戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「本日はお越しいただき、誠にありがとうございます」
ルビコン星外熱圏、惑星封鎖機構の衛星上拠点『LOCステーション31』。
かつて『ブランチ』と呼ばれる傭兵集団の襲撃により重大な損害を被り、今となっては破棄された場所である。
そんな辺鄙な場所に、護衛を引き連れたアーキバスの重役は一人の女性と会談していた。彼女の全身は義体で構成されている。
「礼は良い。手短に行くぞ。貴様が惑星封鎖機構員の『ケイト・マークソン』で間違いないな? 今更になって、どうして私達に手を貸して来た?」
惑星封鎖機構。コーラルの流出を防ぐために活動をしていたが、企業の猛反撃に遭い撤退を余儀なくされた者達。もう、介入してくることはないと考えていただけに意外だった。
「単刀直入に申し上げます。お抱えのヴェスパー部隊長がザイレムの制圧に乗り出していますが、この作戦は失敗します。そうなったとき、いよいよ貴方達はコーラル競争からの撤退を余儀なくされます」
ケイトの予測にアーキバスの重役は考え込んだ。実際、改修したバルテウスを用いたとしてもレイヴン達を撃退できるとは考えていなかったからだ。
重役らしくリスク管理はシビアな物であったが、ここに至るまで投資して来た資金を考えれば、素直に撤退することも出来ない。故に、こんな怪しい交渉に赴いた訳だが。
「それで。お前達が手を貸してくれるとでも言うのか? コーラル輸送護衛任務を妨害した貴様が?」
「アレをやったのは『オールマインド』であり、彼女は私の予備策です。どうしますか? このままベイラムが勝者となる様子を見届けますか?」
それは何としても避けたい。コーラルを独占されれば、他所での競合にも影響が出て来る。
「……お前達は何をしてくれるんだ?」
「惑星封鎖機構の力を少しばかり貸与しましょう。こちらの兵器の取り扱いに関しては、十分に熟知されたでしょう?」
惑星委封鎖機構から鹵獲した兵器群は解析もかなり進んでいる。この状況で新たに配備されると言うのなら拒否する理由も無かった。ただ、気になることはあった。
「この取引における、貴様らへのメリットは何だ?」
「我々が協力する暁には、星外へと持ち出すコーラルの輸出量に関する条約を結んで頂きたいのです。このままではベイラムが無制限に持ち出しそうなのでね」
話の上では分からないまでもない。ここまで来たら完全な封鎖は不可能として、制約を設けると言うのは、彼らが最大限に譲歩した結果なのだろう。
企業的には無制限に吸い上げたいのだが、このままでは何も手に入らない。互いの譲歩の結果として、飲み込まざるを得ない取引ではあった。
「分かった。取引に応じよう」
「感謝します。惑星封鎖機構とアーキバスに良き未来を。我々の友好の証として、この機体を贈与します」
案内された先にあったのは、数機のHM型LCと新型のHCが数機。そして、見慣れない機体が1機。これらを目にしながら、重役の男は思う。
「(今となって、ようやく出て来たこの女は何者なんだ? オールマインドとの関係も気になる。探りは入れるべきか)」
~~
「私のパイロットとしての技量が貴方に劣ることは認めましょう。心が読まれる以上、駆け引きを無条件にねじ伏せられますからね。ならば、それらを上回る性能で叩きのめす!!」
かつて、相対したバルテウスよりも機動性に長けていた。レイヴンもスネイルの思考を読みながら対応していたが、彼女の能力を轢き潰すが如き機動と火力で圧していた。
それらに加えて、鉄壁とも言えるパルスバリアがあらゆる攻撃を阻んでいた。しかし、身を守るための機構が彼自身を蝕んでいることを、レイヴンとエアは知っている。
『レイヴン。このまま、パルスバリアを張り続けさせて、スネイルの自滅を狙いましょう』
兵器としても『パルスシールド』は一般的に流通されており、ACの拡張機能としても『パルスアーマー』は存在しているが、いずれも長時間展開する用には作られていない。しかし、展開ドローンの存在と言い技術的には可能である。
では、何故。常時展開させ続ける物が存在しないかと言えば、答えは一つ。パルスバリアが人体に有害である為だ。
【がぁああああああ!!】
攻撃にも使われる電磁パルスは、相手の攻撃をも打ち砕く防御壁ともなる。だが、それだけ高出力の電磁を放出すればパイロットも影響を受けざるを得ない。
幾ら機体の表面に加工を施そうと全てを遮断できる訳ではないので、長時間の使用は想定されていない。その弊害をモロに食らっているスネイルの絶叫が聞こえていた。
なので、エアの作戦は効果的な物であった。このまま翻弄し続け、相手にパルスバリアを張らせ続ければ、いずれ中の方が潰れる。採用しない手が無い。
「ダメ」
『そう言うと思っていました。ならば、まずはパルスバリアの発生源から叩き潰しましょう!』
物を一蹴した。レイヴンの答えが分かっていたのか、エアにも驚いた様子はなく、次の指示を飛ばしていた。
『IB-C03W3:NGI 006』で機雷の様なコーラル弾を設置しながら、バルテウスの機動を制限しつつ。右腕部の『IB-C03W2: WLT 101』のチャージ弾でパルスバリアを削っていく。
「どいつもコイツも私を苛立たせる! クソ野郎のサイコパスV.Ⅷ! 空気も読めないV.Ⅶ! V.Ⅷ! 碌に指示もこなせないV.Ⅵ! V.Ⅷ! 裏切者のV.Ⅳ! V.Ⅷ! 私に何でも投げればいいと思っているV.Ⅰ! V.Ⅷ!! 現場の苦労も考えない上層部! ペイター!!!」
