戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「まぁ、挑発し過ぎたとは思っていたけれどさ」
ザイレムを追われたRaD&解放戦線連合が新たな拠点を求めて、廃棄グリッドを探していた時のことである。大量の無人機を引き連れた、エンタングルが彼女らの前に立ちはだかっていた。
「そう言うことだ。お前達を生かしておいたら、何をするか分からんからな。ここで消えて貰う」
先の戦闘で消耗した彼らとしても戦闘は避けたい。交渉の余地などありそうにも思えなかった所、1人の男が前に出た。サム・ドルマヤンだ。
「セリア。君に、この声が聞こえているなら頼みがある。私の身柄と引き換えに、彼女らを見逃して欲しい」
「帥父!?」
リング・フレディが叫ぶ。組織的な長としてだけではなく、個人としても慕う彼としては、決して看過出来ることではなかった。引き留めようにも、立ち並ぶ無人機達から放たれる殺意に気圧されていた。
「貴様1人の命で見逃してやるわけが無いだろう。と言いたいが」
『スッラ。私、貴方のそう言う賢明な所。嫌いじゃありません』
無人機達の武装がスッラに向けられていた。こうなれば、彼も武装を降ろさざるを得ない。交渉の余地が生まれた。
「ビジターが引きつれているアレと一緒か。サム! 相手はどんな反応をしているんだい?」
「ひとまず。交渉の余地はあるらしい」
カーラにはセリアの声を聴くことが出来ない。故に、いつ無人機達が自分達に向けて攻撃を始めるかも分からない、緊張状態の中。自分達の命運をドルマヤンに託す外なかった。
『でも、オールマインドの計画は進めたいし、ザイレムを復旧できる貴方達がいると困るのよね』
「セリア。私達がこのルビコンで生きていく為にはコーラルが必要なのだ。それが、お前達にとって搾取と抑圧に過ぎないとしても」
ここにいる者達の殆どはセリアの声は聞こえない。しかし、ドルマヤンが語る後悔が、会話の内容を彷彿とさせた。
『だから、コーラルリリースを経て肉体を捨てるべきなの。貧困に、飢餓に、争い。肉体を持ち続ける限り、際限のない不幸ばかりが再生産されるのだから。それから、逃れられない死という運命も』
その時、ドルマヤンの全身に刺激が駆け巡った。全身を愛撫されている様な、官能的な感覚に、思わず声が漏れた。
「お“っ」
「帥父!?」
悲鳴にも近い叫び声を上げたのはリング・フレディだけであり、他の者達はさっきまでの真剣さは何だったんだと言わんばかりに冷めた視線を向けていた。
『アレだけ精悍だった体も皺だらけ。なんなら、ちょっと弛んでいる。不規則で栄養不足な生活も続いているせいでお腹もブヨブヨ。後、この沁みついた臭い。誰の? さっきからやたらと煩い、あのタンクACに乗っている奴の?』
途中までは慈しむような声だったが、急に声色に殺意が籠った。無人機達の武装が今度は、キャンドル・リングへと一斉に向けられた。
そのことから、リング・フレディも自らに話題が向いたことを察したのか、負けじと自己主張を始めた。
「昔の女が何か言っている様だな。自身の魅力で勝てないからって暴力に頼る所など浅ましい。だから、捨てられるんだ。帥父は私にメロメロだから、諦めてさっさと帰るがいい」
『サム。肉体に執着するって、そう言うこと?』
「はなせばわかる」
解放戦線トップの挺身劇は、痴話喧嘩へと推移ししていた。律儀なことにスッラも、これらの会話が終わるまでキチンと待機していた。
『大丈夫、私はキチンと理解しているわ。サムは私が一番だから、女に手を出さない様に男色に走ったのでしょう? 同性だったらノーカウントだからね。本当を言うと、今直ぐ無人機達に攻撃指令を出して全滅させたい位に腹が立っているけれど、ギリギリ許すわ』
「そ、そうか。うむ。納得してくれて何よりだ。それで、条件を飲んでくれるのか?」
最初は皆を守るために前に出たのだが、今となっては皆の視線が痛すぎて居た堪れないから、この場を早く去りたい一心で交渉を進めていた。
