシガンの活躍に憧れたレッドにとって、軍人とは輝かしい英傑だった。だが、今の自分はどうだろうか? 自らに問いかけることを何度繰り返したかは分からない。
その度に上の命令だから。と、何度思考を打ち切って来たことだろうか。目を背け続けた問題が、目の前にある。突き付けられて、なおも目を逸らせるほど、彼は冷血漢では無かった。
「俺に言うな。俺に言われた所で、どうしようもない」
「そうやって、アンタはどうしようもない。って言い続けるつもりか? 応えろよ。なぁ……」
今や外での交戦音が遠く思える。それ位、ツィイーの糾弾はレッドに深く響いていた。