『本当にV.Ⅷが嫌いなんですね』
バルテウスを動かす為の調整で、精神的均衡を欠いたのか。今の彼は、感情の抑制という物がまるで利いていない。
彼の感情の奔流を体現する様にして、超高振動パルスからは大量のパルスガンを吐き出しつつ、2丁のプラズマライフルをそれぞれ2つの超高出力ENユニットに取り付けた上での、レーザープラズマキャノン照射が放たれた。
「そして!! レイヴン!! 何故、私を裏切った!! 何故、裏切者のV.Ⅳへと付いて行った!? 貴様も私を欺いていたと言うのか!!」
「!!」
幾ら攻撃が来ることが分かっていても、ここまで包囲的に来られると避けられない。『IB-C03W4:NGI 028』で展開したコーラルシールドを用いて、一部の攻撃を防ぐがHAL826に少なからずのダメージが入り、流れ弾は彼女の背後にいるベイラムの強襲艦に命中していた。
『どちらにせよ長期戦は望めない訳ですね』
「落ちろ!」
8連ミサイルが2回。16基のミサイルが襲い掛かるが、これらを全て避け切った先。プラズマとレーザーの複合エネルギーを照射しながら、さながらバーナーの様に押し当てようとして来るバルテウスの姿があった。
「うぉおおお!」
寸での所で回避し、すれ違いざま。バルテウスの水平リングに取り付けられた超高出力ENユニットを切り裂いた。
「掛ったな!」
『レイヴン! 高エネルギー反応確認! アサルトアーマーです!』
無理な態勢で反撃した為、直ぐに退避することが出来ず。バルテウスの放ったアサルトアーマーをモロに食らって、制御不能(スタッガー)状態に陥った。
「終わりだ!!」
肩部のパルスキャノンと超高振動パルスアレイから大量のパルス弾が吐き出された。しかし、彼女もまた拡張機能を起動させた。
HAL826の周囲に赤い粒子が舞ったかと思えば、周囲のパルス弾を掻き消す勢いでコーラルを纏った爆破が起きた。
「ぐぉおお!?」
この状態での反撃にあい、アーキバルテウスは大きく態勢を崩した。この隙を逃さまいとHAL826は『IB-C03W2: WLT 101』のコーラル刃を展開して、真っ先にバックパックの推進機構を叩き切った。
緊急離脱の手段を奪われたスネイルであったが、彼は直ぐに反撃に転じていた。残ったプラズマライフルを放とうとしたが蹴り飛ばされた。同時にパルスキャノンと両肩のミサイルユニットも潰された。
『レイヴン! 行けます! この調子で!』
「まだだ! まだ、終わらん!」
残ったプラズマライフルと超高出力ENユニットを連結させて放ったプラズマレーザー照射はHAL826の頭部と右腕部を飛ばしていた。
しかし、残った左腕部の『IB-C03W2: WLT 101』に展開されたコーラル刃が、アーキバルテウスのバックパックと水平リングを寸断した後、コアユニットであるLCをも切り裂いた。ギリリと、無茶な機動をさせた関節の悲鳴が聞こえる。
損傷が許容量を超え、怪物を動かす程に蓄えていたエネルギーが行き場を無くして暴走を始めていた。
【これで、終わりか】
「スネイル!」
『コックピットスペースを確認! チャンスは一度だけです!』
諦観、絶望。悲鳴すら上がらない呟きを聞き取った彼女は、限界を迎えていた左腕部を更に振るってコアユニットのコックピット部分を切り取った。バキリと、限界を超えた左腕部が壊れて落ちた。
切り取った部分が海面へと落ちていくのと合わせて、HAL826も覆い被さる様にして降下していく中。空中でアーキバルテウスは爆散した。
爆散した衝撃が海面まで響き、周囲にも破片が落ちて来るがスネイルには当たらなかった。何故なら、HAL826が覆い被さっていたからだ。
『スネイル、生体反応を確認。ですが、かなり衰弱しています。救援要請は出しておきました』
遠方、ザイレムの方では引き続き戦いが行われている中、2人の間には沈黙が流れていた。先に口を開いたのは、スネイルだった。
「何故、殺さなかったのですか?」
「スネイルに死んでほしくないから」
今まで、恨まれたことは数えきれない程あったが、生きて欲しいと願われたのは初めてだった。
「どうして、私ではなくV.Ⅳへと付いて行ったのですか?」
「違う。私、あの時。ラスティに死んで欲しくなかったから」
彼女は裏切ろうとしていた訳では無かった。状況が彼女に裏切らせただけだった。現に、今自分はこうして助けられている。
「レイヴン。貴方にとっての、幸せとは。なんですか?」
色々な考えが巡った。ミールワームを頬張れることか。コーラルを自由に吸引できることか。いや、それだけでは少し寂しい。そんなことに何かしらの反応を示してくれる皆がいるからこそ、楽しい訳で。
「皆と一緒にいること」
それは、ルビコンを舞う最強の独立傭兵としては、あまりに素朴な物だった。だから、スネイルは聞かずにはいられなかった。
「その中に、私も入っていますか?」
「うん!」
屈託のない笑顔と共に頷いた。上空では未だに戦いが続いている中、回収艇が向かって来るのが見えた。
企業も、立場も、使命も、重責も。自分を形作る殻から抜け落ちていく様な感覚があった。これまでの自身をも否定される様な耐え難い喪失があった。
殻から抜け落ちた蝸牛(スネイル)に待ち受けている未来は過酷な物であることには間違いない。自分を守る物が存在しないのだから。それでも、今しばらくは彼女との会話を楽しむことにした。間もなくして、彼女達は回収された。