『もちろんよ。このままだとサムが男色家になってしまうからね。将来的に肉体は無くなったとしても、それは腹立たしいからキッチリ調教させて貰うから。という訳でスッラ、サムを連れて帰るから』
「俺の身にもなって欲しい」
こんな会話を垂れ流しで聞かされたスッラの心境たるやいかほどか。敵対しているとは言え、老人同士。過去の傷跡を穿り返されたことに関しては、思うことがあったのか。事情が分からなさそうにしているカーラに向けて通信を入れた。
「で。話し合いの方はどうなったんだい?」
「取引は成立だ。やはり、半世紀ぶりの恋慕は合理性を上回るらしい。2人の逢瀬に、俺達は無粋だろう。去らせて貰うぞ」
あんな会話を、よくもここまで修飾出来た物だと。ドルマヤンとセリアは驚いていた。そして、カーラはと言えば口笛を吹かしていた。
「敵さんながらロマンチックじゃないか。嫌いじゃないよ」
「だが、帥父は我々の精神的支柱だ。もしものことがあれば、我々は容赦しない」
カーラが軽口を叩く中、帥叔であるフラットウェルは凄んでいた。リング・フレディは余計なことを言わない様にと、六文銭とラスティに抑え込まれていた。
『さぁ、サム。帰りましょう』
「……皆、達者でな」
エンタングルが屈み、ドルマヤンが乗り込むと同時に空中へと発った。飛び立った姿が見えなくなった位に、無人機達も踵を返して何処かへと去って行った。暫くして、安全が確認されたのち。カーラは問うた。
「チャティ、去った無人機達を追跡できるか?」
「駄目だ。無人機の中に触れた時点で容赦なく排除するプログラムが仕込まれていた。あの容赦のなさと徹底ぶりは、オールマインドとは比べ物にならない」
チャティから淡々と事実だけが告げられた。つまり、彼女はドルマヤンの投降が無ければ、本気で自分達を壊滅させる気だったのだ。カーラの頬を冷や汗が伝った。間髪入れず、リング・フレディが声を上げた。
「カーラ! 早く拠点を見つけて、帥父を取り戻す為の準備をするぞ! 何処に行けば、使えるグリッドは置いてある!」
「……今から、悠長にグリッドを探している暇はなさそうだし。そうだね」
彼女は今まで来た道を振り返った。可能性があるとすれば、そこ位しか残っていないだろう。
「皆、ザイレムの方に引き返すよ。恐らく、あそこではもう一度デカい花火が打ち上がるはずだ。その跡地を狙うよ」
「アーキバスか」
ベイラムが奪取した後に襲撃を企てる者達がいるとすれば、敵対企業であるアーキバスしかありえない。元ヴェスパー部隊長であるラスティの声色には、苦悶がにじみ出ていた。
「奴らに見つからない様に。そして、無人機達と再度遭遇しない様に。一度、引き返そう」
フラットウェルの発言に全員が消沈していた。疲弊した体を引きずって、ここまで来たというのに、再び引き返すとは。
これまでの時間が全て徒労に帰すことは耐え難いことでもあったが、他に道はない。方向転換する彼らの足取りは重たい物だった。
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「つまり、貴方達は中肉中背の爺を手に入れる代わりに連中を見逃したと。そう言いたいのですね?」
「その通りだ」
帰還したスッラは事実だけを述べていた。そして、直ぐ近くの別室では件の爺の悲鳴が延々と響いていた。
「参考までに聞くのですが、セリア達は何を?」
「今の男のことなど忘れさせてやると言っていた。そろそろ、俺もキレそうだ。本当に貴様らは大層なことをしようとしているんだろうな? 俺を騙してバラエティ番組に売り出す映像を取っているとかではないんだよな?」
オールマインドだけではなく、スッラも相当にキていたらしい。こんなアホなことに付き合わされていたら、そうもなる。
「はい。ですが、構いません。私の工作は順調に進んでいますから」
壁面のモニタ。そこにはザイレムに駐留しているベイラムの防衛部隊を撃破する、アーキバスのヴェスパー部隊と惑星封鎖機構から改修した兵器、バルテウスが映し出されていた。